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推し魔王様のために、悪役令嬢として処刑されてきます!  作者: りりきち


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7/11

7 『魔王様』がメロすぎなんですけど??

「君は本当に、可愛いひとだアイリーン」


 カイン様が、後ろから愛理をぎゅうっと抱き締めてくる。

 愛理が颯爽と地下牢を脱出した後、影から再登場したカイン様はずっとこの調子で愛理を褒めちぎっていた。

 今は、人里離れた深い森の奥に2人で身を隠している。

 あたりはすっかり夜が更けて、フクロウの鳴き声だけがこだましていた。


「もう、何?!」


 恥ずかしさで愛理はギャンギャン騒いでしまう。本当は、スマートな悪役令嬢っぽく振舞って、かっこよくカイン様と並びたいのに!


「アイリーンは、王太子と男爵令嬢に嫉妬して黒魔術を獲得したんじゃなくて、俺のことを好きすぎて俺を守るために黒魔術を獲得したんだろう?

 ――本当に、なんて可愛い」


 そんな風に、蕩けそうな笑顔で見詰められたら愛理はもう何も反論できない。

 本当に、この魔王様はゲームよりずっと心臓に悪いんだからー!


 ジタバタする愛理を抱き締めて、肩に顔を埋めたまま、カイン様がぽつりぽつりと呟き始める。


「アイリーン。もう気付いているかもしれないが、この世界は何度も繰り返されている。

 どうやら俺だけが……その事実に気付いているようだ」


 その声の真剣な響きに、愛理も真面目な顔を取り繕う。本当はゼロ距離に推しが触れているので、今にも四肢爆散しそうな程心臓がうるさいけど!


「私も、こことは別の世界から来たんです。

 私の世界では……ここは『聖なるカナリアは夜明けの夢を見る』って言う、ゲーム……あ、ゲームって分からないですよね、えっと……まあ劇みたいなものです!

 

 その劇の中の登場人物なんです。ジャクリーンも、カナリアも、それから……カイン様も」


 カイン様が、やっと愛理を解放してくれる。彼は、こちらに向き直ると、興味深そうに愛理の話に耳を傾けた。


「なるほどな、……“劇”ね。どうやら俺の仮説は正しいらしい」


 そうして鷹揚に頷くと、彼はまた静かに語り出す。


「毎度俺の自由意識が手に入るのは、公爵令嬢が婚約破棄をされてからだ。

 彼女は毎度処刑される時に、とんでもない量の黒魔術を振りまくものでな。それで彼女を娶ることにしていた。魔族並みに黒魔術を使える人類なんて、死なせるのは勿体無いからな。


 だが、お前も知っての通り最期は俺も花嫁も、王太子と男爵令嬢に討たれて死ぬ」


 カイン様は、過去に思いを馳せるように遠くを見詰める。推しの未公開激レア表情なのに、愛理の気持ちは何故か塞ぎ込んでいく。


 ……そっか。カイン様は、何度も“ジャクリーン”と結婚してるんだ……

 何度も……愛し合って、“ジャクリーン”のために世界に復讐して、2人で戦って。


 今は愛理だって“ジャクリーン”なのに、どうしてか胸が苦しい。


「だから、俺は繰り返す運命を変えようと公爵令嬢を監視することにした。

 

 それで、毎度“ジャクリーン”の性格が少しづつ異なることに気付いた。極めつけは、俺に出会わず王太子を廃して、女帝になった“ジャクリーン”がいた事だな」


 カイン様は懐かしそうに、切ない瞳で苦笑する。彼が呼ぶジャクリーンという名前が、酷く優しい声音に聞こえて、耳を塞ぎたくなる。

 愛理の推しだった、切なく笑う魔王様が目の前にいるのに、なんだかすごく遠いひとみたいで。


「でも結局――その時も俺は王国の軍隊に討たれて死んだ。

 そして死ねばまた、俺は次の“ジャクリーン”に出会う」


 そして、愛理の心情を知ってか知らずか、カイン様は愛理の濃紺の瞳を真っ直ぐに見据えた。

 消えてしまいそうな、情けない顔をして所在なげに佇む愛理の両手を、彼の黒い手袋越しの手がそっと握る。それはまるで、宝物を扱うかのように。


 

「そして、お前に出会ったんだ、アイリーン。

 

 アイリーンは、今までのどの“ジャクリーン”とも違っていた。

 くくっ、だって『結婚したら魔界に引きこもろう』だぞ? こんな愉快なことは無いよ。俺はずっと、“愛しい花嫁”と死なずに過ごせる未来を探していたんだ」


 カイン様の赤い瞳と視線が交わる。

 面白そうに笑う声とは裏腹に、彼の瞳には甘い気配が忍んでいた。

 その強い視線に射抜かれて、愛理は身動き出来なくなる。真っ直ぐに見詰めてくる彼の正面から、少しも動けない。


「だから初めて“役名”ではない名前で呼ぼうと思ったんだよ。万が一俺の仮説が外れていて、中身も“ジャクリーン”だったら、大恥をかくところだったけどな」


 そうして、カイン様は肩を竦めた。ちょっと恥ずかしそうに笑う。その笑顔は、愛理がゲームで見た魔王様の笑顔とは全然違っていた。

 魔王然としていない、ひとりの男性としての笑顔。でも、何百回もスチルで見た切なそうな顔より、不思議とカイン様らしいと思う。

 思わず、愛理も彼につられて笑ってしまう。

 

 すると、カイン様がじっと愛理を見詰めてきた。愛理は不思議そうな顔をして、彼の意図を掴もうとその赤い瞳を見返す。

 初めはまっすぐ顔もみられなかったけど、今はもう彼の瞳を見られるようになっていた。

 


「――どうだ? 直接“愛しい”と言われた感想は」


 

 言葉の意味が頭に届いた瞬間、愛理の顔がみるみる赤くなる。

 前言撤回ッ! 顔がまっすぐ見られません!!

 

 

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