↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
REGRET。  作者: ひととせ
第5章︰闇の国“ドラグヴェイン”ー前編ー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/43

ドラフ・レギオー

挿絵(By みてみん)



街の入口には、まだ戦いの爪痕(つめあと)が色濃く残っていた。 砕けた石畳。崩れた外壁。地面に散らばる武器の破片。 ドラフ・レギオーの隊員たちは、負傷者の救護や瓦礫(がれき)の撤去に追われていた。


「……にいちゃん」


蛍(けい)が小さく呼びかけた。


「そろそろ、オニキスのところに戻ろう」


「……ああ、そうだな」


凪谷(なぎや)は頷いた。 先ほど目にした光景が、まだ頭から離れない。


並べられた遺体(いたい)。 血に染まった地面。 助けられなかった人々。


凪谷(なぎや)はゆっくりと息を吐くと、蛍(けい)と優珠(ゆうじゅ)を連れて歩き出した。


◇


「……あっ!」


街道沿いに停められた荷馬車の近くで、オニキスが三人の姿に気づいた。


「凪谷(なぎや)! 蛍(けい)! 優珠(ゆうじゅ)!」


オニキスは慌てて駆け寄ってくる。


「よかった……! みんな無事だったんだね!」 「ああ! 心配かけたな!」


凪谷(なぎや)が笑う。


「そっちは大丈夫だったか?」 「うん! 商人さんたちも無事だよ!」 「そっか! よかった!」


蛍(けい)が安心したように微笑む。


「えへへ! あたしたち、すっごく頑張ったんだよ!」


優珠(ゆうじゅ)が得意げに胸を張った。


「……うん。遠くから見てたよ」


オニキスは小さく笑う。


「みんな、本当にすごかった」


その時だった。


「――おい、そこの四人!」


背後から、低く太い声が響いた。 振り返ると、そこには黒紫の外套(がいとう)を羽織った大柄な男が立っていた。 長い髪を後ろへ流し、顎(あご)には無精髭(ぶしょうひげ)。 先ほど、拳一つでブレイクを吹き飛ばした男だった。


「……あっ! さっきの!」


凪谷(なぎや)が目を見開く。


「おう。無事だったみてぇだな」


男は四人を見渡した。


「少し話がしたい。時間はあるか?」


「……俺たちに、ですか?」


「ああ。さっきのデルマについても聞きてぇことがある」


凪谷(なぎや)は仲間たちへ視線を向けた。 蛍(けい)、優珠(ゆうじゅ)、オニキスが頷く。


「……分かりました!」


「よし。ついてこい」


男は顎(あご)で近くの建物を示した。


◇


案内されたのは、街の門に隣接(りんせつ)する警備兵の詰所(つめしょ)だった。


石造りの建物の中には木製の机と椅子が並び、壁には周辺地域の地図が掛けられている。


「適当に座ってくれ」


男は椅子へ腰を下ろすと、四人を見渡した。


「まずは礼を言わせてくれ。お前らのおかげで、街の被害を抑えられた」


「……でも、助けられなかった人もいました」


凪谷(なぎや)が小さく呟く。 男は静かに頷いた。


「……ああ。だが、お前らが救った命もある。それは忘れるなよ」


「…………はい」


凪谷(なぎや)はゆっくりと頷いた。


「さて、自己紹介がまだだったな」


男は自分の胸に親指を向けた。


「俺はゼルディアス・クロイツ。ドラフ・レギオーの北を守護(しゅご)する軍団長だ」


「……軍団長?」


蛍(けい)はそれが何かよくわからず復唱(ふくしょう)した。


「ははっ! まあ、この組織ではそこそこ偉いってことだ」


ゼルディアスは豪快(ごうかい)に笑った。


「ドラフ・レギオーは、ドラグヴェイン王国が組織したデルマ討伐(とうばつ)専門の特殊軍だ」


「……特殊軍?」


凪谷(なぎや)が聞き返す。


「ああ。ギフト持ちが多数所属していてな。東西南北の四方面に分かれ、王国内と周辺国を守っている」


ゼルディアスは壁の地図を指差した。


「今回も、この街からデルマ討伐の要請(ようせい)があって来たんだが……もう一つ、気になる報告があってな」


「……報告?」


オニキスが首を傾げる。


「この近くの村から、突然連絡が途絶えた(とだえた)らしい」


「……えっ?」


蛍(けい)が顔を上げた。


「定期的に届くはずの報告が来ねぇ。デルマが関係してる可能性もあるから、確認する予定だったんだ」


ゼルディアスは腕を組んだ。


「ただの行き違いならいいんだがな」


凪谷(なぎや)は表情を曇らせた。 先ほど見た、凄惨(せいさん)な光景が頭をよぎる。


「……何も起きてないといいですね」


「ああ。俺もそう願ってる」


ゼルディアスは頷くと、話を切り替えた。


「さて、今度はお前らのことを聞かせてもらおうか」


◇


「俺は凪谷(なぎや)っていいます!」


凪谷(なぎや)が姿勢を正した。


「僕は蛍(けい)です! 凪谷(なぎや)の双子の弟です!」


「双子か。随分(ずいぶん)と雰囲気が違うな」


「よく言われます!」


蛍(けい)が笑う。


「あたしは優珠(ゆうじゅ)! ガーディアンだよ!」


優珠(ゆうじゅ)が元気よく手を上げた。


「……僕はオニキスです。メモリストです」


オニキスも少し緊張した様子で頭を下げる。


「……ほう。ガーディアンにメモリストか」


ゼルディアスは感心したように頷いた。


「で、お前らは何のために旅をしてるんだ?」


その質問に、凪谷(なぎや)の表情が明るくなった。


「俺と蛍(けい)は、ロゼオに憧れて(あこがれて)旅に出たんです」


「……ロゼオ?あの昔話のか?」


「はい! 母さんがよく冒険の話を聞かせてくれて」


凪谷(なぎや)は笑った。


「それで、蛍(けい)と一緒に村を出ました!」


「……なるほどな」


ゼルディアスは頷いた。


「だが、今はそれだけじゃねぇんだろ?」


「……はい」


凪谷(なぎや)の表情が、真剣なものへ変わった。


「旅の途中で、デルマに襲われる人たちを何度も見ました。それに、ロゼオ・トレイルの桜もどんどん枯れていってて……」


「……ああ。あの桜か」


ゼルディアスが頷く。


「昔はもっと綺麗だったんだがな」


「俺たちは、その異変を何とかしたいんです」


凪谷(なぎや)はまっすぐゼルディアスを見つめた。


「もう一度桜の木を復活させて、ロゼオ・トレイルをもとの安全な道に戻したいんです」


ゼルディアスは、しばらく凪谷(なぎや)を見つめていた。 そして、ゆっくりと口を開く。


「……お前ら、桜が枯れる原因について何か知ってるのか?」


◇


「……実は、少しだけ分かってることがあります」


凪谷(なぎや)が答えた。


「……ほう?」


「フィアンマって、知ってますか?」


「……フィアンマ?」


ゼルディアスが眉をひそめる。


「いや、聞いたことねぇな」


「この世界には、フィアンマっていう特殊な力を持った人間がいるんです」


凪谷(なぎや)はゆっくりと説明を始めた。


「ロゼオ・トレイルの桜は、そのフィアンマが炎を灯すことで生命力を宿すんです」


「……あの桜が?」


「はい」


凪谷(なぎや)は頷いた。


「でも、フィアンマが自分の力を拒んだり(こばんだり)、自分がフィアンマだって気づいていなかったりすると、力をうまく使えなくなるんです」


「……なるほど」


ゼルディアスが顎(あご)に手を当てる。


「それで、桜が枯れちまうってことか」


「はい。俺たちは実際に、そういうフィアンマの人と出会いました」


凪谷(なぎや)の脳裏(のうり)に、ヴェルグラードの女王の姿が浮かんだ。 自分の力を拒絶(きょぜつ)し、長い間苦しんでいたビオッシャ。 けれど、彼女がフィアンマを受け入れたことで、雪国には少しずつ温かさが戻り始めていた。


「その人が力を受け入れたら、国の異変も収まり始めたんです」


「……ほう」


ゼルディアスの表情が変わった。


「それは興味深ぇ(きょうみぶけぇ)話だな」


「僕たち、桜が枯れるのもデルマが増えてるのも、フィアンマが関係してるんじゃないかって考えてるんです」


蛍(けい)が付け加えた。


「……なるほどな」


ゼルディアスは腕を組んだ。 そして、ふと何かを思いついたように顔を上げた。


「……待てよ」


「……?」


「だったら、ドラグヴェインの異変も関係してるんじゃねぇか?」


凪谷(なぎや)が目を見開く。


「……あの空のことですか?」


「ああ」


ゼルディアスは窓の外へ視線を向けた。


「三年前から、ドラグヴェインの空は分厚い雲に覆われたままだ。原因を調べても、何も分かっちゃいねぇ」


その表情が、真剣なものへ変わる。


「もしフィアンマの力で異変がおこるってんなら……あの空も、フィアンマに何かあったせいじゃねぇのか?」


「……俺たちも、そう思ってたんです!」


凪谷(なぎや)が答えた。


「実は、ドラグヴェインにフィアンマかもしれない人がいるって聞いて……」


「……ほう?」


「その人を探すために、俺たちはドラグヴェインへ向かってるんです」


ゼルディアスは興味深そう(きょうみぶかそう)に目を細めた。


「……なるほどな」


「ただ、まだ本当に関係があるのかは分からなくて……」


オニキスが小さく口を開いた。


「僕たちも、これから確かめようと思ってるんです」


「……そうか」


ゼルディアスはゆっくりと頷いた。 そして、壁に掛けられた地図を見つめた。


ドラグヴェイン王国。 三年前から晴れることのない空。 その異変が、フィアンマと関係しているのだとしたら――。


「……フィアンマ、か」


ゼルディアスが低く呟いた。


「こいつは、一度詳しく調べる必要がありそうだな。俺たちも協力する、だからお前たちも力を貸せ」


凪谷(なぎや)も、静かに頷いた。


「……はい!」


窓の外では、風に揺れる枯れた桜の枝が見えていた。 その向こうには、南へと続く街道がある。


――ドラグヴェイン王国。


暗い空に覆われた国。


そして、その国にいるかもしれない、もう一人のフィアンマ。 旅の目的が、少しずつ形を帯び始めていた。


けれど、まだ誰も知らなかった。 その異変の先に、一体何が待ち受けているのかを。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。