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スローライフ 押しつけられました  作者: 夜昊
本編

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113/114

魔生物はふしぎ。四色の森の、いきものたちも不思議

 

 お土産のトウモロコシをバッグにしまってからは、爺様の庭を通らずにまっすぐ西に向かった。

 帰宅途中でもいくつか水たまりを見つけたので、飽和状態のオタマジャクシを引っ越しさせたり、タライに取り除いたりしながら間引いていく。

 いくつもの水たまりをのぞいてわかったのは、雨乞いガエルの個体が七色ガエルと比べて、かなり少ないということだ。


「でもなぁ。生存率は七色のほうが低いから、同じにはできないんだよ」


 七色ガエルが食欲旺盛なのは、目立つ体色をもつオタマジャクシの期間を短くするためだ。なぜ彼らは、七色なんて目立つ姿に進化しちゃったのか。遺伝子のバグか、あの神様が設計を間違ったかのどちらかだろうが、気の毒なことだ。

 ほかのオタマジャクシよりも鳥類などから狙われるので、低木の陰とかの目立たない水たまりに移したが、どれだけ生き残れるかはわからない。


《このこたち、おなかがすいてるの?》


 十年この森で生きてきたはずのガウターも、ビチビチとうごめくピンポン玉に興味をそそられている。


「そうかもね。かつお節も煮干しもないから、パンをちぎってあげようかな」


 茹でたカボチャも餌になるが、いまは持っていない。子どもの頃、学級の生きもの係だったから知っている。オタマジャクシは野菜も食べるのだ。

 そのときのオタマジャクシは、夏休み中に管理をまかされた先生が水槽に陸地をつくり忘れ、すべて溺死するという衝撃的な結末を迎えたがな。

 アマガエルは、私たちが命の尊さを学ぶ前に学校の裏山に葬られた。


《すごいね。ぼく、ごはんをたべてるとこ、はじめてみたよ》


 ガウターの鼻先はいまにも水に触れそうで、オタマジャクシから噛みつかれないか心配になるレベルである。

 アセデラで買ったパンの切れ端には、四方八方からオタマジャクシが喰らいついている。群がる様子は、さながら砂糖にたかる蟻のようだ。

 水たまりが視界にはいるたびに、救出活動をおこなうため、タライをさらにふたつ増やして、合計五個になった。選んだオタマジャクシらは自由に泳げる余裕ができた分、水たまりにいたときよりも元気そうに見える。


「…………元気になっても、結局は食べられちゃうんだよな」


 タライの中のオタマジャクシらは、小さな水たまりで圧死することも、兄弟たちから食べられることもなくなったかわりに、カエルに成長する可能性はほぼゼロになった。

 そう考えると、さっきまでの楽しかった心は急激に冷めていき、命を刈り取る死神にでもなった気分に(おちい)ってしまう。暗い気持ちでパステルカラーのオタマジャクシをながめると、視界にうつるメルヘンな世界とのギャップに、なんだか(むな)しさが強まった。


「ガウター、いっぱい遊んだからお腹がすいたよね。ちょっとだけおやつを食べようよ」


 闇墜ちする前に無理やりにでも気分をあげないとマズいと思い、ガウターと一緒に腹ごしらえをすることにした。 


《これ、すごくおいしいね》


 皮を剥き小さくカットした梨をガウターの口もとに近づけると、ペロリと大きな舌でなめとった。シャクシャクという咀嚼音(そしゃくおん)はすぐに消え、ほぼ丸呑みにちかいとわかる。

 わんこのお口は、果汁たっぷりの梨を味わうのには向いていないようだ。


「ガウターはお肉も好きだけど、野菜やくだものもよく食べるもんね。好き嫌いがないのは、すごくいいことだよ」


《ぼく、すごいの?》


 蒼いつぶらな瞳からは、私の発言をこれっぽっちも疑っておらず、信頼しているという気持ちと、凄いと褒められる自分が誇らしいという喜びに満ち溢れている。


「すっごいよ! やっぱり、魔生物だからなのかな。ふつうのわんこだったら毒になる食べ物は、わりと多いんだよ。その点、ガウターはそこらのかわいいだけのわんことは違うもんね!」


 いや、わんこはかわいいだけでも許されるし、生きていけるけどさぁ。こんなに期待されたら、ちょっと大げさになっちゃうよ。


《ぼくね、くさいのはたべないの》


 右前脚でマズルをこすりながらそういうが、この前、ニンニク入りのパスタをモリモリ食べていたと思う。あれはガウターの嗅覚的に問題なかったのか? 魔生物の感覚は、私にはまだよくわからんな。


「そっかぁ、私は納豆も大丈夫! 納豆はね、ネバネバでクサいけど、すっごく体にいいんだよ」


《ありは、すごいんだ〜》


 ガウターが心から称賛してくれるから、子どもっぽいけど偉ぶってしまう。とくに荒んでいるときには、ガウターの純真さが沁みわたるんだよね。

 おやつタイムが終わったら水分補給に水も飲ませて、虫歯にならないように浄化をかける。


「オッケー。じゃあ、先生も待ってるから急ごうか」


 その後はタライを増やすこともなく、巻きついたツタを切ったり、巨木にできた(うろ)をのぞいたりしながら、着々とわが家に近づいていった。


「ねぇ、ガウター。ここをみてごらんよ」

《なあに? あれれ、ころころがいっぱいだね》


 ドングリとはまた違うけど、クヌギっぽい葉っぱだし、リスみたいな小動物や、アナグマかイタチが冬眠用にためておいたのかもね。


《あのねぇ、おっきいとりさんのにおいだよ》

「えっ、これって鳥の仕業なの?」


 にしては、地上に近すぎじゃないの? 鳥なら襲われないよう、少しでも高いところに隠すんじゃないのかなぁ。


《どんとよりねぇ、おおきいんだよ》


 頭によぎるのは、ぼんやり間の抜けた表情で、卵を温めるトントの姿だった。あれより大きいのか。だとしたら、孔雀みたいな鳥だろうか?

 あんなのが歩いていたら、さすがにすぐに気がつくから、派手な色の羽は持っていなそうだ。

 ここは家の東側でそれほど離れていないから、ウィル様と一緒に探索したときに見ると思うんだよね。


「いつか出会ったら教えてくれる?」

《いいよ》


 まわりには手を触れないようにして、すぐに立ち去る準備をする。大切な食糧庫にいつまでもいたら、その鳥はあきらめて引っ越すかもしれないからね。




 家についてからはガウターとの約束を果たすため、ちょっとはやいけれど夕ごはんをつくった。メニューはもちろん、リクエストされたハバリーの焼肉である。

 こまかい部位名とかはよくわからないし、それほど熟成させたわけではないので、食べやすいように薄めに切ったが、やっぱり豚肉に似たような肉質だった。

 ついでにバイソンのお肉と食べ比べるべく、切りわけようと試みたが、こちらは思った以上に難航した。

 スーパーで買ったブロック肉を、一口大に切るくらいがせいぜいだった私が、半分解体みたいな作業に慣れているはずもなく、すじとか膜みたいなものを剥がして、あぶら身を取り除くだけでも達成感が得られた。


「バイソンって、脂肪はそれほどついてないや。お肉はほとんどが赤身っぽい。それに大腿骨は牛骨と同じ用途でいいのかな。これは叩いて割ってから、スープの出汁に使ってみよう」


 とりあえずやってみようと手にしたのは、重量がある後ろ脚だ。膝関節からふたつにわけて、ももの部分を切りわけてみた。

 失敗してボロボロになったお肉の切れ端や、取り除いたすじ肉はハバリーのものも残っているから、後でまとめて煮込みにでもしようと思う。

 あまりにも小さなものは、オタマジャクシの餌にすればいいのだ。

 それに、つけ合わせで焼いたナスやトマト、タマネギはもちろんのこと、マイスマイスからもらったトウモロコシのおいしさといったら、むかし青森旅行で食べた(だけ)きみにも劣らぬ旨さだと感じた。


「うん、ここも青の森だし、なにか共通点があるのかもね」


 とりあえずは三本茹でたが、二本でもよかったな。余った分は冷蔵庫にいれておこう。


「あたしはもういいわ。お茶をいれてちょうだい」


 鼻穴にトウモロコシのかけらが詰まっているのを、先生は気づいていないのか? 指摘するのも気がひけるので、冠羽を整えるとみせかけて、くちばしを撫でる。そして、その勢いではじき飛ばした。

 こっそりと魔素を使っても、先生にバレないわけがないので、今回は力技でいく。テーブルは食後に拭くから、食べこぼしなんて気にしないのだ。


《なんでぇ、じゃあこれはオイラが食ってやらぁ》


 先生は、小さなくちばしでトウモロコシを一列だけ制覇し、残りは全部レモルがお腹に収めた。

 ガウターは前歯でも、前脚でおさえて奥歯でもうまく食べられなかったので、実の部分をはずしてあげる。


《まいまいって、とってもおいしいんだねぇ》


 余るかと思ったトウモロコシは、ひと粒も残さず食べきってしまった。ガウターなど、名残惜しいのか、まだ芯をかじっている。

 プリ先生の話では、マイスマイスが二本の雌穂(しすい)以外も他人に渡すことは、かなりめずらしいらしい。

 彼らは腕っぽい雌穂が育ちきって食べごろになると、みずから切り落として亜空間収納(インベントリ)のようなところに隠し持つ性質があるという。だからダンジョンなどで倒すと、二本どころではないトウモロコシがドロップするのだ。


「マイスマイスはダンジョンの魔生物だったけど、なんらかの方法で外に出たのかな」


 もともとダンジョンでお宝をドロップするようにつくられた魔物には、インベントリの能力があるのかも? じゃあ、ダンジョンの外でマイスマイスを倒したら、ドロップ品を落として消えるんだろうか。


「やっぱりファンタジーな世界だわ」


 それを検証したいかといわれたら、返事はノーである。私はマイスマイスを倒さずに手に入れたので、最高品質のトウモロコシを食べることができた。きっとマルマの実を使ったバッティング練習に、ご満足いただけたんだろうね。

 だから、わざわざヘイトを稼いで品質が劣るものを手に入れるよりも、一緒に遊んで最高品質のトウモロコシをもらうほうがいいに決まっている。

 マイスマイスを見かけたら、またマルマの実を投げてみようと決意した。


「ねぇねぇ。おっちゃんは、なんでピョップンたちに花冠を編んでたの?」


 ピョップンたちは、取り扱いがむずかしいよね。彼らの寝起きはとくに気をつかうし、音痴な私がなだめるときには、ピョップン以外はだれもそばにこないのだ。


《オイラにもよくわかんねぇなぁ。でもよぅ。せがまれりゃあ、聞いてやんねぇわけにゃあ、いかねぇのよ》

「それで七株分、全員に編んだのか。それはお疲れさまでした」


 ねぎらいの気持ちを込めて、ウリを一本丸々渡す。サルにはバナナだろうという安直な考えだが、レモルは受けとったウリを頭上に掲げて、喜びのダンスを踊ってみせた。

 こういう行動をするから、森にくるハンターや騎士団員たちからウザいと思われるんだらうな。レモルの謎行動を楽しんでいるのは、やけに懐いているガウターぐらいだよ。


「センセー。さっき東側で、木の実を蓄えてる鳥の巣をみたよ。鳥って冬眠するのかな」


 こんなときは話題を変えて、スルーするに限る。


「アンタに説明しなかったかしら。この森で冬眠する生き物なんて、ほとんどいないわよ」


 食後のプレール茶でリラックスしていたプリ先生が、あきれた口調でこちらに視線をよこす。


「あー。雪が降らないんだったね」


 急激に気温が下がったりしないけど、森の樹木は順番に休眠するのだ。その一部の土地は、冬をむかえたと考えてもいいが、生き物たちがわざわざそこに留まって、空腹に耐える意味がない。

 この森では縄張りが広ければ広いほど、年中餌にありつける。

 果物が好きなら、夏から秋の森をめぐればいいんだし、木の実が好きなら、永遠に晩秋の森をたどればいいのだ。


「じゃあ、なんであんなに溜め込んでたんだろうね」

「趣味でしょ」

「……しゅみ?」


 趣味で木の実を集め、ほかの小動物がよってくるのを観察しているのは、フクロウだった。

 

「梟?」

「ええ」

「えっ? フクロウだよ。ほんとうに()()()()なの?」

「そうよ」


 おかしい。言語魔術はきちんと働いているのに、フクロウで間違いないと、先生はいう。

 はたして地球産のフクロウに、そんな習性をもつ種類はいたのだろうか。

 トントより大きいフクロウが、趣味で小動物の餌づけをするのか。みてみたい気持ちは強いが、とりあえずは図鑑で調べるのが先だな。


「アリ、そろそろ行かないと朝まで門前にいるハメになるわよ」


 やばっ。頭を使いすぎて、時間が過ぎていたのに気づかなかったよ。


「忘れずにミルクの容器を買ってくんのよ」

《いってらっしゃ〜い》

《気ぃつけてなぁ、アリっち。もう、みやげは気にすんなよぅ》

「ホゲッ!」「ホゲーイ」


 その後みんなにに見送られ、私はコンバに向かって走り出した。トントは卵を温めているし、チボたちは、おみやげに刈ってきたツタに夢中だ。クオッカらは軒下なので、見向きもされなかったがな。

 コンバの街にはまっ暗になってから到着したので、領主館への訪問は翌日にしようと思ったのだが、門番から声をかけられ浅い生け簀に案内してもらう。カクヮスィの飼育担当者たちが、七色のオタマジャクシをとても喜んでいたから、ことしのお米は豊作になるんじゃないかな。どんぶりご飯への期待が高まるよ。

 領主であるレオナルド様から指示されていたらしく、直径六十センチくらいのタライ五個に入った虹ガエルのオタマジャクシは、大金貨十枚にかわった。勝手に量を増やした分はオマケでもよかったのに、律儀に報酬を追加してくれたのだ。


「やっぱり、ちっこいよなぁ」


 ハバリーを売ったときに一瞬だけ手もとにあったけど、すぐ水樽に化けた硬貨だよ。

 ()金貨なのに、サイズはめっちゃ小さいんだよな。そして金貨はさらに小さい。たぶん一円玉よりもミニサイズなのだ。

 日常ではまったく使いどころのない大金貨が十枚。つまり五千オーロ! オタマジャクシが青の森の(ハバリー)肉より高いのかと慄いたが、小さな生きものを、四色の森から生かしたままで持ってくるのは、そうとう難易度が高い依頼だったらしい。


「今回は領主様の依頼だったからだまされなかったけど、大金がからむ場合はギルドに仲介してもらうほうが安心だよね」


 五千オーロと聞いたときは依頼品がオタマジャクシということもあり、それほど大金だとは感じなかった。きっとまだ私の頭は、五千()の感覚のほうが強いのだろう。

 それならば、十歳の子どもへのお駄賃としては高いけれど、お年玉ならありえない額ではないから、高額すぎることもない。

 だが、実際に大金貨を十枚もならべられては、ドン引きするレベルの金額だとわかる。

 なので、コゾウへ与えた山盛りフルーツの代金分も、レオナルド様が色をつけてくれたと考えておいた。


「あの子たちって、本当に魅了持ちなのかなぁ」


 いや、持っていたとしても、あれくらいなら許容範囲だろう。愛玩動物の標準装備と、さほど変わらないと思うし。なんなら仔犬や仔猫の魅了スキルは、精神が崩壊するレベルだからな。


「それでは、領主ご夫妻によろしくお伝えください」

「かしこまりました。それで管理者様は、本日の宿の予約はお済みなのでしょうか」


 夜も更けたので広場で野宿でもするかと、そちらに足を向けかけたか、部屋の準備もしていたようで、領主様の屋敷にお泊りさせてもらった。

 管理者といえど子どもが真夜中に、広場で野宿など許容できないと、メイドさんたちに力説されたが、私はわりとどこでも寝るので心配は無用なのだが、今夜はありがたく甘えることにしたのだ。

 メイドさんがお風呂をすすめてくれたので、全力でのっかったが、入浴しないとヤバいくらい、私が臭かったからではないと思いたい。


「しまった。お泊りセットを持ってくるんだったよ」


 どうせ重さもなければかさ張りもしないのだから、使うものはすべてバッグにいれておけばよかった。浄化で清潔だとしても、永遠に同じ服で歩くなんて、ばっちい子だと思われちゃうよ。


「はっ! だからお風呂を勧められたのか」


 ホカホカに温まり、きれいな寝間着を借りて、フカフカの寝具につつまれて眠った私だが、朝ごはんは世紀末覇者エウリコさんが、激ウマなオムレツを食べさせてくれた。

 そして寝ているあいだ以外は、美人なメイドさんがつき添い、至れり尽くせりで世話をしてくれるのだ。


「ちょっと値が張るホテルに泊まった感じだよ」


 いや、これっぽっちも経験がないので、すべて想像でしかないんだけどね。

 領主ご夫妻は昨日遅くに休んだために、今朝はゆっくりめだそうで、時間制限のある私は、料理人が働いている片隅で先にごちそうになることができた。

 フライパンを振るためだけには過剰な筋肉が、繊細な手つきでオムレツを焼くのを離れたテーブルで眺めながら、朝食ができあがるのを待つ。

 できあがったオムレツは、日本で食べたような半生の部分がまったくなくて、完全に火が通っていたんだけど、中身の野菜がジューシーで、ふんわりトロトロだった。


「おいし〜い。私のほっぺが、幸せだっていってるよ」


 一緒に食べている使用人のみなさんとも、いまは心がひとつになっている。

 握りこぶし大の丸パンも焼きたてで、カリカリの表面が香ばしく、貴重なバターが添えられているし、シャクシャクとした歯ざわりの野菜は、薄めの細切りにトロリとしたヨーグルトのようなドレッシングがかけられていた。

 さすがはご領主様の料理人だ。食後にいただくカラマンシーのジュースも、スッキリとしたのどごしで、これから活動する朝にピッタリなメニューだったよ。


「エウリコさん、おいしいごはんをごちそうさまでした! お礼に、昨日マイスマイスからもらったトウモロコシをどうぞ」


 おいしいものをもらったら、おいしいもので返す。そうやって巡り巡って、また私のもとにおいしいものがやってくると思えば、ちっとも惜しいとは思わないな。


「ぬぅ。このズッシリとした重み。そして鮮やかで瑞々しい包葉(ほうえい)。褐色で豊かな絹糸けんしも素晴らしい」


 エウリコさんが、マイスマイスの贈り物を絶賛しながら検品していく。皮をむいて粒の状態をチェックしてから、ひと粒剥がして口に入れた。


「ほぅ! 艶とハリのある実だな。うむ、甘味も格別である」


 そのとおり! キレイな緑色でシャキッとした皮を剥くと、ふっくらとした大粒の実が先端のヒゲの近くまで詰まってるんだよ。

 生で食べられるとは知らなかったけど、一口かじっただけで。口いっぱいに甘味と旨味がひろがったんだよね。


「これほどの品は、王に献上されてもおかしくはない。レオナルド様もお喜びになるだろう」


 うれしくなって、うなずくのをとめられない。

 このトウモロコシは、皮を剥く前に量ったところ、二本で一キロもあった。この重さを振り回しているんだから、あのフルスイングの空気をさく音と威力も納得できる。エウリコさんのことばには同意するしかない。


「管理者様は、うちの料理長が怖くないんだな」

「うれしそうに、食べ物をほおばっているものね」


 この日、領主館の使用人たちは、厳しい顔で検品をする武骨な料理長と、その横に立ちコクコクと頭をゆらしながら、満面の笑みでこたえる子どもの交流を、あたたかい気持ちで見守ったという。



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