十三夜斬親の重複人生
プロット作成当初頭に浮かんだだけの話だけど追加してみました。
――パチッ
目を覚ますと見慣れた天井が目に入る。身体を起こし、ベッドの角度を調整した。
パソコンを立ち上げてヘッドホンを耳にあて、いつも通り動画を再生し始めた。
俺の名前は十三夜 斬親。十三夜学園理事長、十三夜 斬人の兄だ。
生まれつき身体が弱い俺は、若干五歳にして十三夜家の相続権を剥奪させられた。弟に相続権が移り、そのせいで斬人は小さい頃から十三夜家に縛られていた。
一方相続権を早々に失った俺はと言うと、家に縛られず自由にのびのびと――
「――できたらなあ」
身体が弱いせいか入退院の繰り返し。何度検査して点滴して手術を受けてもいっこうに良くならない俺の身体。最近では何もできない俺から遂に十三夜家の籍を抜こうという話まで出ている。
今までも何度かその話が出たとき、俺は必死に「抜かないで下さい。お願いします」と頼みこんでいた。
しかし今では別に構わないと思っている。
数十年前、いっこうに良くならない身体に半ば諦めて、それでも弟に迷惑はかけたくない、と考え始めた頃に。
ある夢を見始めた。
その夢は生誕から始まった。泣きわめく「俺」をあやす男と女。体を拭いたりする女性。
月日が経つにつれ「俺」は成長する。三歳になると幼稚園に入れられた。何と十三夜学園の幼稚舎だった。
初等部、中等部、高等部、と一日一日が鮮明に進んでいく。夢の中の「俺」は健康そのもので、むしろ異常とも言えるほどの身体能力があった。全く疲れず息切れなんてしたこともない。文字どおり夢みたいな毎日を過ごしたのだ。
しかし一番異常だったのは身体能力ではなかった。
夢の中の「俺」、木更津吉斗は、他人の心の声が聴こえるのだ。
『今日の六限のLHRに抜き打ちの持ち物検査を行いましょう』
『うわ~あの子の足超キレ~。舐め回してぇ~』
『私が可愛い?はっ!そんなの分かってんのよ!あんたらみたいな凡人と私が釣り合うとでも思ってんの?』
『うわコイツチャック開いてるし……おもしろそうだし黙ってよっ』
不幸なことに読心能力は常時発動で、耳を塞いでも頭に直接聴こえてくる。
初めは驚いたが次第に面白いと思い始めた。しかし初等部入学前にはウザくなった。
……考えてみてほしい。二十四時間三百六十五日全く止まらずに他人の心の声が耳に入る状況を。
頭に他人の感情が余すところなく入ってくるんだ。始めは何度か寝込んだこともあった、が。
夢の中でまで寝込みたくはない。夢とは言えせっかく二度目の人生だ。頑張れ「俺」、と気合いと根性で乗りきった。
高等部卒業後、この読心能力を利用して人間科学学部、医療心理学科に入学。紆余曲折を経て心療内科の資格などを手に入れた。そして晴れて十三夜学園のカウンセラーとして赴任したのだ。
一方夢を見ている俺、すなわち本体の方は徐々に進展を見せていた。運動しておらず減る一方だった筋肉だが、なぜかうっすらとついてきた。骨と皮と時々脂肪、という体で、ガリガリに痩せ細っていた身体が健康的に色づいてきたのだ。
相変わらず病気はいっこうに良くならないが、それでも今まで全くといっていいほどの進展がなかったことに比べると、大きな一歩だと思う。
夢の中の「俺」に比べると圧倒的とも言える身体の違い。もどかし過ぎていっそうのこと睡眠薬一瓶ごと飲みたくなる。
俺は寝て夢を見ると「俺」になり、「俺」が寝ると俺になる。
毎日二重の人生を送っている俺だが、ある意味こういう生活もありかもしれないな。
俺、十三夜斬親の第六感はバグッている。
夢を見る度に「木更津吉斗」になるのだから。
これで本当に完結です。ありがとうございました。
主人公が二人いるにも関わらず精神は同一人物、要は逆二重人格です。
SPECのサトリを見てラブリーポーズもさせたいなあ、とは思いつつも却下。
実は「十三夜学園」、別の小説の舞台でもあるんです。当然この物語の登場人物も出場予定です。まあ出てくるまで私の気力が持つかは不明ですが。
世界観がつながっている作品、大好きです。
ご愛読?ありがとうございました。




