産道
そんな状態のまま時間は過ぎていった。
この地獄で唯一救いだったのは、この恐ろしく動かしにくく自由の効かない身体は、どんなに発狂状態にあろうとも、時折プツリと電源が切れたように意識を失うことだった。意識が途切れると夢を見た。初めのうちは小学生の頃の思い出や、妹や弟と遊ぶ夢。ただそれも次第にどす黒く変わっていった。何百回目かの夢を見る頃には、もう夢の中も地獄と変わらなくなってしまい、心が休まる瞬間はついに一瞬たりともなくなってしまった。
崩壊しそうな心を抱えながら、残されたわずかな理性はこの状況を少しずつ的確に捉えていった。このよく揺れる異音がする狭い地獄の中にいる自分の体は、どうやらゴキブリに襲われ地に伏したあの瞬間より、かなりの比率で縮んでしまっているらしかった。視覚はほぼ使えないが、触覚は頭がおかしくなりそうなほど繊細で、敏感だった。粘液をしっかりと感じながらも、手が、足が、頭が、体が、その全てが小さくなっていることに気づいた。頬がこけ、骨が浮き、骸骨のようだったあの身体は、それでもしっかりと18歳の男の大きさをしていた。それが今は違う。
でもそんなことに気づいて何になるというのだろうか。なんの救いになるというのだろうか。絶え間なく唱え続けた神仏への祈りはなんの価値ももたらさず、ただ不快な粘液が身体に纏わりつくのみである。
絶え間なく発狂を続け、精神が壊れかける直前。
とてつもない衝撃が地獄を揺らした。
ドゴォォォン……!
全身を叩き潰されるような巨大な振動。粘液の海が一気に荒れ狂い、俺の小さな体は激しく振り回された。グチャグチャ、ジュルルル、ゴポゴポ……今まで以上に激しい音が頭蓋骨の内側で爆発する。
次の瞬間、もっと大きな力が地獄全体を締め付けた。
キュゥゥゥ……ググググ……ギチギチ……!
壁が、粘膜のような壁が、凄まじい力で収縮していく。俺の体を、下へ、下へ、押し出そうとする。
苦しい。苦しい。苦しい。
息ができない。いや、そもそも息などしていなかったのに、圧迫される感覚が脳を焼き切る。
ズズズ……ヌチャァァ……ジュポォォ……!
体が、強引に狭い通路へとねじ込まれていく。頭が先か、足が先かもわからない。ただ、粘液まみれの全身が、熱く濡れた肉のトンネルに無理やり押し込まれ、引きずり出されようとしていることだけははっきりわかった。
そして——
突然、目の前に光が爆発した。
真っ赤で、熱く、眩しい光。
今までずっと沈んでいた赤黒い闇とは全く違う、生々しい赤。
同時に、冷たい空気が肌に触れた。生温かい粘液とはまるで違う、容赦のない冷たさ。
俺の体は、強引に外の世界へと引きずり出された。
「オギャアアアアアアアア!!」
初めて自分の声が、喉から絞り出された。弱々しく、情けなく、しかし確かにこの世に生まれたことを主張するような、甲高く壊れてしまいそうな泣き声。それは、赤子の声だった。そして同時にそれは独り言で聞き慣れた、よく知る自分自身のそれとは大きく異なっていた。混乱に混乱を重なるような状況の中、大きくて熱い手が俺の小さな体を掴んでいた。血と羊水と粘液にまみれた俺を、誰かが力強く抱き上げた。
まだ目がうまく開かない。世界はぼんやりと赤く滲んでいる。
だが、はっきりと感じていた。
ここは——
地獄の続きだ。
外に出たというのに、苦しみは終わっていない。ただ、形を変えただけの、新しい地獄。
俺は泣き続けながら、心の中で再び叫んでいた。
死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい——
誰か助けて。
生まれたばかりの赤子として、この世界に生を受けた瞬間であろうとも。




