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邪神の子  作者: 月宮 結
巨大樹の森編

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19/20

ハジメマシテ、ニンゲン①

草を掻き分けながら、身体強化を掛けた脚で森の中を駆け抜ける。目前を走る銀狼はこの辺りでは素早い魔物で、適当に撃ってはまず当たらない。


右手を構えながら魔法名を呟き、広範囲の地面を凹ませてバランスを崩した銀狼に魔弾を撃ち込む。


俺は5歳になっていた。


首飾りからカウントが聞こえる。


「28。」


仕留めた銀狼のそばを走り抜けながら一瞬触れて砂に変える。


音がして上を見上げると、木の上に岩猿がいた。高速で飛んでくる鋭く尖った晶岩を間一髪でかわし、お返しに火球を投げつける。だがターザンの要領でツタを掴まれ、避けられてしまう。


ならばとツタごと焼き切り、地面に落ちた瞬間を狙って再び火球をぶつけると、岩猿は吹き飛んだ。


「29。」


あと一体。


岩猿の死骸に触れ、気配を感じて振り返れば、大きめの凶蛇がゆっくりと地を這い近づいてきていた。


即座に右腕を構え、凶蛇に魔法を乱射すると土埃が立った。大抵の魔物は人間と同じように心臓を潰すか首を落とせば死ぬが、あの手の爬虫類型の魔物は頭を落としても死なず、全身に穴を開けてバラバラにしなければならない。


そろそろいいかなと撃つのをやめ、土埃が晴れるのを待つと、ボロボロの蛇の骸が横たわっていた。


「30。よし、一旦帰還じゃ。」


スウの言葉を聞いて全速力で森を駆け抜け、巨大樹の根元でぽっかりと口を開けている洞穴に滑り込む。


そう、巨大樹だ。


気づいたのは聖域外での修行を本格的に始めた頃だから1年半くらい前にはなるが、俺は産まれてからの数年間、ずっと自分がどこに住んでいるのかも知らず、必死に修行を続けていたのだ。


初めて外から見た時は、そのとんでもない大きさに驚くと同時に、長年密かに不思議に思っていた本棚に張る根の大きさの理由に合点がいった。


スウは「最初に入ってきた時に気づかんかったんか」と呆れていたが生憎あの当時の俺に周囲を見る余裕は無かったから仕方がないと思う。


通りやすいように改築した結果、滑り台のようになっている土のトンネルを抜けて中に帰還。


ようやく一息つけた。


魔物との戦闘にもだいぶ慣れてきたが、聖域内がいちばん落ち着く場所なのは変わらない。なんせ森には魔物がうじゃうじゃいる。


少し休憩してから本棚に近寄り、本を1冊抜いて石のテーブルに置き、椅子に腰掛ける。


そのままさっき読んでいた続きから読もうとすると、スウに止められた。


「待て。さっきの戦闘の最後、30匹目、あれはいかん。何故かわかるか?」


少し考えて答える。


「乱射したせいで土埃が舞って一瞬標的を見失ったから? 死んでたからよかったけど、生きてたら奇襲されてたかも。」


「正解。蛇や蜥蜴といった類は対処が難しいが、遠くから狙撃してくるようなものは少ない。近づいて猛毒で殺そうとしてくるようなものがほとんどじゃ。昔足を噛まれて壊死しかけてから若干トラウマになっているのは分かるが、落ち着いて対処すれば容易い相手じゃ。慎重にな。」


「分かりました」と返事をしてから、しばらく魔導書を読む。


一番最初に覚えた首飾りの魔法は絵も多く字も大きく説明も簡単で、そもそもページ数が少なかったが、最近読んでいるものは全て難解かつ文量も膨大で、1つ読むだけで結構な時間がかかる。やっとこさと読み終わり、立ち上がって伸びをする。数年前は5つくらいまとめて覚えてから実践していたが、最近のは難しすぎて、覚えてすぐに使わないと仕組みを忘れそうになるのだ。


隠密魔法をかけてからさっき滑り落ちてきた穴を登って聖域の外に身体を出し、唱える。


弾丸のような速度で真っ直ぐ飛んだ石の杭は、動線上にあった木の土っ腹に風穴を開けた。


最近は地下に向けて撃つと崩落しそうなものが多くて、スウと話し合った結果、隠密魔法もそれなりに覚えたしこっちで試し撃ちするかということになったのだ。


ある程度威力を確かめてから中に戻ると、スウが唐突に言い出した。


「今日は少し他の聖域まで行ってみないか?」


「え?」


「アルもだいぶ強くなったし、それにほら、簡易聖域もあるじゃろう?」


かつてこの世界に生まれ落ちた際、母親に付けられ俺をある意味苦しめ、その後すぐに初めての魔法の実験台にされた首飾りモドキを、俺は見た。

今はスウが誕生日にくれたドラゴンの石像のすぐ隣、俺の寝床の頭上に置かれている。


「数年前に解析魔法を使用した時に判明した通り、大抵の魔物を遠ざけ、呪いの類の効果を弱め、精神をも含めた治癒機能まで備え付けた優れものじゃ。普段は、無くしても困るし、効果発動中はそもそも魔物が寄ってこず修行にならんからと外しておったが、外に出るのにこれほど適した魔道具はない。一番近い聖域までは身体強化を使えばアルの足で半日もかからん。行こう。


……そんなに嫌そうな顔をするな。」


嫌そうな顔をしていただろうか。実際嫌だからしていただろうけど。


いや、外に出ること自体は別にいいのだ。首飾りモドキの性能はあの狂気の中で十分に分からされているし、それなりに強くなったから安全に辿り着ける自信もある。問題は……


「聖域って他の人間、住んでるんでしょ?」


生まれてからのこの5年、前世も含めれば実に10年以上人とまともに会話をしていない俺は怯えていた。


スウは呆れた声で言う。


「何年後になるかはまだわからんが、いつかわしを救うためにここから旅立ち、世界の中心まで行かねばならん。その際いくつもの聖域を渡り歩くと言うのに、今からそんなんでどうするんじゃ。会話が怖いと言ったって、そもそもわしとこうして話せておろうが。」


「だってスウは神様で人じゃないし……。」


身体を変えてくれたことからくる信仰もあるのかもしれないが、スウは腐っても神様なようで何故か異様に心を開きやすく、話しやすいのだ。というか……


「会話しようって言ったって言葉通じないかもじゃん。」


「何を言うておる。言葉を理解する魔法、習ったじゃろ。まさか忘れたか?」


「忘れてるのはスウの方でしょ! 覚えた時に試そうとしたけど結局試せなかったじゃん!」


そう、数年前、マナの消費量自体は少ないこともあり割と早い段階で覚えた言葉を理解する魔法。使ってみようとスウと会話したが、そもそも使わなくても会話になるためちゃんと効果が出ているのか結局分からなかったのだ。


その後もぶつぶつと行きたくない理由を並べる俺の頭を、スウは魔石でコツンと殴った。痛い。


「今確信したわ。このまま放置して引きこもらせ続けたらいざ旅立つ時にまで行きたくないとか言い出し兼ねん。絶対に今日、近くの聖域まで行ってもらう。」


スウはそういうやいなや、外に出るための準備を始めた。本当に急ぎたいのか、素材を使わない方の服を作る魔法を詠唱し白いローブを作ると俺に着させ、首飾りモドキを宙に浮かべ綺麗なブローチに加工し俺の胸元につけた。


加工する際、一瞬、ほんの一瞬だけ躊躇うような間があった気がしたのは、俺の気のせいだったのだろうか。


まだ行きたくないと駄々をこねる俺を、首元にかかった首飾りの紐を引っ張ることで動かし引きずる。首が閉まって苦しい。ようやく俺は観念し、「行くから引っ張るのやめて」と喚いた。


外に出て身体強化をかけ、スウの言った方向に走り出しながら俺は聞いた。


「スウが封印されてから俺と契約するまでの数百年の間、こっちの世界のこと見えてなかったんでしょ? 聖域ほんとにこっちにある? 地殻変動とかでズレてない?」


「ズレていないよ。変わらずそこにある。基本的に今のわしが認識できている世界は魔石を中心とした非常に狭い範囲ではあるが、聖域だけは例外じゃ。この星のどこにいくつどのような大きさの聖域があるのかだけははっきりと分かる。安心して走れ。」


そう言われたら信じる他ない。速度を上げて森を走り抜ける。


普段俺が魔物を狩っているエリアはそんなに広くない。もしもの時にすぐに聖域に逃げ込めるようにあまり遠くには行かないようにしている。だから少し走っただけですぐに周りは知らない景色に変わった。

 

風が頰を切り、木々が後ろへ猛スピードで流れていく。

足が地面を蹴るたび、身体強化の力が全身に迸り、まるで自分が風になったような感覚がする。急に開けた岩場が現れ、ゴツゴツした灰色の岩が地面を覆っているのが見えた。その間を縫うように流れる小さな川を飛び越え、走り抜ける。川の水音が一瞬耳をかすめ、すぐに後ろへ消えていく。木々がまばらになり、遠くに青々とした山並みが見え始めた。1番近い聖域はあの山の麓にあるらしい。俺はさらに速度を上げて走った。


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