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番外編 グレイス -再会―

お久しぶりです。

本編と番外編を手直ししている最中ですが、以前に書き留めていたものを完結させて投稿させて頂きました。

過去の話でグレイスとリリーの出会いの回になります。

全部で四話。

今日と明日2話ずつ投稿します。

お粗末ですが楽しんで頂けると嬉しいです。

颯爽に2頭の馬が街道を走りゆく。


温かく穏やかな光が包む春の日差し


平和な象徴として相応しい初春なのだが、

馬で颯爽に走る二人の人物の表情は雨雲が掛かったように暗い。


二頭の馬はまるで何かに追われている様に速度を速めて走る。


それくらい彼らは急いでいる様だ。


先頭で走る青年の頬に風に乗った花弁が優しく当たった。


まるで青年を撫でる様に。



『 グレイス 』



青年の脳裏に甘く柔らかい声が響いた。


とても懐かしい声。


愛おしくて儚い。


甘く優しい声はまるで温かい光だ。


そう春の様な温かさ。

そんな温かさが彼らを出迎える。


「その先で一度止まるぞ?」


青年は後ろについて走る少年に声を掛ける。


「…はい。」


青年に似た少年は頷いた。


二頭の馬は速度を緩め次第に止まる。


どうやら休憩を取るつもりだ。


青年は周囲を見ながら懐かしそうに目を細める。


『…ブロッサム領地…久しいな?ここに来たのはもう随分経つ。貴方の墓石は他所の地にある為か、ここに来ること無くなった。…いや、俺が意図的に避けていた。…ここには色んな思い出がある…。』


青年…グレイスはそっと目を伏せた。


ブロッサム領地で過ごした日々の少年期。


春のように温かく優しい毎日を過ごしていた。


彼と会うまで冷たい世界にいたグレイス。

でも彼と知り合い、初めて自分の意志でこの地に足を踏み入れた。


待っていたのは温かい光。

眩しくもやさしく包み込んでくれる。


『ずっと待っていましたよ?良かった。あの時は時間がなかったので、ちゃんと伝わったか分からず不安だったのです。』


柔らかく温かい声がグレイスの荒れた心に染みる。


砂糖菓子が溶けたような甘い声。

まるで小鳥が歌うよう。


『…レベンス様。』


グレイスが脳裏に浮かぶ姿はとても男性と思えない程の美しく可憐な容姿を持つ青年。


戦神と称えられたバロンの英雄だ。


まるで彼がいる様な錯覚を覚える。


それぐらいこの地の空気が良く温かい。

彼に出迎えられているような気持にさせられる。


でも青年は複雑な気分になった。


『これから貴方と過ごした場所に向う。…もう貴方はいない場所に…くそっ。あの馬鹿ジオの所為で俺が来る羽目になるとはな?さっさと奥方の件を何とかしろよ!』


グレイスは腹が立った。


この地に来るのは本意ではない。

だが、グレイスの幼馴染であるこの地の領主グラジオ・ブロッサムが今回の案件に対応が難しく、代わりにグレイスが対応することになった。


最初は嫌がった。

だけどレベンス・ブロッサムの領地を手助けしてほしいと国王が勅命を出した為、強制的に駆り出されたグレイス。


敬愛する御方の領地だと割り切って了承するが、どうしても腹が立つ。


理由は一つ。


幼馴染の臆病さにグレイスは腹を立てているのだ。


『奥方が病弱なのは婚前に分かっていたはずだ。それなのに妻から逃げるなど馬鹿か?しかも、会わない癖に妻に領地の仕事を丸投げしている。薄情過ぎて言葉にならないな?それで今回俺に仕事が回って来たと?ふざけんなよ?』


幼馴染は病弱な妻から逃げている為、領地の仕事は妻と使用人任せている。

そして幼馴染は妻に会いたくない為に国王に願いグレイスに任せた様だ。


「…父上。そろそろ向かわないとブロッサム夫人との約束の時間に遅れる。」


苛立っている最中、グレイスに似た少年が声を掛ける。


「…分かっている。行くぞ?…あとグレン、言っとくが、いくら遅くなろうと今日中に用件を終わらせる。休憩は今だけだと思え?」


依頼された用件を今日中に終わらせる。


グレンと呼ばれた少年は無表情に頷く。

でも顔に疲労が出ていた。


自分の領地からここまで既に長距離。

既に日が昇り昼時に近い。


しかも休憩はほんの僅かな間だけ。


それなのにグレイスはこの地に長居はしたくない為か、幼い子供に強制する。

用事が終わっても夜中を馬で走らなければならない。


青年はともかく、まだ9歳と幼い少年にとっては酷な事だ。


「この程度で音をあげるなよ?マーカス家を継ぐ者なら出来て当たり前だ。」


「…分かっている。」


グレイスは冷たく言い渡すとグレンは頷いた。


グレンは父である彼に逆らえない。


「もう行くぞ?このままだと日が暮れる。」


グレイスは俯く息子を置いて馬に跨った。

休憩は終わりの様だ。


グレンも続いて馬に跨り二人は馬を走らせた。


走る中、グレイスはグレンを横目で見る。


『…この程度で疲れるなど、なんと情けないものだ。俺があいつぐらいの時には既に二、三頭の馬を潰して各領地を走っていたぞ?…まあ、レベンス様について行くのに凄く苦労した覚えがあるが…。』


レベンスは馬の扱いが凄く上手く、難癖のある道すら普通の道を走る様に進む。

そんな人の後ろを走るとかなり苦労する。

少年時のグレイスは馬術の特訓で大変な目に遭ったようだ。


走りながらグレイスは懐かしむ。



だが、すぐに暗い気持ちになった。


『だがグレンは駄目だ。』


グレイスの心境は複雑だ。


自分が課せられた宿命はいずれ息子のグレンが継ぐ。


『このままだと、こいつは家の呪縛に潰されるだろう。俺が今までしてきた事さえも無に帰る。…絶望的だな?』


この国の番犬であるマーカス家の宿命じゅばくに耐えられない。

そうなると今までの努力が水の泡だ。


『いくらレベンス様から教えられた知識と武術があっても、あの御方の様に出来ない。…悔しい…』


グレイスは唇を噛む、



レベンスは特別だ。


彼の言動は必ず人々の希望の光になる。


救われない者はいない。


存在そのものが奇跡なのだ。



『神の様な御方の代わりになろうとする俺は愚かだ。…でも俺達の未来にレベンス様は必要。だからこそグレンにレベンス様の様に育てたつもりなのだが、失敗だったな?…こいつは俺に似すぎている。…やはり高望みなのか…?』


息子に託してもレベンスの様になれない。


『このままだと今までの当主達が報われない。…レベンス様、俺はどうすればいいのでしょうか?』


今は亡き人に助けを求めても答えがない。

自分で切り開くしかないのだと彼は苦しむ。


だが、苦しんでいても決して彼は表情に出さない。


誰にも悟られぬよう仮面を被り無表情に先へ進んでいく。


そんな父の姿を見て、同じ心境で苦しんでいる息子に気づかずに…。



・・・・・


それから少し経ち二人は目的地に辿り着いた。


門兵に声を掛けてそのまま馬を走らせる。


屋敷まで距離が長いのだ。

門をくぐっても広大な庭が二人を迎える。


豪華な仕様でも端正な庭は公爵家に相応しいと呼べる程だ。


その美しさにグレンが目を丸くしている。


「…ここはもう変わってしまったな?」


驚くグレンと反対にグレイスは表情を歪めた。


何故不機嫌なのかというと、グレイスが過去に居た時と今のブロッサム邸の庭は風景が全く違う。


今のブロッサム邸はある目的の為、数年前に大きく建て直しているのだ。


『あいつは亡くなった父の思い出よりも、妻の療養環境を選んだ。…理解はできるが、俺にとっては忌々しい。』



前はもっとさっぱりしていた。

公爵家と思えない程、豪華な造りではない庭。

でも整っていないわけではない。


グレイスは初めて訪れた事を思い出す。


『公爵家なのに殺風景でしょう?本当は植木や花壇など沢山色取りを入れるべきなのでしょうが、私が鍛錬を兼ねたお散歩をするので、駄目にしてしまうのですよ?』


出迎えてくれたレベンスが苦笑しながら話してくれた。


『確かフェロミア家の別邸に似せているとレベンス様は言っていた。あの時の哀しそうなお顔は今でも覚えている。』


フェロミア家の別邸は今や失われている。

何があったか分からない。


でも思い出の土地はとても居心地がよくグレイスは好きだった。


今はその面影はない。


屋敷に近づくと人の気配がする。

屋敷のエントランスに大勢の使用人達が整列している様だ。


使用人達が二人を出迎える。


二人は馬に降りエントランスまで歩いて行った。


「マーカス侯爵様、そしてマーカス侯爵御子息様、いらっしゃいませ。」


大勢の使用人の中央に居る青年が最高礼をとった。

すると後ろに従える使用人達も同じ様に最高礼をとる。


「「「いらっしゃいませ!」」」


大勢の使用人の出迎える声にグレイスは眉を顰める。


「私は仕事で来ている。歓迎など不要だ。」


「とんでもございません。当主の大切なご友人であります。丁重に御もてなすよう、当主より承っております。」


中央にいる青年は人の良い笑みを浮かべグレイスの前に出た。


「マーカス侯爵様、本日はお忙しい中お越しいただき有難うございます。わたくしはこの屋敷の執事を務めるフレッド・キャンベルと申します。当主が不在の為、ブロッサム公爵夫人の補佐を務めさせて頂きます。御用があれば何なりとお申し付けくださいませ?」


頭を下げる青年にグレイスは呆れたように見つめる。


目の前のフレッドは顔色が悪く小刻みに震えていた。

後に控えている使用人達も同じだ。


格式高い公爵家の使い人なのに、客人の前で怯えるなど失礼極まりない。


『怖がるぐらいなら、出迎えするなよ?…まあ、こいつらにとって俺は怪物以外何者でもないな?』


他人に怖がられるなど今始まった事ではない。

グレイスを見ると誰もがフレッドと同じように震えていた。


まるで目の前に恐怖の象徴がいると言っている様に。


だが、そう思うのも無理はない。


グレイスは常に強い威圧を放っている。

安易に人が近づかない様にわざと調整して隠さない。


だからグレイスを見て怯える者達が多いのだ。


「早々に仕事に入りたい。持てる資料を出せ?」


グレイスは怯えるフレッドを無視して要件に取り掛かった。


「お、お待ちください。奥様が…ディジー奥様が広間でマーカス侯爵様をお待ちです。ご一緒に食事を楽しみたいと…。是非、お越しください。」


ブロッサム公爵夫人のお誘い。


『面倒な事だ…』


渋々了承した。


案内される中、グレイスはまた眉を顰める。


だが、相手は良く知る公爵夫人。

病弱だが、かなりのヒステリック。


過去、夫人が長女を出産した時に王都のブロッサム本邸へ訪れたグレイスは、嫌な思いをしている。


『確か二人目も女の赤子を産んだと聞いている。またあの時のように八つ当たりしてくるのではないか?』


嫌な思い出はまだ忘れていない。


原因は後継者問題。

男児を産めなかったブロッサム夫人はかなり荒れていた。


既に嫡子が産まれている家の当主であるグレイスが訪れた事で、夫人は精神が不安定なり誰相手でも理不尽な八つ当たりをした。


グレイスにとっても嫌な思い出だ。


『幼馴染と言う建前とはいえ、あの時は行かなければ良かったと本気で思った。産まれたのはヒステリック女に瓜二つの赤子。…がっかりだ。」


敬愛する御方の血を継ぐ孫だからどんなものかと思えば、癇癪持ちの奥方によく似た孫娘。


大きくなれば変わると思えば更にヒステリックの母に似た娘になり、グレイスはガックリとした。


『…あそこまで似てないと、あいつがレベンス様の血を引いていないと思える程だな?今のブロッサム家の家人達は、どこ見てもレベンス様の要素が全くない。』


そう考えると納得してしまう。

グラジオ・ブロッサムはレベンスが何処かで拾ってきた子なら、誰もが『仕方ない』で解決できた。


だが、グラジオはレベンスの奥方と先代国王に似ているので、正真正銘レベンスと血が繋がっている。


ただ似てほしい相手に似なかっただけ。


その事実が英雄を求める多くの人たちに落胆を与えた。



「マーカス侯爵様、御子息様、どうぞ?」


フレッドに部屋を案内されて、グレイスとグレンは大広間に入った。


大広間の上席に着飾った金の波打った長い髪の女性が座っている。

病を患っていると分かる青白い肌とほっそりとした身体なのに、つり上がった目つきが強い女性だと教えてくれた。


「マーカス卿、よくいらっしゃいました。」


「ディジー奥方、お久しぶりです。」


グレイスは奥方に挨拶をする。

ディジーは座ったままグレイスの挨拶を受けた。


「随分久しぶりね?貴方とお会いしたのはロザリアが産まれた時ぐらいかしら?もう一人を産んだ時は来てくれなかったもの。」


ディジーが不満そうに言うとグレイスは人の良い笑みを浮かべ頭を下げた。


「それはすまない。陛下の仕事が多くて随分と振り回されていたから会いに行けなかった。元気そうでなりよりだ。」


心の中では『誰がヒステリック女に会うか?』と悪態をついている。


「仕事仕事って…貴方もあの人と同じこと言うのね?どうして大臣になると家族よりも仕事を取るのかしら?…ったく、待っている身にも…っごほ!」


小言を言おうとしたところディジーは突然咳込んだ。


「奥様!」


フレッドが即座にディジーの背を撫でながら彼女の口元にタオルを持っていく。


ヒューヒューと息を吐きながらディジーは苦しそうに息をする。


「…前言撤回だ。前よりも病が酷くなった。」


「ごほっ、ごほっ、…ふ、ふふっ。い、一応、元気よ?ごほっ、こ、こうしてわたくしを大切にしている人達に囲まれて暮らせて、いるもの。」


笑みを浮かべてもディジーの顔色は悪くとても良い表情と思えない。

タオルには血が零れている。


「肺がかなりやられているな?…奥方がこんな状態なのに、あいつは一体、何しているんだ?連絡はしているのか?」


グレイスはフレッドに問い詰める。


「はい。…ですが、返事が中々頂けません。」


「なら今からでも無理やり連れてこい。このままだと早死になるぞ?」


「そ、それは、したいのは山々なのですが…。」


グレイスがフレッドを責めるとディジーはグレイスの腕を引っ張り止める。


「フレ、ッドを責めないで?あの人に、これを、何度もあの人に…言ったけど、一度も来た事は無いわ?それより、そちらの御子を紹介して?初めて会うわね。なんて言う名前かしら?」


ディジーは自分の夫が来ないと恨めしそうにしつつも、グレイスの後ろに居るグレンに目を向ける。


グレンは静かに前に出た。


「グレン・マーカスです。ディジー奥方、お初にお目にかかります。」


「まあ、お父様によく似た子。確かロザリアと同じ歳なのよね?」


ディジーはグレンの頭を撫でながらグレイスに確認すると、グレイスは頷いた。


「そうなの?…ならリリーに良いかも。ねぇメディ、リリーはまだ来ないの?」


ディジーは後ろで控えていた侍女に声を掛けた。


「一通りに片付いたと報告を頂いておりますので、もうすぐいらっしゃいます。」


「…そう。あの子もあの人に似て仕事熱心ね?今回の資料なんて余所にやらせればいいのに…。」


呆れるディジーを他所にグレイスはまた心の中で舌打ちした。


『いい加減に仕事へ入りたいのに、この女はまた面倒な事を呼ぶのか?あいつに似ている子供など興味などない。さっさとしろよ?』


文句が絶えない。


「ディジー奥方。申し訳ないが、私はまだ余所で仕事を抱えている為、早々と仕事に移りたい。食事はまた今度にして貰えないか?」


さっさとここを去りたい。


それがグレイスの本心だ。


だがディジーはそれを許さない。


「駄目よ!久々に貴方と話がしたいわ?ちょっと貴女、早くリリーを呼びなさい!食事が始まらないでしょう!?」


「は、はい!」


使用人が慌てて出て行く。

徐々にヒステリックになる夫人にグレイスは頭を抱えた。


もういい加減にしてくれ?


『こんな茶番に付き合う程、俺は暇じゃない。さてどうするか?』


グレイスがまた断ろうとした時、扉が開いた。



「お待たせして申し訳ありません。」


グレイスは耳を疑う。



砂糖菓子ように甘く、小鳥が歌う様な声。



これは幻聴か?


それとも自分が求めすぎて、そう聞こえたのか?


グレイスが心から慕う人の声に似ていた。



その声の持ち主が部屋に入ってくる。


すると次は目を疑った。


そこには美しく可憐な少女。


「…っ。」


少女がグレイスたちに微笑んだ。


「マーカス侯爵様、御子息様。御多忙の中、ブロッサム公爵家にお越し頂きありがとうございます。」


『 グレイス 』


声色一つ一つが荒れた心を癒す様に甘く温かい。


とても懐かしい声。


「はじめまして、私はリリー・ブロッサム。ブロッサム公爵の二の娘でございます。」


リリーはグレイスたちに礼を取った。


読んで頂き有難うございます。

次の投稿は11日 PM9:00になります。

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