夕暮れの<来訪者>
厄介なことしか起きてない。
まったくもって疫病神だ。
そんなことを思いながら、
自室への道を戻っていた時だ。
夕焼け空に溶け込む、
二つの影が見えた。
「それが君の答えか」
「だったらどうだってんだよ」
「私の求めるものではない」
どうやら疫病神は、もう一人いたらしい。
「ホタル?見かけない方ですが、
そちらはどなた様ですかね?」
「ん、おぉ」
こちらに気付いた彼が
またまた失礼なことに指で指す。
「なんか、知らん人」
「知らん人じゃないでしょう!」
ふてくされた口調で話していた
ようだが、どうやら初対面のようだ。
「失礼。わたしのことか?」
背の高いホタルと並ぶ
ホタルと同じくらいの歳か、
それよりとやや下に見える、
小柄だが存在感のある青年だ。
伸びる影に似た黒髪に、対照的な
真っ白いコートを羽織っている。
「えぇ、そうですね。うちのつれが
御迷惑をおかけしているようですみませんが、
一応、関係者以外立ち入り禁止なのですよ。ここ」
世間一般的には、隠しこそしていないものの
やすやすと受け入れられるものではない魔法だ。
何より設立計画からして開放的なものではない。
来客があるならば教導師達が出っぱらうわけがないし。
もっとも、今日はスズカあてにお客さんがいたようだが、
チヒロさんからはさすがにかえってもらったと聞いている。
それに、女の人だとかなんとか。この人ではあるまい。
「一応、関係者だ。
兄がここにいるのでね」
そっけない口調だが、
目線をそらすことはしない。
二人の様子から見ても、
彼の雰囲気をとっても、
あまり友好的とはいえそうにないようだ。
どうも事情がありそうだが、
疑いの目でみてしまうのは仕方がない。
それでなくとも、今日は怪しいことがありすぎた。
「となれば、ここが何かもご存じで?」
「保守的だな。
そんなに秘密にしたいのか。
兄がいるのだ。私も魔法の徒だよ」
ジロリ、というよりはギロリ。
ホタルとは別の意味で目付きが悪い。
あるいは、敵意の一歩手前だろうか。
「どーでもいいけど誰だよおまえ」
押し問答に飽きたのか、
ホタルが単刀直入に訊ねる。
「名を聞いているのであれば、
わたしの名はイオリという」
独特の言い回しだが、
これは利用できそうでもある。
「僕はミズシ。《封魔師》です。
素性という意味であればどうです?」
「君にこれ以上答える必要がないな」
悩むそぶりもなく与えられた
答えはとりつくしまもなかったが、
《封魔師》というフレーズを
違和感もなく聞き入れたところからみて、
関係者であることは間違いないだろう。
兄がいる、こともおそらくは。
「イロリっだっけか?
なんだか知らねぇが何のようだよ?」
「イオリさんですよ今聞いたばかりじゃないですか……
今日は色々とありましてね、こちらとしては、
あまり余計な詮索はしたくないのですが、兄、とは?」
身内の学校を訪ねるには、少し雰囲気が剣呑すぎる。
まさかスズカに吹き込んだ輩ではないだろうが……
僕の知り合いでもなければ、ホタルの弟でもなさそうだ。
「それもどうだっていい。
そちらの事情にも興味はない。
余計な詮索をしたくないというのなら、
しないでもらおうか」
「僕としては部外者じゃないという
証を示してもらわなければ、
あなたにここから出ていって
もらうことも考えなければいけませんが」
回りくどいのは嫌いだ。
要件と軽いおどしを叩きつける。
「強さとやらが、
ここにあると言ったのだ」
「はぁ?さっきからなにいってんだ」
あって数分でホタルに嘆息されるとは、
思わず相手に同情を覚えかけたが、
それでは理由になっていない。
追及しようとするより先に、
今度は彼の方から質問が来た。
「君にとって、強さとはなんだ?」
思わずまだ魔物でもいるのかと
見回してしまうほどの眼光で、
真剣な問いかけであることは理解したが、
肝心な問い掛けの真意が掴めない。
そして泳いだ視線は別のグループを捉えた。
「あれ?ミズシ君、お客さん?」
「珍しいな。見ない顔のようだが」
「あら?あなた、ここは関係者以外立ち入り禁止ですわ」
それぞれに特徴的な言葉で、
誰何する3人につられて、
イオリと名乗る少年に視線を戻す。
「……まあいい。邪魔したな」
白いコートが翻る。
また、面倒なことになりそうだ。
さりゆく背中に向かって
そんな感情を覚えた。
長い1日はまだ終わってくれないらしい。




