23 ソフィー王女
23 ソフィー王女
翌朝、ミーナとキーランの部屋へ侍従が迎えにやって来た。
「おはようございます。第二妃殿下がお待ちでございます」
二人は身支度を整え、侍従の後について歩き出す。
王宮の廊下は朝の光に照らされ、大理石の床が淡く輝いていた。磨き上げられた窓からは、手入れの行き届いた庭園が見える。噴水の水音が静かに響き、色とりどりの花々が風に揺れていた。
案内された部屋は南向きで、明るい日差しが差し込む気持ちの良い部屋だった。
ミーナは窓辺へ歩み寄り、庭を眺める。
「きれいなお庭ですね」
「ええ。庭師の腕も一流なのでしょう」
キーランも静かに答えるが、その視線は窓の外だけではなく、部屋の出入口や窓の配置まで自然に確認していた。
ほどなくして扉が開く。
「第二妃殿下、ソフィー王女殿下がお見えです」
第二妃エリーゼが優雅な足取りで入室し、その隣には淡い水色のドレスをまとった少女が続いていた。
年は十二、三歳ほど、金色の髪をゆるく結い上げ、澄んだ青い瞳が期待に満ちて輝いている。
ミーナとキーランは、丁寧に礼を取った。
その姿を見た王女は、感動したように息を呑み、小さく呟いた。
「……お母様がおっしゃるとおりのお方ですね」
その一言には、憧れと尊敬がそのまま込められていた。
第二妃は穏やかに微笑む。
「そんなにかしこまらなくて結構ですよ。どうぞ楽になさってください」
その言葉に、ミーナも自然な笑みを浮かべた。
「ありがとうございます」
第二妃は娘へ手を添えた。
「ミーナ様。この子が娘のソフィーです」
ミーナは優雅に一礼する。
「初めまして、ソフィー様。ミーナと申します」
続いてキーランも深く頭を下げた。
「初めまして、ソフィー様。キーランと申します」
ソフィーも王族らしい美しい所作で礼を返す。
「初めまして、ミーナ様。キーラン様」
少し緊張しているものの、その笑顔は年相応の愛らしさに満ちていた。
「今日はお会いできて、本当に嬉しいです」
ミーナは目を細める。
「わたしもです。とても素敵なお嬢様ですね」
ソフィーは少し頬を赤く染めた。
「まあ、ありがとうございます」
その初々しい様子に、第二妃も思わず微笑む。
「さあ、お席についてください」
四人が席に着くと、侍女たちが手際よく料理を運び始めた。
最初に運ばれてきたのは、香り高い野菜のスープだった。
湯気とともに甘い香りが立ち上る。
続いて、焼きたてのパン。
表面は香ばしく焼き色が付き、割ると湯気がふわりと立ち上った。
厚切りのベーコンはこんがりと焼かれ、オムレツはふわふわで黄金色に輝いている。
軽くボイルした季節の野菜には、香草入りの白いソースが美しく添えられていた。
ミーナは一口食べて目を細める。
「とても美味しいですね」
「ありがとうございます」
第二妃は嬉しそうに頷いた。
一方のキーランは、遠慮なく食べ進めていた。
パンのおかわりをもらい、ベーコンもきれいに平らげる。
その気持ちの良い食べっぷりに、ソフィーが思わずくすりと笑った。
「キーラン様は、本当に美味しそうに召し上がりますのね」
キーランは少し照れたように笑う。
「料理を作るのも好きですから、美味しい料理には敬意を払っております」
「まあ」
ソフィーは目を輝かせた。
「わたくしも、お料理が上手になりたいんです」
「ソフィー様でしたら、きっとすぐお上手になりますよ」
「本当ですか?」
「はい。料理は楽しむことが一番ですから」
そのやり取りを見ていたミーナは、どこか誇らしそうに微笑んでいた。
食後には香り高い紅茶が運ばれる。
部屋には穏やかな空気が流れていた。
ティーカップを置いた第二妃が静かに口を開く。
「ミーナ様。滞在中は城内を自由にご覧になってください」
「ありがとうございます」
「ただ、お一人にすることはできませんので、侍女が必ずお供いたします」
「承知いたしました」
第二妃は少し真剣な表情になる。
「そして、これはお願いなのですが……強制ではありませんが」
一度言葉を区切り、ミーナを見つめた。
「できるだけ長く王宮へ滞在していただけませんでしょうか」
ミーナは少し驚いたように第二妃を見つめる。
「わたくしたちは、もっとミーナ様のお話を伺いたいのです」
「もちろん、キーラン様もです」
第二妃は穏やかに続けた。
「どうぞ、お二人とも自由にお過ごしください。」
その言葉を聞いていたソフィーが、少し身を乗り出した。
「そうですわ、ミーナ様」
期待に満ちた笑顔で尋ねる。
「わたくしがお部屋へ遊びに伺っても、よろしいでしょうか」
第二妃は思わず苦笑した。
「まあ、ソフィーったら。そんなに慌てなくても」
ソフィーは恥ずかしそうに頬を染める。
「だって……もっとミーナ様とお話ししたいんですもの」
ミーナはその無邪気な願いに優しく微笑み返した。
「もちろんです、ソフィー様」
「いつでもお待ちしております」
その言葉を聞いたソフィーの顔は、花が咲いたように明るくなった。
「本当ですか!」
「ええ」
「では、本を持って伺います! ミーナ様のお好きなお話も、ぜひ聞かせてくださいませ」
「喜んで」
その温かなやり取りを見つめながら、第二妃は静かに紅茶へ口をつけた。
――この穏やかな時間が、少しでも長く続いてほしい。
そう願わずにはいられなかった。
いつも読んでいただきありがとうございます!
誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。
とても助かっております。
楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。
それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。
よろしくおねがいします。




