27 国王を見舞う
27 国王を見舞う
国王の部屋を訪ねると、オセロンは寝台の上で半身を起こしていた。
この間会った時よりも頬は痩せ、目元の皺が深くなっている。けれど、ミーナを見つけた瞬間、その瞳だけが若い頃のように輝いた。
「ルミー……来てくれたのか」
「お加減はいかがでございますか、陛下」
ミーナは愛称には応えず、寝台から少し離れたところで礼を取った。
「足以外は、何も問題ない。だが膝は……」
オセロンは掛布の下へ視線を落とした。
街の女と密会しているところへ、その夫が踏み込み、殴られたのだという。両膝は砕かれ、宮廷医師ができる限りの治療を施したものの、骨は歪んで繋がり、もう自分の足では立てないと診断されていた。
寝台の脇には、ほとんど使われていない杖が置かれている。
「一度、拝見いたします」
ミーナがそう言うと、オセロンは驚いたように顔を上げた。
「治してくれるのか?」
その声に浮かんだ喜びに、ミーナは何も答えなかった。
侍従たちが掛布をめくり、寝間着の裾を膝まで持ち上げる。
両膝は今も大きく腫れ、形が歪んでいた。わずかに動かすだけでも痛むのか、オセロンの顔が苦痛に強張る。
ミーナは椅子を寝台のそばへ寄せてもらい、そこへ腰を下ろした。
「少し痛みますよ」
「構わない。君が触れてくれるのなら――」
「治療に必要ですので」
淡々と遮られ、オセロンは口をつぐんだ。
ミーナは片方の膝へ両手を添えた。
ゆっくりと目を閉じ、傷の状態を探る。
砕けた骨。間違った方向へ繋がった部分。固く縮み、動かなくなった筋。傷ついた神経。
古い傷ではあるが、治せないほどではない。
ミーナの手のひらから淡い金色の光があふれた。
「ぐっ……!」
オセロンの喉から低い声が漏れる。
歪んで繋がった骨を一度ほどき、正しい位置へ戻していく。体の内側から痛みが走ったのだろう。オセロンの額に脂汗が浮かび、両手が掛布を強く握った。
それでも叫び声は上げなかった。
「力を抜いてくださいませ。あと少しです」
ミーナの静かな声に、オセロンは目を閉じる。
やがて、盛り上がっていた膝の形が少しずつ整い、灰色の肌に血の色が戻っていった。
片方の治療を終えると、ミーナはもう片方の膝にも手を添えた。
再び柔らかな光が部屋を満たす。
壁際に立つキーランは、腕を組んだまま、その様子を黙って見守っていた。
国王に対して思うところがないはずはない。それでもミーナの治療を止めようとはしなかった。
ミーナが治すと決めたのなら、それを尊重する。
ただし、国王が治療以外の何かを望むなら、話は別だった。
やがて光が消え、ミーナはゆっくりと手を離した。
「終わりました」
「終わった?」
オセロンは恐る恐る足を動かした。
曲げることすらできなかった膝が、滑らかに動く。
「痛くない……」
何度も膝を曲げ伸ばししてから、オセロンは信じられないという顔でミーナを見た。
「本当に、痛くない」
「骨と筋は元に戻しました。ただ、長く動かしていなかったため、足の力が落ちています。いきなり歩こうとはなさらないでください」
「いや、立ってみたい」
「陛下」
「頼む。自分の足で立てるのか、確かめたいのだ」
侍従長が寝台の脇へ寄り、オセロンの体を支えた。
両足を床へ下ろす。
足の裏が絨毯に触れた瞬間、オセロンの表情が震えた。以前なら、それだけで両膝に激痛が走っていたはずだ。
侍従の肩を借りながら、ゆっくりと腰を上げる。
膝は震えていた。
けれど、崩れなかった。
「立てた……」
オセロンは呆然と呟いた。
「わたしは、立っている」
支えていた侍従長も、目に涙を浮かべていた。
「陛下……ようございました」
「手を離してくれ」
「しかし、まだ――」
「少しだけでいい」
侍従長が慎重に手を離す。
オセロンは一人で立っていた。頼りなく揺れてはいるものの、両足は確かにその体を支えている。
そして、一歩を踏み出した。
「陛下、無理をなさらずに」
ミーナが注意すると、オセロンは嬉しそうに笑った。
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