知らない方が幸せなこと 5
弱りながらもこちらを見る目はまるで燃えるような瞳だった。熱は冷めることなく私たちを見つめている。
「帝、今回の件は明確な殺人未遂ですよ?どうするおつもりですか?」
「そうですね。侍女で毒の効き方を試した上で帝へ渡していました。偶然ではありません」
「……問題ない」
帝はそう言って薬をお湯に溶かして飲み込む。
「帝!?何をしてるのですか!?」
「いいのだよ。子安」
「え?」
帝は皮肉そうに笑い自分の手を見つめて、握ったり開いたりしている。
「これは罰だからな」
「罰ですか?」
「ああ、私は彼女ではなくなくなった子供のことばかり考えていた。それがいけなかったのだ……」
帝はまだあのことを……
「紫苑様への同情ですか?」
杏華はまるで刺すように告げる。
「……なぜそう思う」
帝の目は鋭く、刃物を喉元にかざしているように感じるほどの覇気だった。しかし杏華はそれをものともせず告げる。
「いえ、これは私の予想です」
「どういうことですか?」
杏華は息を浅く吐き語りだす。
「半年前の流産それでお二人は大変つらい思いをしました。しかし、あなたは紫苑様の痛みを理解できていなかった。それは彼女の心に大きな傷を負わせ今回の間に繋がったのではありませんか?」
いつも通りにっこりと意地の悪い笑みを浮かべる杏華。
いたずら好きな子供ですか…
呆れながらも語られた内容は事実が混ざっており馬鹿にはできなかった。
半年前、あの流産で紫苑様はたいそう心に傷を負った。しかし、彼女にとって本当に怖かったのは子供の死ではなく、帝からの寵愛がなくなってしまうのではないかということだった。
それを帝は理解できていなかった。それからというもの彼女は帝に執着するようになってしまった。結果今回のことが起こった。
「罰とは紫苑様の気持ちに気づけなかった自分への罰ということですか……」
「……意味のない罰だがな……」
「意味のない罰?死にかけたのにですか?」
「ふ、この毒は弱性で死に至るものではないのだ」
なるほど……だから弱性というわけか。
「杏華はなぜわかったのですか?」
「ふふ、女の勘ですよ」
「不確実が嫌いなあなたにしては珍しいですね?」
「はい、ですが……今回のことは確実にしてもだれ一人幸せになりませんから」
知らないほうが幸せなこともあるというわけですね……
しかし、となると今回の毒で死なないことは紫苑様は…
「知らぬよ」
私の思考を読むように帝は答える。
「それでいいのですか?」
「……やはり、知らぬほうがいいこともあるということだな」
「そこまでして彼女は帝に必要とされたいのですね……」
「……彼女は寂しがり屋だからな……」
帝の声は少し嬉しそうにも聞こえた。
「満更でもないのですね?」
「ああ……たまにはいいものだな。病気というものも」
「そうですか……ですが、事の顛末はどうする気なのですか?」
「私から直接彼女に告げるつもりだ。事件にはしない」
「……いいのですか?」
「ああ…前帝…父ならそうはしなかっただろうがな」
その言葉に杏華の雰囲気が変わり異様なほどの強い意志を感じた。それはまさに怨念の塊のようだった。
「ええ、そうでしょうね。帝の父上ならそうしたでしょう」
「ああ……そうだな」
……彼女の目的はいまだに分からないが、すべては前帝。
私の父に繋がっている。そう言うわけみたいですね……
彼女も父の被害者というわけですか…
子安は目を閉じ手を強く握る。
そして心に刻む。
決して、忘れてはいけないことだと。
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