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邪神の子  作者: 月宮 結
巨大樹の森編

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3/20

赤子と地獄

…ゴォォ……ゴォォ……ズ…コポ…ゴォンゴォン…チャプ…ゴーゴーゴロゴロ……ドクン!ドクン! ゴォォゴォォ……コポコポコポ……グチャ……グチャグチャ……ジュルジュル……

ゴポゴポ……ヌチャ……ゴチャァ…ジュルルル…グポグポ……ゴォォォァ……


 吐き気を催すような異音が脳を直接揺さぶり、俺は慌てて目を開いた。


見慣れた白い壁も白い天井も、そこにはなかった。


暗い。


いや、ただ暗いというよりは、赤みを帯びた淀んだ暗さ。例えるなら明るい部屋で目隠しをされた時のような、血管を流れる血液がほんの少しだけ紅を灯すような、そんな赤黒い闇だった。


混乱しながら身体を動かそうとするが、思うように動かせない。ますますパニックが加速する。異音の中、手足をジタバタさせながら、唐突に思い出した。


つい先程、黒光りする化け物に襲われ、あえなく地に伏した俺は、その後どうなったのだろう。


慢性的な栄養失調と致命的な脱水症状が重なった状態で、夏場に長時間シャワーを浴びていた人間に起こりうること。


 



死。



 


その文字が脳裏を掠めた瞬間、俺はようやく自分を取り囲む状況を正しく認識した。むしろ、これほどの不快感に今まで気づかなかったのは、心の防御反応だったのだろう。


 


全身が、ぬるぬるとしてべっとりした、生温かい液体に浸かっていた。


 


逃げ場のない、粘液の海。


 


俺はゴキブリに襲われた瞬間の何倍もの狂気を孕んで悲鳴をあげた。



しかしその悲鳴は、音として発せられることはなかった。口を開けた途端、粘液が流れ込んできた。薄く甘ったるく、微かに塩辛い味がした。吐き気が込み上げるが、お腹に力が入らず、吐くことすらできない。


錯乱し、混乱し、ほとんど機能を失いかけていた脳の、理性のわずかな片隅で、俺は理解していた。


ここは地獄だ。


あんな、あんな汚い血が流れていたから、あんな生まれ方をしてしまったから、天罰が下ったのだ――と。


頭のすぐ近くで、ドクン、ドクンと巨大な太鼓を直接脳に叩きつけるような音が響く。ゴーゴーという低音、気持ちの悪いゴロゴロとした音まで、すべてがくぐもって聞こえてくる。


じたばたと暴れれば、細く小さな手足がふわふわと浮遊しながら、ついに何かに触れた。柔らかくて温かく、粘膜のような弾力。指先が壁に吸い付くような感触に、意識を失いそうになる。いや、いっそのこと意識を失ってしまいたかった。


次の瞬間、地獄が揺れた。粘液が動き、肌を滑る。




死にたいと、そう思った。




一度思ったら止められなくなった。




 死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。


 絶え間なくそう思いながら、同時に、見えない誰かに助けを求めた。


神様でも仏様でも誰でもいいから、誰か、誰か助けてください。


知っているあらゆる神仏の名前を唱えた。


教科書で習ったものからファンタジー小説に出てきたものまで全て唱えた。


それなのに地獄はなんの変化も見せずにただ時折激しく揺れながら粘液の海で俺を浸すだけだった。

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