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恒星暦567年11月20日 地方暦57年1月20日夕刻

惑星メダリア 自治都市メダリア 商店街区画


 自分は何をしているのだろう。

 混乱したときは、5W1Hを考えることを習慣としていた。家具店に入りながらケンタは自分に疑問を覚えた。

 落ち着こうケンタ。5W1Hだ。WHO(誰が)、WHEREどこで、WHAT(何を)、WHENいつ、WHY(何故)、HOWどのようにだ。

 その上で、自分が置かれている状況下、どの行動が適切であるか評価すれば良いはずだ。

 自分は、自治都市メダリアの商店街区画で、従妹のサトコにつれてもらい、靴を勤務時間後に買いに来ている。時刻は現地時間1月20日1900,夕刻というには日は暮れているが、まあ、一般的にはこの時間は夕刻と見なして良い時間帯だ。で、何故だ。

 従妹の柔らかい手をただ握りたかったから。それは魅力的だが歯止めが利かずに性犯罪者まっしぐらな気がする。一緒に居たかったから。うん、何かおかしい。

 僕の人生設計では、このメダリアで配偶者を見つけ出すことが優先任務一番、職業人生では、機動歩兵隊の最下級士官として職業軍人としての基礎を固め、現場を知ることが第一と第二のはずだ。職業人生の事は今は勤務時間外だ。おいておこう。自分の無能については悶々とするのは勤務時間中か寝る前で十分すぎる。

 ケンタは家具店の接客アンドロイドの挨拶にうなずいて奥に入っていく。自宅まで配送されたあと、自力で組み立てる家具ではなく、組み立てられた状態で運ばれ、設置される家具がそこには並んでいた。靴を買いに来ていたはずなのに、何故か目の前には家具。何かおかしいが、まずは思考を整理しないと、サトコとの時間が惜しい。

 ということで人生設計だ。配偶者を早急に見つけ出すことが人生における優先順位一番。半径1Mの世界に誰を迎えるか、という問題だ。出来れば配偶者は生涯の伴侶となってほしい。配偶者の最低候補は出産可能年齢の女性であること。遺伝子操作で同性パートナーとの間に子供が出来ることは理論上知っているし、それがなされている惑星系を僕は知っている。でも、男性より女性が僕は断固好きだ。それも、もと男性じゃなくて本物の女性が僕は好きだ。その上で僕より頭が良くて、気が利いて、性格が良くて、面倒見が良く、そして可能であれば可愛くて、さらに出来れば胸が大きい方が良い。あ、あとは軍の保安基準から逸脱しない政治的思想的傾向も前提条件か。具体的な事例は身近だとどのような人物があげられるだろう?

 中隊長殿。標準的な女性かな。胸は…いや、そもそも既婚者だ。あとは?ミサエ叔母さん?美人で胸が大きいがこれも既婚者。実の叔父の配偶者を奪う、というのは中等教育機関で友達に貸してもらったエロ本であったシチュエーションだったが、どうも性に合わなかった。何というか、近しい人を裏切る背徳感があまり好きになれなかった。じゃあ、サトコか。女性で、出産可能年齢で、頭も良く、気が利いて、面倒見が良くて、可愛くて、胸も…比較的大きい。年齢も、中等教育機関に在学しているが16を過ぎている。従兄と従妹だから結婚できるし、昔顔を合わせた人と久しぶりに再会した、というシチュエーションは何かぐっとくる。この惑星から転勤する時には18歳を超えているはずだ。父親はもと軍人で保安基準から逸脱しない政治的思想的傾向。なんと、まさに理想。素晴らしい。

 この人口350万の惑星メダリア上でなかなか難しい条件を自分に課しているような気がするが、異星系までオンラインで婚活をしようにも、この星系では超光速通信が民間施設まで整備されていない。記憶媒体を超光速通信が発達している近傍惑星に届けるとしても、往復2ヶ月かかる。超光速通信があるという理由だけで軍施設で婚活をしようものなら、あっという間に噂になってしまう。それは最後の手段にしたい。

 で、要はサトコのような女性と配偶者契約を結び、人生の心配事を一つ減らすことが出来れば良い、という事だ。そのためにはある程度モテないといけない。出会って、お互いに相手に求める条件を摺り合わせ、付き合う。好きになって付き合うのが理想だが、相手を好きになるのは付き合ってからでも遅くはないはずだ。大昔は初見の相手と結婚し、最後まで仲の良い夫婦として添い遂げた、という事例があったと聞く。要は出会ったあとの努力が大切なのだ。モテるためには外見をまず良くしないと相手にされない。外見を良くするための装備整備の一環として靴を買いに来た。ところが、誰をターゲットにしているのか変な連中がつけているので、とりあえず一時避難としてこの家具店に来ている。

 よし、状況はクリアになった。

 ケンタは、すっきりとした気分になった。

 要は、サトコと一緒に家具店で時間を過ごし、変な連中がいなくなってから靴屋に行けば良いのだ。1時間もすれば連中はどこかに行くはずだ。

 とすれば、戦術目標は、この1時間をサトコと楽しい時間を過ごすことだ。そしていつか出会うだろう相手とのデートの練習。


 変な従兄に手を握られ、家具屋に入ったとき、従兄が警戒していた3人組が視界に入った。あの気持ち悪い男子同級生どもだ。何時も女子学生を粘着質な視線で見つめ、たまに隠れて携帯情報端末を向けてくる。同じクラスの女子学生の一人が以前、彼らは同級生のアイコラ動画を作成してお互い見せ合っている、という話をしていた。気持ち悪い。

 あんなのと同じこの星で一生過ごすなんて嫌だな。

 家具店、という場所は夢を見ることが出来る場所である。でもあまりに甘い夢は現実を呼び覚ます。私は、せめて昔みたいに軍港都市に住みたい。高等教育機関にも行きたい。そこから先は分からないけど、マサヤもこの場所から連れ出してやりたい。そこでは、こんなお店に陳列されているこの棚とかみたいなしっかり家具が置いてあって…

 将来、自分はどこで誰と暮らしているのだろう。

 サトコは、陳列されている食器棚を触ってみた。シチュー皿とか色々食器が置けて、ガラス扉で中も見え、素敵な感じだった。

 どんな人と一緒が良いだろう。まず、この煉獄から連れ出してくれる人。大きく歳が離れていない方が良いな。で、私のことを分かってくれる人。同級生の男子どもみたいになよなよしていなく、知性だけでなくしっかりとした雰囲気がいいな。もちろん、定職持ち。

「これだと色々な食器がおけて、中も見られて使いやすそうだよね。この段の棚なんて、君がシチュー皿置くのにちょうど良い高さ位じゃない?」

 ケンタ君は、この前暫く帰ってこなかったあと、少し雰囲気が変わっていた。どう、とははっきり言えない。少しお父さんの雰囲気に似てきた気がする。何というか、大人の雰囲気。周りを安心させるような力を感じる。

 ケンタの言葉に、サトコは自分がキッチンの食洗機から食器を棚に移し替えている景色を想像した。そばでサトコに笑いかけているのは、ちょうどケンタ君みないな感じの…

 ん?

 何かがおかしい、と思いかけたが、思考は女性型接客アンドロイドに妨げられる。

「新婚生活用の家具をお探しですか?」

「いや、まあ。」

 ケンタが適当にあしらおうとする。接客アンドロイドはしつこかった。

「お二人お似合いですからね。何時ご結婚を?」

「いやあ、まだまだ先ですよ。」

 いや、そこは否定しないの?ていうか、接客アンドロイドは私たちのことをカップルとでも思っているの?ちょっとAIおかしくない?そんなんじゃまだ無いし。

「じゃあ、まず同棲から?」

 二人の距離と着用しているものから、アンドロイドに搭載されたAIは、二人を上客と見なしたらしい。

「そんなところです。」

 いや、だからケンタ君どうして否定しないの?ケンタ君みたいな人はそりゃこの惑星にはそういないけど、そこは否定する所でしょう。

「では、絶対に必要なベッドとかは。快適な生活は快適な寝具からと言いますし。」

 同棲、というキーワードを否定しなかったことからアンドロイドは、幅が1.7Mほどのクイーンサイズのベッドに案内した。確かに、そのベッドの座り心地は良かった。


 一時間ほど家具屋を冷やかし、店からでたあとサトコは赤くなってケンタと繋いでいない方の手でケンタを打った。そろそろ夜になり、街灯の冷たい光が人気のあまりない寒い街中を照らしていた。もうそんな時間だ。

「もう、恥ずかしい、あのアンドロイド、絶対私たちが来月にでも同棲をはじめるカップルだと判定して、色々家具を紹介していたよ。」

「いやあ、ごめん。ああいうアンドロイドの反応って面白かったんだ。」

 歳相応の笑みを浮かべてケンタは答えた。

「ほら、僕ってこういう所来たことなかったからね。君のような素敵な人と一緒に来られて楽しかったよ。ありがとう、サトコさん。」

 何かちょっと恥ずかしいことを平気でこの人言ってきていない?いつの間にかさん付けで女の子から女性扱いしてくるし。まだ手を握られたままだけど、よそからはどうみても。

「ひゅー、お似合いのカップルだね。でも、彼女、俺たちと遊ばない?」

 不愉快な声がサトコの鼓膜を刺激した。

 後をつけていた気持ち悪い同級生の一人が後ろで卑しい笑いを浮かべポケットハンドで立っている。その前にはセンスのない既製服を着た大柄の男がクチャクチャガムを噛みながら立っていた。ケンタ程の年齢だが、理性より本能が先走っている顔つきだった。他に2人見たことのない顔。

 うわ最悪。警察を早く呼ばないと。でも、片手塞がっているし。

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