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推し魔王様のために、悪役令嬢として処刑されてきます!  作者: りりきち


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3/11

3 エッ?! もう、推しの登場ですか?!

「――地下牢へ連れて行け!

 この女はあろうことか、王太子のみならず王家を侮辱したのだ!」


 陛下の怒りに染った声が轟いた。愛理は両脇を完全武装した騎士に引きずりあげられ、謁見室を追い出されていく。

 ドレスから出た二の腕に、冷たくて硬い鎧の感触が当たる。雑に扱われる肩と腕が痛かった。これが現実なのだと、愛理に知らしめるように。


 

 愛理のセリフによって、ゲームの展開が変わってしまった。


 ゲームでは、その優秀さと公爵家との繋がりを重んじた陛下に、ジャクリーンは自宅謹慎を命じられる。

 そして、自宅謹慎中のジャクリーンの元へあろうことかカナリア男爵令嬢を連れたエドワード王太子が現れ、逆上したジャクリーンが黒魔法を使用して2人を殺そうとして、その場でジャクリーンは処刑が決まる。


 

 騎士たちに引きずられながら、愛理はジャクリーンと私ってもしかして似てるのかな、なんて考える。

 そういえば、ゲームをプレイしながら愛理がうんざりしたシーンでは、ジャクリーンもスチルでその美貌をうんざりした顔に歪ませてたっけ。


 乙女ゲームあるあるではあるんだけど、基本的にヒロインご都合主義なんだよね。

 婚約者がいるのに、ヒロインと浮気して許されてハッピーエンドになっちゃうのもそうだし、そもそも男爵令嬢のヒロインが格上身分の公爵令嬢を断罪できちゃうのもそう。

 自分を殺そうとした悪役令嬢の屋敷にヒロイン連れて現れちゃうのもそうだし。

 そのたびに、おかしいだろ?! 王太子頭沸いてんのか?! って思ってたもん。


 めちゃくちゃ攻撃的で苛烈な性格ではあるものの、ジャクリーンはいつも筋の通ったことを言っていた。

 魔王様目当てでプレイしていたけれど、愛理にとって悪役令嬢視点は共感できるルートだった。

 


 乱暴に硬い床に放り投げられて、愛理は物思いから現実に引き戻される。

 地下牢の鍵を閉めて、無言で立ち去る騎士たちの後ろ姿が見えた。


 地下牢は薄暗くて、じめじめとしている。部屋の隅に小さな虫の死体が転がってるのが見えて、愛理はヒッと声を上げた。


「やだぁ! なんでこんなところはリアルなの?!」


 立ち上がると汚れたドレスの裾を叩く。騎士たちの鎧にひっかけたのか、ラメを振った濃紺の生地は所々ほつれていた。

 今更になって、目尻に涙が滲んでくる。

 

 地下牢の錆びた格子を手すり替わりに掴もうと手を伸ばして……手が鉄で茶色くなりそうなのでやめた。

 ギュッとドレスの裾を掴んで持ち上げる。少しでも、このドレスを汚れから守りたかった。

 疲れて座りたいけど、ドレスが汚れるのは嫌。それに、虫の死体が転がってるし。


「魔王様のことでも考えて落ち着こう……」


 ぼんやりと灯る松明の灯りだけが地下牢を照らしていた。油の燃えるような匂いがする。

 愛理はドレスを掴んだ仁王立ちの姿勢のまま、お気に入りのシーンを思い返していた。


『世界を呪う不憫な花嫁よ。

 

 ――愛しいお前を殺した世界に、私が復讐してやろう』


 それは、ジャクリーンが処刑台で首を切り落とされたその瞬間。淀んだ空から、真っ黒な衣装に身を包んだ魔王が現れて、初めてジャクリーンに話しかける一言。

 

「“愛しい”なんて直接言われたらどうしよう……!」


 思わずそう言葉に出してしまって、はっとした。そもそも、魔王様とジャクリーンは処刑台が初対面のはず。

 ゲームで魔王様と出会うまでに操作できたのは、ヒロインとその攻略キャラに対して、ジャクリーンへの好感度を下げるイベントのみ。


「ゲームの中では、出会った途端花嫁認定だけど、出会って数秒で愛してもらえるなんて……そんなことあるの?」


 虫の死体や地下牢の暗がりの恐怖からか、今日の愛理はひとりごとが多い。

 

 最初はゲームの中だ! 魔王様ルートだ! ってはしゃいでたけど――いざ“本物”として地下牢に入れられて処刑が近付いてくると、やっぱり怖い。

 それに、ゲームと全く同じじゃないと知ってしまったから、処刑されて本当に魔王様が自分を愛してくれるのか、確信がなくなってしまった。


 胸の奥をざわめきが支配していく。なんだか、息が上手くできない。自分の鼓動が、耳の中で鳴ってるみたいに変に大きく響く。

 


 その時、湿った空気が揺れた。硬い靴底が床を鳴らす音がする。

 愛理は、恐る恐るその音の方を見ようと顔を上げて――


 慌ててドレスを掴んでいた手を離した。

 仁王立ちしてた足は見られなかったかな?

 なんでこんな格好しちゃってたんだろう……!

 

 愛理は焦りながら裾を整えて、その予期せぬ“来訪者”のためにスッ……とカーテシーで出迎えた。さらり、と赤い長い髪が胸元に零れ落ちる。


「……嗚呼、“愛しい花嫁”よ。可哀想に、そんな場所で」


 鼓膜が拾った声は、間違いなく大好きな“推し”――魔王様のものだった。

 低くて、少し掠れて乾いた、けれど気怠げで甘い声。愛理が聞き間違えるわけが無い。何百回と聞いた声なのだから。


 なんで?! どうして、えっ?!

 まだ処刑前なのに――?!


 

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― 新着の感想 ―
何だか悪役令嬢の処刑から始まるというのに、主人公の処刑理由が女の身で諫言を繰り返したのが不敬だからというのが、明らかに王子とかの暗君ムーブを却って掻き立てて、後のザマア的なつながりになりそうなので続き…
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