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《裏占い師》の占い

「武闘会……とな?」


 ぼそりとゲンジさんが呟く。


「……武闘会だとよ」


 口角を釣り上げるリロイさん。

そこはかとなく、嫌な予感が、した。


「さっきも仰ってましたけど、

 武闘会ってなんですかぁ?」


「模擬戦みたいなものね」


 メイ先生の集中が、質問への解答で途切れる。

その結果として硬直が解けたと同時、二人の体が

さっきと別の意味で震えたのが分かった。


「「それだぁっ!」」


「それじゃないですっ!」


 歓声2つと悲鳴が1つ。


「師匠がしたいなら、勝手にしたらいんじゃね?」


「ホタル君!?」


 裏切りも1つ。


「うむ、私も先生方の試合が見たいぞ」


「たまにはいいんじゃないかしら」


「メイ先生まで……」


 どうもチヒロさんの味方は、唯一スズカだけのようだ。

その当人はというと、チヒロさんの肩にポンと手を置いて一言。


「面白そうだねっ!」


 前言撤回。彼女は敵対勢力のようだった。


 苦笑を浮かべてその様子を見ていると、

力ない笑いで応じるチヒロさんと目があってしまった。


「ねぇ、ミズシ君はどう思う……?

 まだビンゴゲームとか、やりたい企画はたくさんあるの」


 彼女からしたら、わらにでもすがりたい心境だろうな。

最期の一押しをするよりも、最後の砦になってみようか。

なにせこの分だとこちらにまで面倒が回ってきかねない。


 そう決意して今も売り言葉に買い言葉の応酬を、

延々と続けている二人にしぶしぶ割って入る。


「ダメですよ、あなた方は思う存分暴れるだけだから

 いいでしょうけど、後始末をする身にもなってください」


「お父さん。今日はスズカちゃんの歓迎会だからね?

 そこ分かってるよね。飲み会じゃないんだからね」


 ぱぁっと表情が明るくなったチヒロさんが

我が意を得たりとばかりに頷いて追撃をかける。


 静かな言葉だが、その迫力は思わず背中に汗がにじむほど。

……この子を怒らせるのは極力避けるようにしよう。


「まぁまぁ、かてぇこというなよ。

 お前さんだって見たいだろ?スズカ」


「そうですねー。まだみなさんの能力、

 見せていただいたことないですし」


 我が意を得たり。そう言いたげに笑う巨漢が、

ほれ、聞いたかチヒロとけしかける。

 ……本っ当に大人げないなこの人。


「でもよ師匠。自分のすることを賭けごとに

 しちゃいけんって言ってなかったっけ?」


 おそらく色々な勘違いがあると思うが、

この際都合が良いのであえて訂正はしない。

ナイスだ。ホタル。たまにはいいこと言うじゃないか。


「むぅ……確かに言った、かもしれん」


「やめとくかぁ? ま、武闘会規定の試合じゃ

 俺が勝っちまうのが目に見えてるしなー!」


「何をぅ?腕っ節だけなら負けんっ!」


「だからそれ、武闘会ですることじゃないですから」


「そうだよお父さん!やめとこーよ。ね?」


 二人(三人?)がかりの説得が効果を表し始めた頃。

予期せぬ人物から袖を引っ張られ、向き直るとこんな質問を受けた。


「その、賭けごとはあまり詳しくないのだが、

 それは誰が勝つかを予想するということか?」


「それだけじゃないですけど……今の場合はそうですね。

 だから自分の頑張りでどうにかなってしまうことは、

 賭けの対象としてよくないということを言ってるんです」


「何もリロイ師とゲンジ師だけでする必要はないのではないか?」


 途端、静まり返った後ろの二人。

とめどなく、いやーな予感が、した。 


「「それだぁぁぁ!!」」


「違いますぅぅっ!」


 長く尾を引く歓喜の声が静まる頃には、

あきらめがひしひしと押し寄せてきていた。









「やっぱり君はロクなことをいいませんね……」


「んん?はんかいっらふぁ?」


 ちゃっかり持ってきた手羽先にかじりつく友人へ

ため息とともに悪態をついて、なんでもないですと流す。


 どうしてこうなったと頭を抱えたくなる現状だ。 


 結局、学長から、スズカが皆の実力を知る機会を設け、

共に過ごす友人とともに切磋琢磨をする第一歩とするため。

というありがた(はなはだ)迷惑な大義名分を得て、ここ、

校舎に隣接して設置されている修行場で模擬戦が行われることになった。


 武闘会を繰り上げ開催するわけではないのでトーナメント制でもリーグ制でもなく、

1人一回指定された相手と試合を行うことになった。12人全員参加で合計6試合だ。


 組み合わせはなんらかのゲームに用いる予定だったのであろう、

1~6の番号が書かれた紙がそれぞれ2枚ずつある、6組のくじで決められた。

もちろん、2枚でペアとなるくじを教導師陣用に三組、生徒用に三組に分けてである。


 最後にくじを引いたメイ先生が、チヒロさんに話しかけている。

その様子はさきほどと打って変わって朗らかで、

なんだかんだ言ってもスズカが楽しんでいるなら満足なのだそう。


「さて、これで照らし合わせれば組み合わせがでそろうわけだが、

 試合順のこともあるし、直前に誰かがもう一度くじを引いて、出た番号と

 同じ番号を引いた二人が前に出る。それまで内緒……というのはどうだろう?」


「おんや。たまにはいいこというじゃねぇか御曹司」


「……リロイ君、その呼び方はやめてくれないかね」


「へいへーいっと」


「で、しょっぱなは誰と誰なんだ?」


「スズカちゃん、せっかくだからスズカちゃんがくじ引いたら?」


「ふむ、それもいいだろう。さぁ、引いてくれたまえ」


 良い意味で手作り感あふれるくじを入れた段ボールを

スズカの前に傾けて差し出す。満面の笑みでそれを引いて、


「3番ですっ!」


 とコールした。


「でしたら、わたくしですわね」


 正方形の部屋の奥、雰囲気で一列に座る一同から、

そう言って静かに立ちあがったジェミニさんが前にでた。


「んん!んー!!」


 ホタルが、どうも何かが喉につまったらしく、

盛大に苦しみ出したので、容赦なく背中をたたいてやる。


「ちょっ、ミズシ君どいて!」


 どこから持ってきたのか、

ホタルに水を差しだすチヒロさん。


「ふへー」


 一息ついたホタルが、俺も三番といって

立ちあがった。かと思えば、ひたと僕を見据えて、


「これ、棄権ってあり?」


「いやいやいやいや!?」


「僕ミズシ君の素の反応、初めて見た気がする……」


「やっぱなしか……」


「わたくしじゃ相手にならないとでも言うつもりですの?」


 《人形使い》さんが両手を腰に当てて前に乗り出してすごむ。

残念ながら容姿のせいであまり迫力が感じられないのは御愛嬌。


「いやだって、女だし、年下だし……やる気でねぇし」


「女だからってなめてたら痛い目みますわよ?」


「そんなんじゃなくてだな……本気でやりづらいというか」


「なるほど、では、勝者がビンゴの景品にするつもりだった

 ものを、選ぶ権利をえられるというのではどうかね?ホタル君」


 煮え切らないホタルに火をつけたのは、

主催者であるチヒロさんのピンポイント爆撃だった。


「あ、ホタル君。いもけんぴ入りのお菓子の詰め合わせあったと思うよー」


 修行場の真ん中へ歩いていって、そこでくるっと向き直るホタル。


「この試合、俺がもらったぁ!」


 びしっと景品を指さすホタルと、

ふつふつと笑いがこみ上げる一同と、

ぐつぐつと怒りを抑えきれないジェミニさん。


「あ、そうだ、こうしようぜ。その人形使うんだろ?

 壊しちゃわりぃし、5分以内にそのへんてこりんな人形で

 俺に触れたらお前の勝ち、無理だったら俺の勝ちってのはどう?」


「っ~~!上等ですわ!その発言、1分で後悔させてさしあげます」


 顔を真っ赤にしたジェミニさんがコツコツと真正面に立つ。


 地面には砂が敷き詰められ、一片20メートルほどの

狭いとも広いともいえない単純なバトルフィールドである。

その条件は、なんともホタルに不利なように思えるがはたして……。


「二人とも頑張ってねー!」


「まかせとけ。勝つのは俺だ」


「あなたに言われるまでもないですわ!」


 スズカの朗らかなエールにそれぞれの流儀で答えて、

ホタルはだらんと立ち、ジェミニさんは両手に板を構えて、

そこからつながる糸で愛用の木人形を地面に下ろす。


「俺はもちろん、ホタルを応援すっからな!」


「じゃあ俺はジェミニに賭けるとするかな。

 先輩だからって遠慮して負けんじゃねえぞ?」


「案ずるな。私の占いでは君がホタル君に勝つとでているよ」


 それぞれの師がそれぞれに応援を飛ばし、

言いだしっぺの方々もそれぞれの支持が決まった。

ここぞとばかりに学長が立ちあがって、対峙する二人の間に手を伸ばす。

 そのまま、その手を上に振り上げて、「開始!」との宣言。

 

 まっさきに攻勢を仕掛けたのは、ジェミニさん。

正しくは、ジェミニさんの操る木人形。

10センチほどの背丈で、威力は心もとないが、

その分そのスピードは侮れないだろう。

ましてや、彼が持ちだした条件はそのスピードが鍵となる。


「おっと」


 気付いたら肉薄していた人形の突進を、紙一重でよける。


 ジェミニさんはにやりという表現がしっくりくる

笑みを浮かべて、手元の板で糸をしごく。

すると、空中でぴたりと静止した人形が

くるりと振り返ってホタルへと向きなおった。


「人形と侮ってらして?この子は人よりよほど俊敏ですわよ

 こんなこともできますし……ね!」


 語尾を気合いがわりに両手をクロスさせ、振り抜く。

その結果、板の動きに合わせて人形がぴくりと跳ね、

空中を蛇行してホタルに迫る。これではさっきのよけ方は通用しない。

とてもまだ一年生とは思えない糸裁きで、巧みに人形を操る。

その様はもう、《傀儡師》と呼んで差し支えがないレベルだろう。


「すげぇすげぇ。でも、それ見たことあるなー」


 すっと横に動いて、その軌道から外れるホタル。

その独特な身のこなしは一種の武術かとも思うが……


「反復横とび、だよねぇ?」


「えぇ。……ただの反復横とびですね」


 思わずスズカと顔を見合わせて苦笑。

しかし効果は高いらしく、糸を伸ばした

ジェミニさんの背後まですばやく回り込む。

 

「ついでに後ろには糸が伸びんのも記憶してるぜ?」


 慌てて糸を手繰り、人形を引き戻すが、

その隙を逃すほどホタルはお人好しでも……


「んー。1分経ちましたぜー?」


 ……ドがつくぐらいのお人好しだった。

のんびりと壁時計を睨んで立っているだけで、

攻撃するそぶりは一切みせない。

 ちなみに、彼の視力はそこそこ悪い。


 気になるのは、先程のウララさんの占い。

彼女の占いは僕が知る限り、必ずと言っていいほど……


「まだ5分は経ってませんわ」


 凛とした響かせて、板から新たな糸が伸びる。

どうやら板自体も細工がされた魔道具らしく、

次々と糸が人形に張り付くたびに、

木人形はその動きをさらに加速させていく。


「おっととと、さすがにこれ以上はあぶねぇかな」


 どこからでてくるのか、

今だに余裕を見せるホタルが、

何度目かの突進をひらりとかわして、

板と木人形との間に手を振りおろした。


「あっ!」


「弱点丸出しはいけんと思うぜ」


 そのまま何かをまきとるように、

手をぐるぐると動かして、放す。


 がちゃがちゃと板を鳴らしても、

人形に明確な命令は届いていない。


「その糸、物理的なものにするならせめてワイヤーとかにしろよ」


 そこに、だむっと足を踏み下ろしたホタルがそう語りかける。

がっくりとうなだれたジェミニさんの持つ板から、

はらりと糸が落ちたのが見えた。どうも、

糸がからまったところをふみつけられてちぎれたらしい。


「まだ時間あるけど、もう終わりでいいよな?」


 唇をかみしめていたジェミニさんだが、

スズカのあと20秒という声に顔を上げた。


「油断大敵、ですわ!」


「おおっ!?」


 彼女がくっと引っ張る板からは、いつの間にか糸が伸びていて。

その先につながるのは、もちろん彼女の相棒である木人形であった。


「切れた糸を捨てて新しい糸をつなげたのね……

 なかなか頭が回るじゃない、あの子」


 メイ先生の言う通り、急速に迫る木人形。

その不意打ちの一撃が、この試合の勝敗を決した。









「くっそ!まさかあそこでホタルの野郎がこけるとは思わなかった!」


「ホント、やってくれるわね」


「そりゃ俺様の弟子だからな!うわははははは」


 ゲンジさんが高笑いでリロイさんの肩を叩く。

まずは一勝をあげた巨漢が自らの弟子をねぎらう。


「ナイスじゃねえか!」


「いや、その、納得いかねぇ……」


 それもそうだろう。

あの時、背後からの不意打ちをよけるため

横に飛びのけようとしたホタルに対して、

そこまで予測して蛇行軌道を向けていた。


 が、ジェミニさんの誤算は、

ホタルが踏み下ろした足が糸にからまっており、

飛び損ねたホタルがその場で「へぶっ」

という悲鳴とともに転倒したことだ。


 楕円軌道で人形を動かすには、

空中に浮かせる必要があるわけで、

地面にはいつくばったホタルには当たらない。


 あわてて人形を受け止めたジェミニさんが顔を上げた時には、

もう5分を知らせるアラームが修行場に鳴り響いていたのだった。


「こ、こんなのってあんまりです……」


 勝利の確信を得ていたであろう彼女を、

その師が「私の占いでは君が勝つとでたと言っておいたろう」

と慰めている。それはなにも勝てたはずだという意味ではなく……


「私の占いは、絶対に起こり得ないことを当てるものだからな」


 さわやかな笑顔で言い切ったウララさん。

その数分後に彼女は、スズカの読み上げた6番のコールに腰を上げ、

同じくそれを聞いて遠慮がちに進み出たチヒロさんと向き合うのだった。



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