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月明かりの《封魔師》

「あー、先のは知らんが、あとの方。

それは、心当たりあるかもしれん……」


謎の来訪者については、

あれからあっさりと明らかになった。


それというのも、

彼の言葉通り兄がいたのだ。


あれからしばらく、目撃者と

帰ってきた教導師組との会議の場で、

一通りの報告を終えた後にリロイさんが呟いた。


ちなみにスズカとチヒロさんはすでに自室である。


「ふむ、イオリ君か。

私の記憶違いでなければ、

リロイ君の弟君だね?」


いつぞやの歓迎会とは異なり、

卓上には何も並んでいないが、

その時と同じ場所。


その机の上に

両肘をついて手を組んで

学長が黒衣の人物へと尋ねた。


「俺の記憶違いでもねーのか。

いっそ間違いなら良かったんだがな」


こちらは両手を頭の後ろで組んだリロイ先生。


「つまり、リロイ師の弟ぎみということですね」


「随分と擦れた小僧っ子だけどな」


手をおろしてやってらんねぇと首をふる。

それを貴方が言っても説得力ないですけどね……

そうは思ったが口には出さない。


「それをオメーが言うかよって話だがなっ!」


「どーりで、目付きの悪りぃ奴だった」


うん。空気を読めないのはこの師弟。

せめて敬語くらい使えないのだろうか。


「それで、彼はリロイ先生を訪ねてきたんでしょうか?」


剣呑な雰囲気をまとった《奪い屋》に、

本題とも言える質問をしてみる。


「それはどうとも言えんが、

まあでも、喧嘩別れに近かったから、

俺に用事なら穏やかじゃねー気がすんな」


喧嘩別れ……

この人は弟に何をしたのだろう。


「ふむ、だがイオリ君であれば、

邪魔ではあっても害ではあるまい。

それよりも気になるのが……」


「えぇ、《封魔原典》が開かれたと言いましたか?」


邪魔とはまたひどい言い様だが、

そちらの前では霞んでしまうことも確かだ。


「はい。おそらくはスズカが」


「まーなんだ、あれだろ?

まだ知らねーでやっちまったてんだから

今回はおとがめなしでも……って、

どした、ミズシ。顔こえぇぞ?」


相変わらずのオーバーリアクションで

大柄な《記録士》が大仰におどけてみせる。

どうやら顔にでてしまったようだ。


「いえ、少し気になることがありまして」


ふむ、と頷いて学長が身を乗り出す。


「スズカ君にかね?それとも……」


さすがに、思い当たる節があるようだ。


「両方、ですかね?

おそらくですが、今日の来客は

二人だけではなかったようですよ」


「ふむ…」


スズカの保護者のようなものと名乗る女性と、

リロイさんの弟だというイオリ。

その他にまだ、訪ねてきたものがいるはずで、

僕としては招かねざる客でないことを願うばかりだった。







その3日後である。1日の予定をこなし、

もろもろの後始末に追われながら、

修行を終えてヤタカ先生と別れた後。

校舎から漏れる微かな明かりを道しるべに

すっかりなれてしまった道を歩いていた。


「それにしても、《封魔原典》ですか……」


そもそもの騒動の中心だが、

あれについては気になることも多かった。


《封魔師》とは、その名のとおり

《魔物》を封じることのスペシャリストだ。

その《封魔師》にしても、精魂込めた1つの媒体に

一体を封じ込めるのがやっとなのである。


そんな《魔物》を無尽蔵に封じ、

あまつさえ分散、吸収してしまう

あの《封魔原典》は、はたして本当に

《記録士》の力で作り出せるものなのか……?


全ての《魔物》を再び飲み込んだ

あの書物を、ホタルとともに棚へ戻したが、

やはり底知れないものだと思わずにはいられなかった。


そうして、そうなると

スズカの持つあの力は、

本当に……


そんなことを考えながら歩いていると、

いきなり、目の前の世界がくるんと回った。


腰に生じた鈍い傷みに顔をしかめて、

何が起きたか把握するするとともに

真上から覗き込む向日葵の笑顔を認める。


「考えことしてるとこけちゃうよー?」


「……あなたが引き倒したんでしょう!」


「怒るとはげるよ?あ、伸びてる伸びてる」


転んだ拍子に落ちた帽子を拾いあげ、

赤い角を押し込めるように目深に被る。


立ち上がると目線を下ろさなければならない、

そんな位置にある明るい髪に毎度となったため息を漏らす。


「どうして普通に声が掛けれないんですかね?あなたは」


「ん?なんのことかなっ?」


悪意しかない笑顔に、

ストックがすくないんじゃなかったのか

と怒鳴り付けたくなる。

が、それはエネルギーの無駄でしかない。

そう思い直すと苛立ちも紛れていった。


「それで、今日はなんのようですか?」


「用がないと話しかけちゃだめなの?」


「聞いてるのはこっちですけど……」


本当にペースが狂う。

ホタルよりもひどい開いてだ。


にまにまと笑う彼女。


「そんなに感情を無駄使いしていいんですか?

ストックがないって言ってたでしょう?」


「んー、あれからリロイ先生とか、

ちーちゃんに協力してもらって

ある程度集めたから大丈夫かなー?」


聞けば修行という名目で

感情のストックを集め回ったらしい。


「そうですか。それで、ご用は?」


ぶー、とひとしきりむくれたあと、

(これは誰の感情なんだ……?)


「《だいだらぼっち》ってなに?」


一切の表情を消して、

小柄な《奪い屋》はそう呟いた。

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