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7-5 狂獣

恒星暦567年12月27日 地方暦57年2月26日

自治都市メダリア


 自治都市は混乱に陥っていた。市民を肉の壁にしか思っていないかのような鬼畜じみた行動を取る連邦軍があちこちで破壊と巻き添えをもたらしていた。

 高等弁務官事務所公務員宿舎を出発した連邦軍はまずエネルギーステーションに立ち寄り、エネルギーと食糧を強奪した。そしてそのエネルギーステーションを破壊し、ついでに近くにあった変電所も破壊した。変電所を破壊され、真冬にエネルギーを奪われ、周囲1万人近い住民が命の危機にさらされる。

 連絡を受けおっとり刀で駆けつけた自治都市軍の装甲車小隊と簡易装甲服を着た機動歩兵中隊は5分もかからず全滅した。地元住民の被害をおそれ、各種行動を制限されている自治都市軍に対し、連邦軍は全くそれを考慮にいれずに機動し、発砲した結果だった。

 住民を避難させようとする警察軍の車両は執拗に狙われた。消防車両も同様だった。むしろ、簡単な標的として装甲動力服を着た機動歩兵が消火に当たる車両や救急車両と消防署員を軽火器で掃射した。負傷して這って逃げようとする消防官をひき殺しさえした。


「マチダケンタというやつは本当の人でなしだな。」

 4日の間に10万人近い人々のエネルギーと電気を奪い取り、1000人近い警察官と消防官を血祭りにあげた連邦軍の一行を、ロンメル将軍は指揮装甲車のモニター越しに憎々しげに睨みつけた。逐次投入される自治都市軍も民間人を盾にすることを厭わない連邦軍によりあれやこれやと1個大隊近く損害を受けている。消防官は攻撃をおそれ、火災現場に向かうことを躊躇し始めた。

 人里離れた基地での攻防戦と異なり、住民避難を妨害される中で市街戦を行わなければならない自治都市軍にはかなり不利な状況が続いていた。民間人も連邦軍の攻撃に巻き込まれ、1万人近く死傷していた。

 今は、よりによって自治都市に2つしかない、産婦人科のある総合病院に立てこもっている。そこには100人ほどの妊婦と30人ほどの新生児、そしてその母親が医療スタッフとともに人質になっている。もちろん、そこは産婦人科があるだけではない。各種診療科があった。何だかんだと2000人近い人々が人質になっている。

 そこから連邦軍は好き放題インフラへの攻撃を加えていた。周囲5キロに散在する消防署や変電所、エネルギーステーションが破壊された。たまらず自治都市軍が砲弾を迎撃すると、戦火から避難しようとする渋滞車列に破片が飛び散り、運悪くエネルギー運搬車に命中し、大爆発が発生する。

「まったくです、あいつらは我々を人間と思っていないのでは?」

 ヤンセン少佐が同意する。当初は1個小隊程度の暴挙、と軽視していた自治都市政府は、被害が拡大するにつれて余裕を無くしていった。ヤンセンも、まさかケンタがここまで悪逆非道の限りを尽くすとは思っていなかった。

 悪逆非道、と罵っていた連邦政府の狗である連邦軍が本当に悪逆非道の限りを尽くしたとき、住民の被害を躊躇して、自治都市軍の行動を制約する自治都市政府にそれを止める手段はなかった。さらに、マチダ少尉は大隊主力で生き残った将兵にも同様の措置を取ることを命じたらしく、あちこちで連邦軍が人の盾を用いて立てこもっていた。簡易装甲服を着た歩兵が一体いればエネルギーステーションは破壊できるし、それが二体病院や学校に立てこもれば、警察では手出しは出来ない。連邦軍が立てこもる一軒一軒を自治都市軍が銃剣で奪い取るしかなかった。

 そして。

「閣下!」

 ヤンセンが指をさす方向は、連邦軍の攻撃で崩れ去る軌道エレベーターだった。ロンメルはそれを呆然と見つめた。独立政府で一番貴重な財産の一つである軌道エレベーターが崩れる方向には、よりにもよって海辺の発電所から続く高圧電線が続いていた。一斉に停電する住宅街に向け、今度は焼夷弾が発射される。折からの北風により、住宅街に火災が広まるのをロンメルは指をくわえて見つめるしかなかった。

「…このままあいつらを暴れさせていたら、我々は次の春を迎えられない。病院ごとあいつらを破壊するしかない。軍司令部に意見具申、直ちに民間人の被害を考慮することなく連邦軍への攻撃を許可されたい。」 

 あの鬼畜共をなんとかしなければ自治都市メダリアは終わりだ。独立戦争ごっこをするには社会と技術は進みすぎている。


 ケンタは無表情に軌道エレベーターが崩れ去る景色を見守った。街が一斉に停電するのが分かる。病院も一瞬ライトが消えてから、自家発電機により機能を維持しはじめた。

 交戦規則によると、民間人の被害は可能な限り避けなければならない、とされていたが、知ったことか。ケンタは心の中で呟いた。都市にある重要施設を攻撃をしているんだ。付近の民間施設及び民間人への避けようのない被害が出るのは当たり前。独立を主張し、連邦に手を出す自治都市政府を選んだ奴らが悪い。

「産婦人科の入院者と新生児とその家族は地下駐車場に移し終えたか?」

 簡易装甲服のバイザーをあげ、事務的に病院院長に確認する。地下駐車場には電源車や燃料車を配置しており、妊産婦がその子供医師看護婦とともに連邦高等弁務官事務所職員と家族20人が避難していた。

 連邦高等弁務官はいない。移動の間に指揮装甲車が被弾し、一緒に乗っていた若夫婦とともに助からなかった。跨乗していたケンタだけが吹き飛ばされただけで助かった。せめて子供だけでも助けようとしたらしいハッチから伸びた黒く焦げた手を見てから、ケンタは全ての感情を隠すようになっていた。

「貴方たちは!」

 院長が抗議しようとするのを銃口を向けて止めさせる。

「繰り返す、産婦人科の入院者と新生児とその家族は地下駐車場に移し終えたか?」

不承不承に院長がうなずく。

「貴方たちはここで自治都市軍の救助を待つが良い。通信はあと30分後から自由だ。助けを求めるなり、我々の悪口をいうなり勝手にすれば良い。あと、貴方たちの行動も制限しない。なんなら上の階のほかの入院患者を地下に移しても良いが、それは貴方たちの裁量に任せる。だが、外は停電、地下にある燃料車と電源車は置いていくが、燃料はこれっきりだ。」

 地上では、セガール軍曹が生き残った4機の装甲動力服を指揮して地図に掲載されているエネルギー施設や変電所、交通施設等に向け攻撃をしている。それもそろそろ弾も尽きる頃だった。この簡易装甲服もエネルギーが切れる。燃料車から補充しても良いが、それをしては地下駐車場にいる連邦職員家族と妊産婦、新生児達に供給するエネルギーが不足する。親はともかく、赤子や胎児には罪はない。

「…分かった。」

 院長は幾分口調を変えて返事をした。連邦軍が居なくなってくれるならそれに越したことはない。30分したらすぐに警察と消防に連絡をすれば良いのだ。警察や消防の中央司令所が大混乱していることを知らない院長は安易にそう考えた。

「結構、マリノア憲兵伍長!」

 疲れ果てた表情のマリノア伍長が現れる。

「お前はこれよりロイ看護伍長とともにこのフロアにいる民間人を警護すること。自治都市軍が現れたときには抵抗することは許可しない。マイルズさん。」

 生き残った連邦職員で一番の高官である総務係長にケンタは顔を向けた。

「貴方たちもここで待っていれば良い。付いてくるのは止めはしないが、これからは野良犬のように追い立てられ、始末されることになる。どうしますか?」

 連邦職員と家族も残ることを決めた。

「幸運を。マリノア憲兵伍長、よろしくお願いします。セガール軍曹、今からそちらに行く、エネルギーが切れたらトラップを仕掛けて機体を放棄することを許可する。。」

 ケンタは簡易装甲服を脱ぎ、野戦服の姿のまま地下駐車場から去って行った。

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