復讐
「エルちゃん、あなたは紫苑君に恋をしたのよ。」
「ーーーーーーっ!?」
「わ、私がっ...! 紫苑君に!? ですか...?」
「ええ。」
「いやでも天使が人間と恋に落ちるなんてありえないはずです! きっと何かの間違いですよ!」
「じゃああなたの紫苑君に対するその感情に他の説明がつくの?」
「それは...!」
「エルちゃん。 天使と人間は恋に落ちることくらいあるわ。 ・・・いえ、あったというのが正しいわね。」
「以前おっしゃられていた禁忌を犯した天使ですか?」
「そうよ。 天使は神様にお仕えする身。 天使同士なら恋愛をしてもかまわないことにはなっているわ。 だけど天使と人間の場合だと大きく変わる。 神様のお話によると、天使と人間の血を半分ずつ持つ者は災いをもたらすらしいの。 だから神様は禁忌として天使達にそう教えた。」
「しかし、天使と人間の血が混ざっているからといっても私にはとても災いを起こすようには思えません。 だって天使と人間のハーフなら、天使の力さえ半分の力で引き継ぐはずじゃないですか。」
「シンプルに考えるとそうね。 エルちゃんのその考えはよく分かるわ。 でもね、そんな単純なことじゃないらしいの。」
「どういうことですか?」
「割り算ではなく掛け算だとしたら? ということよ。」
「・・・あの、ウリエル様? おっしゃっている意味が理解できません...。」
「エルちゃんさっき自分で言ってたじゃない。 ハーフなら天使の力が引き継がれるのは半分だと。 それはつまり割り算の考え。 でもこれがもし天使と人間のハーフだからこそお互いの血がお互いに高め合う作用をする掛け算だとしたら?」
「そ、そんなことがありえるんですか!?」
「あくまで可能性の話よ。 でも神様が災いが起きるとおっしゃるなら十分ありえるんじゃないかと私は思うわ。」
「・・・禁忌を犯してしまった天使はどういった方だったんですか? まさか災いを狙って・・・?」
「その天使の階級は上級天使。 ミカエルの弟子でもあり、下界の視察を行おこなっていたわ。」
「ミカエル様のですか!?」
「ミカエルにとっては最初の弟子だったわ。 とても真面目で規律を誰よりも重んじていた。 だからこそミカエルも可愛がっていたわ。 そう...誰も彼があんなことをするなんて思いもしてなかった...。 彼はいつも通り下界に視察へ行っていた。 いつもと違ったのは人間の女性と出会い、恋に落ちたということ。 彼が言うには一目惚れだったらしい...そのことが禁忌だと誰よりも把握していた彼でさえ自分の正直な気持ちには勝てなかったのよ。 彼は自分の師匠であるミカエルにそのことを相談した。 ミカエルは彼を弟子として可愛がっていたから優しくあきらめるように諭さとそうとした...しかし彼は師匠の言葉さえ響かなかった。 『恋は盲目』...彼を止められることができる者はもういなかった...。」
「ど、どうなったんですか?」
「彼は神様に話をしに行ったわ。 自分の想いを認めてもらうために。 でも神様のもとへ向かう途中にミカエルの手によって断罪されたわ。」
「そんな...! ミカエル様はその方のことを可愛がっていらしたんじゃないんですか!?」
「だからこそよ。 神様に話せばそれより辛い罰を与えられていたかもしれない...あの時のミカエルの顔は今でも忘れられない...悲しみと怒りと苦しみの表情だったわ...。 誰もそんな顔をするミカエルを責めることなんてできなかった。 そして彼と恋に落ちていた女性は、事情をミカエルから聞いた神様の手によって彼との記憶を消されたわ。」
「それじゃあその方のことはもう...!」
「仕方のないことなの。 それが私達天使に課せられた掟なのだから...。」
カスピエルは泣き出す
「彼のことを思って泣いてくれているのね...ありがとうエルちゃん。」
ウリエルはカスピエルの頭を自分の胸に抱き寄せる
「だからね...エルちゃん。 あなたの紫苑君に対するその想いは諦あきらめて...。」
「・・・! ウリエル様...?」
「私だってエルちゃんには幸せになってほしいわ...! こんなことだって言いたくない...。 でも神様の手によってエルちゃんが死よりも辛い目に合うのなら...私はあの時のミカエルのようにあなたを...!」
「そんな...。」
「だからお願いっ...!」
ウリエルはカスピエルを強く抱きしめる
「・・・はい。」
私は初めての恋...初恋を諦めました この想いは 感情は 願いはきっと持っていてはダメなものなんです... 禁忌なのですから 私は神様にお仕えする天使なのですから
そう、仕方のないことなんです... でもどうしてでしょうか...涙が止まってくれません...!
苦しい 苦しい 失恋って、こんなにも苦しいものなんですね...初めて知りました
さようなら 紫苑くん
きっともうお会いすることはないでしょう
「カスピエル、神様からの通告だ。」
「・・・通告、ですか...?」
「ああ。 下界にて調査を行うようにとのことだ。」
「・・・分かりました。」
下界...紫苑君...
でもだめなんです...
「特に異変はありませんでした...。」
「そうか...。」
「カスピエル、神様から通告だ。」
「また...ですか?」
「ねぇガブリエル、いくら何でも最近の神様からの通告多すぎないかしら?」
「俺も不思議に思っている...だけど神様はそれだけカスピエルに期待されているということじゃないだろうか?」
「期待ねぇ...。」
「その証拠に 『下級天使・カスピエルの階級を上級天使に昇格とし、天罰を与える』 だってさ。」
「エルちゃんすごいわ! 上級天使ですって!」
「私が...昇格...。」
「師匠の私も鼻が高いわ。」
「・・・。」
「私を信じればエルちゃんもすぐに熾天使よ。」
「・・・はい...。」
「ここで終止符を打つわ! ルシファー!!」
ウリエルがルシファーに剣で斬りかかる ルシファーはそれを剣で受け止める
「ウリエル、お前では俺を超えることはできないよ。 今も昔もそうだったろ?」
「たしかに昔の私なら超えることは出来なかった...。 でも! 今の私には切り札がある! エルちゃん!」
カスピエルがウリエルの左肩を踏み台にしてルシファーに殴りかかる
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「なにっ!? ぐぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「やっと...終わったのね...!」
「神様からの通告だ。 『上級天使・カスピエルの功績を認め熾天使とする。』 おめでとう、カスピエル。」
「やったわね!」
「は、はい!」
「カスピエルには二つ目の天罰 『運命の剣』 が与えられ、少しの間自由の時間が与えられる。」
「! ということは...!」
「休暇というやつだな。 まぁ熾天使はある意味いつも自由だよ。」
「フフ、そうね。」
紫苑君に会える! 蒲公英ちゃんにも!
やっと会えるんだ!!
「・・・どうして?」
調べて紫苑君の家を訪れた私の前には 紫苑君と蒲公英ちゃんが倒れていた
どんなに呼びかけても2人は起きなかった 息すらしていない
おそらく紫苑君が書いていた日記なのだろう...読むと蒲公英ちゃんが原因不明の病にかかり、亡くなった後、紫苑君も後を追った
「・・・私なら...救えたかもしれないのに...!」
『だからね...エルちゃん。 あなたの紫苑君に対するその想いは諦めて...。』
「・・・あの時だ...! あの時っ...私の意志が強ければ!!」
カスピエルの眼は激しく憎悪を映している
「ウリエルも他の天使も神も! 私が皆殺しにして! 私が神になって天界を変えてやる!!」
だから私は復讐を始めた




