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後宮のお困り相談人- 後宮・事件未満録 -  作者: 水海雫


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赤い薔薇の刺繍 3

「そこは私だよりですか」


「はい、信頼しています」


「……できることをやるだけですよ?」


「ええ、子安様なら出来ます」


何とも嫌な信頼ですね…


内心で呟きながら足を高麗妃の宮に向ける。


「では、行きましょうか」


「はい!」


____________________


「これは…すごいですね?」


目の前にある高麗妃の宮は目が痛くなるほどの赤い宮。そしてところどころには金色が混じっている。


「本当に下級妃の方なのですか?」


「ええ、ただ彼女のご実家は裕福でしてね。それ故に献金も多くいただいている。その関係上適当には扱えないのですよ」


「では、帝からも寵愛を?」


子安は静かに首を横に振る。


「いえ、現帝は公正を重んじていますのでそれ故に寵愛をするようなことはしていません」


「へー、帝のことをよく知ってますね?」


杏華は子安を横目で視線に入れ込む。


その顔は何とも言えない複雑そうな表情だった。


「まあ……色々あるのですよ……」


杏華は何も言わず、ただ黙っていた。


しかし、瞳孔は大きく開いていた。


それでも、杏華は何も言わない。


「そんなことより、中に入りましょう」


「そうですね」


子安、杏華どちらの隠し事も絡まり解けぬように繋がっている。


逃れられぬ糸で。


____________________


「こんにちは、高麗妃」


「あなたは……子安様ですね?」


彼女は椅子から立ち上がろうとするも子安は手で制して止める。


「今回はなぜここへ?」


「それは、この手拭いの件で来ました」


子安は手拭いを高麗妃の前で広げて見せる。


「その手拭いが何か?」


「あなたですよね?啓安殿の服にこの手拭いを入れたのは」


「私が?あり得ません」


即答。


「なぜですか?」


「私は下級妃。帝に寵愛されるべくここに来ました」


「それが理由になると?」


「他に何が?」


どうも高麗妃は一切認める気はないようだった。腕を膝の上に置き両手を重ねている様子は余裕に溢れていた。


「侍女があなたがこの手拭いを使っているのを見たと言っているのですが?」


「あなたは侍女の言うことのほうを信じるのですか?下級妃の私ではなく?」


そこで初めて高麗妃は強く言葉に感情が乗っていた。それは下級妃にしては圧が強く威厳があった。


空気は重く圧迫されて肩に降りかかる。


これ以上は状況証拠しかない……無理ですね


いくら下級妃と言えど妃。


何も確実な証拠がない状況では、これ以上の追及はこちらが不利。


「……私はやっておりません」


「そうですか……」


杏華は少し外、具体的には訓練場のほうに視線を向け少し黙っていた。


「分かりました。今日はありがとうございました。ほら、子安様帰りますよ」


「は?まだ、彼女は認めていませんよ?」


「大丈夫です。行きましょう」


そうして杏華に腕を引っ張られて宮を出る。


外に出ると杏華はすぐに物陰に隠れてた。


「何をしているのですか?」


「尾行ですよ。ほら、子安様も早く隠れてください」


子安は何もわからず杏華に言われるまま物陰に隠れる。


少しして高麗妃が外に出てくる。そして足早にどこかに向かっていく。


一体どういうことなのでしょうか。


疑問に思いながらも子安は杏華と後をつける。


そうして、高麗妃が入っていく場所は訓練場。その脇で立っていた。


「誰が待っているのか?」


「子安様、乙女心というやつですよ」


「乙女心?」


高麗妃は何度も訓練場の方へ視線を向ける。


落ち着かない様子で指を握りしめている。


やがて一人の武官が訓練場から現れた。


高麗妃の顔が明るくなる。


「……啓安殿?」


「とにかく最後まで聞いていれば分かります」


子安は息を潜め耳を澄ませた。


「君だったのか…」


「はい……すみません…」


「だが、なぜ今頃になってしかもこんなふうに補修までして返してくれたのですか?」


「……初めはすぐ返すつもりでした……でも、その手拭いを持っているとあなたへの思いが募っていきました。そして気づけば返すだけでは満足できそうにありませんでした」


高麗妃はうつむきながらぽつりぽつりと語る。


「結果、私の心に気づいてほしくて薔薇の刺繍をそして自分の髪を思いを縫い込むように縫っていました……」


「あなたの心は知っていました……」


「え?」


高麗妃が顔を上げる。


「君がよく陰から見てたのは知っていました。姿は見えずともその赤い髪は見えていましたから」


「で、ではなぜ子安様に相談を?」


「確かめたかったのです。あなたの愛を」


「!?」


その言葉で高麗妃は口元に手を持っていき押さえる。


声にならない嗚咽が聞こえる。


「行きますよ」


「え?今いいとこですよ!?」


子安は杏華の首根っこを持ちその場を去っていく。


「なんで、最後まで聞かないのですか!?」


「……聞いても、知っても、お互いにとって碌なことにならない。そう言うことですよ」


「結果を聞かなければ知ってないのと同義だと?」


責めるような杏華の視線が子安に注がれる。


だが、子安はそれをものともせずに答える。


「そうは言ってません。ですが、世の中には知らなければ幸せなこともあります」


「……大人のいいわけですね」


杏華は拗ねたように頬を膨らませて子安に言う。


「かもしれませんね……」


その言葉は子安も昔は嫌いだった。だが時は人を変える。嫌いな言葉も自然と自分のものとなっていくものだ。


「子安様は大人なのですね……私は…なれそうにありません」


「いえ、私も子供ですよ……未練は断ち切れていませんから」


「未練ですか?」


「そう、未練です……子供心に感じた幼い未練。それにいつまでも足を引っ張られているのです。子供でしょ?」


子安はおどけたように告げる。しかし、杏華は分かってしまう。きっとそれが彼を一番苦しめているものだと。


なぜなら、彼女も未練を残している。


強い、強い。未練を。






読んでいただき、ありがとうございます。

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