悪役令嬢は王子殿下を知る
「ルー、公務は終わったのですか?」
ルーベルト殿下の登場に驚いて固まっている中、シリアスは普通に殿下に話しかける。
さっきも思っていたけど、王子相手に愛称呼び…流石はシリウス。
「マリアンが倒れたと聞いて早めに片付けた。…それにロザリアと約束もあったからね?」
ルーベルト様と約束…?
そういえば、パーティーの時にローベルト様が終わったら話そうと約束していた。
色々と在り過ぎてすっかり忘れていたわ。
「ロザリア、そしてクラベル氏、少し僕の応接室まで一緒に来て貰えないだろうか?」
婚約者のわたくしだけではなく、カムも誘われる。
その事にカムは戸惑っている様だ。
「俺も行っていいのですか?」
あ、そうか。
ルーベルト様と転生者の話をしていた事をカムは知らない。
ルーベルト様もそれを察して頷く。
「一緒に来てくれるなら、近いうち学園に入学する少女の対策が出来やすくなるのではありませんか?」
「!?」
カムが驚く。
少女…ヒロインの事ね?
「ルーベルト様、是非ご一緒いたしますわ。」
「はい。是非お供させてください。」
これは滅多にないチャンス。
当然、わたくしとカムは同意する。
ルーベルト様は頷いた。
「シリウス、グレン、悪いけどマリオットの件を頼むよ?」
「分かりました。」
二人は頷く。
「それと…マリオットが今回の件で悔い改めようとしているなら、情状酌量を認めてもいいと団長に言っておいてくれ?」
「ルーベルト様!?」
まさかルーベルト様からマリオットの罪に軽減を許すなんて…。
「不服?」
わたくしの心を読むルーベルト様にいいえと返す。
「わたくしも彼が改めるなら是非とも情状酌量をお願いします。」
この先、マリアンと仲を取り戻せても取り戻せなくても、人として騎士としてちゃんと改めなければ容赦なく切り捨てる。
今回、マリオットがした事は内々とはいえ許されない。
だけど、彼の様子をみてから考え直した。
わたくしは重い罰を彼に与えたくない。
でも、いくらわたくしが温情を与えたとしても王家や騎士達は黙っていない。
しかしルーベルト様が温情を与えると言えばまた別だ。
ルーベルト様はマリオットに条件つけている。
彼がその温情に見合う言動をとらなければ、ルーベルト様は容赦なく切り捨てるだろう。
マリオットは変われるだろうか?
いいえ、あの様子を見ている限りきっと変われるだろう。
人として、騎士として。
騎士の誇りを思い出してくれる。
きっとそれは一番マリアンが望んでいる事だ。
マリアンの為にマリオットの罰を軽くしたい。
「ルーベルト様、有難うございます。」
その願いを聞いてくれたルーベルト様に礼を取る。
「別に構わない。これは君へのご褒美だから。」
ご褒美…なんの?
頭に?マークを浮かばせて考える。わたくし何か良い事したかしら?
「分からないならいい。…さあ、行こう?」
ルーベルト様はそう言って歩き出した。
「お嬢様、ルーベルト殿下が行ってしまいますよ?」
「あ、はい。今行くわ!」
考えていた所為でルーベルト様が先に行ってしまった。
急ぎ足で殿下の元まで歩く。
その後ろでカムが残念そうにため息を吐いていた。
・・・・・
談話室。
ここにはルーベルト様、わたくし、カム、三人だけがいる。
話が話だけに、護衛を下がらせたようだ。
「…初めに、君達が仲直り出来たみたいで良かった。」
カウチに深く座りわたくしとカムへ交互に視線を向ける。
「…ありがとうございます。ご心配をおかけしました。」
正直、複雑に思う。
ルーベルト様はわたくしとカムがすれ違っている事を知っていて、カムに迎えに行く様に伝えたそうだ。
まるで浮気を公認されている様で、後ろめたい気持ちになる。
「…別に咎めている訳ではないよ?僕は君が大切だと思う人を大事にしてほしいだけだ。」
この人、わたくしの心を読んでいるのではないかしら?
「いえ、お嬢様は顔に感情が出やすいだけですよ?」
カムが呆れたように言う。
そ…そういうことね?
項垂れた。
そんなわたくし達を見てルーベルト様は小さく微笑む。
「では先程の話をしよう?結論から言わせてもらうけど、僕は君たちが言う“転生者”ではない。」
「…転生者ではない?」
カムはルーベルト様をまじまじと見る。
わたくしも“転生者”と言っている限り、怪しいと思うけど…
「そうだよ。実は僕もとある人からロザリアの事を聞いた。ロザリアが聖女である少女を妨害して来る。そして僕を含め、親友たちと護衛の複雑な環境を聖女によって救われると…。それを聞いて最初は信じられなかった。」
カムを見ながら懐かしむ様にルーベルト様は微笑む。
ルーベルト様はわたくしと同じ様に話だけを聞いていたんだ。
最初は信じられなかったと言うならば、今はどうなの?
ルーベルト様は話を続ける。
「その聖女が僕達の事を知らない癖に救うなんて普通ではありえないよね?疑うしかない…でも、“彼女”が話した事は嘘ではなかった。現に彼女が語った話が基づいて僕たちは動いている。シリウス達が抱えている問題も存在していて、そして僕も…大事な人を失った。」
ルーベルト様、シリウス・マリオット・グレン。
四人に起きている問題は、誰も知ることが出来ない複雑な事情。
それをカムの様に外側から知っている人がルーベルト様の傍に居て言い当てた。
ルーベルト様はこの事を聞いて信じたそうだ。
そして学園で行われる本舞台で登場する悪役令嬢とヒロイン(せいじょ)に警戒しながらルーベルト様は水面下で動いていた。
一人で凄い。
ルーベルト様だって、自分の問題が解決していないのに…。
でも何があったのだろう?
「カルフェン・クラベル氏。僕に何かあったのか、貴方は知っているでしょう?貴方は“転生者”だ。」
心の声に応えるようにルーベルト様がカムに確認する。
転生者と聞いて心臓がドキっとした。
でも、カムに迷いはない。
「…はい。殿下が13歳の頃、隣国の第三王女サラフィリア様を亡くしています。殿下にとってとても大切な人です。」
カムは隠さずに話した。
殿下のとても大切な人。
そういえばお茶会の時に王妃様はルーベルト様は傷心中だと言っていたわ?
…13歳の頃と言うと、そうか…あの時ルーベルト様は王女を亡くしてばっかりでお茶会に参加していたのか。
大切な人を亡くしたばかりで婚約者を決めるお茶会に参加するなんて気持ち的に無理がある。
『わたくしなら絶対に無理よ?そんなお茶会に参加したくない!』
心から同情する。
でもルーベルト様はわたくしを見て苦笑した。
「…ロザリアはやっぱり聞いていた話とは全然違うね?きっと物語の君ならここで怒り出すのが普通じゃない?」
「え?そうなの??」
婚約者だからと言ってもこんなことで怒る?
確かに世間的に婚約者のルーベルト様に大切な人がいると聞いたら怒ってもおかしくない。
けど、わたくしは別にどうってことない。
…どうしてかしら?
「君を調べさせてもらったよ。我儘で傲慢の令嬢。でも一人の従者によって少しずつ改心していると。そして同時にブロッサム家の事も調べていた。そしたらやはり彼女から聞いていた話どおりに事が進んでいた。」
ブロッサム家の悪事と言うと、危険薬の取引よね?
あの時のお父様は騙されていた、
「君には悪いが僕はブロッサム公爵家を守る気はなかった。それで破滅するならそれでいいとさえ思った。だけど城の機密情報は漏らされると困る。だからそこだけ動くつもりだった。…でも予想以外の事が起きたんだ。」
それはその時のわたくし達の行動。
ルーベルト様は話を続ける。
「君たちは物語を知っているかの様に動いていた。偶然としてもおかしい。だから君たちを監視させてもらったよ。君たちが物語の序幕をどうするのか、もしかしたら二人のどちらか“転生者”なのかもしれないと考えて。勿論、必要なところには力を貸したよ。」
成程、それでルーベルト様は事あることに手を貸していたんだ。
今までの事をよく考えると殿下の影が所々に現れた。
お母様とリリーの件、ルーベルト様はお母様の葬式の時にわざわざ様子を見に来た。
あとシリウスとナージャの件、レイドリックを守る様にルーベルト様はマリアンを寄越した。
そして今回の件は分からないけど、これも繋がりがあるかもしれない…。
「ロザリア、君は本当に思ったことが顔に出るね?今回の事について僕は何もしていない。でも君にマリオット達の現状を知ってほしくてマリアンを君の護衛にした。それだけだよ。」
さっきから心を読んで…否、顔を見て判断しないで?
でも殿下はわたくしたちが知りたいことを教えてくれた。
…そういえば、まだ肝心なことを聞いていない。
それも結構重要な気がする。
「殿下、今までご協力して頂き有難うございます。俺としてもお嬢様を破滅させたくない一心で動いていましたから。」
カムが一礼する。
そしてすぐに言葉を続けた。
「殿下、教えてください。貴方にその話をした“彼女”は今どこにいるのでしょうか?殿下の言う通り俺は“転生者”です。そしてその彼女も転生者ですよね?出来ましたら紹介して頂きたいです。」
物語の展開を確認したいと言うカムに、ルーベルト様が無駄だと断る。
「どうして?」
「…出来ない。今後の話をしたくても、もう彼女はいない。」
居ないって、どこかに行ってしまったの?
「…まさか…」
居ない理由を聞いていないのにカムは驚愕する。
この会話で理解したようだ。
正解だとルーベルト様が頷く。
「…貴方の考えは正解だよ。彼女は既に亡くなっている…暗殺されて…。」
彼女が殺されている…
それなら当然会えない。
でもわたくしはよくわからない。…一体彼女は何者だろう?
暗殺なんて貴族の中でも多くある。権力があるとそれなりの闇を抱えることもあるから。
つまり転生者の彼女はそれなりの身分の人
…それも王族のルーベルト様と話が出来るほどの身分。…あれ?さっきルーベルト様は大切な方を亡くされたと言っていた。しかも王女…
ま…まさか?
身体が震える。
ルーベルト様はわたくしにも頷いた。
「…そう、サラフィリア王女だ。彼女も“転生者”だった。」
やっぱり!?
殿下の大切な人が転生者。そして殺されてしまった…一体どうして?
「何故、王女は殺されると分かっていたはずなのに、回避が出来なかったのですか?」
疑問に思ったカムはルーベルト様に問う。
すると殿下は痛そうな表情になった。
「…分からない。サラは自分が殺されると分かっていたけど、結局毒薬を飲まされ亡くなった。…僕達は回避が出来なかった。」
ルーベルト様は彼女の側にいたのに救えなかったと悔しそうに呟く。
痛々しいその姿にわたくしたちは何も言えなくなった。
声は出さないけど、ルーベルト様は怒りに表情を歪めている。
淡白な人だけど熱い人。
こんなルーベルト様は見たことない…。
そしてルーベルト様は思い返したように静かに怒りを収めた。
「…済まない。もう過ぎたことだ。」
「いえ、大丈夫です。」
…ここまで感情を出すほど今でも姫様の事を想っているのね…。
不思議に嫉妬に駆られない…むしろ同情に近い感情をルーベルト様に向けている。
…なぜだろう?わたくしと殿下は似ているから…?
感傷に浸っている中、カムは悩む様に呟いた。
「…そうなると、やはり直接ヒロインの行動を見る必要がありますね?」
カムの頭の中は今でも乙女ゲームなのね?
凄いと言うか…うん。流石カムだわ。
「…うん。その物語だと、僕は彼女の癒しの歌で彼女に惹かれるらしい。実際にはそんな事で癒されるとは信じられないが、僕の部下の話を聞く限りハワード領民たちは彼女の歌に涙して『聖女』と呼んでいるらしいよ?」
ルーベルト様はフェルファ家の養女になったヒロインの情報を集めていた。
…歌で癒す聖女?
「カム、そうなの?」
「はい。前にも話しましたが、この物語のタイトルは『癒姫』…つまり彼女の歌が沢山の人を癒すことで攻略対象者を攻略します。」
ヒロインは“歌”によって悪い人達や傷ついた人達を癒し改心させることが出来る。
その所為で、ヒロインを欲しがる者たちが各国から現れるそうだ。
ヒーローであるルーベルト殿下達はそんな彼女を守ろうとするらしい。
ヒロインに特殊な力があると聞いていが、歌で癒すなんて…そんな事が本当にできる?
「…その人は本当に“人間”なの?」
人の心の中に容易く入るなど出来やしない。
でも歌うだけで容易く可能とするなら、その人は神に近い存在だ。
「それがヒロインなのですよ?…物語の主人公だからこそ“特別”なのです。」
信じられない。
驚愕するわたくしにルーベルト様は同意する様に頷く。
「僕たちにとっては、ある意味恐ろしい存在だね?」
ここにいる三人は同じ想いを抱く。
まるでこの世界はヒロインの為にあるようだ。
誤字報告有難う御座います。




