2-4 羨望
恒星暦567年11月20日 地方暦57年1月20日夕刻
惑星メダリア 自治都市メダリア 商店街区画
結局、サトコは猛獣たちからケンタを守ってやっていた。
「いい、ケンタ君」
軍港都市風にコーデしたケンタは、猛獣にさあ早く襲ってくれ、といわんばかりの魅力を発しながらサトコと歩いていた。その最接近距離3CM。手はつないでいない。サトコとケンタは恋人じゃなかったし、ケンタはどう見ても変だった。ケンタの姿勢は背中に定規をあてたようであり、カツカツと閲兵式の時みたいに歩く様は商店街区画のなかではあからさまに周囲から浮いていた。
商店街区画に2人は靴を買いに来ていた。最初は服を買いに一緒に出かけた。次ぎは特注の服を一緒に取りに行った。靴だけは使い古した軍靴を変えることに何故か抵抗するケンタをサトコは三度目の正直と連れてくることにした。新年セールが終わった直後とあって、平日夕方ということもあるだろうが、週末と比べると商店街区画には人通りはあまりなかった。
「ケンタ君は無防備すぎるの。」
彼に分かるように語彙を選びつつ、サトコはケンタを諭した。
「ほら、右斜め前」
「二時の方向のファストフード店前に居る黒色フリル付き上下、短靴、…非武装。年齢は…推定15歳プラスマイナス2歳の女性の人間?」
絶対この人の視点と語彙は変だ。軍の士官学校や軍での生活には不足はないかもしれないけど、日常生活を送るにはこの語彙は変だ。語彙をまず私が直してあげないと、この人は一生変な人のままで終わってしまう。
「あの子は、私の同級生。」
サトコが隙を見せれば、すかさずケンタに声をかけるだろう。あれは獲物を狙う野獣の目つきだ。クラスで一番のハンサムを撃墜した女子だった。
「あの子は、私が三歩離れたらきっとケンタ君に声をかけてくる。」
「どうして?」
機微に疎いケンタのことだから、声をかけたらホイホイとついて行き、彼女の巧みな話術でそのまま肉体関係を結ぶ羽目になりかねない。そうしたら、明日には自慢げに彼女はクラスで言いふらすだろう。ケンタはサトコより自分を選んだ、と。
「あの子は、ケンタ君と付き合っているんだって自慢したいために関係を結ぶの。」
「僕はしないよ。だって」
ケンタは、同級生の方をチラリと見るとごく当たり前のように手を握ってきた。
「ちょっと、何勝手に手を握ってんの。」
咄嗟に抗議をするが、ケンタは手を離してくれなかった。腕力や握力に絶対的な差があるのは分かっている。力尽くでは手を振りほどくことは出来ない。
「僕はサトコちゃんと出かけているから。」
そして低い声で耳元をささやく。ゾクッとするが、ゾッとする内容だった。
「振り返っちゃ駄目だよ。右後方7時の方向約10Mにさっきから嫌な気配の連中がつけてきている。数は3人。訓練されていない。武装はナイフ程度。脅威としては…まあ、僕一人なら何とでもなるはず。ただし通信中だから増援が来る可能性がある。こちらを狙っているのか確認する必要がある。すぐに店舗に入ろう。」
サトコが抵抗する間もなく、ケンタは最寄りの店舗に急ぎ足で入る。メダリアに住む数少ない中級階級のための家具店だった。
不公平だ。サトコのやつ、噂の連邦軍の彼氏と楽しそうに歩いている。
商店街区画で彼氏と待ち合わせるためにファストフード店前に立っていた所、ちょっと離れた先をどう見ても新婚か熱烈恋愛中のカップルが歩いていた。つかず離れず、楽しそうに会話をしている。サトコと噂の彼氏だった。サトコが甘えた口調で話しかけているのが雰囲気で分かる。彼氏は何度か見たことがある。前に校門まで迎えに来るほどだから、そういう関係なんだろう。中等教育機関ではしかめっ面しいサトコが、そういう時やここでは楽しそうに歩いている。サトコも最先端の服を着ているが、彼氏も負けず劣らず。かなり金がかかっている。輝いた黒いブーツがアクセントになっている。
この前から付き合い始めたクラス一番もあれじゃあ相手にならない。サトコが三歩離れたら声を掛けてやろうと思ったのに、あの二人、見せつけるように密着して歩いてる。あ、何か囁いた。彼氏がこっちを見た。うん、やっぱりマークよりもいけている。どう見てもお金持ちっぽい。いいな、勝ち組ね。あの人とお付き合いできたら、一生楽できないかな。
個人用携帯情報端末が震え、まもなく彼氏がつく、と甘いメッセージを送ってきたが、既読スルーする。今はそんな気分ではなかった。
絶対に不公平だ。クラス一番のマークも、高給を貰っている連邦軍の士官にファッションに掛ける金で勝てるわけがない。素材もいいのにお金を掛けたら勝てるわけがない。きっとあの彼氏、軍港都市からサトコを追って転勤してきたんだろう。追いかけてくるくらいだから、もう二人は出来てるんだろうな。サトコのやつ、どうやって落としたんだろう。
商店街区画は平日夕方だけあり、まばらで、街灯だけがやけに眩しかった。いや、あの密着して歩くカップルが眩しすぎる。
あ、彼氏が手を握って何かサトコに囁いている。きっと私に見せつけるためね。あ、ヤコブ家具屋に入った。中等教育機関を卒業したらすぐに結婚するって噂本当みたいね。いいな、宅配され、自分で組み立てる家具じゃなくて、オーダーメイド家具の新婚生活なんだろうな。
二人が店舗に早足で入るのを見送り、視線を戻すと、嫌な連中が歩いているのが見えた。クラス男子の気持ち悪い連中だ。この前、暫く学校に来なかったのはまた警察に捕まったとかいう噂があったから、どうしよう、遭いたくなかったな。
「アイコラ動画を見せようとマチダを録画しただけで警察が飛んできたのには驚いたよ。」
スミスは、商店街区画を仲間とつるんで歩きながら先日の出来事を話していた。
「ジョン、メッセ飛ばしてくるなよ。あのあと、お巡りがうちに来て、母ちゃんにかなり絞られたんだぞ。」
三人連れの一番背の低い男子が、声変わり中のかすれた声で返した。
「お前がチクったんじゃねーの?」
「んな訳ないだろ、お前を売って、俺に何のトクがあるんだよ。あのあと、ソフト消さなくなったんだぞ。まあ、またリンク先から似たソフト落として作り直したらいいだけだけど。」
ぽっちゃりとしたハンスが長めの金髪を掻き上げ、迷惑そうに返す。
「ポリ公ども、いつか絶対仕返ししてやる、あいつら公務執行妨害とか言って、吐いた唾がちょっとかかったくらいで俺をボコってきやがった。」
スミスは全く反省していない口調だった。
「おい、あそこ。」
今まで黙って歩いているだけだったムヒョンが斜め前を歩いているカップルに注意を向けた。
「あれ、何時も気取っているマチダじゃないか?で、あれ連邦軍の彼氏だろ?イチャイチャ見せつけやがって。」
そう、あいつを撮影しただけであんな目にあったんだ。
スミスは良いことを思いついた。クリストファーにいがこの前戻ってきたんだ。
「痛い目見せてやるか?ここは俺たちの街だって。」
「どーすんだよ。」
ハンスがどうでも良さそうに言う。スミスが変なことを思いついたときはろくな事が無いことを子供の頃から痛い程経験しているのだ。
「クリストファーにいを覚えているか?あの人に締めて貰うんだ。」
スミスは、自分の思いつきを自慢すると即、携帯情報端末を操作し始めた。
「俺、用事思い出したから帰る。」
スミスを初等教育機関から知っているムヒョンが逃げ出した。
「ハンス、お前は一緒に居るよな。」
「何言ってんだよ。俺も帰る。」
ハンスも逃げ出した。
どいつもこいつも根性ねぇ奴らだ。クリストファーににい頼んであいつらも締めて貰おう。
スミスは呼び出し画面を見つめながら暗く決意した。




