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《転入生歓迎会》

 好き勝手騒いで騒がしかった面々も、

学長が立ち上がりグラスを掲げたことで

徐々に落ち着きを取り戻していった。


「まずはスズカ君」


「はい」


 長机の末席、人形使いのジェミニさんの

前に座った《奪い屋》の彼女が立ち上がる。


「いや、座ったままで構わないよ。

 君のための席なのだから」


 珍しく気遣いらしきものを

みせた学長に御礼を述べて着席。

それを見計らって口上を続けた。


「君の決断に感謝するよ。

 我々の仲間となってくれることを嬉しく思う」


 そこで一旦言葉を区切り、

教師陣から歓迎の野次が飛んだ。


 スズカは照れたようにはにかんで、

こちらこそ皆様のご厚意に篤く御礼申し上げます。

といった難しい形式ばった挨拶を返す。


 こういう発言がさらりとでてくるあたり、

実は富裕層あたりの令嬢かと思うのだ。

……ワガママ、もとい自由奔放な一面もあるし。


「おいおい、もう身内みたいなもんだろ?

 気軽にやろうや。くすぐってぇぜ」


「あなたはもう少し礼儀をわきまえてください……」


「ミズシ、おめぇもいい加減そんな

 かたっくるしい言葉遣いやめちまえやめちまえ」


「それ、僕にも刺さってるんですけど……」


 より付き合いの長いヤタカ先生が口を挟む。


「どうでもいいから、早く食おうぜ。

 おっさん、とっとと乾杯言えよ」


「そういえば君もでしたねホタル……」


「ミズシ君も丁寧なのは言葉遣いだけだよね?」


「スズカさんにだけは言われたくないですね」


「とりあえず、静かにしてくれないかね?

 ましてや早く食べたいなら」


 珍しくこの人と意見が一致した。


「ちょっと待ってほしい

 ひとつだけいいだろうか?」


 静まり返ったのもつかの間、

今まで沈黙を保っていた先輩が手を上げる。


「構わないよ。何かな?」


 立ち上がり、ホタルを挟んで末席に座るスズカを見据える。


「自己紹介をさせてほしい。

 まだわたしは名前を教えてもいない」


 ……そういえばそうだ。

スズカにとって、初対面の人が

この場には何人かいるだろう。


 スズカも立ちあがり、今度は学長も頷く。


「あ、えっと遅くなってすみません。

 私はスズカっていいます。

 職業は《奪い屋》させてもらってます。

 みなさん、よろしくお願いします!」


 ぺこり。とでも形容したくなる、

ポニーテールが跳ねるお辞儀。


「なにも謝ることはない。

 わたしはウララという名だ。

 職業は《裏占い師》。よろしく頼む。

 それと先程は教え子が迷惑をかけたようだ。

 申し訳ない。君も、いちゃもんをつけるより

 先にまず自己紹介くらいはするものだ」


 こちらは整った仕草で軽く頭を下げる。

隣でずっとお皿を見つめているホタルの座高と、

そう変わらないのは言わぬが仏というものだろう。


 後半のセリフは僕の隣のジェミニさんに向けたもの。

 ちなみに席順を整理しておくと、向かって右奥から手前の6人は、

学長、ヤタカ先生、ゲンジさん、チヒロさん、僕、ジェミニさん。

 その向かい、左奥から手前への6人の席順は、

ユウヤさん、メイ先生、リロイさん、ウララ先輩、ホタル、スズカの順だ。

 ……どうせ食べ始めたら席順なんてあってないようなものだが。


 そんなことをつらつらと考えている間、

隣で小刻みに震えていたジェミニさんが、

仕方ないですわねとつぶやいて立ちあがる。


「一回しか言いませんから、

 よく聞くことですわ。

 わたくしはジェミニ。

 《人形使い》をしていますの。

 これからは扉くらい、

 静かに開けてくださるかしら?」


 あくまで挑戦的な態度を崩さない。

まぁ、それはスズカに対してだけじゃなくて……


「そこのあなた?いい加減

 フォークを置いてくださらない?

 意地汚いですわ」


 いつの間にかフォークを握りしめていた

ホタルにもその矛先は向いている。


「うっせぇなぁ。ちんちくりん。

 そんなんだから大きくなれねーんだよ」


「なっ……!」


 絶句。わなわなと。ひくひくと。

ホタル、やっぱり君はロクなことをしない。


「ほれ、お前の先生はそこよーくわかってるぞ」


 ホタルが指さした方を見ると、

ん?と小首をかしげた《裏占い師》さんが

いつの間にか座ってフォークとナイフを構えている。


 あー……この人、天然だったのかぁ。


「あの、ウララさん。食べたからって

 横にしか大きくなりませんよ?」


「何を言うのだミズシ。ホタルは縦にしか伸びてない」


 ご、ごもっともです。けどそれは体質とかの問題じゃないかな。

《人形使い》さんが何か言おうとしたが、それを低い声が遮った。


「俺も挨拶がまだだったな。

 《調教師》のユウヤ。

 一応肩書きは副学長だが、

 やってることは雑務だ。

 何かあれば気軽に頼ってくれ」


 学長の横合いからユウヤさんが言う。

分かってやったのだとしたら、ありがたい気配りだ。


「はい。よろしくお願いします!」


「これで、ひとまずは自己紹介が終わったかね?

 では、せっかくのチヒロ君の用意してくれた料理が

 冷めてしまわないうちにいただこうか」


「僕が作ったのも少しはあるけど、

 御店で作ってもらったのが多いから、

 絶対美味しいですよ!食べてください」


「おう、ごっはんごっはんーー!」


「君は食べることしか興味がないんですか……」


 誰からともなく、両手を合わせる。


『いただきます!!』


 がやがやと騒がしい、歓迎会というよりただの

宴会の様だったが、それでもスズカは楽しめているらしく、

チヒロさんと笑いあったり、リロイさんに肉料理を勧められたりしている。


「こうやってみんなで食うのはいいな……!」


「そうだな。わたしもひさしぶりだ」


 ホタルとウララさんはウマが合うらしく、

これが美味い、あれがおいしいとハイペースで皿を減らす。


「あ、お父さん、これありがとね!」


「ん、おう。しかしよくこれだけ買ってこれ――――――」


 チヒロさんがゲンジさんに巾着を渡す。

それを見た瞬間、いつもはオーバーアクションな

骨太の巨体が凍りついたように動かなくなった。


「おまっ……これ、全部……」


「え?うん!僕楽しみだったから

 ついつい奮発しちゃった!」 


 満面の笑みの愛娘に珍しく壊れた笑いの父。

まぁ、その巾着のしぼみ具合と豪華な食卓を見れば

ゲンジさんの受けたショックの大きさが分かる。

 その口から全財産、食費などが漏れ聞こえたが、

何か思いついたらしく、ふいに顔をあげて


「な、なぁチヒロ!もちろん、

 レシートはとってきてくれたんだよな?なっ?」


「あ、ごめん。いらないって言っちゃった。

 お父さんもしかして欲しかった?」


 その一言で完全にとどめ。


「くははは。

 残念だったなぁゲンジ!

 経費で落とせなくてよ」


「チヒロ……今日からしばらくおかずないからな」


「えっ!?なんで!お父さん?」


 チヒロさんが信じられない

といった様子で振りかえる。


 そうだよな普通巾着の中に

全財産入れ歩いてる人いないよな。


「なんでってそりゃ……」


「ぶははは。ぶはははは」


「そうだリロイ、賭けしねーか?

 いや、笑ったからしろよ」


「おう、いいぜいいぜ。

 白飯も食えなくしてやるよ」


 大人って大変だなと、

楽しそうな子供世代を見て思う。

 普段は生意気なところが目立つ

ジェミニさんでさえ、紅茶を片手に

ユウヤさんやヤタカ先生と話している。


「ミズシ君は混ざってこなくていいのかしら?」


「メイ先生。先生こそ、リロイさんとゲンジさん。

 あのまま放っておいていいんですか?」


 会話には直接参加せずに、

ときたまつっこみを入れていると、

メイ先生がジェミニさんの空けた椅子に

座り話しかけてきてくれた。


「大丈夫よ。私が行く方が厄介になるわ」


「それは、そうかもしれませんね」


 なるほど、火に油は避けよう、と。

僕とこの人とは考え方が似ているかもしれない。


「それにしてもスズカちゃんがきてくれて良かったわ。

 あの子、同世代の女の子のお友達がいなかったから」


「あぁ、それはそうですね。あんなんでも、

 ホタルがいて良かったと思いますから」


 願わくばもう少し静かな人なら良かったのだけれど。


「ふふ。素直なのか、そうじゃないのか

 良く分からないわね。君は」


「まだ分かりやすい方だと思いますけど……」


「それもそうね。あの子たちと仲良くしてあげてね」


「ええ。あんな風になっても面倒くさいですし」


 そうやって指さした先には、


「こ、れ、は、俺のだぁっ!」


「あなたはもうたくさん食べたでしょう!?

 おとなしくわたくしに譲るのですわ!」 


 最後の手羽先を取り合う二人。

やいやいといがみあってる隙にスズカが、

ひょいっと手羽先をかっさらって口に入れ、

今度は二人息をぴったり合わせて抗議。


「そう?あれはあれで楽しそうだけど?」


「じゃあ、メイ先生はなんであそこに混じらないんですか?」


 麻雀だの将棋だの囲碁だのと連呼し、

それじゃ俺が不利だ!俺囲碁しらねぇよ!

と言いあっている一角を指さす。


 平和なのはバイキングスペースで立談している

ジェミニさん、ヤタカ先生、ユウヤさんくらいのものだろう。


「やぁねぇ。さっきから言ってるじゃない。

 私は貧乏人からお金を巻き上げたりしないわ」


 ふふ、と怪しげな笑みとウインク。

この人もどうやら油断できない人物らしい。


「おう!上等だ!」


 ついに何で賭けをするか決まったらしく、

リロイさんがコートを脱ぎ捨て腕をまくる。

ゲンジさんのタンクトップからむき出しの腕には

盛り上がったちからこぶが存在感を放つ。


「求めよ。されば与えられん」


 リロイ先生が何やらつぶやいた。


「先生ー?それはどういう意味ですか?」


「欲しいならかかってこいってことだよっ!」


 そういうなりゲンジさんが地面を踏み締める。

なるほど、厄介な事になりそうだ……。


 チヒロさんが今にも泣き出しそうな顔を

しているのが、少しいたたまれなくなった。

仕方ない。気は進まないけど仲裁した方がよさそうだ。


「はいはい、そこまでにしましょうね」


 ふところからボタンをとりだしたところで、

メイ先生の行動の方が早いことに気付いた。


 彼女はとても聞き取れないような

早口で何かをつぶやいて手を伸ばす。

 パン、という小さい破裂音とともに

今にも取っ組み合いを始めそうな二人が固まった。


「どうして先輩方はそうやって暴れるのかしら?

 特にゲンジさん?娘さんが悲しむわよ?」


「ねぇお父さん……?リロイさん?

 僕たちは何のイベント中でしょう?」


 静かな、しかし圧倒的な迫力を、

《言霊師》師弟が全身から放っている。


 だらだらと汗を流す《記録士》と、

ひきつった笑いの《奪い屋》二人は、

それぞれ固まったままで謝罪の言葉を発した。


「実力行使は怪我しなければ良いことだがね。

 今はスズカ君の歓迎会であって、君たちがしたかる

 武闘会ではないということを自覚してくれないかな?」


 この日一番の厄介事は、言わば、

この学長の一言から始まったのだった。

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