表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/45

5-1 事件

恒星暦567年12月15日 地方暦57年2月12日

惑星メダリア 自治都市メダリア


 天気予報は、晴れだった。

 これが暴風雪だったらどんなに良かっただろう。

 市長は、暴走することが予定されている101万人デモ行進の際に発言する原稿の最終チェックを行いながら、しみじみと思った。

 これが暴風雪なら、デモ行進は中止、連邦施設への過剰な暴力は行われずに済む。だが、今日は晴れ。おまけに反射衛星により恒星光を集め、ほどほどのデモ日和となる。

 シュミットとあったのち、市長は精神汚染検査をただちに密かに行った。そして、軽度の精神汚染が確認され、昨日一日「休養」を取得、精神汚染の治療を開始している。その分、思考の自由を取り戻している。精神汚染検査の結果と治療の記録は、滅多に行われない上に連邦政府指定医療記録であるため、連邦政府には今のメダリアがどうなっているか伝わっているはずだ。

 自分を取り戻した後にアンドロイドに検証させた異星人どもの精神汚染手段は巧妙だった。連邦政府職員や連邦軍人、そしてその関係者がほぼ見ることのない自治政府限定仮想現実空間広報を用いている。その分、汚染の具合は深刻で、よほど過去の放送アーカイブにはまっている人々かもともと自治政府限定仮想現実空間広報に興味の無い人間くらいしか汚染から自由になっていない、そう市長は見込んでいた。

 だが、もう止められない。

 自分がなすべきことは、どちらにどう転んでも自治都市メダリアが統制の取れた状況にすること。独立宣言が成功するとしても、失敗するにしても、軍の統帥権、警察への指導権は最後まで異星人の影響下にある人間に渡すわけにはいかない。つきつめると、政治は暴力手段を誰が統制下に置いて、関係者に意思を強要できるかだ。銃口のない革命はないだろうし、銃口を統制しない革命は血で血を洗う事態となる。問題は、暴力を統制することが難しいこと。でも、するしかない。

 鏡に映る防寒スーツの自分を睨みつけ、市長は決心した。


 101万人のデモ行進を見越し、ヒロシは屋台を開いていた。身の危険は感じていたが、何時までも引きこもるわけにはいかない。連邦軍施設が警戒態勢をあげ、当面物品の売り込みにいけないのであれば、どこかで現金収入を得なければならない。保健所に申請をし、沿道のビル管理者に話をつけ、幾つかの店を開いていた。考えることはある程度皆同じらしく、連邦軍への納入業者の顔見知りが屋台で呼び込みを行っていた。

「マチダさん、壮観ですね。」

 デモ行進は101万人どころではなかった。もっといる。本来なら所定の位置についなければならないはずの自治政府軍や警察軍の姿までが見える。デモの交通を統制するはずの警察軍交通隊も、通常の巡邏車両ではなく何故か装甲車を用いていた。

「壮観すぎますね。」

 軍への商品納入で得た資金で議員となったフレッチャーさんは、たしか娘さんがウチの娘と同学年のはず。娘さんを連れて休みの日に屋台とは、親連邦派の議員も大変だな。

「さあ、いらっしゃい!寒い日にはホットワインなんてどうだい!フランクフルトだってあるよ!うちのフランクフルトは、化学合成じゃなくて、培養工場製の高級品だよ!フランクフルトを挟んでホットドッグなんて美味しいよ!」

 娘さんが、蜂蜜色の髪にスカーフという古代衣装風な姿で売り込みをかけている。まあ、うちもマサヤがミサエとともに売り込みをしているから人のことは言えないが。

 独立をしたから資産を残して連邦出て行け、と連呼している集団は、まさに壮観だった。

「叔父さん、ホットドッグ3つ!」

「あいよ~」

 電子マネーで支払われ、簡易装甲服に銃を下げた自治都市軍の中年の男性兵士にホットドッグを手渡す。ヒロシもそうだが、フレッチャーさんは現地通貨を受け取り次第、市場に突っ込んでいた。デモ行進が発表されて以来、惑星系外から調達した場合コストがかかるある種のレアメタルの価格は2倍になっている。連邦政府の対応が発表されてからが判断のタイミングかな、そうヒロシはフレッチャーさんと話をしていた。

「そういえば、お嬢さん、婚約されたそうですね。おめでとうございます。」

 娘さんから聞いたのだろう。サトコのことをいう。でも、もう結婚してしまった、とは言えず、ヒロシは曖昧に笑い否定しなかった。

「甥に一瞬で大切な娘を奪われてしまいました。」

「進学はどうされるのですか?」

 中等教育機関からの進学は、年に何回かの進学機会に申請書をクリックすればあとは自動で、となる。申請する教育のレベル、そこでの各種評価と遺伝子情報が加味される。要は連邦統一基準で実施される各種試験と遺伝子検査結果だ。どれだけ「優秀」な遺伝子の持ち主であっても努力しなければ進学は出来ないし、どれだけ努力しても100Mを走るのに30秒かかるのであれば、運動教科指定教育機関に進学できないのは地球時代から変わらない。軍の士官学校等だけは試験がある。それは、平常点に加え、実際の現場で臨機応変に実力を発揮する胆力が備わっているかを確認するため程度の位置づけだ。

「どうするんでしょうね。心配はかけない、と見栄をはっていましたから、責任を取ってくれるんじゃないですか。」

 この星も煉獄だが、どこにも天国はないことをいつ気がついてくれるだろう。ヒロシは、最近特に夢見がちとなっている娘を少し心配した。軍港都市にいようがこの星にいようが、いつか自分が何者か、いや、努力してようやく何者にしかなれないか知るときが来る。ケンタ君が救い出すタイミングとしては少し早かったのじゃないか、という気がする。

「しかし、早い決断ですね。まだ2ヶ月もたっていないのでは。」

 親連邦派、ということであまり店頭に立てない二人は、店の奥で親父トークをするしかなかった。

「彼の父親にしても、わたしにしてもそうでしたからね。」

 そう、兄さん。父さんが許してくれたからいいものの、戦場で出会った女性下士官とたちまち結婚してしまうとは。見たところ、どこにでもいるような女性下士官。結婚したら苦労するよ、と遠回しに言ったが、聞く耳を持たなかった。…案の定苦労していたが。父さんは、何故か異常に物わかりが良かったが、あれはどうしてなんだろう。普通はお母さんの反応となるはずだ。

 それにしても、簡易装甲服に銃、か。平和的なデモ行進をするつもりとは思えない。地球時代に先祖返りか。ハルバートをもち、大砲を引きずる女性を先導にデモを起こして叛乱を試みたのは何処の時代だったかな。

「お知り合いだったんですか?」

「ええ。私が産まれたときから。」

 デモの先頭はそろそろ連邦高等弁務官事務所に向かっているはずだ。休日の人がいないほぼ無人の建物に叫んで何が楽しいのやら。

「さあ、フランクフルトにあうホットココアはどうだい!スパイシーで甘みたっぷり、今日みたいな日にはぴったりだよ!」

 マサヤが慣れてきたのか、甲高い声で叫んでくれている。お、お客さんだ。

「ホットココアふたつちょうだい、坊や。」

 ミサエが手際よくホットココアを渡している。警察軍の交通警察中隊。これは制服。

「それはそれは。しかし」

 デモの先頭が連邦施設を包囲したらしく、フレッチャーさんの声にかぶせるように演説が始まった。政権与党の中でも急進派で、どうも浮いている連中の頭目の声だ。街頭のスピーカーにマイクを連動させているらしく、不愉快な声が耳に入る。フレッチャーさんが聞きたくないことを聞くのも政治家の仕事ですからね、と肩をすくめた。


「市民の皆さん!」

 政権与党急進派で少し浮き気味なミズホは、連邦高等弁務官事務所とその横にひっそりと立つ募兵事務所前でその存在意義をアピールしなければならなかった。それが週休日のからのオフィスの前であったも、だ。

「今こそメダリアの独立と市民の生活向上のため…」

 募兵事務所の窓から見下ろしている女性があくびをしているのが見える。そう、一級市民である連邦職員と二級市民である星系住民。この格差をなんとかしなければ、という義憤から自分は政治の道を目指したのだ。ありもしな異星人の脅威を…

 そして、ミズホは爆死した。


「何の音だ?」

 フレッチャーさんが連邦高等弁務官事務所の方から聞こえてくる音に気がついた。

「どこかのガス爆発かしら、いやあねえ。」

 しかし、街頭のスピーカーから扇情的な声が不自然なタイミングで不適切に流される。

「連邦が、ミズホさんが演説している所に砲撃を加えてきたぞ!」

 馬鹿か。連邦の誰がこんな辺境惑星でそんな無駄なことをするんだ。少しは客観的視点を持て。大体、砲撃とかいうけど、誰か対砲迫レーダーでも動かしていたのか。

 声に出すわけにはいかず、ヒロシは心の中で吐き捨てた。

「連邦だと!あいつら!ぶち殺してやる!」

 だが、冷静だったのはヒロシくらいだった。本来軍事の専門家であるべき自治政府軍の将兵達までが騒ぎに同調し始めたのだ。明らかに異常だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ