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《記録士》という雑用

 この学校は、人が少ないこともあって、

1人に一つと言っていいほど部屋がある。

 部屋にはそれぞれ、持ち主特有の雰囲気がある。

僕の部屋なら、書物と栽培している植物の香り。

ホタルの部屋であれば、猫の鳴き声と彫刻の音がする。

 そして今僕がビニール袋を片手に佇む部屋は……。


「どうだい?僕のコレクションは?」


「くるたびに聞かれる気がしますね・・・。

 相変わらずとても素敵だと思いますよ。」


「そうだろうそうだろう。

しかし相変わらず……とはいただけないな。

前にもまして、と言ってもらいたいものだ。」



 窓際から僕を臨む机へと歩きながら、

この部屋の主――――――

そしてこの学校の主でもある学長は笑った。


 彼が自慢するのはこの部屋の至るところから

にょきにょき、ひょろひょろと生える植物で。

 それを愛でる学長は机に置いた枝葉をなでる。


 彼の素質は人以外の生物とも

対話、意志疎通ができるというもので、

この学校にもう一人いる同じ能力者は、

《調教師》として非常に優秀な働きをしている。

 ではやはり彼も《調教師》なのかと言えば……


「おーい、おっさん!持ってきたぞ。」


 雑なリズムのノックとともに扉ごしのくぐもった声。


「あぁ、すまない。今開けるよ。」


 とは言いながら、学長は机から腰を上げず、

僕を見て微笑みながら右手でちょいちょいと扉を示した。


「僕が開けるんですか……」


 指示に従うのも癪だけれど、

よく知った声を無視するのも

それはそれで忍びない。

 しぶしぶ今来た道を引き返して

木製の引き戸を開け放した。


ガチャリ。


「おわっ!」


「あぶなっ……!」


 途端に部屋に飛び込んで来た

一抱えはあるダンボール箱を、

膝を使って全身で受け止める。


 次の瞬間には紅茶色の爆発頭が

同系色のカーペットに紛れ込んだ。


「あぁくそ、いってぇな。」


 顔をさすりながら起き上がったのはホタルだ。


 学長はというと、彼を心配する前に荷物が心配らしく

今度は立ち上がってダンボール箱を受け取りに来た。


「ん?なんだミズシ、いたのかよ。」


「いたら悪いんですか?それになんでヘッドスライディングなんか?」


 したたかに打ち付けたらしく、微妙に涙目な彼を皮肉る。


「ちげーよバカ。おもてぇから持ちなおそうと思って、

 ドアに膝当てた瞬間に開けられたんだよ。」


 つまり、僕が悪いのか?

いやいや。


「僕は悪くない。」


「あ?」


「そ、それより、その荷物はなんです?」 


 元から悪い目付きをさらに険呑にして、

じろりと一瞥をくれる彼を無視して本題に戻ることにする。


「これは僕がホタル君に頼んだものでね。

 うちの子たちが欲しがる栄養剤なのだよ。」


 そういって段ボール箱を開けて、

うれしそうに中からボトルを取り出す学長。


「なんでそんなものをホタルに頼むんですか?」


「そいつの原料が魔物だからだよ。むなくそわりぃ。」


 嫌そうに目をそらすホタルの言に、新たな疑問が生じた。


「蟲毒……ですか。僕の獲物を

 そんな風に使ってほしくないものですね。

 そもそも何故ご自分で取りに行かないんですか?」


 ホタルに頼んだというのなら、

彼の部屋に取りに行くのが筋だろう。

そこから運搬を手伝わせるのならかまわないが。


「蟲毒とは失礼だな。

 植物は生気を吸うのでね。

 そしてそれを効率よく集めるには、

 反対の属性を持つ魔物の気を

 取り込ませるのが一番なのだよ」

 

「俺が封紙を水に溶かして作ったの。

 確かに処理には困るからな……

 焼けるようになるまで半年はかかるが、

 お前が捕えてくる期間が短すぎて貯まる貯まる。

 でもそうだぜおっさん。なんで取りにこねーんだよ。」


「そ、それは、その、なんだ。

 彼の部屋は近寄りがたいというかだね……」


「あぁ?」


 僕はそれを聞いてピンと来た。

さっき考えていたこととも、

多分にかかわりがある言葉だ。


 彼の職業は鳥や獣を使役する《調教師》ではない。

植物を栽培、活用する《樫賢者》である。

 森の民ドルイドの名を名乗るのはご大層だが彼の実績も高い。


 では何故《調教師》ではないのかというと、

話は単純。学長は動物アレルギーなのだ。

 ホタルの部屋には常に猫がいついているため、

この学校で一番、彼が立ち寄りたくない場所であろう。


 それを避けられてると思うせいか、態度からも分かる通り

ホタルはいまいちこの学長という人物を尊敬していない。

小耳にはさんだ話によると入学時にもひと悶着あったらしいが……


「んで、ミズシはなんでここにいるんだよ?」


「おっと。いけない。忘れるところだった。

 ミズシ君、重大な要件とはなんだね?」


 そういえばそうだ。

ここへ来た本題を忘れていた。


「それがですね。今日仕事をこなす時、

 奇妙な子に出会いまして。」


「ふむ。仕事中とは珍しいね。」


再び席へ着き、栄養剤の入ったボトルを

傍らの植木鉢へと差し込む学長がわずかに身を乗り出す。


「その子がどうも素質を持っているようでして、

 くしくも学校へ行っていないというので、

 それならばこの学校へスカウトしてはどうかと。」


「なるほど。それは確かに重要な案件だ。

 それで、その子はどこにいるのかな?」


 学長が期待をこめて、

ホタルがなんとも言えない顔で

質問の答えを促してくる。


「準備があるでしょうし、一度帰宅してもらいました。

 ヤタカ先生についていってもらったので、

 おそらくこちらへ向かっている頃です。」


「そのようだね。噂をすれば、だ。」


 コンコンコン、という規則正しいノック音。


「ルミズ学長、ヤタカです。」


「入ってくれたまえ。話は聞いている。」


「はい。失礼します。」


 がちゃりと音を立てて、

三度ドアが開かれる。


 ドアをくぐるヤタカ先生に続いて、

黒いスーツに身をつつんだスズカが、

後ろ手にドアを閉めて一礼してみせた。

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