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4-1 痕跡

恒星暦567年12月3日 地方暦57年2月1日早朝

惑星メダリア 惑星メダリア駐屯地


 さて、今日は基地祭。当直があけたら今日は何をしてすごそう。といっても、分列行進や展示訓練はある。基地を一般開放するため、展示品の説明担当や募兵事務所の手伝いなどもある。でも、そうであっても一日訓練、という訳ではない。

「マチダ少尉、ご機嫌ですね。」

 直長はベテランのリック・ジェイソン大尉。副直ということで本来業務のほか当直のお仕事にコマネズミのように走り回らなければならない。

「怪我も粗方治ったからね。そりゃうれしいさ。」

 駐屯地には機動歩兵大隊のほか、憲兵隊や軍病院もあり、機動歩兵以外の兵科からも当直に入る。憲兵隊の相直は、黒髪三つ編みの憲兵伍長だった。

 ケンタは、基地祭ということでいつもの当直士官とは異なり、来場した一般人が怪我をしない観点でも確認するよう指示した。

「まあ、今日はお客さんがたくさん来るだろうからね。例年の基地祭に準じて準備してくれていると思うけど。」

「彼女さんも来るんですか。」

 基地の巡検は、6輪駆動車で回ることになっていた。といっても便乗者はおらず、運転手のビクトリア・マリノバ伍長とケンタだけだ。上空には無人機が人間に代わって異状を監視し、6輪駆動車に積載されているセンサーが人間の見落としを補う。機械だけで巡回可能であるが人間も巡回する理由としては、結局連邦軍が人間も機械も信じ切っていない、という点に尽きる。200年前に終わった異星人との戦いで機械警備に頼った基地が幾つも通信途絶となった戦訓は忘れられていない。

「どうなんだろう。今日が基地祭、というのは知っていると思う。」

 マチダ家では、地元の娯楽番組が楽しくないからか、版権の切れた地球時代の2D番組をよく見ていた。ケンタも士官学校の生活が続いたせいで娯楽番組もニュース番組も見る習慣を失っていた。仮想空間でも基地祭の宣伝をしていたはずだが、先日の「事件」のせいで、反連邦番組や宣伝が基地祭の宣伝スペースを奪っているようだった。

「誘っていないんですか?」

 6輪駆動車が基地を囲うフェンスの回りをゆっくり巡検する。未開地に基地を置いただけあり、一周100KM近い。

「基地祭だからって?誘わないよ、そんなんじゃ。」

 ケンタは手を振って否定した。マリノバ伍長が驚いた顔でこちらを見た。うん、可愛いよね。香水をつけているのかな。

「僕も親に連れて行ってもらったこともないしね。」

 いや、可愛い顔で見られるのは嬉しいけど、前を向こう。一応巡検しているんだから、仕事はしようよ。僕たちは一応、職業軍人だよ。

「連れて行ってもらったことがない?」

「珍しいことじゃないでしょ。軍施設なんて大人になれば何時でも行けるし。」

 マリノバ伍長が即座に突っ込みをいれた。ハリセンがあれば頭を叩いていたようなタイミングだった。

「いや、だってマチダ少尉、産まれたときから軍人になるって決まっていないでしょ?」

 長く灰色のフェンスが続く殺風景な風景から一瞬目を離し、ケンタはマリノバ伍長の浅黒い顔を見た。えらの張った顎、ふっくらとした唇が動いている。

 このひとは何を言っているんだ?

「君の家ではそういうものだったの?」


 マチダ・ケンタ少尉は基地では一番の有望株だった。士官学校卒業生でまだ20歳!「婚約者」はいるのが、あれは方便、まだまだつけいる余地はある。これが惑星メダリア駐屯地にいる独身女性ネットワークの共通情報だった。

 といっても、彼氏無しは駐屯地では軍病院で看護婦をしているマライアと機動歩兵隊のゼフラくらいしかいない。都合が合えば基地のバーで情報交換をしているが、聞こえてくるのは、大隊本部で勤務しているゼフラが盗み見たスペック上の噂ばかり。

「そういうものって、みんなそうでしょ?」

 代々職業軍人、父親は死後二階級特進したマチダ少将、祖父はマチダ中将、曾祖父は連合宇宙艦隊司令長官だった、マチダ大将。250年前の異星人との戦いが始まったときにマチダ中尉という名前が戦史に記録されているほどのサラブレッド。そんなケンタが基地に来る、という内命をゼフラがバーで漏らしたとき、そんな物語の主人公のような血筋がいるわけ無い、とマライアと否定したものだ。

「みんな、という表現は正確じゃないよ。少なくとも僕はそういうものだと思って育ってきた。いや、育てられてきた。」

 軍に入ったとき、いろんな人がいるとは思ったが、マチダ少尉はぶっ飛んでいた。士官学校卒業生の少尉自体珍しく、ビクトリアも見たのは初めてだった。というか、士官学校卒業生の正規士官は、大隊長とこの少尉くらいしかいない。あとはたたき上げや高等教育機関の予備士官養成課程を修了した士官ばかり。大隊唯一の20代の士官だったA中隊のメンギスツ・ハイレ・マリアム少尉にしても高等教育機関ののち研究機関に籍を置いてから軍に来ているので20代といってももう髪の毛が薄くなり始めていた。

 小さいときに軍人になるって思う子供はいるけど、ここまでとは、流石軍人家系。ちょっと、いやかなり引く。自分がここにいるのは、除隊後に得られる高等教育機関と研究機関進学のための奨学金とあと1年過ごせば得られる連邦職員優先採用枠を得るため。一生軍で過ごそうとは思っていない。憲兵隊出身だと連邦保安省や連邦司法省といった給料の高い官庁に優先採用されるといわれている。この人と結婚したら、しきたりとかエライ目にあいそう。子供の仕事は軍人一択とかありえないでしょう。これは恋に恋するマライアに譲った方がいい。ゼブラが最近何も言わなくなったのも分かる気がする。私は除隊後にいい人と出会うことを期待しよう。

「でも、彼女さんをこの前。」

 待合室での会話を盗聴器越しに聞いてドラマみたいなやり取りってあるんだね、と思ったものだ。

「あれはね…ちょっと速度落として。あそこ、あれまずくない?」

 続きを待っていたが、マチダ少尉は車のスピードを更に落とすように指示する。それから、簡易防弾衣を適切に着用しているか確認しはじめた。暫くしてセンサーと上空の無人機が警報を鳴らす。警報は自動的に基地の当直室に届いているはずだが、念のため。


 何で僕が当直の時にこんなトラブルが。よりによって、今日は基地祭だぞ。

「止めて。ついてきて。無人機のモードは周辺警戒ね。」 

 銃架から小銃を取ると、マリノバ伍長についてくるように命じる。車載アンドロイド兵が4体、ケンタの動きに合わせて周囲を警戒しはじめる。この何週間かで機動歩兵隊の少尉らしい動きが取れるようになってきた気がする。まあ、小隊軍曹にはあれこれ指摘されるだろうけど。

「巡検中の副直将校のマチダです。直長殿に。」

 目の前のフェンスには大きな穴があいていた。一応、小銃くらいの弾ははじく、と聞いていた。それが大穴。可能性としては何だろう。

 その1,破壊工作。誰が?軍施設にわざわざこんな派手なやり方で侵入する意図は?

 その2、未知なる地元生物。本当だとこれもかなりまずい。何だっけ、そう、惑星セダス。最悪だ。でも何故基地を襲う?

 その3,隕石。だが、隕石警報は昨日は無かった。

 その4,抜き打ち訓練。大隊長殿ならやりかねない。

 ケンタは棒立ちになっているマリノバ伍長に、視線を向けた。

「マリノバ伍長、何だと思う?あと姿勢。」

 もし抜き打ち訓練なら、そろそろマリノバ伍長は打たれる頃かな。慌てて姿勢を低くするけど、場所が悪い。そこだとあの位置から攻撃を受けたら、打たれちゃうよ。

「ビショップ、資料採取。」

 どうしてそう呼ばれているのか知らないが、通称ビショップと呼ばれている中年白人男性型アンドロイド兵に破れたフェンス周辺の証拠集めを命じる。

 訓練だったらどこかに昆虫型かなにかの小型無人機が記録を取っていて、あとで色々と講評を受けるはずだ。

「マリノバ伍長、こっち。」

 自分がいる所に伍長を呼ぶ。車外に出たせいで風が冷たい。ビショップが資料を採取している間に、伏せた状態のまま壕を掘っていく。凍った大地だった。宇宙軍支給のシャベルはきちんと役目を果たしてくれない。その4ならそろそろ…

「ジェイソンだ。状況は?」

 無人機からの映像は届いているはず。という事は、認知時間と発生場所、フェンスの破れ具合とビショップが調べている内容は直長殿は認識している。それでもなお聞くと言うことは、状況の要約を必要としていると言うことなのだろう。

「はい、直長殿、人類種、非人類種か分かりませんが、何者かが基地に侵入したものと考えます。」

「勘弁してくれよ、今日は基地祭だぞ。」

 ジェイソン大尉が呻くとただちに基地に設置されたスピーカーから神経に障るサイレンが響く。

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