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学園の始まり

第2章開始です。

一か月後


ここは貴族子息子女の学び舎。


学園は貴族の身分を問わず勉学を義務付けられている。


ここを卒業する時は一人前の貴族として見られるのだ。


王立学園に、わたくしロザリア・ブロッサムも本日から入学した。




春の温かい風が頬を撫でる。



とうとう入学だわ…。


馬車から降りたわたくしは学園寮に向かう侍女アリアと別れて校舎に向かう。


歩く中、わたくしをみて学園に通う貴族の子息子女達は貴族の礼を取った。


『学園に属すれば身分は平等になると言っても、普段の礼儀作法が染みついているわね?』


公爵家の娘で王子の婚約者であるわたくしを前にして、他所の子息子女は学生だから馴れ馴れしくするということはない。


逆にわたくしに気に入って貰う為に取り巻きとなり、わたくしが何もしなくても勝手に従者のように後ろについてくる。


…こんなことは日常茶飯事だ。



無視して歩いていると、前に見知った人物たちがいる。


「皆様、失礼しますわ?」


後ろの取り巻き達に別れの挨拶をして、前を歩く人物たちまで早歩きで向かった。


「ナージャ、シリウス!」


「ロザリア」


二人はわたくしの顔を見ると嬉しそうに微笑む。


「流石は公爵令嬢、随分と人気ですね?」


シリウスはわたくしの後ろにいる取り巻きを一瞥して揶揄った。


別に連れて来たわけじゃないからね?


でも取り巻き達は断っているのも構わず勝手についてくる。


もう無視しかない。


「…それはどーも。そっちこそ二人お揃いで登校?朝からお熱いわね?」


「もうロザリアったら、また揶揄って!?」


ぷんぷんと怒るナージャは可愛らしい。


「おひとり様だからこそ寂しくて絡むのですよ?先ほどルーがマリオット連れて歩いていましたよ?行ってあげたらどうです?」


こいつ相変わらず嫌味男ね?


取り敢えずこの嫌味男の言葉を聞き流しナージャのを手をとる。


「結構よ?その代わりラブラブなお二人のお邪魔をする事にするわ。ご一緒してもいいかしら?」


ナージャの腕に自分の腕を絡ませて二人の仲の良さをみせつけるとシリウスがとても良い顔になる。



「なら私も同じお邪魔虫になりそうですね?私もご一緒しても良いでしょうか?」


バチバチと睨み合う中に後ろから見知った声が聞こえた。


「マリアン!」


「皆様、ごきげんよう?」


マリアンが微笑む。


すると…


きゃぁぁぁぁっ



「…?」


後ろで女の子たちが黄色い悲鳴があげた。


「マリアンは相変わらず人気者ですね?」


「…私はあまりこういうものは好まないのですが…。」


シリウスに揶揄われてマリアンがすごく渋い顔している。


詳しく話を聞くと、マリアンが王宮に勤務している時も女性ファンが多く、彼女を一目見る為に通っているそうだ。


女性騎士にファンがつくのは珍しいけど、マリアンの騎士姿に貴婦人や子女たちのツボに入るらしい。


それも現在強烈なファンがおり、毎回マリアンを追いかけて困らせているそうだ。


「…凄いけど、迷惑ね?」


ナージャが心配するとマリアンも頷く。


「はい。何がそんなに良いのか理解が出来ません。」


ファンの子の気持ちは分からないわけではないけど、マリアンの様子を見る限りこれは相当困ったことになっている。



「困っているなら、わたくしから言ってあげるわよ?」


公爵令嬢のわたくしなら彼女達を何とか説得できるだろう。



「そんな小さな心配をするよりも、早く校舎に向かった方が良いと思うが?」


マリアンの力になろうとしているのに、嫌味が邪魔をする。


こんな腹が立つ言い方をするのは、あいつしかいない。


後ろを振り返ると嫌味´Sのもう一人。


「あらグレン、随分な言い方ね?挨拶ぐらいできないのかしら?」


「それは失礼。ごきげんようロザリア嬢。早く行かないと遅刻しますよ?王子殿下の婚約者ともあろう者が初日から遅刻するなんて豪胆ですね。これは近日、貴族界に『ぐうたら第二王子妃』と噂されるでしょう。来年入学するリリーに恥をかかせるなよ?」


これも猪の飼い主が居ないから…とグレンはわざとらしくため息を吐いた。


こめかみがピクピクと動く。


まだ遅刻する時間でもないのに饒舌ぶり…朝一から喧嘩を売っているわね?


「ふふふ…わたくしの可愛い妹がそんな些細なことを気にするわけないわ?貴方こそいい加減、リリーにベタベタするのを止めてくれないかしら?お父様に言って婚約者を変えて貰うわよ?」


姉であるわたくしが一言いえば簡単に妹の婚約なんか解消が出来るわ。


でもグレンに脅しなど効果がないようで鼻で笑う。


「お前達にそんな権限など無い。それにもうリリーは俺にしか嫁げないよ。残念だったな?」



馬鹿にした表情がわたくしの癇に障る。

頭に血が一気に上って来た。


「ちょっと、それどういう意味!!?」



「ロザリア待って!先生が見ているわ?」


グレンの胸元を掴むわたくしにナージャが止める。


「そんなの、ほっときなさいよ…あ…。」


急に冷静になった。


確かにこちらを睨んでいる女性の講師がいた。


冷や汗をかく。


睨む先生は公爵家で雇っているようなスパルタ講師の雰囲気がある。


不味い…目を付けられたかも?


しかも女性講師の隣でこれも見知った人…カムがいる。


カム!?


彼が居る事に心が穏やかになった。


でも彼は渋い表情をして声を出さずに口だけを動かしている


< 遅刻しますよ!?早く進んで下さい!! >


「…。」


カムまでグレンと同じことを言って…。


一気にテンションが下がった。



「ほら遊んでないで行きますよ?初日から全員で遅刻ギリギリなんて嫌ですからね?」


「分かっているわよ!」


シリウスまで揶揄って!?


遅刻と言ってもまだ時間に余裕がある。

単純に初日はクラス編集と入学式の絡みで新入生は早く学園に付いていないといけないらしい。


特に上級貴族の子息子女は中級・下級貴族の模範にならないといけないという。


『…こういう時の場合は反対じゃないの?』


心の中で愚痴を言いながらわたくしたちは再び学園へ向かった。




学園の門に入ると多くの人達が立ち止まっている。


「なにかしら?」


見物…というより、何かを見守っている様。


こういう場合、わたくし達の様な上級貴族を前にして行く道を邪魔しない様に止まっている事が多い。


今年の上級貴族は既にほぼここに揃っている。


という事は…



皆が見守る先をみると、案の定ルーベルト様とマリオットの姿が見えた。


二人はただ歩いているだけど、皆はいけないのも納得だ。


当然ルーベルト様は王族。


彼の前を堂々と歩ける分けがないだろう。


二人は周りを気にせずそのまま進んでいる。


その時、強風がふき木々が揺れた。

一枚のハンカチが強風にのってルーベルト様の前に落ちる。


「ごめんなさい!そのハンカチ、私のなんです!」


ルーベルト様が拾おうとすると可愛らしい声が掛かった。


声の方へ向くと少女がルーベルト様に寄っていく


紅金の色のふわふわした髪を揺らせ、慌てて拾いに来る少女。



『…可愛い子。…いえ、今はそんな事よりも…』


このシーンはカムが話してくれたとおり。



ルーベルト様がハンカチを少女に渡すと彼女は嬉しそうに微笑んだ。

そしてルーベルト様に視線を合わせると、急に真顔になって頬を赤らめる。

その様子にルーベルト様は首を傾げた。


「どうかしたの?」


「いいえ?なんかお伽話に出てくる王子様みたいな人と思って…」


恥ずかしがる彼女は、まるで憧れる人に会ったよう。


お伽話はどうか分からないけど、一応彼は本物の王子ね?


少女の様子にツッコミを入れる。


『…学園でなければ完全に不敬よ?…きっとあいつが煩いわよ…』


「失礼な奴め!?バロン第二王子殿下であるルーベルト様に向かって何を言っている?」


「え?バロン第二王子?…本当に王子様なんですか!?」


ほら、案の定噛みついた。


マリオットが少女に噛みつくのが想像できた。



『…しかし、どこの三文芝居よ?』


この国の貴族が王子の名前を知らないなんてあり得ない。


「あの馬鹿者は…また所かまわず吠えて…。」


わたくしの隣でマリアンがため息を吐く。


でも、マリオットの気持ちも分からないわけない。


通常ならわたくしも注意する立場だ。


しかしこの展開はカムの言う“乙女ゲーム”


シナリオのとおりなら少女は貴族の鉄則をしらない。


「ご、御免なさい。私…実はまだ貴族になったばかりで何も知らなくて…。」


可憐な容姿に鈴が鳴るような愛らしい声。


言わずとも分かる。彼女こそ乙女ゲームの中心にいる存在。


「私、アンジェラ・フェルファと言います。よろしくね?」


主人公ヒロインだ。




・・・・・



「やはり聞いたとおりに始まったね?」


「そうですね?カムの話そのままでしたわ。」


教室の席でルーベルト様とわたくしはため息を吐く。


偶然にもルーベルト様と一緒のクラスになったお陰で堂々と話が出来る。


こんな話をしても周りが婚約者同士の邪魔をしない様にわざわざ距離を空けてくれるから平気だ。


その代わり少し離れてマリアンとマリオットがクラスの同級生たちに質問責めにされているけどね?


「このクラスに彼女が居なくて幸いだ。」


「ええ。一緒ならわたくし達はこんな風に話せなかったですもの。」


見事ヒロインとクラスが離れた事にわたくし達は安心している。


初っ端からヒロインと同じクラスなんて心臓に悪いわ?

その代わりナージャたちと離れたけど…。


クラスの仕分けは3クラスあり乙女ゲームの登場人物で仕分けすると、わたくしとルーベルト様、あとマリオットとマリアンで一クラス。もう一クラスはナージャとシリウス。そして最後のクラスはグレンとヒロインのアンジェラだ。


「でもシナリオと違うところがある。本来はシリウスもグレンと同じクラスだったけど実際はナージャ嬢と同じクラスだ。もしかしたらシリウスの線は完全に折れたかもしれない。」


「ナージャはもう大丈夫なのですか?」



本当にそうなら、良かった…。


あの時にシリウスたちの破滅フラグを折った結果が出たなら良い。

シリウスも足を怪我していないし、ナージャとの仲は良好だ。


そしてマリアンとマリオット。


病院の一件で少しずつ昔の様に対話している。

だからこの二人も恐らく大丈夫。


残るはグレン。

ヒロインと攻略対象者のグレンが一緒のクラスなんて大丈夫かしら?


「グレンは大丈夫だよ?話によるとグレンは2年生から意識する様になると聞いている。それにまだ僕が彼女にあの話をしていないから話は進まない。」


「ルーベルト様…気遣ってくれるのは嬉しいのですが、いい加減にわたくしの顔を見て心を読むのをやめてください。」


すぐ表情で判断する。またカムに小言を貰いそうだ。

むっとするわたくしにルーベルト様は苦笑する。


「ロザリアはその方がいいと思うよ?」


「!?」


綺麗な顔でその言い方ズルい!


顔が真っ赤になると突然前にマリアンが現れた。


「ルーベルト様、ロザリア様もうすぐ先生が来るそうですよ?」


「ああ、分かった。」


わたくし達は席に着いた。


マリアンがわたくしたちの前の席に座り、マリオットがわたくし達の後ろに座る。


『どうせ自由席なのだから一緒に座ればいいのに…』


ルーベルト様が無言で否定する。


…護衛の意味もあるからダメだって…そ、そう?


『なんとなく分かっていたけど、マリオットとマリアンがわたくしたちと一緒のクラスになったのは意味があるのね?』 


王子と未来の王子妃だもの。


学園でも変わらないという事だ。


「皆さん席におつき下さいませ!」


一人の女性講師が教室に入ってきた。

その姿を見ると青褪めた。



とても嫌な予感がする。



「わたくしはエリザベル・ザハラン。一年あなた方のクラスを担当します。」


先程、わたくしの顔を見て目を光らせていた講師だ。


「ロザリア…何かあったの?」


小さい声でルーベルト様は心配するけど、それどころじゃない。


「…な、何でも…ないような…そうでもないような…ですわ?」


「?」


意味不明な言葉を発してしまう。


「ここのクラスは将来この国を支える重要な王子と王子妃がいますので、ビシビシと教育をさせて頂きますわ!宜しいですわね?レディ・ブロッサム」


「は、はい!」


名前を呼ぶところだけひと際大きく言わなくてもいいのに!


もしかしたらヒロインよりも、この講師に身を滅ぼされられかねない。


「…ロザリア…あの先生に気に入れられたみたいだね?」


同情するルーベルト様の一言に、わたくしは机にうつ伏せになった。


…わたくしの心配事は乙女ゲームの話だけではなさそうね?


寧ろ今の心配した方がいいみたい。


取り敢えず学園生活を頑張ろう…。


お読み頂き有難うございます。


第二章の学園ではカムの出番が減りルーベルトがカムの代わりに出てきます。

でもカムも出ます。


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