悪役令嬢は命の重さを思い知る
「ニースの最後の言葉…。」
マリアンの言葉にマリオットの表情は暗くなる。
「そうです。亡くなる直前、貴方はニースの最後の言葉を聞いていました。…一体ニースはなんて言っていたのですか?」
マリオットは話してくれるだろうか?
「この際だから、全部話しなさいよ?…わたくしからマリアンを守りたいならそうするしか方法はないわ?」
逃げ道を塞ぐ。
観念したのか、暗い表情をしたマリオットが口を開こうとした…が、
その時、観客席の間に何が光った。
何かしら?
光ったのは鉄で出来た先端。
あれは…ライフル…
ドンッ!
音が鳴った瞬間、何が起きたのか分からなかった。
わたくしの前に少女がゆっくりと倒れた。
その姿をわたくしは動けずそれを見ているだけしかなかった。
「マ…マリアン!?」
マリアンは咄嗟にわたくしを庇って銃弾を受けた。
倒れたマリアンを急いで抱き起し撃たれたところをみる。
どうやら右胸の上を撃たれたみたいだ。
血が止まらない。
「カ、カム、マリアンが…マリアンが!!」
「お嬢様、まずは身を隠してください!」
助けを求めるとカムがすぐさま駆け寄りマリアンを抱え次の射撃が来ない様にわたくしを誘導する。
「お前が撃ったのか!?」
マリオットが見ている先は観客席に潜む男。
この男がわたくし達を狙ったんだ。
マリオットが立ち上がり猛獣の様な険しい顔でライフルを持つ男を追いかけようとするがカムに引き留められる。
「俺が捕えますので貴方はマリアン様とお嬢様を守ってください!」
「お前みたいなひょろい奴には無理だ!縄を取れ?俺がすぐに打ち取ってやる!!」
その気迫にカムはマリオットの縛っている紐を取る。
そしてすぐさま男の元へ行こうとするが、男はそれに気づき逃げた。
「よくも貴様ぁ!!」
マリオットが必死に追いかけるが、相手も早く距離がかなりあって捕まえられない。
逃げられる!?
そう思った矢先、逃げる男の前に見覚えの男が現れた。
見覚えある人物は逃げる男の前に立ち塞がり片手銃を向けて遠慮なく発砲する。
男は足を撃たれて倒れた。
「グレン!?」
マリオットは突然現れた人物をみて驚く。
「え…?グレンなの?」
驚いた。まさかグレンが戻って来るなんて…
グレンは倒れた男を蹴りあげて仰向けにした。
そして再び短銃を突き付ける。
「グレン相手に観念した方がいいですよ。ローレライ伯爵の使い人さん?」
グレンの横にシリウスが並ぶ。
シリウスまで戻ってきたみたい。
間者はとうとう観念したようだ。
グレン達が後片付けしてくれている事に一安心だが、目の前の事を忘れてはいけない。
今、カムに止血されているマリアン。
辛うじて息はあるが…。
「マリアン、大丈夫!?」
「…だ…じ…ょぶ…す。き…は外…てます…ら…」
マリアンは自分が苦しいはずなのに、安心させる様に微笑む。
弱弱しいその姿を見て涙が出てきた。
胸当てを貫通してそこから血がじわじわと滲む姿を見るととても大丈夫そうに見えない。
このままでは危険だと頭にサイレンが鳴る。
「お嬢様落ち着いて下さい。すぐに救護室へ連れていきましょう?マリアン様、お辛いでしょうが頑張って下さい。」
カムがマリアンを抱えようとしようとしたら、突然奪われる。
「貸せ!!」
マリオットがマリアンを奪い抱き抱え、すぐさま走り出す。
突然現れたからびっくりした。
「ちょ、ちょっと!!」
マリオットの不可解な行動に引き留めようと声を掛けようとしたらカムに止められた。
「大丈夫ですよ?彼は宿舎にある救護室に向かっています。」
「…えっ?本当?」
マリオットが向かう先は騎士棟の宿舎エリアだ。
「はい。俺たちも行きましょう?」
「ええ。」
わたくしたちも救護室に向かった。
・・・・・
救護室に到着すると扉の前でマリオットが一人立っていた。
マリアンの姿がいない。
どうやら中でマリアンが治療を受けている様だ。
わたくし達はただマリアンの治療が終わるのを待つしかない。
お願い…マリアンを助けて!
祈る様に手を組み強く願う。
するとマリオットが壁際に行き思いっきり壁に拳を叩きつけた。
「…。」
殴ったままの体勢で固まっている。
それを見ていたら無性に腹が立った。
一体、誰の所為でこうなったのよ?
先程シリウスはあの間者をローレライ伯爵の手先と言った。
そしてわたくしをあの場に呼び出したのはマリオットだ。
目的はわたくしの暗殺だろう。
先程からの様子みて、この馬鹿はこの件を知らないようだ。
利用されていたと考えられる。
苛立ちが募る。
こんな馬鹿に一発張り手を喰らわせようと近づいた…が、様子がおかしい。
…震えている?
マリオットの顔色が悪く、目が虚ろになっている。
「何で、あんたがそんな顔をしているのよ?しっかりしなさい!!」
肩を揺さぶったが、マリオットはまるで人形の様に何も動じない。
「…ニース…リアン…。」
二人の名を何度も呼び放心状態のマリオット。
そんな時、ある事を思い出す。
既に一人の親友が失い。
今度はもう一人の親友であるマリアンを失う。
先程、わたくしがマリアンに忠告した事だ。
このままだとマリオットは全ての親友を失い一人になってしまう。
その絶望が彼に恐怖を与え壊してしまうだろう。
『マリアンは変わってしまったと言っていたけど、こいつはきっと何一つ変わっていない。』
その証拠がこれだ。
マリオットの絶望した顔。
大切な親友と思っているから失う命の重さが彼を絶望させている。
「マリオット…マリアンは大丈夫。絶対に貴方を一人にさせないわ。」
だから信じて待っていて?
マリオットは顔をあげた。
「…なぜ…そんなことが分かる?」
マリオットは頼りない表情でわたくしを見る。
彼が反応したことに、わたくしは希望を見出す。
「マリアンは貴方をまだ信じて待っている。だってマリアンは貴方が騎士の誇りを取り戻すまで立ち憚ると言ったのよ?…それなのに貴方を置いていくと思っているの?」
だからマリオットの前では強気だった。
マリオットに敢えて煽っていたのは目標を失わせない為だった。
「…リアンが…?」
マリオットが驚く。
こいつは今まで彼女の何を見ていたのやら…。
だからマリアンの為にも今度こそ目を覚めて貰わないといけない。
「そうよ。ニースが亡くなってから貴方はおかしくなったそうじゃない?マリアンはずっと貴方の為にわざ煽って仕向けていたの。…その為に犠牲になってもいいとマリアンは言っていたわ。」
「…あいつは何を勝手に…俺などほっとけばいいのにっ、」
マリオットが苛立ったのか捨てる様に言う。カチンときた。
「馬鹿!マリアンがほかっておくわけじゃない。大切な親友が間違った方向に行ってしまったなら、それを親友が止めるのは当然よ!!マリアンだって親友の貴方を失いたくないと思っていたのだから!」
これ以上、親友を失いたくない。
その気持ちは二人とも同じだ。
その言葉か届いたのか、マリオットの目に涙が流れ頬を伝う。
「…すまなかった。」
小さい声で謝罪するマリオット。
彼はぼそぼそと話し出す。
「…あいつと約束していたのに…。」
あいつとは亡くなったニース事だろう。
「…ニースが最後まで、あいつ…」
続けて話している時、はっとある事に気づく。
「ちょっと待って!?」
焦ってマリオットの言葉を遮る。
彼が話そうとしていたのは、きっとマリアンが知りたい事だ。
「その話はマリアンに聞かせてあげて頂戴。わたくしに聞かされても貴方達の気が晴れないわよ。マリアンに会えたら一番に話してあげて?」
マリアン達の事を知らない相手に言うなんてあんまりだ。
その話を一番に知りたいのはマリアンなのだから。
止めた事でマリオットは目を丸くしていたが、分かったと言わんばかりに頷いた。
よし、これでマリアンが助かったら二人で話し合えるわね。
カムに目を合わせるとカムは微笑む。
これであと解決しなければいけないのは、今回の元凶のローレライ伯爵かしら?
少し離れたところで待っているシリウス達に声を掛ける。
彼らはわたくし達の邪魔をしない様に見守ってくれていた様だ。
「ねぇシリウス。さっきの刺客はローレライ伯爵の間者と言っていたわよね?どうしてわかったの?」
シリウスは呆れたように手を広げた。
「それは先ほどの捕まったローレライ伯爵令嬢のお陰です。お馬鹿のお陰で大事にならずに済みましたよ?」
最初から説明するとシリウスは事の詳細を語った。
ローレライ伯爵は以前に業績を積んだことによって、褒美に自分の娘を第二王子の婚約者候補に入れて欲しいと陛下に頼んでいたらしい。
だが、元々婚約者は公爵家の娘と決まってその話は無くなった。
その決定に不服であった伯爵は今日の婚約パーティーでわたくしを暗殺してしまおうと考えていたそうだ。
わたくしを亡き者にしてしまえば、婚約者の話は自分の娘に来る。
ヴァンデル令嬢は既に辞退を申し出ていたからと、ローレライ伯爵は確信していた。
だけど娘が勝手に王子の元に行き騒ぎを起こしてしまった。
この事に計画の変更を余儀なくされた伯爵は土壇場にマリオットを利用しようと考えたらしい。
情報操作したマリオットがわたくしを裁いて貰い、自分の手を汚さない。
もし彼が失敗しても、部下が暗殺を行いその罪をマリオットに押し付ければいい。
「手紙をもらった時、僕達は不審に思ってルーの元にわざわざ行ったのですよ?ルーの護衛なのに、離れるなど思わなかったですから。」
シリウス達は何故マリオットが単独で動いているのか不思議だったそうだ。
そしてルーベルト様の元に行き彼が居るかを確認しに行った。
でもマリオットは居なくて、ルーベルト様からマリオットは令嬢の取り調べの手伝いをしていると聞かされた。
シリウス達は次に令嬢がいる貴族の牢に赴いたそうだ。
「そこで僕達はご令嬢からいろんなお話を聞きまして、この暗殺の事を知ったのです。自意識過剰なお嬢様で良かったです。お陰でローレライ伯爵を時短に捕らえることが出来ましたから。でも貴女の暗殺が残っていましたので急いで向かったのですよ?」
シリウス達が向かった時には既に暗殺が行われようとしていた。
マリアンが居なかったら、間違いなくわたくしは殺されていただろう。
これで以上だとシリウスは一息吐いて、マリオットに振り向く。
「…騎士として失格です。貴方が尊敬している人は貴方を都合のいい駒としてしか見ていなかったそうですよ?」
マリオットにとってこれ以上の絶望はない。
親友を失う。尊敬していた人に裏切られる。騎士失格の烙印を押される。
自分で壊してしまった。
「これでお前とローレライ伯爵は終わりだ。」
今まで黙っていたグレンまで冷たく言い放つ。
「…。」
マリオットは黙ったまま項垂れる。でもグレンは容赦なく兵を呼んだ。
「お前も身柄を取り押さえて貰う。騙されたとしても公爵令嬢に危害を与えようとしたのは事実だ。そのまま身柄を引き渡しカイナン団長にお前の処罰を判断してもおう?」
ええ!?
「グレンもう少し待って?今だけはマリアンが無事かどうかを確認させてあげたいの!」
マリオットを庇う様に前に出る。
「馬鹿か?そいつは既に犯罪…」
グレンが文句を言う時、救護室の扉が開いた。
全員が視線を向ける。
一人の看護師がマリアンの一命を取りとめたと告げた。
全員が安堵する息を吐く。
「良かった…本当に…良かった…。」
無事だったことに涙する。
ふと後ろのマリオットを見ると、彼もその言葉を聞いて晴れやかな表情だった。
少なくても絶望している感じではない。
「あの…彼女に会うことはできませんか?」
思わず看護師に声を掛ける。
「…今は薬で眠っていて意識はありません。まだ一命取り留めたとはいえ良くない状態ですが…そうですね?…一人だけなら、長い時間は取れませんか顔を見るぐらいなら良いですよ。」
きっと心配していたわたくし達に気遣って看護師は許可をくれた。
それだけでも嬉しい限りだ。
「なら…グレンお願い、マリオットにマリアンを会わせてあけて?」
マリオットに会わせて安心させてあげたい。
そう訴えるとグレンは溜息つき「仕方ない」と呟いた。
よし!
「マリオット行きなさい。」
「…。」
「…恩に着る。」
マリオットは小さく頷いてすぐ救護室に向かった。
もう手がかかるのだから…。
マリオットが入った救護室の扉をみながら一息ついた。
「お嬢様、お疲れ様です。」
カムがわたくしの隣にくる。
「カムもね?…でもどうなるのかしら?」
マリアンとマリオット。
まだ二人はすれ違ったままだ。
「分かりません。…でもこの件で二人が話し合えるきっかけになりました。少なくともマリオット様は大切なものが何か気づけたと思います。後は心行くまで話し合い、わだかまりを解いていけばきっと大丈夫ですよ。」
マリオットの頑なに拘った約束。
それが彼を狂わしたなら理由なら、それを理解して解決するのがマリアンだ。
「そうね…。」
それだけはわたくし達に解決できない。
これが無事に解決できれば、二人は昔の様に親友と呼べる仲になれる。
きっと亡くなった親友も喜ぶだろう…。
「今回の事ですが、ロザリアも反省しないといけませんよ?言ったでしょう?気を付けてくださいと。」
感傷に浸っているとシリウスに叱られる。
「王家の婚約者の座を欲しがっている貴族は腐るほどいます。当然、貴女を亡き者にしようなんて星の数の様にいますよ?従者がいても自覚してくれないといけません。」
うう…シリウスの小言で耳が痛いわ。
聞いている内に罪悪感がジワジワとくる。
護衛とはいえマリアンを命の危機に遭わせてしまった。
友達なのに…。
「そう…ね…ごめんなさい。」
マリアンを傷つけた事の重大さに哀しくなる。
…わたくしが応じなければ、こんな事にならなかった。
素直に謝る事でシリウスはびっくりしたのか、そのまま黙ってしまった。
この場が静かになる。
だが、その静かさも短かった。
「別にロザリアが誰と会おうと結果は同じだ。どこで狙われるかなんて場所に限ったわけじゃない。たまたま修練場で事が起きた、そしてマリアン嬢は護衛として果たした。それが結果だ。気にする必要はないだろう。」
衝撃を味わう。
今…グレンに慰められた?
いや…慰めの言葉ではないけど、聞き方によっては責めるなと言われている様で…気のせいかしら?
そう思いながらグレンの顔をまじまじと見てしまった。
でもいつもどおりのグレンで…やっぱり気のせい…よね?
カムをみると苦笑している…まさか…
グレンとシリウスはわたくしを気にしてくれてここにいる。
それが答えだろう。
「二人とも…心配させてごめんなさい。…そして来てくれてありがとう。」
謝罪とお礼を言うと二人の反応は様々だった。
どういたしまして言うシリウスと別にどうでもいいと言わんばかりに顔を背けるグレン。
二人とも意地悪だけど、頼もしい友人だ。
ゲームではわたくしの敵らしいけど、こうして二人と知り合って悲喜を分かち合う仲になった事が嬉しい。
マリアンとマリオット、二人も今の事を乗り越えたらきっと素敵な友になりそうだ。
…いえ、二人はもうわたくしたちの大切な仲間だ。
「お嬢様…良い友をもって良かったですね?」
横でカムに嬉しそうに聞かれるとわたくしも頷いた。
大切な友が増えていく事は嬉しい。
「ええ。素敵な友達よ。」
みんな素敵な友。
きっと、ルーベルト様も…
「…それは良かった。まだ全て解決はしてないけど、今はこれで良いのかもしれないね?」
あれ?
ルーベルト様の事を考えていたら、まさか彼の声が聞こえた。
カムと勘違いしたかしら?
カムを見るけど違うみたい。
でもカムが急に焦った表情して頭を下げた。
「??」
声がした先をみるとそこには…。
「ロザリアお疲れ様、大変だったね。」
本物のルーベルト様だ!?
婚約パーティーの服装ままのルーベルト殿下がそこにいた。
お読みいただき有難うございます。
次はルーベルトの話が2話ぐらい続きます。
マリオットとマリアンの決着はその後になります。




