やかましい
地面に引かれた線の向こう側に身体を出さないよう気を付けながら、俺は暗闇に向かって右手を向け、火の玉を撃ち込んでいた。
座っているのは石畳ではなく土の上。今いるのは、入ってきた洞穴の反対側にある、地下に続いているらしい大きめの洞穴の中だった。急勾配になっているのは聖域の外側かららしく、今座っている場所は平坦だが、数ヶ月前に寝返りで移動してそのままの勢いで聖域の外に出かけたことがトラウマになり、消えかけてはスウに引き直してもらっている、ここから先が聖域外だと伝える線から、だいぶ距離を取った所に俺は腰掛けていた。
マナが尽きるギリギリまで撃ちきって息を吐く。そのまま、できるようになって久しいハイハイで中に戻ると、既に大量のご飯が用意されていた。
スウに感謝の言葉を伝えてから「いただきます」をして喰らう。使う魔法が段々強力になりマナの消費量も増える中で、小さなネズミでは追いつかなくなり、最近はでっぷり太った大きめのネズミやうさぎなど、スウが運んでくる魔物の死骸は日に日に大きくなっていた。
全て砂に変えてから魔導書を読む。
使える攻撃魔法も随分増えた。一つを除いてその全てが呪文の詠唱を必要としてはいるものの、スウ曰く計画していたより早く成長できているらしい。
ペラペラとページをめくっていると、突然強烈な眠気に襲われた。
まただ。
改造されて色々おかしくなっているとはいえ、実態はまだこの世に生を受けて1年と少ししか経っていない赤子だ。以前より頻度は落ちたが、今でもたまにこうして突然強烈な眠気が来て、「お前の身体は寝るのが仕事だぞ」と労働させようとしてくる。
スウに眠いことを伝えて地面に寝転がる。寝床まで行くのも面倒くさいほどの眠気ですぐに俺の意識は落ちた。
久しぶりに前世の夢を見ていた。
10歳くらいの頃、お母さんと義父、双子の妹と弟と俺の5人で、千葉県舞浜市にある某ネズミーランドに行った時の夢だった。お母さんも兆候こそあったもののこの頃はまだ割と普通で、俺も義父が実の父親ではないことは知りつつも、本当の父親が誰なのかはまだ知らず、典型的な小学生男児のように妹と弟と共に夢の国に気持ちを高揚させ、パーク内を走り回っていた。
いくつかのアトラクションに乗り、看板キャラクターの某ネズミーマウスとのグリーティングを終えた俺の目は、ある屋台の商品に釘付けになっていた。マンガ肉が並んでいたのだ。
「買って!買って!」とねだると、義父は思い返せば結構な値段がしたのに、大小あるサイズのうちわざわざ大きい方を買って、手渡してくれた。妹と弟と3人で分け合う。
なんだか酷くお腹がすいていた。バクバクと食べているのに何故か全くお腹にたまらず、それどころか食べているはずのマンガ肉も減る気配を見せない。子供にはサイズが大きすぎたのだろうか。頑張って食べるが本当に減らない。
夢中になってかぶりつく。
バクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバク…………
そこで目が覚めた。
何かが足の裏に当たってこそばゆい。
目を開けて確認する。
覗き込むと、足の陰に大きなネズミの姿が見えて、俺は絶叫して飛び起きた。
「いや違うんじゃ! 驚かせるつもりはなくて、ふと手のひら以外からでも食べれるのかなと疑問に思って、ドレインかけて空腹にさせたら本当に食べたから面白くなってつい出来心……で……?」
スウはそこまで早口で言うと、急に喋るのを止めた。
そしてゆっくりと絞り出すように口にした。
「アルが、立った!」




