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《教導師》たる由縁

 1番。その番号が導いた二人は、

《言霊師》と《封魔師》の教導師だった。


「僕もついてないですね。

 まさか、あなたと当たるなんて」


「ヤタカとは去年の武闘会でも当たったものね」


 ふふふと笑みをもらすメイ先生と、

対象的にひきつった笑いのヤタカ先生。


「こりゃメイで決まりだな」


「おいまてよ!俺もメイにかけるぞ?」


「僕は期待されてないんですね……」


「僕は応援してますよー」


「ミ、ミズシ君!」


「一応」


「だから、刺さってるから!」


 試合前から早くも優劣がでている。


「まぁ、あれでもあの二人は同期だからな。

 実力は拮抗しているよ。相性が一方的すぎるだけで」


「えーっと、あなたはユウヤ先生、でしたか?」


「おう。覚えてくれたか。ありがとうスズカさん」


 そう言うとにかっと歯を見せて笑う。

僕もこの人はあまり知らなかったけれど、

案外気さくな人なのかもしれない。

……その後すぐに無表情に戻るのが不気味だけれど。


「同期……ですか?」


「ああ、ヤタカ君とメイさんのことだ。

 彼らはこの学校の一期生でね」


「そうだったんですか!」


 そこまで驚くことじゃないような気がするが。

この《私立空想職業訓練学校》ができたのは10年前。

その当時の一年生がここにいる二人とリロイ先生の弟の三人らしい。


「《言霊師》と《封魔師》は相性が良くないんですか?」


「うーん。《封魔師》にとって絶望的ってだけだ。

 《言霊師》にとっては相性抜群だよ」 


 つまり圧倒的にメイ先生が有利なのか。


 ヤタカ先生がチョークを取り出す。

メイ先生は手ぶらのまま、自然体で構える。

どうやらそろそろ始まるようだ。


「あれ?メイ先生は何も使わないんですか?」


「先生は解放の手順も言葉でできるから、

 僕みたいに何か使わなくてもいいんだって」


「先生方の試合は良い勉強になる。

 君たちもしっかり見るといい」


 ヤタカ先生が準備を終えたらしく、

顔をあげて学長にいいですよと伝える。

 かまわないわと答えたメイ先生との間に立ち、

学長が三度、開始! との宣言をする。


 ひざをつきすばやく何かを書き綴る

《封魔師》に、次々と言霊を言い放つ。

 どんな効果があるのかは分からないが、

ヤタカ先生は頻繁に印を結んでいる。

おおかた防いでいるのだろうが。


それでいて魔法陣はちゃくちゃくと

書き上げていくのはすごい。が、


「ヤタカー!それじゃ去年とかわんねーぞ」


 とのヤジが飛ぶ。それはもっともな指摘で、

前回の武闘会では彼は魔法陣を書きあげる

前に攻め込まれ、防戦の末負けている。


「そうね、やっぱりそうしちゃうと

 スズカちゃんが面白くないかしら。

 いいわよヤタカ。待っててあげるから

 一番自信がある術式を組みなさいな。

 私もとっておきをみせるから」


 メイ先生の挑発ともとれる発言に、

ヤタカ先生はしばし呆然としたあと、


「後悔してもしりませんからね」


 と言って今まで書きあげた魔法陣に水をかける。


「あなたのような相手のために用意した術式、

 どこまで通用するか見せてもらいます」


 先程より2周りは大きい円をえがき、

そこから中心へ向けて螺旋状に紋様をえがいていく。


「よし!俺はヤタカに賭けるとするか!」


「途中で変えるのはルール違反だろ!

 ……まぁ決着がつかんよりはいいし、

 メイが負けるのはあり得んからな」


「頑張れよー!ヤタカ!」


「……なんか、身も蓋もないですね」


「お父さん……恥ずかしい」


 呆れかえる娘の心、親は知らず。

がははと笑いながら行く末を見守っている。


「メイさん、いいですよ。

 言霊はできてますか?」


 複雑な幾何学模様の上に

手をついて同期の教導師を見上げる。


「いいわよ。いらっしゃい」


「あの、それがですね。

 これ、攻撃用の術式じゃないんですよ。

 あくまで封魔術ですし。なので、

 メイさんからきてもらえます?」


「あら?エスコートはしてくれないのね。

 さっきの誰かさんたちみたいには、

 手加減しないわよー?」


「……あれで手加減してたんかよ」


「なぁリロイ。俺、あの人にはぜってー

 逆らっちゃいけねぇ気がするんだ」


「奇遇だな、俺も今ひしひしとそう感じてる」


 壁際で片膝を立てて座るゲンジ先生と、

あぐらをかいたリロイ先生が、互いに顔を

見合わせて同時にため息をつく。

 

 そのままいかにメイ先生が

恐ろしいかで議論に入ってしまった。

 昼寝してると叩き起こされるだとか、

遅刻したら言い訳するなと叱られるとか、

どれも彼女が恐ろしい理由ではないので放っておく。


「メイ師の切り札か。

 気になるものだな」


「そんなに大したものじゃないと思います」


「何を言う。君の教導師であろう?」


「だから何をしようとしてるのか、

 僕にはある程度予想できるんですよ」


 そういってウララさんへと笑いかける。

その様子を何とはなしに見ていると不意に、

ぐいと頭をつかまれて反対側をへとねじられた。


「……なんのつもりですか?」


「いやー、置いてきぼりは面白くないなぁって」


目があった彼女は笑いながらそう宣う。


「じゃあチヒロさんに聞けばいいでしょう!」


「ん?なに、呼んだ?」


「切り札ってどんなのかな?」


まったく。

最初からチヒロさんに聞けばいいのに。


「えっとね――――――」


「君たち、推測も大事だが、

 おそらく勝負は一瞬だよ?

 見逃さないように気をつけてね」


 ユウヤ先生が告げる通りいつの間にか

メイ先生が手のひらを上に掲げている。


「うわ……4つ……」


 目を向けたチヒロさんが、

思わずといった風に呟いた。

 でも何が


「何が4つなんだよ?」


 ホタルも同じ疑問を抱いているようだ。


「見えない?」


「見え……ないかなっ」


 スズカが身を乗り出して

額に手を当てていかにもみてますといった姿勢をとる。

が、実際は何のことかわかっていないようだ


「僕とは圧縮の具合も違うからね。

 ほら、あのビーズみたいなの分かる?」


 言われてみれば、メイ先生が掲げた手のひらに、

何か小さな球がいくつか浮かんでるのが見えた。


「えっ?じゃああれ言霊?」


 苦笑いで首を縦にふる。

なるほど。通りで彼女が何を

しているのか、分からないわけだ。


「単純だがそれゆえに対抗しようがない。

 なるほど。数で圧倒するのだな」


 ウララさんがしきりに頷いている。


 その目が輝いている様子は、

ホタルの前にいもけんぴをぶら下げた

時の光景と通じるものがあるくらいだ。


「んー。それだけじゃねーと思う。

 数押しならなんでまだ仕掛けねぇんだろ」


 そのホタルが珍しくマトモな分析を見せた。

驚きだ。明日は青天の霹靂に気を付けなければ。


 ふと後ろに回り込まれた気がして、

体をついと横にずらす。


 うわっとあまり乙女らしくない悲鳴で

たたらをふんだのは案の定スズカで、思ったより

不憫だったから、その肩を掴んで支えてやる。


 ゲンジさんが口笛を、

チヒロさんが冷たい視線を投げかけてくるが

何か悪いことをしただろうか……?


「遊んでると本当に見逃すよ?

 スズカさん。すごいのはここからここから」


 ユウヤ先生がまた注意する。

この人も苦労症なのか。


「おい、おめぇ。

 自分名指しされてないからって

 人事だと思ってないかよ?」


「へ?ちょっと何言ってるか分からないですね」


 いちゃもんつけるホタルは無視して、

向き合う2人に視線を戻すとヤタカ先生と目があった。


「ミズシ君。君は結界系が得意だけれど

 何も対象を捕らえるだけの術式じゃないんだよ」


 魔法陣から淡い光が漏れ出す。

そのまま地面から浮かび上がった紋章が

ヤタカ先生の体に張り付いていく。


「おぉ……超能力」


「いや、ちゃんと理にかなってますからね?」


 そういえば彼には魔力を使った

発想ができないんだったか。


「へぇ?《纏い》できるんだ?」


 メイ先生が感嘆する。


「《纏い》?」


 スズカのオウム返しは僕に向けられた。

が、僕だって初めて聞いた。聞かれても困る。


「その名の通り術式を身に纏うことだよ。

 結界系なんかは、干渉を防ぐ代わりに、

 展開したところから動けなくなるからね」


 すっかり解説役に徹するユウヤ先生だが、

この人の知識量は教導師の中でも最高水準にあると思う。


「ふむ。だから自分の周りで展開して

 そのデメリットを打ち消したのですか」


 さすがはヤタカ師と恐れ入るウララさん。

だが術式は高度とはいえ戦略性が皆無だ。

 僕ならもっと巧くやれる気がする。


「じゃあそろそろ終わりにしましょう。

 あんまり長引かせても面白くないしね」


 メイ先生が手のひらを握り込む。

何か呟いてその手を開くと、

4つのビーズは消えて、

代わりに見ていて不安になるくらい、

仄暗く光を取り込むビー玉が浮いている。


「うわ……超能力」


 呆然と呟いたのはチヒロさんで、

彼女にはそれが何か理解できたのだろう。


 スズカが興味津々と見つめる中で、

メイ先生が黒い球、というより黒い霊を離す。


 静かに落ちていくそれは

そのまま地表すれすれで止まり、


 メイ先生が会心の笑みを浮かべるのと

ヤタカ先生がまずいと漏らすのは同時。


「うおっ!」


 ずずずと地鳴りを立てて

大量の砂がその言霊に吸い込まれ、

一点から直線的に放出された。


 照準は真っ直ぐヤタカ先生を捉え、

逃げた先へもピタリとすえる。


 直下を大きくへこませながら、

砂を放ち続ける言霊は、少しずつ

小さくなって、ついには消えた。


 さぁっと放射された砂が漂い、

元の位置へと巻き戻される。


 呆然と眺めるスズカとジェミニさん、

対象的にレーザーだレーザーだと

興奮して騒ぎ立てるホタルとウララさん。


 ゲンジさんとリロイさんは背を向けている。


「ヤタカ先生は?」


「そこだよ」


 壁際まで吹き飛ばされて、

身体についた砂を払いながら


「これはもう負けですね」


と頭をかいて苦笑。


「ヤタカ、防御側が先に手の内を見せたら、

 対策されるに決まってるじゃない?

 相手の術式に合わせて適した結界を張らないと」


 しりもちをついたヤタカ先生に、

手を差し伸べてるメイ先生が諭す。

その手を借りて立ち上がった彼が、


「いや、どんな言霊もかからないよう、

 暗示遮断の《纏い》開いたんですけど」


「だから、暗示遮断なんてかけられたら

 誰だって力ずくに切り替えるわよ」


……あっさりと言うし

正論にも聞こえるが、

相手の張った結界を初見で見抜くなど、

化け物の所業であり、誰にでもできるわけがない。


「《開放》《吸引》《補足》《放射》ですか?」


「おしい。《開放》じゃなくて、《復元》よ」


 手の内を見抜く化け物は、

どっちもどっちだったらしい。


 ホタルとウララさんが

すげぇ、うむ、などといいながら

メイ先生をとりまく。


 誰にでもできるよ、なんて言うが、

彼女は本気でそう思っているのだろうか……


「ね、結局あの黒いのはなんだったの?」


 ついついと裾を引っ張るスズカに

だからどうして僕に聞くんですか!

と返してからチヒロさんに視線を送る。


 意図に気付いたらしく、

こっちに歩いてくると、


「自信なくしたよ……」


とうなだれた。

それはそうだろう。


「結局あれはなんなんです?」


「合成だよ。言葉って、組み合わせで

 意味を変えたり、強めたりするでしょう?

 言霊で、それをしたわけだね」


 ますますの化け物っぷりだ。

本来は治療のために編み出されたそうだが

言霊はなんとも応用が利く力だ。


「ごめんなさいね。ちょっと寝てくるわ」


 そう言って出て行った、

もとい入って行ったところをみると、

消費が激しいというのは本当のことらしい。


「さぁて、これでといといだなぁゲンジ?」


「まあな。さ、スズカちゃん、次引いてくれや」


 頷いて、ガサガサとかきました後、

ピッと取り出しかかげたそれに書かれた番号は……


「すまないスズカ君。見えないのだが」


「あっ、すいません」


 手元に下ろして覗き込んだ

彼女は、にっばーんと宣言した。



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