18 その後 王妃目線
18 その後 王妃目線
あの火事の夜、黒髪の青年を見た。黒い獣も見た。
姉の守り神だとわかった。失火で焼け落ちた離宮で姉は見つからなかった。
ほっとしたのか、口惜しいのか。
それからしばらくしたある夜、賊が……いえ、あの男がわたしの寝室に忍び込んだ。
予想していたわたしは、罠をしかけていたが、そいつは罠を掻い潜りわたしにせまった。
その黒い影はわたしの顔を切りつけた。隣の部屋で待ち構えていた護衛が一斉に彼に攻撃をした。軽々と攻撃をかわしたそれが、わたしのそばを通り過ぎたとき、わたしは床に横たわっていた。
それは空に消えたが血のあとが残っていた。血のあとを追って騎士たちが出て行った。
わたしは助け起こされて、ベッドに寝かされたが、顔の痛み以外はなにも感じなかった。
なにも感じない?? 感じない?? どうゆうこと? そこで意識が闇に沈んだ。
気がついた時、ベルを鳴らそうとして手が動かなかった。手を怪我していたのか。
誰かを呼ぼうとしたが、喉がひりついて声がでなかった。
侍女はなにをやっているのと腹をたてていると、新入りがぼーっと入ってきて、わたしが目覚めているのをみて、慌てて部屋を出て行った。
ほんとに気が利かない子ねと思いながら待っていると、医者と一緒に戻ってきた。
医者は水を飲ませるよう指示すると、布団をめくってわたしの体を調べた。
気づくとどこも動かない。あの男め、こんな怪我を負わせるなんて、と思うと同時に、不甲斐ない護衛にも腹が立った。
しばらくすると侍女長もやってきた。アーデルも気に入らなかったが、後任のこのイボンヌも気に入らない。
「ずいぶん、わたしをほっといてくれたわね」
「申し訳ありません」殊勝なことを言うが、なんとも態度が不愉快だ。
「あなたなんてクビよ」と言うと
「王妃殿下、わたくしは第二妃のエリーゼ様から改めて、王宮の侍女長を仰せつかりました。クビにはできません」
「なんでエリーゼがそんなことを。なんの権利があって!」
「王妃殿下。落ち着いて医者の説明を聞いてください。それからまたお話しましょう」
と言うと、医者に目で合図をした。医者が話し始める。
「王妃殿下は、昨晩怪我をなさいました」
(知ってるわよちゃんと手当してよね)
「その怪我は外傷こそ」といったところでドアが開きエリーゼが入ってきた。
「おそくなりました。宰相との打ち合わせ中に貴族がどんどん挨拶に来て……」と自慢げに言うと、
「邪魔したわね、続きを」と鷹揚に医者に言った。
(なに、その態度)
医者は「はい。承知いたしました」と恭しく、エリーゼに礼をとるとわたしに向かい
「つまり、怪我で王妃殿下は全身麻痺となっておられます」
「え?」慌てて体を動かそうとするがどこもぴくりとも動かない。
叫ぼうとするが、声がでなかった。
その時、侍女長が
「王妃殿下! お気を確かに。王妃様。おいたわしいーー」と大声をだした。
(なに、おもしろがっているの!)
侍女長の頭越しにエリーゼをみると笑っていた。
それからのわたしは侍女の練習台よろしく世話だけはきちんとされた。
顔の傷は残ったが痛みはない。たまに貴族の誰かしらが見舞いに来る。
その時間を見計らってわざと体を拭いたり髪を手入れしたり、動かなくとも、動かしましょうとみせつけるようにマッサージをされる。
見舞い客は世話が行き届いていることを褒めて、侍女長をねぎらう。
侍女長はここぞとエリーゼを褒める。
見舞い客はわたしに向かって
「これも王妃殿下の人徳ですね。こんなに大事にされて」というとさっさと出て行く。
新入りの侍女まで「こんなに大事にしてくださるなんてエリーゼ様はよくできた方ですね。そうだ今日はレモンパイが届いてますよ」と口にいれてくる。
レモンパイは姉が好きだったものだ。
あれから誰も食べなかったのに……わたしはパイを口に詰め込まれてむせた。




