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REGRET。  作者: ひととせ
第2章︰アルドール

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秘められた焔

挿絵(By みてみん)

カナリアの案内でたどり着いたのは、彼女が働くパン屋の裏手に隠された、小さく静かな倉庫だった。


使い古された木箱に腰を下ろした三人だったが、漂う緊張感は未だ拭えない。


「……ふぅ、ここなら追っ手も来ないはずよ」


胸を撫でおろすカナリアに、凪谷《なぎや》は抑えきれない疑問を投げかけた。


「カナリア、さっき言ってた『バロン』って奴のこと……もっと詳しく教えてくれないか? なんで街の人間があそこまで奴を恐れてるんだ?」


カナリアは表情を曇らせ、抱え込んだ膝に顔を埋めるようにしてポツリポツリと語り始めた。


「もともとバロンは、街の端っこでゴロツキを集めて暴れていたただの悪党だったの。……でも、ある日を境に急におかしくなったの。前の領主様や警備隊の人たちが、なぜか急にバロンを『偉大な指導者』だと思い込むようになって……あっという間に街の実権を奪われちゃったの」


「思い込む……?」


凪谷《なぎや》が呟く。カナリアは頷き、さらに言葉を続けた。


「それだけじゃないわ。バロンに刃向かおうとした人たちが、何もしていないのに急に目が眩《くら》んだり、幻覚を見たりして自滅していったの。まるで……人ならざる恐ろしい力を使っているみたいに」


その言葉を聞いた瞬間、凪谷《なぎや》と蛍《けい》は顔を見合わせた。


「……人ならざる力……それって、まさか『ギフト持ち』じゃねえのか?」


凪谷《なぎや》の呟きに、カナリアは首を傾げた。


「ぎふと……? なにいってるの? そんな言葉、聞いたことないわ」


「そうか、街の人には馴染《なじ》みがないのか……」


凪谷《なぎや》が納得しかけたその時、蛍《けい》がポシェットから大事そうにメモリーブックを取り出し、目を輝かせながら言った。


「ギフトっていうのはね、神様から授けられた特別な能力のことなんだよ! カナリアは『ロゼオ神話』って知ってる?」


「ロゼオ神話……? ロゼオって名前ならお父さんから聞いたことあるような……昔の英雄だって」


「そうそう! この荒廃《こうはい》した世界を旅した英雄ロゼオと、その仲間たちはみんな『ギフト』を持っていたんだ。彼らはその特別な力を使って、デルマの脅威から人々を救ったり、傷ついた街を復興させたりしたんだよ」


「へぇ……とてもすごい人なのね。でも、本当にそんな力があるの……?」


不思議そうにするカナリアに向け、蛍《けい》はニッと笑って見せた。


「本当だよ! だって――僕も、そのギフトを持ってるんだから」


「えっ……!? 蛍《けい》ちゃんが!?」


驚くカナリアに対し、蛍《けい》は誇らしげに胸を張った。


「うん! 僕は動物たちの声が聞こえるんだ。森にいた時も、小鳥や虫たちが色んなことを教えてくれたんだよ。神話に出てくるロゼオの親友『アゲハ』もね、僕と同じように動物と話せるギフトを持ってたんだって!」


「動物と話せるなんて……すごい……!」


感心するカナリアの横で、凪谷《なぎや》は腕を組みながら思案を深めていた。


(バロンが『なんらかのギフト』を持っているなら、あの街の人たちが平伏《へいふく》している不自然な光景も説明がつく……。だけど……)


凪谷《なぎや》の脳裏に浮かぶのは、裏路地で自分たちを助け、冷たく去っていった優珠《ゆうじゅ》の姿だった。


(優珠《ゆうじゅ》が言っていた『美味しいものが食べられるからバロンについていく』なんて言葉、絶対に嘘だ。ちょっとしか一緒にいない俺たちでもわかる。何か弱みを握られてバロンに従わされているんじゃないのか……?)


その時、ハッとした表情を浮かべたカナリアが、蛍《けい》のほうへと身を乗り出した。


「ねえ、蛍《けい》ちゃん! もし本当に動物たちの声が聞けるなら……その力を使って、バロンの情報を集められないかしら!?」


「えっ、僕の力で……?」


予期せぬ提案に目を丸くする蛍《けい》に、カナリアは真剣な眼差《まなざ》しで畳みかける。


「バロンの館の周りや街のあちこちには、警備の目を潜《くぐ》り抜ける野良猫や小鳥たちがたくさんいるわ。街の人たちはバロンの力で口を閉ざされちゃってるけど、動物たちなら館の中で何が起きているか、バロンの弱みが何なのかを知っているかもしれない!」


「そっか……! 街の動物たちに話を聞けば、バロンが優珠《ゆうじゅ》ちゃんをどうやって縛りつけているのか、館の警備がどうなっているのかが分かるかもしれないんだね!」


蛍《けい》の瞳に一筋の希望の光が宿る。


「……なるほどな。人の目や口は誤認させられても、動物たちの知覚までバロンがコントロールできているとは限らない。カナリア、いいアイディアだ」


凪谷《なぎや》も力強く頷いた。自分たちの手探りだった探索に、一気に突破口が見えた瞬間だった。


「よし……! 蛍《けい》、街の動物たちからバロンの館の情報を集めてくれ。俺たちは優珠《ゆうじゅ》を……あいつの本当の笑顔を取り戻すぞ!」


「うん、任せて兄ちゃん!」


頼もしく胸を張る蛍《けい》の言葉を受け、凪谷《なぎや》たちは優珠《ゆうじゅ》救出とバロン打倒に向け、確かな一歩を踏み出すのだった。


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