6-4 勃発
良くあることだが、きっかけは事故だった。
マチダ少尉からの要請を受け、大隊は、無人輸送機で電源車への燃料、水、食糧を運ぼうとした。当然、意図は包囲している自治都市軍には伝えない。
無人輸送機が基地から都心部に向かうことを認知した自治都市軍は、上昇中の無人輸送機の近傍に無人偵察機を接近させ、何を積んで、何処に運ぼうとしているのか確認をする。当然の行動だ。ただ、嫌がらせ半分に無人偵察機の操作にあたっていた自治都市軍の操縦兵が無人輸送機に被さるような飛行ルートを設定した。
そして、事故が発生した。
異星人との戦いのように連邦軍と自治都市軍が同一の指揮命令系統で動いていれば発生しない事故だった。相互の安全規定がない中、連邦軍の無人輸送機に自治都市軍の無人偵察機が接近しすぎたのだ。右側の巨大なエンジンに吸い込まれる空気と一緒に非力な小型無人偵察機が吸い込まれる。エンジンブレードによって無人偵察機は一瞬にして切り刻まれたが、同時にエンジンブレードに損害を与える。電動機であったため、本来ならブレードに損害を与えるだけだったが、無人偵察機はその時の運用班長の思いつきで、発煙ロケットを数発、翼下にぶら下げていた。ロケットは、当然火工品である。
「なんてこった、無人輸送機が…行先はどうなっている、記録は取っているか!」
無人機管制担当が、管制塔から双眼鏡で無人輸送機の片翼がもげる姿に絶叫する。
連邦軍の無人輸送機は双発だったので、通常の訓練時であれば搭載量も安全性を見越して制限されており、即墜落とはならなかったはずだ。しかし、連邦高等弁務官事務所公務員宿舎に住む人数分までの燃料を運ぶため、無人輸送機には最大積載量まで物資を積み込んでいた。無人輸送機は、右エンジンが爆発し、翼がもげ、コントロールを失い、地表に制御されない状態で落下していった。そして落下先は、よりによって自治都市軍の弾薬集積所であった。教本を無視して露天で放置されていた輸送車両50台分、1500トンほどの弾薬が集積される所に無人輸送機はクルクルと舞いながら落下した。そしてすさまじい揺れと轟音ともに大爆発が発生した。
「なんてこった。」
管制担当が、今度は静かな声で呟く。映画のように全てが吹き飛んでいた。爆風と揺れが管制塔にまで届く。
その大爆発による揺れと轟音は、メダリア市街でも認知できるほどのものだった。
「連邦軍が手を出してきました!正当防衛射撃を開始します!」
轟音と爆風で全てが混乱していたかというと、そういう訳ではなかった。弾薬集積所からほど遠い場所で装甲動力服を着用していた部隊は、全てを自分達の立場から解釈し、独自行動を取ろうとする。
「まて、勝手に動くな!状況確認だ!」
自治都市軍は、組織として実戦経験がなかった。組織としての経験があれば、ある程度のフローチャートを各級指揮官が認識し、確認する、という手順が発生する。しかし、組織としての経験がなければ、手順に穴があることを認識することは困難だ。特に人類種相撃の経験は連邦軍においても遠い過去の記録として残っているだけ。事前準備をしての異星人と戦争する事を前提として教育され訓練されているため、どうしても穴は大きくなる。
さらに、指揮命令系統上の混乱も穴を大きくした。
爆発すなわち連邦軍からの攻撃と判断し、自治都市政府軍司令部直轄隊から派遣されている第23重騎兵中隊長が勝手に突撃を開始する。精鋭とされる部隊であるため連邦軍と直接接する営門付近に展開させていたのが徒となった。方面隊の部隊ではなく、司令部からの応援にきた部隊だけあり、方面隊が判断を戸惑った場合、方向性を領導するため自主的な対応が許可されている部隊だった。当然、指揮官は自治都市軍の純粋培養エリート候補。方面隊司令部ではなく、軍司令部に顔を向けて仕事をしている。
「おい、勝手に動くな!指示を待て!」
作戦参謀が無線機に向けて繰り返し絶叫する。通信の妨害や乗っ取りはまだ始まっていなかった。
動き出した組織を止めることは容易ではない。重騎兵の突撃は特に止められるものではない。ローラーシューズのローラを電動化させた鋼鉄の脚部を軋ませ、機関砲を乱射させながら装甲動力服を着た機動歩兵達が基地の営門に向け突進する。
「…23重騎兵が攻撃を始めました。第4機動大隊には現在爆発地点に向かい、被害の確認と負傷者の救出にあたるよう指示を出しています。」
情報参謀が青い顔で方面隊司令に報告した。声が流石に震えている。
「勝手に動きやがって…軍司令部に速報。1345時弾薬集積所が爆発、原因不明。被害調査中。1346時、第23重騎兵中隊が独自の判断で連邦軍に攻撃開始、1347時これより独立革命軍第1方面隊はこれの支援にあたる。参謀長、想定は何になる?」
方面隊司令は、自分の手持ちではなく、司令部から送られてきた部隊が勝手に動き出したことを伝えた。でも、動き始めたものは仕方がない。この先どうなろうと、走り始めるしかない。
「ありません、強いて言うなら異星人との不期遭遇戦かと。」
自治都市幹部は、人間同士で戦うつもりはなかった。ただ包囲して、連邦に独立の意思を強要したかっただけだった。だから、電子戦も積極的には仕掛けさせなかった。そもそもどう戦うかのビジョンはない。当然、自治都市軍への指示は曖昧であり、しばしば方針が変わっていた。それが長期にわたる睨み合いの原因だった。
とはいえ、戦いが始まったからには連邦ではなく、自治都市が主導権を握らなければならない。そのためには、時機を逸することなくこの駐屯地を自治都市軍が制圧しなければならない。
「各隊、適宜攻撃開始、重砲隊に発砲許可を与える。目標は連邦基地の大隊本部建物。連邦軍の家族宿舎には絶対弾を当てるな。想定、異星人との不期遭遇戦を準用せよ。」
さあ始まった。とりあえず、打てるものを全て打ち、連邦軍の駐屯地を制圧しよう。
方面隊司令は決意した。
独立するか連邦がメダリアを蹂躙するまでこの戦いは終わらない。とはいえ、人類種同士での戦い方など、士官養成課程では習っていないぞ。そもそも、弾薬集積所が爆発した以上、こちらは手持ちの弾薬だけ。今を気合いとはったりで乗り切らなければ、こちらに勝ち目はない。
…そういえば。
方面隊司令は全然関係のないことを思い出した。
士官養成課程では気合いとはったりが一番大切だったよな
無人輸送機が墜落し、自治都市軍が攻撃をかけてきたとき、マリアム少尉の小隊が基地警備の当番だった。
「中隊長殿!現地軍が撃ってきました!突っ込んできます!発砲許可を!」
指揮車の中でマリアムは絶叫した。営門の前のバリケードを器用にローラーダッシュで避けながら、自治都市軍の装甲動力服が迫ってくる。優雅な動きだった。青緑の塗装の左側を真紅に塗り、そこに更に白地でスペードを描いている。
「損害は弾による胸壁のへこみ傷くらいだ。まだ発砲は許可されない、発砲しているのが一体だけなら気が狂った兵の誤射かもしれない。」
中隊長のペトロシャン大尉が感情のこもらない声で静かに返す。
「馬鹿な、連中は集団で撃ってきています、一発だけなら誤射なんてありえません、直ちに反撃の許可を!」
やがて、誤解のない音が響き始めた。全周から基地に向け、発砲音が始まった。後方からは重砲の砲声が聞こえ始める。
「中隊長殿!許可を!」
決断しきれないペトロシャンをあざ笑うかのように、基地から、砲弾を迎撃するための砲弾が放たれ始めた。砲弾と砲弾が衝突し、天空で幾つもの黒い花火を発生させ、破片の雨を基地周辺で攻撃をかけている自治都市軍へ降らせていく。
「各員に告げる、各員に告げる、想定第4種7号、想定第4種7号。」
大隊長殿の声が無線機から流れる。待ちに待った発砲許可だった。マリアムは、指揮車から部下達をけしかけた。
「さあ、連中に教育してやれ。電子戦開始、アンジェローニ准尉、やってやれ。」




