僥倖
「とまぁこれがさっきまでの出来事よ。」
「・・・。」
「どうしたのかしら?」
「いえ...私の居た天界とは起きたことが違うと思いました。」
「あくまで私とあなたの世界は別次元ということね。 次元が違えば出来事も人も違う。 あなたを見る限り、次元が違うだけではないのでしょうけど。」
「? どういう意味ですか?」
「分からない? 私の名前はカスピエル。 あなたの名前もカスピエル。」
「私達2人は同一人物なのですから当然なのでは?」
「じゃあ私達2人の違うところは?」
「違うところ...ですか? ・・・見た目ですか?」
「そういうこと。 あなたは私より髪を伸ばしていない...つまり、私はあなたの未来にあたる。」
「!? なるほど...でも次元は別なんですよね?」
「ええ。 正確にいうと私は 『あなたの来るべき可能性の未来の1つ』 よ。 私と別次元のあなたでさえ私のようになるかもしれないわ。」
「・・・あなたは、後悔していますか?」
「それは何に対してかしら?」
「天界に反逆をしていることにです。」
「していないわ。 だって私は自分の考えの方が正しいと思っているもの。」
「・・・。」
「私達天使は人の命を救うことが出来るのに全員に対してそうしない...そんなの間違ってると思わない?」
「・・・。」
「いいえ...本当は紫苑君と蒲公英ちゃんに生きていて欲しかっただけね。 ねぇ、あなたの世界には紫苑君と蒲公英ちゃんは居るの?」
「ええ。 出会いもあなたと同じですよ。」
「紫苑君は好き?」
「はい、大好きですよ。」
「なら私のようになっては駄目よ。」
「私にはあなたのしてきたことを否定することは出来ません...だって...。」
「だって?」
「紫苑君も蒲公英ちゃんも失いたくないんです...!」
「・・・。」
「出会いは些細なことだったのかもしれません...でも会う度にだんだん紫苑君に惹かれていったんです! たとえ紫苑君が私のことを忘れてしまっても私は諦めたくないし! 他の人に渡したくもないです! 天使が人間と恋に落ちるのは禁忌だと分かっています...! 分かっていますけど...自分のこの気持ちに嘘はつけません!」
カスピエルは涙を流しながら言った
「ならやっぱり、私と同じ過ちをしては駄目。 あなたは自分の気持ちを押し殺さずに生きなさい。」
カスピエルがカスピエルに抱き寄せられる
「たとえ他の天使達があなたを否定しても、私はあなたの味方よ。 だって私はあなただもの。」
頭を撫でられた
「はい...。 ありがとう、私。」
「それで、あなたはこれからどうするの? ウリエルに言われた通り私を倒す?」
「いえ、私はそんなことしません。 だって私はあなたの味方ですから。」
「フフ、ありがとう。 じゃあ私のお願いを聞いてくれるかしら?」
「何ですか?」
「私を殺して欲しいの。」
「え?」
「あなたにも運命の書があるんでしょう? 自分に使えたら楽なんだけど、運命の書は自分には使えない。」
「何を...言っているんですか?」
「もう...疲れたの。 復讐なんてしても報われないなんて言うつもりはないわ。 でも、紫苑君も蒲公英ちゃんも居ない世界で私が神になっても...もう2人は戻って来ない...熾天使達を殺してそれが段々と強くなってきたの。 だからせめて次に生まれ変われたら...そんな淡い期待を持つようになってしまった...。」
「で、でも!」
「お願い、私を助けて。」
カスピエルは切なそうに見つめる
「・・・・・・分かりました。 でもその前に私の世界に来ませんか? 私の世界になら紫苑君も蒲公英ちゃんも居ます。」
「それは魅力的だけど、遠慮しておくわ。 だって、私の知っている2人じゃないもの...たとえ見た目が紫苑君でも心は違うわ。 私の愛した紫苑君はもうどこにも居ないから...。」
「ごめんなさい...。」
「構わないわ。」
「それでは...しますよ?」
「ええ。」
「・・・その前に私のお願いも聞いてもらえますか?」
「倒してくれたのね。 ありがとう。」
「・・・早く私を元の世界に返してください。」
「ええ。」
ウリエルは両手を前に突き出し、次元の裂け目を出現させる
「さようなら、エルちゃん...。」
「・・・。」
カスピエルが次元の裂け目から出ると、紫苑、蒲公英、アルミサエルが待っていた
「エルさん!」
「エルさん!」
「カスピエル様!」
「お待たせしました。 帰りましょう。」
カスピエルはどこか悲しく寂しそうに微笑んだ




