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17 王宮にて キーラン目線

  17 ミーナの危機 (キーラン視点)


 ミーナとギルド長が王都へ向かう馬車を、家の前で見送った。


「行ってきますね」


 いつもと変わらない笑顔だった。


 だから余計に不安になる。


 ギルド長は胸を張って言った。


「任せとけ。ちゃんと連れて帰る」


「お願いします」


 頭を下げたが、不安は消えなかった。


 馬車が見えなくなるまで見送る。


 完全に姿が消えたところで、俺は森へ駆け込んだ。


 深く息を吸うと、身体が熱を帯びる。


 骨が軋み、筋肉が膨れ上がる。


 黒い毛並みが全身を覆い、視界が一気に広がった。


 鼻に入る匂いは何倍にも増え、耳には遠くの鳥の羽音まで聞こえる。


 地面を蹴った。風が心地いい。


 馬車より速く、森を駆け抜けた。


 木々の間を縫い、谷を飛び越え、川を渡る。


 日が沈む頃には、王都が見えた。


 高い城壁と巨大な王宮。


 この姿なら侵入は容易い。


 夜に紛れて塀を越え、植え込みから植え込みへと移動する。


 誰にも見つからない。



 王宮は広かった。まずは国王の居室を見に行った。


 窓から中を覗くと、寝台に男が横たわっていた。


 あれが国王か。ネルフの話通りの男だ。


 確かにミーナはあいつにもったいない。


 俺は亡きネルフにうなずいた。



 次に王妃の部屋へ向かった。


 部屋には女が二人いた。


 一人は王妃、もう一人は侍女長だろうか?


 あの女の後釜ってことか。


「本当にいらっしゃるのですね」


 と侍女長が言うと


「来るわ」


 王妃が紅茶を飲みながら答えた。


「王命ですもの」


 自信満々のその笑顔が気に入らなかった。


「アーデルがやっと役に立ったわ。姉の行方を教えてくれるなんて」


「でも、その為にあのような目に……恐ろしいですわ」


「ここは王宮よ。護衛がたくさんいるわ。恐れることはないわ」


 それはどうかなと思いながら、しばらく様子を見たが、それ以上めぼしい話はなかった。



 翌日は、王宮のなかを調査した。さすが王宮の図書館だ。


 ミーナが好きだった場所の一つだ。他にミーナが好きだったのは、裏庭の噴水だとネルフは言った。


 王太子妃教育の合間にそこで息抜きをしていたそうだから、俺も行ってみた。


 美しい場所だった。



 そしてさらに翌日、ミーナとギルド長が王宮へ到着した。


 俺は屋根から見守っていた。


 ギルド長は王宮の端にある客室へ、ミーナは離宮へ案内された。


 護衛であるギルド長を離した、嫌な配置だった。


 その日の午後、ミーナは庭を散歩していた。


 いつも通りのミーナだった。


 花を眺めて、木陰で休んで本を読んでいる。


 そこへ貴族たちがやって来た。


「ミーナ殿」


「元聖女様」


「少しお話を」


 皆、能力が欲しいのだ。


 今さらだ。二十年前は誰も助けなかったくせに。


 ミーナは誰にも愛想を振りまかなかった。


 それでも失礼にはならない。見事に相手の名前をきちんと呼んで返事をしている。


「申し訳ありません。オルテガ伯爵閣下」


「ご期待には添えません。スペンド侯爵閣下」


 誰の顔も立てながら、一歩も踏み込ませない。


 見事だった。さすがは元王太子妃候補だ。



 夕方になると彼女は部屋へ戻った。


 窓辺で本を読んでいる姿が見える。


 安心した。



 国王の様子をもう一度、見に行った。


 耳を澄ますと、ミーナを部屋に呼んでくれと侍女長に言っている。


 侍女長は、なぜか後ろめたそうに、「明日、お迎えに行きましょう」と答えている。


 国王が「そうか、そうか。明日だな」と答えると、侍女長が、何故かぎこちなくもう一度同じ言葉を繰り返した。


「明日、お迎えに行き」 おかしい!



 すぐに離宮に向かった。警備の者が増えている。


「しまった」


 裏にまわるより、正面突破のほうが速い。


 俺は、風と競うように走った。


 獣の鼻が教えてくれた。


「火だ」


 ギルド長が、騎士と切り結んでいた。


 俺がちかづくと、敵を引き付けてくれた。


 窓を破って中に転がり込んだ。



 すでに煙が充満している部屋にミーナは閉じ込められていた。危なかった。


 上からみるとギルド長が、待っている。


 俺はミーナを抱いて飛び降りた。



 ギルド長の腕がなくなっていた。


「すまない」と頭を下げた。


 すぐに彼の案内で隠し通路に入った。


 出口にはギルド職員が待っていた。



 馬車のなかでミーナはギルド長の腕を生やした。


 ここまでの力があったのか。



 俺は胸の奥で静かに誓う。


 ――あの王妃には、もう一度会いに行く。


 今度は、じっくりと向き合いたい。


いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。

よろしくおねがいします。


書籍を出すことができました。

挿絵(By みてみん)




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