好きな防御魔法発表ドラゴン
今日から防御魔法の習得に入る。
ある朝、地面に座った状態で死骸の山に手を当てて食べていると、スウにそう言われた。
"防御魔法? 攻撃魔法じゃなくて?"
「防御魔法じゃよ。」
"ふ、ふーん……"
若干テンションが下がっている俺を見て、スウは続けた。
「防御魔法こそ攻撃魔法の基礎じゃ。これが無くては全ての攻撃魔法は使えん。
例えば、手から火を出し対象に飛ばす魔法があったとしよう。この場合、魔法の使用者は一瞬とはいえ一定時間、非常に近い距離にある炎で自らの手を炙る羽目になる。マナの消費量が少ない弱い炎ならまだ良いが、業火を扱う魔法ともなると、発動までの一瞬に片腕が焼け落ちるやもしれん。
分かるか? 魔法を発動させ、それが標的に着弾するまでの一連の流れの中で、一部の例外を除いたほとんどの魔法は術者の近くに攻撃物が一瞬とはいえ存在している。術者自らがダメージを受けないために、攻撃魔法と防御魔法はセットで扱わねばならん。」
それを聞いて俺は渋々納得した。早くかっこいい攻撃魔法を使いたい気持ちはあるが、確かに自爆は勘弁だ。
説明を聞き終わる頃にちょうど死体の山は砂の山に変わっていたので、手を払ってからスウが持ってきた防御魔法の魔導書を開いた。
「……どうじゃ? 読めるか?」
しばらく無言で読んでいると、何故かスウは若干不安そうに聞いてきた。
"うん。普通に読めるよ。"
それを聞いて、魔石から安堵したように息を吐く音が聞こえてきて少し驚いた。
"防御魔法って攻撃魔法の基本なんでしょ? そんなにほっとするようなこと? 読みやすいんじゃないの?"
俺の言葉を聞いてスウは答える。
「防御魔法は攻撃魔法の基本じゃし、マナの消費も少なく読みやすい。が、たまに、とても強い攻撃魔法を簡単にスラスラ読めながらも防御魔法が一つも読めず、一度も発動できぬまま死んでいく者がおるんじゃよ。ずっとそれを危惧しておった。良かった、アルは読めるんじゃな。」
確かにそれでせっかく読めた攻撃魔法を使えないのは嫌だなと、俺は思った。
ある程度読んだら色々かけてみる。効果の種類も多い。身体にあるマナが尽きるまで発動し続けるものもあれば、時間で効果が切れるもの、解除の呪文付きで自由に解けるものと様々だ。
重ねがけできることに気づき、調子に乗って幾重にもかけたら一瞬でマナが尽きて身体が地面に倒れた。
若干呆れたようにスウが聞いてくる。
「どうじゃ? 使った感想は。」
"契約してからずっと見えない薄い膜で身体全体が覆われてるから、それと同じ感覚で不快感とかは特にないよ。"
それを聞くとスウは言う。
「今お前が覚えた防御魔法は全て、攻撃魔法を使う際の防御魔法——攻防魔法じゃ。もう少し段階を上げていけば、敵の攻撃を防御するための本格的な防御魔法が出てくるが、これは宙に盾を張ったりとマナの使用量がそれなりに大きい。何より攻防魔法が使えるのなら、早いうちに攻撃魔法を覚えさせたいし、アルも覚えたいだろう。」
それを聞いて俺はめちゃくちゃに頷いた。
「手始めに、何が良いかな。どんな魔法が使ってみたい?」
少し悩んでから答える。
"口から火を吐く魔法。"
前世で小さい頃、お母さんに良く『エルマーとりゅう』を読み聞かせてもらった影響でドラゴンが好きになった俺にとっては、これが初めての攻撃魔法としてぴったりだった。
スウはそれを聞くと、防御魔法の魔導書を戻し、代わりの魔導書を運んできた。背表紙には『竜種』と書かれている。
「図鑑のような要素も多いが、魔法もいくつか載っておる、れっきとした魔導書じゃ。えーと、これの確かこの辺りだったかな。」
スウはペラペラとページをめくり、ある場所で止めた。
「炎を吐く器官を持つ竜と違って、人間に本来そんな機能はないため、竜のブレスを模しただけじゃし攻撃魔法かと言われると若干怪しい気もするが……これまで学んできたものと違って、確かに誰かを傷つけることはできる魔法じゃ。
……一応言っておくが、読み終わってもすぐに使ったりはするなよ? 魔導書が燃えるやもしれん。使う時は入ってきた洞穴ではなく、あちらの地下に繋がる洞穴に行って外に向けて……」
スウが言い終わる前に、俺の口から炎が出ていた。決してわざとじゃない。やけにスラスラ読めるなぁと思って口を開いたら、勝手に出てしまっただけだ。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
スウは声にならない悲鳴をあげながら、炎が当たる前に魔導書を遠くに飛ばした。
俺自身も出た瞬間こそ喜んでいたが、すぐにパニックになる。攻防魔法をかけないまま炎を吐き続け、口の中が焼ける。幸いついさっきマナを空にしたばかりだったのですぐにマナが尽きて、勝手に止まった。
痛い痛いと思いながら両手で頬を抑えていると声がした。
「アル、お前まじでぶっ〇すぞ。」
ブチ切れである。
口の中は焼け、スウには説教され、俺の攻撃魔法デビューは華々しく(?)終わった。




