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6-3 相談

恒星暦567年12月21日 地方暦57年2月19日昼

惑星メダリア 連邦高等弁務官事務所公務員宿舎


 にらみ合いはまだ続いていた。違いは、警察軍が後ろに引き、自治都市軍が前面に出ていること。住宅街で新旧装甲動力服が睨み合っている姿はその道の人々には痛くツボにはまっているようだった。わざわざ見に来て個人用携帯情報端末のカメラを向けている。

「やんなっちゃうよね。どうにかならないものか。」

 ケンタは、飽き飽きしていた。一週間が過ぎようとしている。

 もうずっと風呂に入っていない。セガール軍曹にうまいことするよう命じているので、部下は何とかなっているだろうが、こちらは目の前の警察、そして自治都市軍との睨み合いのためせいぜい車内に潜り込み、仮眠を取るだけ。仮眠をしている間は戦闘アンドロイドにハッチから半身を出して監視して貰っているが、そろそろきつい。でも、薬物に頼りたくない。あれは精神的依存性があるのでやるものではない。学生時代、止められなくなっておかしくなり、退校した上級生を見たことがあるので、使うのが怖かった。

「風呂にゆっくりつかりたい。せめてシャワーだけでも。」

 指揮車両の椅子を精一杯後ろに倒し、仮眠を取ろうとするが、体の節々が痛くてやってられない。声に出して自分の願望を表明している自覚がケンタにはなかった。一応、音声自動認識機能は切っているので部下にぼやきを聞かれる心配は無い。今はただ簡易装甲服を脱いでゆっくり風呂に入り、ベッドで眠りたい。

 あと、食事。冷たい携行食糧にはもう飽きた。叔父の家の暖かい部屋で摂った食事が懐かしい。シチューや野菜サラダ。サトコちゃんとの会話。マサヤ君の意味不明な質問。一人で食べる液体携行食糧では取れない精神力の補給。

「少尉殿。」

 セガール軍曹からだった。音声通話の声を聞く限り、困っているようだった。

「宿舎の自治会長と名乗る女性が面会を求めています。」

 セガールの分隊は現在待機中だった。4時間の休息、前後2時間ずつの待機、4時間の警備のローテーションで回している。待機時間は基本うつらうつらするか、回覧文書に目を通すことになる。

「…了解、会いに行く。ライム、何かあったら呼び出すこと。」

 指揮車を降りるきっかけがようやくできた。これを機に、風呂に入らせて貰おう。住民との交流も大切な任務のはずだ。温かいお茶とケーキの差し入れを夢見てもバチはあたらないだろう。女性型アンドロイドに命じるとケンタは疲れた体に活を入れて車外に出た。

 

「…飲料水、食糧、風呂、電気を分けて貰いたい、ですか?」

 住民代表にあうため、休憩車でとりあえずシャワーを浴び、臭う簡易装甲服を脱臭するよう近くに居たマリノア憲兵伍長に頼み、髭を剃り、通常の制服に着替えたケンタを待っていたのは、水も食糧も尽きた、分電盤を操作され、昨日から停電となったので支援して欲しい、という疲れた顔をした自治会長からの依頼だった。

「はい、敷地から出たら何をされるか分かりませんし、通販もここには来てくれないようなんです。」

 何という嫌がらせ。よりによってこの現代に古代世界のような兵糧攻めを受けるとは。

 携帯情報端末を操作し、携行食糧の在庫を確認すると、こちらもあと5日分しかない。水も飲用はともかく、入浴まで使うとなると3日分もない。電源が一番ましだった。それにしても燃料車の備蓄を勘案すると1週間保たない。ここに住民分の水、食糧、電気が加わるとすると。

「上部機関と相談しますので、お待ちいただけますか。とりあえず、飲料水とトイレについてはどうぞ軍の施設を使ってください。」 

 どうも、暖かい食事と風呂、快適な睡眠は得られそうになかった。それにしても、基地を出る際、汚水浄水車の出動も確認しておけば良かった。言われたことを言われたとおりにだけしたらこんな所で痛い目に遭うとは。

「…はい、住民から飲料水、食糧、風呂、電気を分けてくれ、と頼まれています。こちらの在庫は住民に分けた場合、食糧3日、水2日、電気5日です。分けないとしてもそれぞれ、最大5,3,7日です。住民の依頼を断る理由もありませんし、断った場合、高等弁務官事務所との関係悪化が予想されます。ただちに燃料と水食糧をいただかないとこの寒い中、我々まで餓えて凍えてしまいます。あと、可能であれば汚水浄水車を空輸していただけませんか。汚水の再利用をしたいと考えています。なんせ住民の数は確認した所、連邦高等弁務官とそのご婦人も含め…」

 脱臭を終えた簡易装甲服を身につけ指揮車に戻り、中隊長殿に状況を説明しおえ、モニターを切るとケンタは宙を仰いだ。今はまだ冬。天気予報では、これから強い寒気が接近するという。水と食糧だけでも不足がちなのに、暖房をつけると電力もより消費する。それに対応するため電源車の出力を上げると燃料量の増加も無視できない。嵐が来る前に補給を受けておかないと、嵐の中無人輸送機が物資を積んでこれるとは思えない。

 士官学校を卒業して間のない少尉が考える域を超えているような気がしたが、一般人からしたら少尉に士官学校卒業したてもベテランもないよね、と気を取り直す。

「少尉殿。」

 今度はモニターにロイ看護伍長の顔が映る。顔色が優れない。包囲されて参っているのは、連邦職員だけではなかった。基本的に一人で勤務するロイ看護伍長やマリノア憲兵伍長はかなり参っていた。指揮をして、調整をして、カウンセラーをしてと忙しいケンタと異なり、待ちの仕事のロイ伍長やマリノア伍長はどうしても考えてしまうようだった。

「どうした、伍長。」

「あって、相談の時間をいただければと。」

 持ち場を守ろうぜ、とは言えなかった。士官学校卒業生の士官でもない、非兵科の看護伍長にそこまでの行動は期待できない。

「分かった、今ならどうぞ。ただ、看護伍長、腕章はつけるな。腕章をつけた人間が指揮車に来たら、指揮系統に異状があったと誤解される。」

 無人輸送機が荷物を搬入できるように段取りをしたいんだけどな…。まあ、一人参ったら、周囲に伝染するから、ここは手を抜けないんだよね。でも、20歳に何を期待して相談しに来るんだか… 


 相談内容は、身も蓋もなかった。

「少尉殿、何時までこの状態が続くんでしょうか。何時交代が来るんでしょうか。」

 簡易装甲服を身につけず、赤十字の腕章を外しただけの服装でやってきただけあり、ロイ伍長はかなり参っているようだった。指揮車に入るなり、ぽろぽろと涙を流しながら聞いてくる。

 知らんがな。そんなもん、こっちが聞きたいわ。

 心の中でひとしきりぼやくと、ケンタは、紙コップにお茶を注ぎ、ロイ伍長に手渡した。

「まずはお茶を飲んで。」

「少尉殿、何で私たちがこんな目に遭うんですか。」

 お茶を受け取りながらも堰を切ったように言葉を続ける。

 女の子に泣かれたら、こっちも大変なんだけどな。恋愛経験があればこんな時には適切に対応できるんだろうか。中等教育機関の時に女の子ともう少し話をしておけば良かった。

「そうだよね。」

 士官学校でもカウンセリングの講義はあったが、試験もなかったので適当にやり過ごしていたのが悔やまれる。たしか、否定しないようにガス抜きをさせるんだよね…

 話し続けるロイ伍長に適当に相づちをうっていたら、中隊長殿から連絡が入った。

「ちょっと待ってね、マチダ少尉です。」

 中隊系に連絡系統を切り替えると、ハウエル大尉殿からの事務的な声を聞く。

「少尉、これから無人輸送機1機で燃料と水食糧を運搬する。着陸地点を用意しておいて。時間はそうね、30分後といった所。」

 交代は来ないのか…こっちがカウンセリングを受けたい気分だ。一体何時まで睨み合いを続けるんだ。どうやったらこの睨み合いが終わる?もう1週間くらいか?

「了解しました。準備させておきます。」

 ハウエル大尉殿からの連絡が切れると、ケンタはセガール軍曹に輸送機の着陸地点を準備するように命じ、ロイ伍長の肩を叩いた。

「済まないね、ロイ伍長。もう少し一緒に頑張ろう。基地に戻ったら、パーティーでも開こう、僕のおごりだ。」

 今より悪くなることはないはずだ。荷物が届いたら、在庫が増えるので気分は明るくなるはずだ。でも、食事は何か携行食糧以外がいいな… 

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