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生意気な《人形遣い》

「まったく……どうして僕が。

 チヒロさんの部屋なんだから、

 彼女が行ってくれればいい話じゃないですか」


 夕暮れ時の校舎を背に、

もうこれ以上この道を往復してやるものか

と改めて決意を固めながらぼやく。

 やっぱり面倒な事になってしまった。


「ん?おーい」


 それというのも、最高に面倒な用事を任されたのだ。

ここ最近次から次へと厄介事が舞い込んでくる。


 依頼主曰わく、

「お願い!ミズシ君。

 もう少しで準備できるから、

 スズカちゃん呼んできてもらえるかなぁ?

 僕の部屋で休んでると思うんだけど」

とのことだ。


 当然、先の独り言のような反論をした。


「じゃあ、ミズシ君準備頼んでいいの?」


 結果は現状の通りで、ぐぅの音もでない。

その代わりに苛立ち混じりの独り言なら幾らでも。


「……もしもーし」


「だいたいスズカが来てからロクなことがないんですよね。

 わけのわからない魔物はでてくるし

 こうしてつかいっぱしりにばかりされるし……」


 はぁ。どうにも疲れる。


「だからって俺を無視するんだな?ミズシ」


「これ以上厄介事は背負いたくない

 と言ってるつもりなのですが。君はいつもいつも

 ロクなことしないんですからね。ホタル」


 仕方なく振り返って、

この寒い中タンクトップという

正気を疑うような出で立ちの友人を迎える。


「いや、厄介事とかじゃなくてよ。

 あいつなら、さっきでてたっぞ」


「は?」


「いや、あいつさっきどっか行ったぞって」


「スズカ?」


「そう、それ」


 思わず頭を抱えたくなった。

ずり落ちてくる帽子を押さえて、

同時に湧き上がる怒りも抑える。


「なんでじっとしてられないんですかね……

 彼女は。で、どこにいるんですか?」


「知らん。部屋じゃねぇの?」


「は?」


 ちょっと何を言ってるか分からない。


「つまりどこに行ったかは知らないんですね?」


「だから部屋にいるんじゃねぇの?」


 思わず額に手をやり、首を振って

これでもかと、深く、大きく、溜め息。


「それって、さっき出掛けたけど

 もう今は帰ってる、ってことです?」


「そう、それ。たぶん」


「そう、それ

 じゃないですよ!まったく。

 だったら言わなくていいじゃないですか!」


 ホタルは細いむき出しの腕を組んで、

しばらく何か唸っていたが、やがてぽつりと。


「うーん、何してるんだろーなって。

 まぁあんま細けぇことは気にすんなよ。

 お前さんも男だろう?」


「仲がいいのはけっこうですが、

 師弟揃って同じことを言わないでください!」


 《記録士》という職業には、

案外雑な人が向いているのかもしれない。


「で、君も来るつもりがあるんですか?」


「なんで俺が。あるわけねーだろそんなもん。

 だいたいあいつはどうも信用できねーんだよ」


「でも、だったらなんでここで待ってたんですか?

 しかもわざわざスズカの動向にまで気を配って」


 ホタルは天邪鬼なところがあるので、

額縁通りに言葉を受け取ってはいけない。

 同じ言葉にまつわる職業に関わっている

《言霊師》さんとの大きな違いでもある。

 《記録》とはけして正確なものでも、

真実でもないとは彼の師匠の言だったか。


「バカ言うなよ。そんなわけねぇって。

 俺はただ……その、なんつーか、

 目ぇ放したらなんかしそうでな、あいつ」


「結局見張ってたんじゃないですか。

 彼女が女の子と理解したでしょう?

 あんまり付きまとうのは問題がありますよ」


 とりあえず歩き出してみると、

まだ何か用があるらしく、

後から彼がついてくるのが分かった。


「それで、何のために待ってたんですか?」


「ん?えぇっと……

 歓迎会の場所って、どこだよ?」


(はぁ。疲れる。それだけですか……)


「じゃ、案内してあげますから、とりあえず

 チヒロさんの部屋まで彼女を迎えに――――」


「だーれだっ?」


「っ!?」


 突然、目の前が真っ暗になった。

かと思えばそんな弾んだ声が聞こえてきて。

 帽子がぱさりと音を立てて落ちたのが分かった。


「スズカさんですね?

 いい加減にしてください!」


 しゃがみながら軽く走って、

目に当てられた彼女の手を振り解く。


 そこにいたのはこれまた寒くないのか

不思議になるくらい短いズボンの女の子。

案の定《奪い屋》スズカだった。


「なんでここにいるんですか!」


「んー?まあいいじゃん。

 細かいことは気にしちゃダメだよ!

 男の子なんだからさー」


「よくありません!気にします!

 というかいつからいたんですか!」


「まったくーどうして僕が

 って言ってた時くらいかなー」


「ずっとじゃないですかっ!」


「はいはーい。そうかっかっかっかしないしないー

 どうせ呼びに来てくれるつもりだったんでしょ?」


 何が楽しいのかケラケラ笑う。

その声に比例して、僕の影も伸びる。


「おーい?ミズシ?

 つの伸びてるぞつのー」


「分かってますよ!」


 かがんで帽子を拾って、ぱんぱんと砂を払う。


「何がしたいんですかあなたは」


「だって、ミズシ君面白いしー」


「それはどうでもいーから、

 こいつも来たしとっとと行こうぜ。

 寒くてしょうがねーよ。腹減ったし」


「そうだねー。もう冬だもんねー」


「どの口で言ってるんですか……」


 この人たちは鏡を見る習慣がないのだろうか。

今一度自分の服装を確認してほしい。

 三人で並んで、来た道を引き換えす。

 よく考えたら歓迎会終わってから、

またこの道を通らなきゃいけないんだよな……


「そんな恰好寒いに決まってるでしょう。

 特にホタル。なんでいつもタンクトップなんですか。

 冬なめてるんですかバカですか死にたいんですか」


「あーあーそんないっぺんに聞くなよ。

 わっかんねーだろうがバカたれ」


「でも確かに、寒いんなら

 なんで上着着ないんですかー?」


 寒いんならなんで長ズボン穿かないんですかー?

という質問は、とりあえずたなあげしといてやろう。


「なんでってそりゃ……

 袖とかあったら、切るじゃん」


「えっと、切る?袖を?」


「いや、わざとじゃかくてだな。

 こう、掘ってるといつの間にかぱさっと……」


 ようするに、石板に文字を彫っていると、

いつの間にやら袖を切りおとしてると?


 よくそれで腕を切らないものだと思ったが、

改めて見ると彼の腕には無数の切り傷がついていて、

まぁ切りおとしてないだけマシかと思い直した。

 なぜわざわざあんな小太刀を使うのか。


「ホタル君ってもしかして……不器用?」


「もしかしなくても不器用ですよねー」


「うるせぇっ。よけーな御世辞だ」


「それを言うなら、余計な御世話ですよねー」


 ふてくされる彼に追い打ちの一言。


「ホタル君ってひょっとして……バカ?」


「ひょっとしなくてもバカですよねー」


「バカって言う方がバカなんですーだ!」


「君今2回バカって言いましたけどね」


「う、うるせぇ!」


 こうやってわいわい騒ぐ帰り道は、

行きしなよりもはるかに早く感じるもので、

そうこうしているうちに歓迎会場へとたどり着いた。

 いつのまに校舎内に入っていたのか覚えてないくらいだ。


「およ?おいしそうな匂いがする!

 ここがそうなのかな?」


「そうですね。

 さ、開けてください」


「とりあえず、ノックした方が良いよね!」


 たのもー!とでも言い出すかと思えば

そんなこともなかったらしい。


 コンコンコン、と扉をうつ。


「入って入ってー!」


 とチヒロさんの声がした。


「たっのもー!」

 

 バンッと勢いよく両開きの扉を引き開けたスズカ。

いや、前言撤回。やはり彼女はそういう人だったか。

 部屋は上手く飾り付けられていて、

派手すぎないがにぎやかな雰囲気につつまれている。

 この繊細な仕事ぶりはチヒロさんかメイ先生だろう。

 部屋の真ん中には、バイキング形式の料理が並ぶテーブルと、

12人分の用意がなされた、みんなが腰かけるテーブルが置かれている。


「おうおう。元気だなスズカ!」


 腕組みして(なんと、服装はタンクトップだ)

ガハハと笑う大男と、隣で苦笑いのヤタカ先生。


 その二人の対面となる形で座っていて、

「あんままたせんなよ」と笑って声をかけるのがリロイ先生で、

「じゃあ始めましょうか」と同じくにこやかにメイ先生が続ける。


「うむ。3人とも、早く席につきたまえ」

 そのさらに奥でこんな場所でも観葉植物を持ちこんでいる学長と、

その向かいの青紫の髪をした細目の無表情、副学長のユウヤさん。


 奥からの序列という定石を踏まえているらしく、

教師陣から奥の方に座っているようだ。


「こっちこっち!」と手を振るチヒロさんはゲンジさんの隣で、

その正面にはホタルと同じ紅茶色の髪をした背の低い女の子が座っている。 

 黄色い半そで半ズボンという服装の彼女は唯一の3年生であり、

教導士から学び納めと判断されて、今は後輩の指導を行っている。

 

 彼女たちの隣が空席となっていて、一番手前の、

扉に近い席に座ってこちらを睨みつけているのがその後輩。

 女の子らしいドレスに身を包んだ彼女は、スズカと同じ褐色の瞳をしている。


 と、おもむろにその子が立ちあがり、

にへらにへらと一礼するスズカに指を突き付けた。


「人を待たせておいて、なんですのその態度は!

 貴女からはこの学校の生徒であるという自覚が感じられませんわ!」


「そー言われてもねぇ。

 まだ2日目ですしおすし」


「すし?すしもあんのか?」


「あなたは少し黙ってらして?」


「あぁ?」


 あっと言う間に険悪な雰囲気が漂う。

そういえば前回の、この子の歓迎会以来

ホタルとの相性が悪かったんだっけか。

 だがスズカとの相性はそれ以上に悪いらしい。

 ちなみに彼女の職業は《人形使い》というもので、

腕には木製の人形と、それにつながる糸をつけた板を持っている。



「まぁ、今日は貴女の歓迎会ですし、

 おおめに見てさしあげますわ」


「それはどうも。よろしくねー」


「ようこそ、この栄誉ある学校へ。

 わたくし、一回は歓迎することに決めましたの」


「あぁ、えっと、できたら仲良くしてほしいかなー

 なんて、僕は思ったり思わなかったり……」


「おい!すしねーじゃねえか」


「あぅぅ。ごめんなさいホタル君」


「チヒロさん、そんなことで謝らなくていいですから」


「わっはっは。わけぇってのはにぎやかでいいな!」


「おめぇもたいがいにぎやかだがなぁゲンジ」


「そりゃお互い様だぜリロイ」


「おう、違いねぇや」 


 この日の宴は、この開始時点ですでに騒がしかったのだが、

それがまだまだ序の口だと気付いたのはこれからしばらく後のことだった。


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