表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネトゲの親友に性癖をぶちまけてたら、オフ会に来たのがクラスの美少女︎︎だった  作者: こうと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/95

第95話 積み重ねコンビネーション

俺たちは騒がしい電子音と色とりどりのネオンが瞬くゲームセンターへと足を踏み入れた。


 さっき食べた巨大パフェの糖分が脳に行き渡っているのか、隣を歩く凛の足取りはいつになく軽い。


「にひひ! 来たよ、カズ! 今日のメインイベント会場!」


 凛は俺のシャツの袖をぐいっと引っ張り、迷いなくフロアの奥へと突き進んでいく。

 辿り着いたのは、以前一ノ瀬さんと三人で来た時にプレイした、あの『協力型アクション・ファンタジー』の筐体前だった。


「これ、ずっとやりたかったんだよね。前回は咲希がいたから、いろいろ手加減しなきゃいけなかったし」


「……。手加減って。お前、あの時も結構ノリノリで奥義ぶっ放してただろ」


「あれでも抑えてたの! ほら、さっさと座って。今日は最初からフルスロットルで行くんだから!」


 凛に促されるまま、俺たちは隣り合わせのシートに腰を下ろした。

 狭いベンチシート。肩と肩が密着し、彼女の体温がダイレクトに伝わってくる。以前ならこの距離感だけで心臓がパンクしそうになっていたが、今はその熱が、これから始まる「共闘」への最高のバフに感じられた。


 チャリン、と硬貨を投入する音が二つ重なる。

 画面には、重装騎士の俺と、大魔導師の彼女。


「準備はいい、カズ?」


「ああ。……。暴れ回ってこい、ハル」


 俺がいつもの相棒としての呼び名を口にした瞬間、ゲームがスタートした。


 ――。……。

 

 そこからは、もはや「ゲーム」という枠組みを超えた、一つの『演武』だった。

 画面を埋め尽くす敵の群れに対し、俺の騎士が一歩も引かずに最前線を維持する。

 敵が攻撃のモーションに入ったコンマ数秒後、俺が盾を構えるよりも早く、凛の放つ氷結魔法が敵の足を完璧に止める。


「そこっ!!」


 凛の鋭い声。

 俺は彼女の方を見ることさえしない。彼女がどのタイミングで魔法を撃ち、どの位置に安全地帯セーフエリアを作るのか、三年間隣で戦ってきた俺には「視覚」ではなく「感覚」で伝わってくる。


 俺が敵のヘイトを一点に集め、空中に打ち上げる。

 その落下地点には、すでに凛が展開した最大火力の火炎陣が待ち構えている。

 

 一切の言葉による打ち合わせはない。

 ボイスチャットも、キーボードによるチャットも必要ない。

 ただ、コントローラーを叩く指先の打音だけが、二人の鼓動と同じリズムを刻んで響き渡っていた。


「……。……。すごい」


 いつの間にか、俺たちの背後には人だかりができていた。

 けれど、今の俺たちにはそれすらもBGMに過ぎなかった。

 視界にあるのは、激しく明滅するエフェクトの向こう側で、俺の背中を完全に預けてくれている、たった一人の魔導師。


「カズ、ラスト! 奥義合わせるよ!!」


「了解!! ――シールド・バッシュ!!」


 俺がボスの体勢を大きく崩した瞬間、凛が立ち上がらんばかりの勢いでボタンを連打した。

 画面いっぱいに広がる白銀の閃光。

 

 ――。

 ――――ズドォォォォォォォォン!!!

 

 耳を劈くような撃破音と共に、『ALL CLEAR! NEW RECORD!』の文字が眩しく躍った。


「「――しゃあああ!!」」


 俺たちは同時に叫び、顔を見合わせた。

 そして。

 当たり前のように、ごく自然に。

 

 パチンッ!!

 

 高く上げた掌同士を、力一杯合わせる。

 前回は指が絡まったことに慌てていた。けれど今は、その掌から伝わってくる彼女の熱を、もっと、もっと感じていたいとすら思っていた。


「にひひ! 勝ったぁぁ! 見た、カズ!? 今の最終フェーズ、私のコンボ完璧だったでしょ!?」


 凛は興奮で頬を真っ赤に染め、俺の腕にしがみついてきた。

 学校での「東雲凛」しか知らない奴らが見たら、卒倒して救急車が十台は呼ばれるであろう、無邪気すぎる「ハル」の笑顔。


「ああ。……。お前が最強なことくらい、三年前から知ってるよ。……。最高だったわ、ハル」


 俺が彼女の頭を乱暴に、けれど愛おしさを込めて撫でると、凛は「あ……」と声を漏らし、少しだけ目を潤ませて俺を見つめてきた。


「…………。バカ。……。……。そういうこと、さらっと言うんだもん」


 凛は俺の肩に、こてんと自分の頭を預けた。

 周囲のギャラリーたちが「おいおい、あの美男美女カップル、ゲームも上手いし熱々かよ……」と苦笑いしながら散っていく。


……つい興奮してやりすぎてしまった。


 三年前。

 ただのデータとして、音として、文字として繋がっていた俺たち。

 

 今。

 こうして、汗ばんだ掌の温度を分かち合い、アドレナリンで高鳴る心臓の音を隣で感じている。

 

 「親友」を卒業したことで、この「相棒」としての喜びは、これまでとは全く違う、深くて濃密な色に染まっていた。

 

(……。ああ。……。知っていく喜び、か)


 俺は、先程の彼女の指先で確かめた柔らかな髪の感触を思い出し、そしてふと思った。

 

 恋人になったからといって、三年間積み上げてきたものが変わるわけじゃない。

 むしろ、その積み重ねがあったからこそ、今、俺の隣で幸せそうに目を閉じている彼女の「価値」が、誰よりも深く理解できるのだ。

 

 「ハル」としての彼女も。

 「凛」としての彼女も。

 そのすべてを、一秒も逃さずに見ていたい。

 

「……凛。外、行こ。……そろそろ陽も落ちるぞ」


「…………うん。……ねえ、カズ」


 凛は、俺のシャツの裾をギュッと握り締めた。


「……帰り道。……また、あの堤防、行きたいな。……夏休みが始まる前に、一真が私の隣を奪ってくれた……あの場所」


「………ああ。……行こうぜ」


「うん!もちろんアイスも持ってね!」


 俺たちは立ち上がり、繋いだ手を一度も解くことなく、夕暮れの街へと踏み出した。

 

 真夏の午後の熱気は、少しずつ夜の静寂へと道を譲り始めていた。

 けれど、俺たちの手元にある「約束」は。

 どんな季節が過ぎ去っても、決して冷めることのない熱を持って、脈打ち続けていた。


「にひひ! カズ、次はバッティングセンターも行きたいな!」


「……。お前、体力無限かよ。……まあ、いいけどさ」


 俺は苦笑いしながら、彼女の歩幅に合わせてゆっくりと歩き出した。

 

 他人のふりは、本日休業。


 俺たちは、自分たちの「本当の姿」を、誰に憚ることなく謳歌していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ