↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
REGRET。  作者: ひととせ
第4章︰氷の国“ヴェルグラード”

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/39

FROST。

挿絵(By みてみん)

色々あって心身ともに疲れ果てた四人はその夜すぐに寝て熟睡した。


朝起きて、とりあえず昨日言われた場所に向かった四人。


街のはずれにある指定の場所へ向かうと、そこにはすでに冷たい空気を纏《まと》った黒いコートの男が一人、静かに佇《たたず》んでいた。


既に待っていたアルヴァスに連れられ、一同は森の奥へと向かって進んでいく。


うっそうと木々が茂り、足元まで深く雪が積もった森の奥へ進むにつれ、周囲の空気がみるみる冷たく、そして重くなっていく。


「来るぞ」


アルヴァスの低い声と同時だった。


凍《い》てついた木々の陰や雪の底から、青白く不気味な光を放つ無数の影――『デルマ』たちが音もなく這《は》い出てきたのだ。一斉に四人へと襲いかかってくる。


「……邪魔だ」


氷のように冷たい呟きと共に、アルヴァスが一歩前に踏み出す。


その瞬間――アルヴァスの纏《まと》う黒いコートの裾から、周囲の雪を瞬時に蒸発させるほどの凄《すさ》まじい高熱の炎が激しく噴き上がった。


驚愕《きょうがく》するオニキスたちの前で、アルヴァスが振るった業火《ごうか》は暴風のようにうねり、襲い来るデルマの一群を焼き尽くしていく。


さらに、その炎の圧倒的な気配に呼応するように、優珠《ゆうじゅ》が背負っていた双剣をシュキィッと鮮やかに抜き放った。青と白の美しい刀身に桜の意匠《いしょう》が揺らめく。


「逃がさないよーーーだっ!」


優珠《ゆうじゅ》が軽やかな身のこなしで跳び上がり、二振りの剣を流れるような軌道で振るう。アルヴァスの炎に怯《ひる》み体勢を崩した残りのデルマたちを、双剣による鋭い連撃が正確に両断していった。


圧倒的な炎と、優珠《ゆうじゅ》の華麗な双剣さばきによるコンビネーションの前では、群れをなしていたデルマたちもなす術なく、わずか数合《すうごう》を交わしただけで次々と霧散《むさん》し、灰となって消え去っていった。


静寂が戻った森の中に、パチパチと木々が燃え残る音と、熱を帯びた白い湯気だけが立ち込めている。


優珠《ゆうじゅ》はふっと息をつくと、手際よく双剣を納刀し、青いタッセルを揺らした。


「貴方、炎のギフトを持ってるんだね! すごーい!」


興味津々といった様子でアルヴァスに話しかける優珠《ゆうじゅ》の横で、凪谷《なぎや》たち3人は、2人の圧倒的な強さとコンビネーションに若干ドン引いていた。


◇


戦闘を終えたあと、さらに森の奥へと進んでいく。


どれほど歩いただろうか。周囲の木々が一層鬱蒼(うっそう)と茂る一角で、アルヴァスは古い大樹《たいじゅ》の太い根元に隠された隠し扉を開いた。


その奥から現れた地下へと続く階段を下ると、門が設置された少し広めの空間が現れた。


厳重な警備の門番の男が立っていたが、先頭を歩くアルヴァスを見るやいなや表情を引き締めて深く頭を下げ、重い門を開けた。


その先にはいくつかの部屋が立ち並ぶ、まるで地下迷宮のような廊下が続いていた。


アルヴァスに導かれ、一番奥の部屋の前に着くと、アルヴァスは中の人物に向けて低い声を響かせた。


「入るぞ」


「どうぞ」


女性の穏やかな声が返ってくる。


重々しい扉を開けて中に入ると、豪華な椅子と机に座っている冷ややかで美しい金髪の女性と、その傍《かたわ》らに静かに佇《たたず》む深い青髪の男性がいた。


女性はゆっくりと視線を巡らせ、四人の顔を見ていく。


しかし、凪谷《なぎや》を見た時だけ、彼女の美しい青い瞳にわずかな驚きの色が浮かんだ。


女性は意味深な笑みを浮かべ、アルヴァスへと視線を向ける。


「アルヴァス。あなた、アイドクレースの末裔《まつえい》を連れて来るって言ってたのに……」


彼女は鮮やかな金髪を揺らしながら、凪谷《なぎや》を見据えて低く呟いた。


「……もっとすごい子がいるのね」


ふっと妖艶《ようえん》な笑みを浮かべた女性は、自らの胸にそっと手を当てて告げる。


「……その前に自己紹介よね。私はビオッシャ。後ろに控えているのはラピスラズリ」


ビオッシャと名乗った女性に続き、その傍《かたわ》らに控えていた深い青髪の男性も、静かに一礼しながら穏やかな声音で告げた。


「僕はラピスラズリ。……よろしくね」


「さて……さっそくだけど、私たちが今日、わざわざあなた達をここに呼んだ理由なのだけど……」


ビオッシャのその言葉を聞いた瞬間、オニキスは息を呑み、思わずその場にたじろいだ。


「び、ビオッシャ……っ!? それに、ラピスラズリ……っ!?」


その名を知らない凪谷《なぎや》と蛍《けい》と優珠《ゆうじゅ》は、オニキスのただならぬ様子を不思議そうに見つめた。


しかしその名は、この国の者であれば誰もが知る忌《い》まわしくも衝撃的な伝説として刻まれていた。特にビオッシャの名は、わずか12歳という若さでヴェルグラードの前王女を殺害したとされる、狂気と血塗《ちぬ》られた王女の代名詞だった。


そして、傍《かたわ》らに控える青髪の男性――ラピスラズリの名は、世界で3人しかいないと言われている希少な「黒の瞳」を持つ伝説のメモリストの名だった。


当時の事件以来、ヴェルグラードの王位は大きく揺らぎ、現在は前王女の弟であるギブンがその座に就いている。


そんな禁忌《きんき》の名を持つ人物たちが、まさしく目の前にいる。驚愕《きょうがく》と恐怖に目を見張るオニキスをよそに、ビオッシャは不敵な笑みを崩さぬまま、静かに言葉を続けた。


「あら、光栄だわ。私を知っているのね」


ビオッシャはわずかに微笑むと、静かに語り出した。


女王暗殺から5年。ビオッシャはアルヴァスとラピスラズリ、そして数人の兵士と共に、ギブンの追っ手から隠れながら過ごしてきたのだと。


しかし、ギブンの追っ手の影とは別に、自分達を探している謎の組織の噂を聞きつけるようになったという。


「その組織の名前が――『聖痕の旅路(ルクス・ヴィア)』よ」


ビオッシャの冷徹《れいてつ》な声に続き、ラピスラズリが静かに視線を巡らせる。


さらにビオッシャは冷ややかに言い放った。


「先日、あなたたちが出会った男――ローレン。彼こそが、その組織の幹部なの。そして……彼等の狙いは、ロゼオ神話の書かれたメモリーブックとそれを読めるメモリストよ」


ビオッシャの言葉を受け、オニキスたちは息を呑む。


さらにビオッシャは続ける。


「そして私達も、ロゼオ神話の書かれたメモリーブックを読めるメモリストを探している」


そう言って、ビオッシャが頷くと、傍《かたわ》らに控えていたラピスラズリが静かに一冊の本を机の上に置いた。


カタリと微かな音を立てて置かれたその本は、凪谷《なぎや》と蛍《けい》が持っているメモリーブックによく似ていた。


そして、その表紙には【FROST。(フロスト)】と刻まれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。