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邪神の子  作者: 月宮 結
巨大樹の森編

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10/20

科学と魔法

神様に「何者か」と聞かれたので、俺はとりあえず死んでからこれまでの間に自身の身に起きたことを説明した。


夏場のシャワールームでゴキブリに襲われて命を落としたこと。

気がついたら母親の胎内にいて、外に出るまでそこを地獄だと勘違いしていたこと。

産み落とされた直後に捨てられ、死ぬこともできずに泣きわめいていたこと。


神様は俺の死因がゴキブリだと知って、しばらく大笑いしていた。


そしてそのまま話し続けていると色々分かってきた。


どうやら神様が俺の存在に気づいたのは、「スウメロプテ」と俺が唱えた瞬間からだったらしい。それ以前には不愉快な喚き声は一切聞こえていなかったと言う。


ふと思いついて聞いた。


"神様って神様ですよね? こういうのって、説明しなくても頭の中を覗けば全部わかったりするんじゃないんですか?"


するとあっけらかんと神様は答えた。


「趣味が悪いから覗きはせん……と言いたいところじゃが、実際には今のわしにはしたくてもできぬのが正しいな。契約の時に言ったじゃろう。わしは神は神でも、今は邪神じゃ。邪神には神以外の成分、穢れが入っておる。神がそのままで全知全能であるのに対し、何か一つでも不純物が混ざれば、全知全能からは程遠い存在になる。自然なことよ。


それに加えて、わしは邪神になった際に器なしでは存在できなくなった結果、得てしまった肉体という枷を、数百年前に12人の非常に優秀な魔法使いによってかけられた12の魔法で今なお縛り付けられ、異界に閉じ込められておる。この魔法はただ肉体を拘束しているだけではない。わしの様々な権能をも同時に縛り付けているんじゃ。実際、わしが異界の外——今お前が寝そべっているその世界を観測できるのは、この魔石を中心とした一部周辺だけじゃ。」


そこまで言い切ってから、神様は少し申し訳なさそうに続けた。


「神と聞いて期待していたならすまないが、今のわしの力は驚くほど小さい。全知全能だった神時代と比べるのは論外として、縛られる前の邪神時代と比べても10万分の1にも満たない力しかないのじゃ。具体的に言うなら、契約の時にお前の身体を作り替えたあれが、今のわしにできる精一杯じゃ。それ以外の魔法の発動範囲は魔石を中心とした半径10メートル。まだ一度も魔法を使う者同士の戦闘を見ていないお前に言っても伝わらないかもしれんが、遠距離戦闘が基本の魔法使いにとって10メートルは致命的じゃ。攻撃に関してはノミの役にも立たぬと思え。」


その言葉を聞いて俺は必死に否定した。

俺にとって、この身体になれたことは宇宙を一つ生み出すような奇跡よりも、ずっとずっと価値があるのだ。


拙い言葉で捲し立てるように、それでも必死に気持ちを伝えようとした俺の言葉を聞いた神様は笑ってから言った。


「わしのことは置いておいて、お前のことを話そうか。話を聞いて察するに、輪廻転生したのじゃろうが、そもそも前世の記憶を持ちながら転生する例をわしは知らん。加えて魔法のない世界と言うと、相当離れたところからここまでやってきたようじゃな。


神から邪神に堕ちた際、全てを覚えていては一瞬で脳が焼き切れるからと、知識のほとんどを捨てた。だから昔は知っていたはずのお前の元いた世界の知識も、今のわしには欠片ほどもない。ただ、少なくとも覚えている範囲でじゃが、この星の近くに魔法のない星はただの一つもない。隣の星ならいざ知れず、これほど遠くから記憶を持ったまま飛来するとは……ますます謎じゃが、察するに魔法以外の共通点が多いんじゃろうな。」


理解できない俺に、神様はさらに説明してくれた。


「時間という概念、空間という概念、生と死という概念。お前にとってこれらは当たり前で普遍的なものじゃろうが、実際は違う。遠く離れた世界には、これらのどれか、もしくはその全てがないこともある。今挙げた3つはただの例に過ぎず、挙げればキリがないほどに『普遍的だ』と勘違いしている概念は多い。


このような大まかな概念だけでなく、もっと細かい部分でもお前の元いた世界とここは似通っている。例えば人間。話を聞く限り、お前たち『人』と呼ばれる存在は同じような外見的特徴を持っている。頭が一つ、胴が一つ、腕と足がそれぞれ二本ずつで生殖器がついておる。人々は二本の足で立ち、歩き、走る。これは当たり前ではない。人と呼ばれるものの形は普遍的ではないんじゃよ。他にも見える範囲でたくさんある。本、石、紐、暗闇、光、言葉……挙げればキリがないほどにな。


実際、お前は今、自らの目で認識する世界に、魔法以外の部分で違和感を感じていないじゃろう?」


言われてみれば、その通りだった。生まれたばかりで分からないことだらけなのに、普段は認識していないけどよく考えたら分かるモノの方が、圧倒的に多い。



 「お前の元いた世界とこちらの世界は、鏡合わせのようだとわしは思う。ほとんどが似通っているが、鏡のように細部は違う。その一端が、こちらの世界の魔法であり、お前の世界の科学なのじゃろう。話を聞いて驚いたよ。人は知識だけで鉄の塊を宙に浮かせられるんじゃな。」


"こっちの世界では科学は発展していないんですか?"


「何をもって科学とするかという話にもなるが、少なくともお前の元いた世界には遠く及ばないレベルで発展しておらんな。理由としてはいくつか考えられるが、大きなものは二つじゃ。


一つ目は魔法の存在じゃろうな。この世界に生まれてくる人間は、誰しもがどんなに才能がなかろうと日常魔法くらいなら使える。完全に魔法が使えない人間は、わしの膨大な記憶の中でわずか二人だけじゃ。お前たちの世界では、火を素早く起こすためだけに幾重もの技術を発展させてきたのだろうが、こちらの世界ではそんなものは利き手を対象に向けるだけで終わる。魔法による利便性が、科学の発展の足を引っ張ったんじゃろうな。


二つ目は、この世界に蔓延る魔物の存在じゃ。」


"この世界には魔物がいるんですか!?"


前世で暇な時間にファンタジー小説を読んでいた俺は、若干テンションが上がっていた。ドラゴンとか絶対にかっこいい。エルフとかは魔物に含まれるのだろうか。


神様は呆れたような声で言った。


「なにやら期待しているところ悪いが、おそらくお前の想像しているようなものではないぞ。まず大前提この世界には、お前の世界で言うところの動物はいない。正確には太古の時代にはいたが、魔法があるこの世界でその力を持たない種は全て死滅した。わしが牛と言えば、それは牛の魔物じゃし、馬と言えば馬の魔物じゃ。そして総じて魔物は、その全てにおいて人を喰らう。魔物同士で喰らい合うこともあるが、彼らの大好物はいつの時代も人間じゃ。そしてそれは人間も同じ。人間が食う肉の全ては魔物の肉じゃ。」


神様はそこで一息ついてから続けた。


「この星において、人間の居住域は狭い。実に世界の80%以上は魔物の生存域じゃ。生まれた瞬間に魔法が使える魔物と、知識を得なければ使えない人間。人間は世界中に点在する『聖域』と呼ばれるエリアに居住し、いつも魔物の脅威に怯えておる。魔法の才がない者の中には、生まれた聖域内から一歩たりとも外に出ず、生涯を終える者もいる。ちなみに、ここも聖域内じゃ。」


何となく寝転がっていたこの場所がどうやら安全地帯らしいということに少しだけ驚きつつ、俺は疑問に思ったことを聞いた。


"神様もご存知の通り、ここに入ってくる前、自分は森の中にいましたけど、夜になっても喚き続ける無防備な赤ん坊を襲ってくる魔物は1匹たりともいませんでした。あれはあそこも聖域内だったからですか?"


「いや、それは違うな。聖域の大きさは一つ一つ違うが、ここは特に小さい。入ってきた洞穴の入口ギリギリがこの聖域の端じゃ。お前が襲われなかったのは、首から下げていたあれが原因じゃよ。」


神様はそう言いながら、本体だけになって床に転がったままの首飾りモドキを宙に浮かせた。


「機能は多いが、簡易聖域のようじゃな。わしが知る限り世界に一つしかない。というかわしが知っているものと全く同じ意匠が凝らしてあるから、それかもな。」


え? この神様はそんな貴重なものを、さっきなんの躊躇いもなく引きちぎったというのだろうか。


「そう引くな。何も首飾りにしておかなければ効果が発動しないというものでもないし、本体が破損しなければ壊れることもない。」


そんなことを言いながら、さっき本体を思いっきり床に落としていたのを思い出して、俺はやっぱりまだ少し引いていた。

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