納得の値段
「うおっ、今日もめちゃくちゃ並んでるぞ……!」
翌日の夕方、買い出しから戻ってきたルークが、店の前で呆然と立ち尽くしていた。
まだ開店直前だというのに、ボロ酒場の前には下級冒険者たちが今か今かと列を作っている。昨日ポテトや親子丼を食べた人たちが、仲間の冒険者を連れて戻ってきたのだ。
「あ、お兄ちゃんお帰り! アースポテトとコカトリスの肉、ちゃんと確保できた?」
「おう、バッチリだ。ギルドの市場の商人、急に俺が大量に買うもんだから売れ残りが処分できて泣いて喜んでたぜ」
ルークがドサリと重い荷物を厨房に置く。その顔は疲れ果てているが、どこか誇らしげだ。
「よし、じゃあ今日も仕込みを始めよう! お兄ちゃんはポテトの皮剥き、私は親子丼の出汁の準備ね」
「へいへい、店長」
ルークはすっかり私のことを「料理の師匠」として認めたようで、文句ひとつ言わずに大きな手で器用に芋の皮を剥き始めた。
「なぁ、レニ。これ、昨日の売り上げ、数えてみたんだけどよ……」
ルークが少し声を潜めて、懐から大銅貨がパンパンに詰まった革袋を取り出した。
「これまでのうちの店の、3ヶ月分以上の稼ぎがある。親父の薬代を払っても、まだお釣りがくるぞ。お前、本当にすごいな」
「ふふん、言ったでしょ? でも、まだまだこれからだよ。このお金で、もっと良い調味料や新鮮な食材を仕入れられるようになれば、もっと美味しいものが作れるんだから」
私がそう言うと、ルークはしみじみと自分の大きな手を見つめた。
「俺さ、剣の才能もないし、下級の依頼で小銭を稼ぐことしかできないって、半分諦めてたんだ。でも、お前の料理を運んだり、こうして芋の皮を剥くのでも、誰かが『美味い!』って喜んでくれるなら……悪くないなって思った」
「何言ってるのお兄ちゃん。お兄ちゃんが市場で安くて良い食材を見つけてきて、この力で大量に運んでくれるから、私は料理ができるんだよ? お兄ちゃんがいなきゃ、この店は回らないんだからね」
私の言葉に、ルークは照れくさそうにボサボサの赤髪をかいた。
「……おう。じゃあ、今日も死ぬ気で皮剥いてやるよ!」
「よし、じゃあ開店するよ! 笑顔で迎え入れてね!」
私が勢いよくドアを開けると、待っていましたとばかりに冒険者たちが雪崩れ込んできた。
「待ってたぜ、妹ちゃん! 今日もあのカリカリのポテトと、トロトロの親子丼を頼む!」
「ポテトフライ、今なら大銅貨3枚だろ!? 安いうちに腹一杯食わせてくれ!」
「はいはい、毎度あり! すぐ作りますからね!」
店内は一瞬にして、昨日以上の熱気と笑顔で満たされた。その賑やかな声に釣られるように、まだこの店を知らない「新しい冒険者」の2人組が、おそるおそるドアをくぐってきた。
駆け出しの魔法使いの少女と、軽装の斥候の少年だ。
「ねえ、本当にここなの? ギルドの最下層にある、あの『ドブスープの店』でしょ……? なんでこんなに人がいるのよ」
「俺だって知らねえよ。でも、ギルドの奴らがみんな『死ぬほど美味いポテトと丼がある』って噂してたんだ。……うわ、でも確かにめちゃくちゃ良い匂いがするな」
カウンターの端に座った2人は、まだ疑り深い目で周りを見回している。私はすかさず、揚げたてのポテトフライを2人の前に差し出した。
「いらっしゃい! 新メニューの『ポテトフライ』だよ! 新発売記念で、今なら大銅貨3枚! めちゃくちゃ安いから、まずは食べてみて!」
「大銅貨3枚……? 安っ。でも、ただのアースポテトでしょ……?」
魔法使いの少女が、怪訝そうな顔で一本つまんで口に運ぶ。
サクッ。
「……え?」
少女の動きがピタッと止まった。大きな目が、さらに丸くなる。
「おい、どうしたんだよ?」
斥候の少年が不思議そうに覗き込むと、少女はハッと我に返り、ものすごい勢いで2本目を掴んだ。
「なにこれ……っ!? 意味がわからないわ! なんでアースポテトなのに、こんなに軽くてサクサクなの!? いつも食べる茹でただけの芋みたいに、口の中の水分が持っていかれない……! それにこの油のコクと塩の味、美味しすぎて手が止まらないんだけど!?」
「うわ、本当だ! なんだこれ、美味っ! 手が汚れるのも気にしないで食っちゃうな!」
2人は競い合うようにポテトを口に放り込み、あっという間に一皿を空にしてしまった。
「す、すみません! さっきみんなが頼んでた、あの黄色くてトロトロのご飯のやつもください!」
「はい、親子丼ね! 今なら大銅貨5枚だよ、すぐ作るね!」
数分後、出汁の効いた湯気を立てる親子丼を出されると、2人はもう躊躇わずにスプーンを突き刺した。
卵とご飯、そして大ぶりの鳥肉を一緒にすくい、口へかき込む。
「ふあぁぁ……ッ!!」
魔法使いの少女が、あまりの美味しさに頬を押さえてとろけそうな声を漏らした。
「お肉が、信じられないくらい柔らかい……! それにこの卵、生じゃないのに固まってもいなくて、お出汁の味が染みたご飯と絡んで、喉にするする入っていっちゃう……っ! 毎日ダンジョン飯で干し肉ばかり食べてる身には、この優しさが体に染み渡るわ……!」
「美味すぎる……! 優しい味なのに、ガツンと腹にたまる! 俺、もう明日から毎日ここで飯食うわ!」
「ふふ、ありがとう! 毎日仕込んで待ってるからね!」
新しく来た客が、一口で満面の笑顔に変わる瞬間。それを見るのが、料理人として一番の幸せだった。
不味い泥スープしか出せなかったボロ酒場が、いま、新しい常連さんを巻き込んで、確かに変わり始めている。私と、頼れるお兄ちゃんの二人三脚で。
「おい、ルーク! エールが空っぽだぞ! 早く持ってこい!」
「わりぃ、今行く! ちょっと待ってろ!」
『荒獅子の牙亭』の夜は、今日もすさまじい熱気に包まれていた。
入り口のドアは開けっ放し。そうでもしないと、店内の熱気と、何よりポテトを揚げる香ばしい油の匂い、親子丼
の甘辛い出汁の匂いがこもって、みんなの鼻が幸せで狂ってしまいそうになるからだ。
「はい、お待たせ! ポテトフライね! 今なら大銅貨3枚、揚げたてだから火傷しないでね!」
私がカウンター越しに皿を差し出すと、昨日すっかり常連になった魔法使いの少女――ミレイが、目を輝かせてそれを受け取った。
「待ってました! これよこれ、このカリカリ感が一日の疲れを全部吹き飛ばしてくれるのよね!」
「おいおいミレイ、お前それ食うの今日で3日連続だぞ? 少しは俺の分も残せよな」
相方の斥候の少年が苦笑いしながら手を伸ばすが、ミレイは「だめ!」と皿を抱え込む。その様子を見て、隣のテーブルの巨漢戦士・ガッツが大笑いした。
「ハハハ! お嬢ちゃん、その気持ちはよく分かるぜ! だがよ、この店の真骨頂はやっぱり『親子丼』だ。レニ、俺にもう一杯、あのトロトロのやつを頼む!」
「ガッツさん、もう2杯目ですよ? 本当によく食べるんだから。はい、大銅貨5枚ね!」
私が手際よく仕上げた親子丼を出すと、ガッツは子供のような笑顔になってスプーンを握り締めた。
周りの冒険者たちも、みんな笑顔でポテトをつまみ、丼をかき込んでいる。少し前まで、誰も来なくてハエが飛んでいた不味いボロ酒場とは、とても思えない光景だった。
「ふぅ……レニ、コメノ実のストックが切れた! 裏の倉庫から取ってくる!」
ルークが汗を拭いながら、空になったお櫃を抱えて厨房に駆け込んできた。
「お兄ちゃん、ついでに岩塩の予備もお願い! ポテトの注文が止まらないの!」
「おう、任せろ!」
ルークはドタバタと裏へ走っていく。
身体はきついはずなのに、ルークの顔には一瞬たりとも陰りがない。下級冒険者として燻っていた時よりも、今のほうがずっと生き生きしている。
「おい、レニちゃんよ」
ガッツが丼を綺麗に平らげ、満足げに息を吐きながら話しかけてきた。
「あんたの料理のおかげでよ、最近ギルドの下級連中の顔つきが変わってきたんだぜ」
「え? どういうことですか?」
私が手を止めずに尋ねると、ガッツはニカッと笑った。
「今まではよ、不味い干し肉とドブスープで腹を満たして、ただ生きるためにダンジョンに潜ってた。だからみんな、目が死んでたんだ。だけど、ここで安くて最高に美味い飯を食うようになってからさ……『明日もあのポテトを食うために、怪我しないで稼いで帰ってこよう』って、みんな楽しそうに話してんだよ」
ミレイもポテトをモグモグさせながら、深く何度も頷いている。
「そうそう! 私も、明日もこの親子丼が食べられると思えば、怖い魔獣相手でも魔法を頑張れる気がするもん!」
「……みんな」
胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じた。
前世の知識を使って、ただ店を建て直して、成り上がろうとしていただけだった。でも、私の作った料理が、この世界の泥臭い泥炭地のような底辺で生きる冒険者たちの、ささやかな「生きる活力」になっている。
料理人として、これ以上の幸せがあるだろうか。
「……よしっ! みんな、いっぱい食べて明日も元気に稼いできてね! お兄ちゃん、ポテト用の芋、もっとたくさん揚げちゃうよ!」
「おお! 俺も負けじと、米を山ほど炊いてやるぜ!」
戻ってきたルークが力強く拳を突き上げる。
ボロ酒場の夜は、まだまだ終わらない。安くて美味い飯と、最高の仲間たちの笑い声に包まれて、私たちは一歩ずつ、確実にこの世界に根を張っていくのだった。
「うーん……やっぱり、もう一押し欲しいよね」
深夜、営業が終わった静かな厨房で、私は腕を組んで唸っていた。
ポテトフライと親子丼のおかげで店は毎日大繁盛。だけど、料理人としての私の血が「そろそろ新しい刺激が欲しい」と騒いでいたのだ。
「レニ、どうしたんだ? そんな怖い顔して」
残ったエールを飲みながら、ルーク兄ちゃんが不思議そうに覗き込んでくる。
「お兄ちゃん、最近みんな、エールを飲む量がさらに増えてるじゃない? だから、ポテトよりもさらにガツンと酒が進んで、親子丼よりも手軽に肉を貪り食えるような、そんな悪魔の新メニューを作りたいの。……あと、ちょっと経営的な話もしたくて」
「けいえい……?」
ルークが小首を傾げる。私は懐から、ここ数日の売り上げと仕入れ値を書いたメモを取り出した。
「今、ポテトを大銅貨3枚、親子丼を大銅貨5枚で出してるじゃない?これでも他店より圧倒的に安いし、みんな喜んでくれてる。だけど、油代やコメノ実の仕入れを考えると、私たちの労働力に対して利益が少なすぎるの。親父の薬代を払い続けて、さらにこのボロい建物を修理していくためには、ちゃんとお金を残さないとダメなんだよ」
ルークはメモを覗き込み、ふむ、と顎をさすった。
「確かに……俺の筋肉がすり減るスピードに対して、残る金がちょっと少ない気はしてたぜ。でも、下級の奴らからあんまりふんだくるわけにもいかねえしな……」
「だからこそ、次のメニューよ! 手間と仕入れ値に見合った、だけど食べた誰もが『この美味さなら、喜んでこの金を払う!』って納得する、最高のキラーコンテンツを投入するの!」
使うのは、すっかりうちの仕入れの定番になったコカトリスの肉。
普通に焼くとパサつくこの肉を、今回は大きめのひと口大にぶつ切りにする。そこに、すり潰した野草(ニンニクに似た風味のもの)と、簡易醤油、特製のハーブ塩、そして微量の酒を揉み込んでいく。
じっくり寝かせて味を染み込ませた肉に、アースポテトから取った白い粉(片栗粉)を薄く、均一にまぶしていく。
「お兄ちゃん、鍋の脂をチンチンに熱して!」
「おうよ!」
ルークが火力を上げ、パチパチと音が鳴るほど熱くなった獣脂の海へ、私は粉をまとった肉塊を次々と投入した。
バチバチバチバチッ!!!
厨房中に、これまで以上の激しい油の爆音が響き渡る。それと同時に、ニンニクの刺激的な香りと、醤油が焦げる香ばしい匂いが一気に立ち上った。
一度引き上げて余熱で中まで火を通した後、さらに高温の油で数秒。表面の衣を完全に「クリスピー」に仕上げる。
カラリ、と軽い音を立てて皿に盛られたのは、ゴツゴツとした黄金色の大きな肉の塊。
前世の日本人が愛してやまない、『特製スパイスのジューシー唐揚げ』の完成だ。
「はい、お兄ちゃん。熱いうちにガブッといっちゃって!」
「待ってました!」
ルークは大ぶりの塊を指でつまみ、口へ放り込んだ。
バリクッ!!!
「――ッ!?!?!? うっ、美味えええええええっ!!! なんだこれ、皮はバリッと鳴るほど硬いのに、中はこれ、本当にあのコカトリスか!? 噛んだ瞬間、肉汁が鉄砲みたいに飛び出してきやがった
「ふふん、大成功!」
「おいレニ、エールだ! 早くエールをくれ!! この肉の油とニンニクの味を、冷てぇ酒で一気に流し込みてぇ!!」
◇
そして翌日の夜。
「みんな、お疲れ様! 今日はとっておきの新メニューがあるよ!」
私がフロアに向かって声を張り上げると、ガッツやミレイたち常連組が一斉にガタッと身を乗り出した。
「特製スパイスの『鳥の唐揚げ』だよ! 大きな肉の塊が4つ入って、一皿大銅貨15枚! うちのメニューの中じゃちょっと贅沢だけど、絶対に損はさせないよ!!」
「大銅貨15枚か……! 安かねえが、レニちゃんの新メニューならハズレはねえはずだ。おい、その『からあげ』っての、俺にくれ!」
ガッツが一番に財布を開いた。
運ばれてきた黄金の塊を、ガッツが豪快にガブり。
バリクッ!!!
「――なっ……!?」
店内の全員が、その小気味いい「音」に耳を奪われた。
「美味いいいいいいいっ!!! なんだこの歯ごたえ! そしてこの溢れる肉の汁はなんだ!? 酒だ、酒を持ってこい! 大銅貨15枚? 冗談言っちゃいけねえ、このクオリティなら大銅貨20枚でも安すぎるくらいだぞ!!」
「本当だ、バリバリしてて面白い! それにこの絶妙な塩気と、ちょっとピリッとするスパイスが癖になるわ!」
ミレイも小さな口を大きく開けて唐揚げに噛み付いている。
他の冒険者たちも、ガッツたちのリアクションを見て「俺も!」「俺も食う!」と、次々に大銅貨15枚をカウンターに叩きつけ始めた。
価格を上げたにもかかわらず、注文の嵐は止まらない。それどころか、価値のあるものにはしっかりお金を払うという、健全でさらに熱気のある空気が店内に満ちていく。
「おい、レニちゃん! 芋も親子丼もいいが、この肉は反則だ! 今日は朝まで飲むぞ!!」
「はいはい、毎度あり! お兄ちゃん、お肉の追加どんどん揚げて!!」
「おうよ! 稼ぎはバッチリ、やる気もマックスだ! どんどん揚げるぜええ!!」
売上箱の中には、これまでとは重みの違う、ずっしりとした大銅貨の山ができていく。
安さだけではない、本物の「美味さ」で客を納得させたボロ酒場は、経営的にも大きな一歩を踏み出し、真の『美食王』への階段を駆け上がり始めるのだった。
数日後の朝。
「えー、皆さんに大事なお知らせがあります!」
ある日の開店直後、私はフロアの常連たちに向かって、ポンと手を叩いて注目を集めた。
私の後ろには、少し緊張した面持ちのルークお兄ちゃんが立っている。
「今日から、メニューの価格を改定します! 新しいお値段は、こちら!」
私が壁に貼り出した新しい木札には、こう書かれていた。
アースポテトのフレンチフライ:大銅貨 7枚(旧:3枚)
コカトリスと卵の親子丼:大銅貨 15枚(旧:5枚)
特製スパイスのジューシー唐揚げ:大銅貨 18枚(旧:15枚)
ガタッ、と店内の空気が一瞬だけ揺れた。
特にポテトと親子丼は倍以上の値上げだ。いくら今までの値段が安すぎたとはいえ、財布の軽い下級冒険者たちにとっては死活問題である。
「お、おいおい、レニちゃん……。ついに値上げかよ。親子丼大銅貨15枚は、俺たちにはちょっとキツいぜ……?」
ガッツが困ったように頭をかき、周りの冒険者たちも不安そうな顔を見せる。
しかし、私は不敵にニヤリと笑った。
「もちろん、ただ値上げするわけじゃないよ! お値段に見合うように、今日から全メニューをさらにパワーアップさせました!」
「パワーアップ……?」
ミレイがおそるおそる呟く。
「まずポテトフライ! 値上げ分、お皿に盛る量を1.5倍に増量しました! さらに、今までは塩味だけだったけど、今日からはお兄ちゃんが森で採ってきた香草をまぶした『特製ハーブソルト味』も選べます!」
「な、なんだって!?」
「次に親子丼! 今まではただの出汁だったけど、今日からは仕上げに『乾燥キノコの粉末』を追いがけして、旨味と香りを限界まで引き上げました! お肉の量も増やしてあります!」
「旨味の追いがけ……っ!?」
「そして唐揚げ! 料金を少しいただいた分、お肉のサイズをさらに大きくして、付け合わせにさっぱり味の『特製ハーブマヨネーズ風ソース』を添えてあります!」
私が一気にまくしたてると、厨房からルークが、ハーブソルトがかかった山盛りのポテトフライと、さらに香りが強くなった親子丼をトレイに乗せて運んできた。
その瞬間、店内に広がったのは、今までを遥かに凌駕する「暴力的なまでに美味そうな匂い」だった。
「クソッ……匂いだけで、今までのやつより美味いのが分かるじゃねえか……!」
ガッツが我慢できずに大銅貨15枚をカウンターに叩きつけた。
「レニちゃん、その新生・親子丼をくれ! 試してやる!」
数分後、運ばれてきた親子丼をかき込んだガッツは、一口目で頭を抱えた。
「う、美味すぎる……っ!! なんだこれ、前のやつでも神がかってたのに、出汁の深みが完全に別物だ! 肉もゴロゴロ入ってて、大銅貨15枚でもまだ安い、安すぎるぞコンチクショウ!!」
「私もポテトのハーブソルト味ちょうだい! ……んんんっ! 美味しい! ハーブの爽やかな香りが油のコクと合わさって、いくらでも食べられちゃう!」
ミレイも大銅貨7枚を支払い、山盛りのポテトを幸せそうに頬張っている。
「おい、俺もポテトと唐揚げくれ!」
「値上げどころか、むしろお得になってんじゃねえか!」
不安げだった冒険者たちは、進化した料理を口にした瞬間、全員が納得の笑顔に変わった。むしろ「これだけのものを出して、店が潰れたら困るから、ちゃんと適正な金を払わせてくれ!」と、応援してくれる声まで上がり始めた。
閉店後。
売上箱を開けると、そこには今までの比ではない大量の大銅貨、そして時折、銀貨の姿まで混ざっていた。
「……なぁ、レニ。これ、マジで凄い額だぞ」
ルークが革袋の重さに目を丸くしている。
「うん! これで親父の薬代はもちろん、ボロかった床や天井の修理もできるし、もっと珍しい食材も仕入れられるよ!」
ただ安さで売るのではなく、価値を高めて適正な利益をもらう。
経営者として、そして料理人としてまた一つ大きく成長したレニ。このしっかりとした経済力が、今後の彼女の『成り上がり』をさらに加速させることになるのだった。
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