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ネトゲの親友に性癖をぶちまけてたら、オフ会に来たのがクラスの美少女︎︎だった  作者: こうと


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第94話 特等席で

 カフェ『サンライズ』。


 落ち着いた木目調のインテリアと、控えめに流れるジャズの調べ。夏休みも終盤に差し掛かった平日の午後は、冷房を求めて集まった人々でそれなりに賑わっていた。

 俺と凛は、店の最奥にある、周囲の視線から適度に遮られたボックス席に座っていた。


「お待たせいたしました。『超弩級・スカイハイ・タワーパフェ』でございます」


 店員のその言葉と共にテーブルに置かれたのは、もはや「食べ物」というより「建築物」に近い何かだった。

 高さ五十センチはあろうかという巨大なグラス。地層のように積み重なったコーンフレーク、ブラウニー、バニラアイス、数種類のフルーツ、そして山のようなホイップクリーム。

頂点には真っ赤なイチゴと、堂々とした風格のプリンが鎮座している。


「…………。おい、ハル。これ、本当に正気か?」


 俺は思わず、持っていたお冷のグラスを落としそうになった。

 画面越しに数々の巨大ボスを見てきた俺でも、目の前の「物理的な威圧感」には戦慄を禁じ得ない。これを完食するには、一体どれほどの攻撃力が必要だというのか。


「にひひ! すごい、本物だぁ……! 一真、見て見て! このクリームの密度、絶対においしいやつだよ!」


 対面に座る凛は、俺の不安なんてどこ吹く風だった。

 彼女は身を乗り出し、宝石を見つけた子供のように目をキラキラと輝かせている。学校での、誰に対しても完璧に振る舞う「天使の東雲凛」は、今この瞬間、完全にログアウトしていた。


「よし、カズ! 攻略開始だよ。まずは私が頂上のプリンから攻めるから、一真は横のアイスが溶け出す前に火力を集中させて!」


「了解。……って、お前本当にやる気満々だな」


 俺は苦笑いしながら、長いパフェスプーンを手に取った。

 公共の場だ。あーん、なんてイチャつきをするつもりはない。俺たちは各々の武器スプーンを手に、黙々と、けれど確実に対面からこの巨塔を削り始めた。


 そして、凛が一口、山盛りのホイップクリームとプリンを一緒に頬張った、その瞬間だった。


「んんん~~っ!!」


 凛が両手で自分の頬を包み込み、ふにゃあと顔を蕩けさせた。

 目を細め、口角を緩ませ、喉の奥で「ふふ、おいしぃ……」と小さく震えるような声を漏らす。

 

 それは、三年間、電子の海で俺を『ヘボ騎士』と罵っていたハルの顔でも。

 教室で優雅に微笑んでいた東雲さんの顔でもなかった。

 

 ただ、大好きな甘いものを口にして、心からの幸せに包まれている……一人の、無防備で純粋な女の子としての笑顔だった。


(…………尊い)


 俺は、彼女に気づかれないように視線を逸らした。

 心臓が、パフェの冷たさとは対照的な、熱い拍動を刻んでいる。

 あまりにも無邪気で、あまりにも愛おしい。

 その横顔を、この特等席で独占しているという事実に、俺の胸の奥は甘い痺れで満たされていった。


「一真! これ、中に隠れてるブラウニーが絶品だよ。ほら、そっちからも掘り進めてみて!」


「……。わかった」


 凛の手は止まらない。

 俺が少し手を止めている間も、彼女は恐ろしいスピードでクリームとアイスを攻略していく。

 三年前のボイスチャット。彼女はいつも「晩飯は肉だな!」とか「カップ麺最高!」なんて、男同士のような食生活を語っていた。だから俺は、彼女がこれほどの甘党だなんて、今日この瞬間まで知らなかった。


「お前さ、本当はかなりの甘党だろ。ネトゲじゃ一回もそんなこと言わなかったのに」


「にひひ、バレちゃった? そうだよ。私、スイーツは別腹なの。合宿中もね、実は一真とこれを食べるのをモチベーションにして、あの地獄のダッシュを耐え抜いたんだから!」


 凛は満足そうに口元のクリームを拭い、再びスプーンを突き立てた。


「あの頃は『ハル(男)』を演じてたからね。可愛いもの好きなんて言えなかったけど……。でも今は、隠さなくていいでしょ? 一真の前だけは」


「…………。ああ。そうだな」


 その言葉が、俺の胸にストンと落ちた。

 

 三年間。俺たちは、音と文字だけで繋がってきた。

 けれど、恋人になったあの日から、俺は毎日、彼女の新しい「一面」を知っていく。

 

 猫が好きで、お化けが怖くて。

 部活中はおそろしくストイックで。

 そして、巨大なパフェを前にすると、こんなにも幸せそうに笑う。

 

 それは、どんなレジェンド装備のドロップよりも価値があって。

 どんな広大な新マップの開拓よりも、俺の心をワクワクさせてくれる。


(……。これからも、こういうお前の知らないこと。もっと、いっぱい知っていけるのかな)


 ふと、そんなことを考えると、なぜだか急に目頭の奥が少しだけ熱くなった。

 学校では他人のふりをして、夜はゲームで相棒に戻る。

 そんな歪な関係の果てに辿り着いたこの場所は、俺にとって、どんな物語のエンディングよりも眩しい場所だった。


「……。凛」


「ん? なに、一真。もうお腹いっぱい?」


「いや。……。お前、生クリーム、鼻の頭についてるぞ」


「――――っ!? やだ、嘘! どこ!?」


 凛が慌ててハンカチを取り出し、自分の顔を隠すようにして拭う。

 その慌てっぷりも、真っ赤になった耳たぶも。

 すべてが俺の「お気に入り」として、脳内のバックアップに保存されていく。


「にひひ。……。笑わないでよ。一真がじっと見てるから、緊張しちゃったんだもん」


「……見てねーよ」


「嘘だ。……。一真の瞳、すっごく優しかったもん。……ありがと。一緒に来てくれて」


 俺たちは最後の一口まで、その巨大なパフェを完食した。

 お腹はいっぱい。けれど、胸の奥にはまだ、もっともっと彼女と一緒にいたいという、底なしの欲求が渦巻いていた。


「ぷふぁー! 完食! 勝利の味だね、相棒カズ!」


 凛はいつもの勝ち気な顔で俺を見つめ、それから誰にも見えないように、テーブルの下で俺のシャツの裾をギュッと握り締めた。


「よし! エネルギー補給は完璧! 次は……あそこのゲームセンターに行こっか。他人のふりなんて、今日はなし! リアルでの二人のコンビネーション、全力で叩き込んでやろうじゃない!」


「……。……ああ。受けて立つわ、魔導師サマ」


 俺たちは立ち上がり、繋いだ手を一度も解くことなく、賑やかなゲームセンターのフロアへと向かった。

 

 夏休みは、あとわずか。

 けれど、俺たちの「本編」は。

 この甘い余韻を引き連れて、これからさらに熱く、深く、走り出していく。


「一真! 次は私が前衛やるからね!」


「バカ、お前の防御力じゃ一撃死だろ! 下がってろ!」


 いつもの、けれど最高に幸せな喧嘩をしながら。

 俺たちは、太陽の照りつける真夏の街へと、再び飛び出していった。

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