邪神と赤子と
全身の至る所が、変な方向に曲がっていた。
おそらく骨もかなりの数が折れている。
とてつもない痛みだった。
首元の何かはあろうことかこのタイミングで光るのをやめていた。
死が救済だと、そういうことなのだろうか。
正しい。正しくて、正しい。
痛みから逃れようと意識を落とそうとしたその時、再び声が響いた。
"待て待て待て待て!"
声の主は少し慌てているようだった。
"助けてやると言ったじゃろうが。頭をぶつけて記憶が飛んだか?"
痛みに呻きながら辛うじて瞼を開けると、声の主は続けた。
"頭のすぐ上、その辺に落ちている石が見えるか?"
視線を少し動かしてみる。
暗闇の中で、ぼんやりと何かが見えた。
それは石というにはあまりに汚れすぎていた。
松ヤニを塗りたくったあと一度も掃除していないハンドボールのような見た目に嫌悪感が募る。
"見えたな? ならばその石に触れて、願いを唱えろ。何でも叶えてやろう。"
魅力的なことを言うなぁ……と思った。
"本当になんでもいいんですか?"
"本当になんでもじゃ。"
それを聞いた瞬間、俺は必死に短い腕を伸ばし、石モドキに触れた。
"〇〇〇〇〇〇〇〇。"
途端、石の表面にこびりついていた汚れはみるみる剥がれ落ち、瞬く間に真っ赤な宝石へと変化した。
強烈な輝きを放つその宝石から、先ほどまで頭の中に直接響いていたのと同じ声が大音量で聞こえてきた。
「ふむふむふむふむ! 赤子とは思えんほどの欲深さと狂気に満ちた願いじゃな!心得た!このわし自ら叶えてやろう!」
そこまで言ってから、そいつは一息つき、究極の後出しジャンケンを発動させた。
「代わりに、わしの願いもひとつ叶えろ!よいか!」
その時の俺は、事前に聞いてないんですけど……と言えるような精神状態では無かった。
「わかった!わかった!何でもする!何でもするから早く!」
「ふはははは!ここに契約は完了した!!」
声の主がそう言い終わると、宝石は目もくらむような眩い紅の光を放ち俺の体を包み込んだ。
瞬間、体の不快な重みが消えた。
同時に、薄い膜が自分の身体全体を覆うのを知覚した。
願いが叶えられたのだと、直感した。
見た目では何も変わっていない。他人から見たら何も分からない、それほどの些細な変化。
しかし当の本人は、自身の身体に起きた変化をはっきりと実感し、感動でうち震えていた。
その変化を肯定するように、宝石から声が響く。
「赤子よ! 貴様の体から、不浄をすべて消し去ってやったわ!ふはははは!」
俺は心の中で泣いていた。
もう涙は流れなかった。全身の至る所から流れ続けていた血液はその流れを完全に停止させていた。
不可能を可能にした神様は、ふふんと鼻を鳴らして、俺が強く握りしめた真っ赤に光る宝石から声高々に名乗りを上げた。
「我が名は邪神!スウメロプテ!
かつて世界を滅ぼさんとし、今は世界の裏側で捕らわれし者!
赤子!お前、わしを助けに来い!」




