シナリオどおり?
途中カム視点があります。
入学してようやく一日が終わった。
「散々な日だったわ…。」
「さっそく先生に目をつけられるなんて災難ね?」
ナージャとマリアンが憐れそうに苦笑する。
「ところ構わず吠えたりするからですよ?」
「誰構わず突進するからだろう?」
嫌味′s、煩いわよ?
サハラン先生の圧倒的な存在感に気疲れで初日を終えた。
あれからヒロインに会う事はなかったから少しは良かったけど…。
今は学園寮にある高貴族専用の談話室に皆で集まって他愛無い会話をしている。
いつもはお互い王都のタウンハウスを行き来きして会うけど、ここに居る時だけはいつでも会えるのだ。
そう、わたくしたちは学園3年間をここで生活する。
とはいえ、休日と長期休みは家に帰ることもできるので左程問題はない。
遠くから来ている学生だけは中々帰れないけれど。
「ロザリアにはいい先生だと思うよ?」
嫌味‘Sに睨みつけていると、ルーベルト様が苦笑して割り込んできた。
「…それ、どういう意味ですか?」
ルーベルト様まで恨めしく感じてしまう。
そんなにわたくしが淑女らしくないからかしら?
この15年間…いやもうすぐ16年、公爵令嬢として教育受けてきたけど、これで淑女らしくないっておかしいわよ?
「楽しそうなクラスで良いじゃない?」
わたくし達の様子を見てナージャが羨ましそう。
何も羨ましいものなんてない!!
「ナージャとシリウスのクラスはどうなの?」
「私達のクラスは特に何もないわ?強いていうなら先生が結構なお爺様なのでクラス全員で年長者を敬いましょうという雰囲気があるぐらいかしら?」
「僕としては真面目さんが多いのでつまらないですね。もう少しロザリアみたいに面白味が有れば良かったなとは思います。」
残念と言うシリウスに、カチンときた。
やはりこいつはわたくしを揶揄っている。
「グレンのところは?」
ルーベルト様もわたくしの質問と同じことをグレンに聞いていた。
「俺のところは特に普通…いや一人変なのがいるな?…何を知ったような口をきくやら…。」
グレンの表情が歪む。
グレンのクラスは初日にクラス全員で自己紹介をしたらしい。
そしてグレンが自分の紹介をする時に事が起きた。
「予測していた通り俺の事を父とそっくりだと言う輩は多くいましたが、一人のピンク頭がやけに俺の事を言いながら意味もなく叫んでいたのが耳障りでしたね。」
急に言葉使いが綺麗になったと思ったら辛辣な発言…。
ピンク頭とは言わずと知れたヒロイン、アンジェラ・フェルファだ。
話を聞くと、グレンはクラスの同級生に父親の話題で盛り上がったそうだ。
それを止めたのがアンジェラ。そして彼女はこう言ったそうだ。
「やめてください。彼は彼ですよ。お父様とは違うんです!」
グレンを庇ったつもりだったが、グレンにとってその発言は余計に苛立ったそうだ。
だがクラスの同級生は彼女のその発言に思い直したように改めたらしい。
そしてグレンに同情するような声を掛けられて今に至る。
「ぐ、グレン…もしかしてその子の事、き…気になるの?」
恐る恐るグレンに聞いてみる。
もしかしてそれはグレンのイベントではないだろうか?
ルーベルト様も神妙な顔して聞いている。
「なぜ俺がその女の事を気にしなければならない?何も知らないやつを気にするほど俺は暇ではないが?」
こいつがその事を口にするという事は結構気になるのでしょう?
…不味いわ。早々に解決しないとリリーが危ない。
恐らくこれはグレンのイベント。シナリオだろう。
これでグレンのフラグが立ったわけになる。
彼女の言葉で同級生がグレンを思い直した。
つまりグレンにとってアンジェラは気になる存在に一歩進んだワケだ。
「その女、今朝の殿下に失礼な態度をした女だろう?そう言えばあの女、廊下でも騒いでいたな?」
わたくしたちの会話にマリオットが何かを思い出したようだ。
「リオ、何かあったのですか?」
「ああ、俺が少し同期の奴に話があって廊下に出たんだが、その時その女が俺たちの教室で何か喚いていた。対応している先生がロザリアの従者だったし、煩くてすぐ俺は離れようとしたが、話の内容にルーベルト殿下がどうのと言っていたから立ち止まったんだ。」
マリオットはカムとアンジェラの会話を聞いていたらしい。
事の始まりはアンジェラがルーベルト様に朝ハンカチを取ってくれたお礼をしたくて、ルーベルト様のクラスに入ろうとしたらしいが、他の女子生徒に婚約者と会談中だと止められて揉めたそうだ。
そこで近くに居たカムがアンジェラと女子生徒の間に入り取り直した。
「カムがいたの?」
「あいつが居たのは俺も驚いたぞ?それでもあの女は全然聞き分けなくて無理にクラスに入ろうとしたが、従者が上手く鎮めた。さすがお前の飼い主だな?…痛!!」
何気なくわたくしに対して暴言吐いたので足を踏んで躾直す。
だれが飼い主よ?この駄犬の癖にあんたにだけは言われたくない!
「…。」
「ルーベルト様?」
わたくしとマリオットのやり取りを横目にルーベルト様は何かを考えているようで沈黙している。
その表情は少しだけ険しい。
「…ロザリア、少し良いかな?」
「はい、いいですけど…?」
ルーベルト様が席を立ちこの場を離れようとした。
わたくしも殿下の後を追う。
マリオットとマリアンはついて行こうとしたけど、「すぐ近くだからいい」と断りルーベルト様はそのまま談話室を出た。
「どうかしたのですか?」
先ほどから難しい顔をしているルーベルト様に不安を覚えるとルーベルト様は立ち止まった。
「このあとカムと会う約束をしている。君も来てほしい。」
「えっ?は、はい。」
カムと会う?
カムが待つ部屋へと向かいながら、少し不貞腐れる。
『殿下がカムと会う約束をしている。いつのまに…わたくしは初耳なのですけど?』
でも、ここ最近ルーベルト様はカムと話をしている時が多い。
その話にわたくしは参加させて貰えないのだ。
カムからはサラフィリア王女が持っていた情報を持つルーベルト様と今後について確認しているだけと言っていたけど、今まではカムとわたくしだけだったし、なんかルーベルト様にカムが取られたようで正直、面白くない。
協力してくれているのは嬉しいけど…婚約者と従者がわたくしを置いて内密していると思うと複雑だ。
…男同士だけど…
カムが待つ部屋に着くとそこは応接室みたいだ。
王族のルーベルト様が自分専用として事前に学園側に申請したらしい。
扉を開くとカムがいた。
「待たせてすまない。」
「いえ、入学初日お二人ともお疲れ様です。」
気遣う様に優しく微笑むカムに、わたくしは緊張がほぐれたみたいに表情が緩む。
カムは臨時講師として既に学園に居るから中々会えなかった。
そしてヒロインによって緊張してしまい顔が強張っていたけど、カムの顔みたら途端に安心ができた。
「…お嬢様。」
「何?」
渋い顔してみているカムに首を傾げる。
何かあったかしら?
「初日から目立つ行動は控える様あれほどお伝えしたはずなのに、何故貴女はことごとく受け流して忘れてしまうのでしょう?一番目につけられると不味い講師に気に入られましたよ?どうするのですか?ザハラン様はもうお嬢様の指導にやる気になっています。」
「何ですって!?」
やはり乙女ゲームのシナリオよりも講師エリザベル・ザハランに破滅させられる!?
カムの話によるとやはりザハラン先生は学園で一番の厳しい先生と言われている。
「わたくしが暴れ牛王子妃を立派な淑女にして見せますわ」とザハラン先生は講師会議に熱く語っていたらしい。
公爵令嬢に向かって牛ってかなり失礼ですけど!
「まあ、ロザリアの為になる良い先生だと思うよ。そろそろ本題に入ってもいいかな?」
またもや苦笑するルーベルト様に変に慰められたけど、ちっとも嬉しくない。
「そうですね。取り敢えず…とうとう会いましたね?ヒロイン、アンジェラ・フェルファ嬢に…。」
ピンク色の髪をした可愛らしい少女を思い浮かべる。
「ああ、カムやサラの言う通り話のとおりに出会った。これは人為的ではなさそうだね?」
「…いえ、そうとは限りませんよ?俺も彼女と話をしましたが少し気になる点があります。」
「どういう事なの?カム」
カムは悩ましくこめかみに皺を寄せた。
「俺の予想ですと…アンジェラ嬢は何か知っているように見えます。今日、偶然にも彼女と接触して話をしました。」
マリオットが話した件ね?
確かわたくしたちのクラスに来てルーベルト様に礼をしたいと言う話。
カムの話を聞くとマリオットの話と同じだった。
廊下でわたくしたちのクラスの同級生に足止めを喰らって文句を言っていたそうだ。
※※※
無事入学式を終わられたことに安心して、時間が空いたから様子見にクラスに寄ったところお嬢様のクラスの前で何やら騒がしい…。
あれは…ヒロインだ。
ヒロインと女子生徒が揉めている。
「どうしてクラスに入ってはいけないのですか!?別にお休みの時間は良いでしょう?」
「何を言っているのよ!ルーベルト殿下は今、婚約者様と談話されています。それを邪魔するなんて身の程を知りなさい!」
「どうかしたのですか?」
嫌な予感がして言い合いの中に入った。
確かこのイベントあったな…?言い合いしている中、偶然にルーベルト様が出てきてヒロインを助ける。
そして次のイベントにつなげる会話をするのだ。
でもお嬢様のクラスを見るとお嬢様とルーベルト様は他の学友とお話ししていてこちらの様子に気づいていない。いや気づかないふりしているかも…。
ルーベルト様、このイベントを知っていて無視していますよね?
「聞いてください先生!この人、休憩なのに教室に入ってはいけないっていうのです!あの女に言われたから邪魔しているのだわ!…て、いうよりもなんで先生が来るのよ?」
正確には『何でルーベルト様ではなく先生が来るの?』…か?
小さい声だけど文句がはっきりと聞こえた。
文句を言う彼女をみて思ったが、ゲームのヒロインは大人しめの癒し系ヒロインという感じだったけど、このヒロインはゲームより活発なヒロインらしい。
そう思いながら何とかヒロインを宥めてクラスに戻す。
ヒロインが教室に戻る時に小さい声で独り言を言っていた。
「どうしてシリウス様は私のクラスじゃないのかしら?…おかしいわ…。」
シリウス様とナージャ様のクラスを横目でみて呟いているヒロインに違和感がする。
何故シリウス様が自分のクラスじゃないという事を知っているのだろう?
ヒロインの姿を見ながら、「もしや」と考えてこの場を後にした。
※※※
「成程…彼女は僕たちの事を知っているという事ですね?」
「そうです。だから今朝のハンカチの件も彼女がわざと起こした可能性もあります。」
「という事は…アンジェラ・フェルファって…。」
「…彼女もこのゲームを知っている…その可能性が出てきました。」
こんな初日から大きな情報を得るなんて思いもしなかった。
“転生者”なのか?
それともわたくしたちみたいな存在なのか?
「…。」
「ルーベルト様、どうかしましたか?」
隣でさっきよりも険しい顔して悩むルーベルト様。
カムの話に何かあったのだろうか?
「…ならば、僕が彼女を知る為に接触しよう。」
「え?」
「確かに彼女がクラスに来ることを僕は知っていたんだ。でも敢えて出なかった。どう出るか知りたかったのもあったから…」
やはりルーベルト様はワザとヒロインと関わらなかった。
シナリオを壊すならそれがいい。
でも…
「だけどそれでは彼女を知ることが出来ない…彼女が果たして話どおりの人かどうか見極める必要がある。…だからこの後のシナリオにある僕が彼女の歌を聞くと言うイベントを行えば、より明確に彼女を知ることができるかもしれない。」
…確かにそうだけど、カムの話だとそのイベントは…
「ルーベルト様、そのイベントはルーベルト様がヒロインに惹かれる、というものですが…それでも大丈夫なのですか?」
そう、このイベントはゲームの最初で重要なイベント。
彼女の歌でルーベルト様の凍っていた心を動かすと言う大事なシーンらしい。
「分かっているよ。でもそれ以外の方法も思いつかないし、その後の対策も練りやすいだろう?それに…僕もそんなことで心動かされるほど安い男ではないと証明したい。」
入学早々、荒れそうだ。
お読み頂きありがとうございます。




