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08 反省しないエミリー

  08 反省しないエミリー


 領主は重いため息をついた。


 ギルドマスターから正式な抗議が届いたのだ。


 それだけではない。


 はやぶさ隊では不可解な事件が起きた。


 温泉が評判になり、この辺境のさらに片隅にあるこの地にようやく人が集まり始めたというのに、問題ばかりが起きる。


 問題の多くが、自分の娘に端を発していると思うと頭が痛かった。


 夕食の席では、領主はエミリーを叱った。


「なんということをしてくれたんだ」


「だって、お父様。キーラン様は、あのおばさんに遠慮しているだけなんです」


「勘違いするな。キーランはお前を恋愛相手として見ていない。祭りの日だけの話ではない」


「あなた!」


 奥方が声を荒らげた。


「そんな言い方をしたら、エミリーが可哀想ではありませんか」


「本当のことだ。祭りの広場で、あれだけ大勢の前ではっきり断られただろう」


「でも、お父様は領主なのだから命令すればいいじゃない!」


「領主だからこそ勝手はできん!」


 思わず声が大きくなる。


「街には王都からの客も増えている。今は評判が何より大切な時期だ。その場で領主の娘が騒ぎを起こした。それがどれほど恥ずべきことかわからんのか」


 エミリーは唇を尖らせた。


「全部、あのおばさんが悪いんです」


 領主は額を押さえた。


 まるで反省していない。


「エミリー。しばらく外出禁止だ。わたしが許可するまで部屋から出るな」


「お父様!」


「あなた!」


「聞こえただろう」


 領主は執事へ向き直った。


「当分、部屋から出すな」


「かしこまりました」


 執事は静かに頭を下げた。


 エミリーは最後まで納得していない顔だった。


 娘が連れて行かれたあと、夫人は領主をきっと睨みつけた。


「あなた、あの子を責めすぎです」


 領主は首を横に振る。


「責めているのではない。守っているんだ」


「守るのなら、恋をかなえてあげてください。あの子があんなに一途になったのは初めてなのですよ」


 領主は深いため息をついた。


「相手にその気がない。キーランは最初から見向きもしない」


「それは、まだあの子を知らないからです。一度でもゆっくり話せば、あの子の愛らしさが分かります」


「無理だ」


「いいえ、一緒に過ごせば、あの子の良さはすぐに分かります」


 領主はきっぱりと言った。


「無理なものは無理だ。母親なら、お前が言い聞かせてやってくれ」


 夫人は唇を尖らせる。


「あの子はまだ若いのですよ」


「だからこそ、今のうちに止めねばならん」


 夫人は怒りの眼差しで領主をみたあと部屋を出て行った。



 胃が痛い。


 ギルドマスターからの抗議だけでは済まない。


 もし噂が王都まで広がれば、この街そのものの評判に関わる。


 ようやく軌道に乗り始めた温泉事業まで、水を差されかねない。


 さらに問題は別にもあった。


 エミリーの婚約候補であるオリバーが、この縁談に消極的になっている。


 オリバーは中央貴族の三男。


 この婚約が成立すれば、中央との太い繋がりを得られるはずだった。


 それなのに、ここへ来て腰が引け始めている。


「しばらく縁談については時間をいただきたい」と手紙が届いた。


 無理もない。祭りでの一件に加え、ギルドでの騒ぎ。婚約を考え直すのも当然だった。


「まったく……」


 領主は小さく呟いた。


「どうしてあれほど考えなしなんだ」



 そして、一番大きな問題は解決の糸口さえみつからない。



 本来なら、国王夫妻は祭りをお忍びで見物する予定だった。


 自分たちも案内役として同行するはずだった。


 その日のために、エミリーのドレスも装身具も新調した。


 だが予定はすべて取り消された。


 侍女長の部屋へ賊が侵入し、侍女長は耳を切り落とされた。


 犯人はいまだ不明だ。幸いだったのは、警備はすべて王宮が受け持っていたことだ。


 はやぶさ隊は、外の警備をしていたのだ。


 騎士が三人死亡し、二人が重傷を負った。


 確かな目撃者はいない。それでも黒い狼を見たという者もいれば、黒豹だったと証言する者もいる。


 まったく信じられない。



「まるで呪われているようだ」


 温泉事業そのものは順調だった。


 街は少しずつ豊かになっている。


 それなのに、その繁栄を打ち消すように事件ばかりが続く。


 翌朝、領主はいつもより早く執務室へ入った。


 執事を呼び、一つずつ指示を与えた。


「ギルドには改めて謝罪に行こう。予定を確認してくれ」


「はやぶさ隊の隊長を呼んでくれ、隊員の士気について確認したい」


「あとは一人にしてくれ。オリバーへ返事を書く」


 執務机の上には、謝罪文、報告書、返書を書くための便箋が積まれていた。


 領主は一枚ずつ視線を落とし、小さく息をつく。


「娘だけはどうにもできんな」







いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。

よろしくおねがいします。


書籍を出すことができました。

挿絵(By みてみん)




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