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悪役令嬢は従者と共に意思を貫くと誓う

このまま物語を進めると、学園でルーベルト様がヒロインに接触するたびにわたくしは嫉妬して彼女に嫌がらせをするらしい。



最初は嫌味を聞かせたりする程度らしいが、ルーベルト様と親しくなると嫌がらせを超えたことをする。


でも、何度聞いていても不思議に思う。


「…ねぇカム…どうしてわたくしはヒロインに攻撃的になるの?」


本当に嫉妬だけでそこまでするのかしら?



「だから乙女ゲームとはそういう設定(シナリオ)が…!?あの、ルーベルト殿下に一つお尋ねしても良いでしょうか?」


何かに気づいたカムは再び問いかける。


「ブロッサム公爵からも聞いたのですが、婚約者を決めるお茶会の日以外にルーベルト様とロザリア様はお会いしていると聞きました。お嬢様はその時の記憶がないそうなんです。その時に何かあったのでしょうか?」


そういえば、わたくしは小さい頃にルーベルト様と出会っている。

でも全く覚えてない。


「…ブロッサム公は話さなかったのですか?」


「はい。何度も聞きましたが答えてくれませんでした。ですが今後のお嬢様の為にも知っていた方がいいと思います。」


7歳の頃のわたくしがルーベルト様と結婚したいと言ったから、お父様は陛下に言って便宜をはかってくれた。


でも、そんなにせがんだ記憶もない。


答えを待っているカムに、ルーベルト様は口を開こうとしたが、思い直したように閉じ首を振る。


「…ロザリアがあの時の事を覚えていないのは仕方ないことだ。そのまま忘れて欲しい。」


「どうしてですか?」


耳を疑う。

教えてくれるかと思った。


でもルーベルト様からこれ以上は応えてくれない。


どうして思い出してはいけないの?その時、一体何があったの?


7歳の頃の記憶…確かわたくしが丁度王都に住みだした頃だった。


でもあの頃、大怪我してあまり覚えていない…。あれ?どうして大怪我したのかしら?




「…今は教えられない。でもね?学園で彼女に会って今のロザリアのままでいられているのなら、その時は教えるよ。」


今は教えてくれないって…ルーベルト様はわたくしを疑っているよう…


まだ彼はわたくしの事を完全に信用していないかもしれない。


ヒロインと出会い、わたくしがわたくしのままでいられるなら…?


どういう意味なの?


ヒロインを貶めたら、わたくしはルーベルト様の敵になるの?


「…分かりました。ですが、失礼ながら申し上げます。」


カムが真剣な表情してルーベルト様を見据える。


「ロザリアお嬢様は物語の人物とは全く異なり、優しく人を想いやれる御人です。例え、もしお嬢様が変わったとしても俺は全力でお嬢様を止めます。貴方がお嬢様を断罪する前に必ず!」


俺がお嬢様を絶対に悪役令嬢にさせません!


力強くハッキリと断言しカムは誓う。


「…カム。」


その言葉が心に響いた。


カムはわたくしが人を貶める人じゃないと信じてくれる。

そして何かあってもわたくしを止めると言ってくれる。


…嬉しい。


目頭が熱くなる。


でもここで泣くわけにはいかない。

わたくしも立ち向かわなければ!


「ルーベルト様、わたくしは悪役令嬢には成りません。カムが信じてくれるのですもの…絶対に悪に手を染めることは致しませんわ?」


わたくしも強くハッキリと断言する。


カムを悲しませたくない。大切な家族と友も悲しませない。


わたくしはその悪役にならない!


「…。」


わたくしたちの覚悟にルーベルト様は凝視していたけど、すぐ満面な笑みを見せた。


まるでその言葉を聞きたかったように。


「…あと3か月で僕たちは学園に入学する。ロザリア、そしてカルフェン・クラベル氏、シナリオどおりにならない様に抗うつもりなら、僕と協力しませんか?」


ルーベルト様と協力?


今までは助けてくれたけど…今度は3人で破滅フラグを折る為に協力してくれるの?


でも彼は攻略対象者だ…。


「それは願ってもない事ですが…どうしてでしょうか?」


カムも不思議そうにルーベルト様に問う。


確かに不思議だ。

だって、ルーベルト様は攻略対象者だから、ヒロインに出会う事によって今傷ついている心を癒してもらえるのだ。


ヒロインに惹かれても特に害があるわけない。


寧ろ悪役令嬢(わたくし)に対策するならまだ分かるのだが、ルーベルト様はヒロインに対して特に何をすることも必要ないのだから…。


「僕は認めたくない。いくらヒロインが僕を救う存在だとしても、そんな出鱈目な力で心を簡単に傾けたくない。サラへの想いと思い出を穢したくない。物語のとおりに聖女に屈したくない。だから君たちをここに連れて話をした。」


世界に選ばれた聖女に抗う為に。


今まで感情があるのか分からなったルーベルト様が熱く語る。


そんな一面を見て安心した。


失った人は還ってこない、けど自分で折り合いをつけたいと言うルーベルト様は決して後ろ向きではない。


だからわたくしに大切な人を大事にしてほしいといったのだ。


大切な人を失う気持ちが痛いほど分かっているから…。



ふと窓越しから暗くなった外をみる。


夜の闇が深まっていて、灯りの部屋の中を映していた。


窓に映る何とも言えないわたくしの表情。


強い決意を見せるルーベルト様に親愛な気持ちを抱く。


< … >


『ルーベルト様は亡くなった王女を今でも想い続けている。そんなにサラフィリア王女が好きだったのね?』


< 本当ハ、ワタクシガアナタヲ支エル存在ダッタノニ… >



嫉妬するよりも、同情に近い。


『わたくしも自分の想いにケジメが着くまで、ルーベルト様にもその想いを大切にしてほしいと思う。』


< ドウシテ忘レテシマッタノ? >


でもお陰で強い味方が増えた。


『わたくしたちならきっと変えられる気がする。きっと何とかなるわね。』


< 許セナイ…ワタクシタチハ、アノ約束ヲシタ同志ナノニ…。>



「…殿下、是非協力をお願います。わたくしも屈したりしません。ねっ、カム?」


「はい。必ず変えて見せます。」


協力を賛成するわたくしたちをみてルーベルト様は微笑む。


「よろしくね?」


「はい!」


わたくしは素直に喜んだ。


ルーベルト様は“転生者”では無かったけど、物語を知っている人物としてこれほどない強い存在はない。



喜ぶわたくしに窓に映る少女が話しかける。


< 早ク思イ出シテ? >


今のわたくしにはそれが何かまだ気づかなかった…



・・・・・



もう遅いので、この話はまた後日となった。


わたくしたちも早く家に帰らなければいけない。

お父様とリリーが心配している。



わたくし達は談話室をでた。

途中までルーベルト様と一緒に行くことになり、その際にマリアン達と会えるかどうか聞いてみる。


ルーベルト様はマリアン達に会う事を了承してくれた。


「マリアンはまだ安静にしないといけないから無理だと思うけど、安定したら君たちに知らせるよ。そしてその頃にマリオットの処罰に分かるだろう。それでも一度はマリオットとマリアンを会わせるつもりだ。」


どんな刑罰が下されても二人で話し合いさせる。


それを聞いて安心した。


「ルーベルト様、有難うございます。」


「礼を言われる必要はないよ。マリアンもマリオットもまだどうなるか分からない。また拗れてしまう可能性だってある。」


確かにそうだ。

でもマリオットは今回の事で気づいたと思う。

自身が今までの行いが間違っていた…と。


でも、まだ気づいていなかったとするなら、今度はわたくしが…。


「もし、マリオットがまだマリアンに牙を向けるなら、わたくしが今度こそ直々に躾け直してあげますわ。」


そう言うと、ルーベルト様とカムは苦笑する。


「…そうだね。でもマリオットだけじゃない。マリアンにも改めて貰う事はある。」


ルーベルト様はマリアンにも悪い所があるという。


どうして?マリアンは何も悪くないじゃない。


「マリオットがここまで自分を見失っていた理由はマリアンにも原因がある。お互いが一度離れた事によって複雑に拗れてしまった。」


親友の一人を失って苦しんでいるのはマリオットだけじゃない。

マリアンも同じだ。


「親友の死に二人は自分の気持ちに蓋をしてしまった。…そこが一番の捻じれだと思う。」


「どういう意味ですか?」


ルーベルト様の話について行けない。

余計に分からなくなった。


「…お嬢様、次に会う時に聞いてみましょう?きっと心配しているお嬢様なら二人は話してくれます。」


二人の為に頑張っていたのだから。と、カムは微笑んだ。


…恥ずかしい。


そんな事ない。わたくしはただマリアンが苦しんでいるのが見ていられなかった。


わたくしがもじもじしていると、ルーベルト様は優しい目をしてカムに話しかける。


「カルフェン・クラベル氏は、本当にロザリアを信頼しているのですね?」


「はい。俺はお嬢様を信じています。…あと殿下に申し訳ありませんが、俺の事を『カム』とお呼びください。その名前は正直呼ばれたくないので…。」


困らながら言うカムにハッと気づく。

そういえば、カムがどうして名前を変えているのかを聞いてない。


「そう、じゃあカム、ロザリア、これからも宜しくね?」


ルーベルト様は微笑み護衛と共に去っていった。


「お嬢様、帰りましょう?」


カムはわたくしの前に手を差し出した。

もうすでに馬車は待っているらしい。


「…ええ。馬車に乗りましょう?」


ここからカムにエスコートをして貰いブロッサムの馬車に乗り込んだ。



馬車の中で一息つく。


この夜会でいろんなことが起きて大変だった。


気づけばもう深夜と言ってもいい時間。


でもまだ終わらせない。

だって一番知りたいことがあるから。


緩やかに揺れる馬車の中でカムを見つめる。


「カム教えて?どうして本当の名前を隠しているの?」


わたくしの質問にカムは目を丸くする。


「“カルフェン・クラベル”。それが貴方の本当の名前でしょう?」


何か理由があって名前を変えているのだろうか?


カムの表情が急に暗くなった。

そんな顔する程の事なの?


カムが重い口を開く。


「…黙っていてすみませんでした。いつかはお嬢様には言おうと思っていましたが、今回、思っていた以上にその真名を知っている方がいましたので、お嬢様はさぞかし混乱したでしょう?」


切なそうに謝り話すカム。

やはり、何かあるの?


「…詳しくは後日に話したいと思いますが、簡潔に言うと俺はその名前が嫌いだからです。」


嫌い?自分の名前が?


「どうして?」


「…その名前は母がつけたのですが…俺にとっては皮肉です。父にとっても…。」


カムのお母様がつけた名前が皮肉?


…カムのお母様はずっと前に病気で亡くなっていると聞いたわ。


夫婦の仲が良くなかったのかしら?


「カムのお父様とお母様に何かあったの?」


「…今言えるのは、俺の名前は俺と父の為ではなく母が()()()を想ってつけた名前です。俺はこの名前が嫌で母が亡くなった日を境に父に名前をもう一度つけて貰いました。」


亡くなった後につけた名前が『カム』。

でも普通に名を変えなくても愛称で通る。


でも次にカムがその理由を教えてくれた。


「本名は貴族名簿に既に登録してしまっているので、全部を変えることが出来ませんでした。だから愛称に聞こえる様にと父は『カム』とつけてくれたのです。これのお陰で貴族社会ではまかり通っています。


「そうなの…。」


貴族名簿は出生後に登録する名簿。

それによって貴族としての証明を受けている。

だからその後に改ざんは決して出来ない。


「俺はカムです。俺にとってその名がいいのです。」


“カルフェン”は俺の名前じゃない。



吐き捨てる様に言ってカムは暗い表情を隠す様にわたくしの目から顔を背けた。


由緒あるクラベル伯爵家が次男の名前を変えるなど、スキャンダルになる話だ。

でもクラベル家の主であるブロッサム家を始め、親戚の殆どの人がクラベル伯爵に考慮して暗黙の了解を取っている。


だからクラベル伯爵家を知らない貴族相手に真名を隠せていた。


普通の貴族が聞いていたらクラベル家はさぞかし特別扱いされていると思うだろう。


それだけして貰えるクラベル伯爵の人望は厚いのだろうか?

それとも、それだけの事をして貰えるほどの事が遭ったのだろうか?


カムの過去に一体何があったの?


これは転生以前の話じゃない。


“カム・クラベル”という人物の持っている記憶(かこ)…。


「…今はこれで許してください。また後日改めてお話しましょう?」


今日は特にお疲れですから…とカムは静かに話を終わらせた。


今は語れない。でもカムは話さないとは言っていない。


特に今日は色々とありすぎたから、そんなわたくしに負担を掛けない様にと考えてカムは話さない。


そんな優しいカムに今わたくしが出来ることはただ一つ。


「分かったわ。でもね?わたくしはカムが例えどんな名前だろうとも、カムがどんな過去を持っていても、わたくしにとっては今の『カム』が全てだわ。転生者だろうが、何者だろうが関係ない。」

カムの目が丸くなる。


でも最後まで聞いて?

それだけわたくしは貴方を信じている。


「貴方はわたくしの従者でわたくしの破滅を無くすために協力し合う同志なの。わたくしはカムを信じている。名前なんて関係ない、わたくしはずっと『カム』と呼ぶわ。」


覚えときなさい!と言って、人差し指をカムの方へ刺し意地悪そうに笑った。


そんなわたくしにカムが嬉しそうな表情になる。


「勿論です。それこそ俺のお嬢様です。」


段々と笑いが込み上げてくる。


二人は笑い合いながら穏やかな気持ちでブロッサム邸まで着くのであった。


お読み頂き有難うございます。


謎な解決されないまま謎が出てきますが、これは学園編で解決する予定です。

次はマリアンとマリオットの話に戻ります。


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