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12 怖い夜

 12 怖い夢


 不意に、意識が深いところから浮かび上がった。


 額に冷たいタオルが乗っている。


 そこからまた、眠りに落ちた。


 今度の眠りに、悪夢は入ってこなかった。


 目が覚めると、部屋は明るかった。


 額のタオルはもうなかった。


 うんと伸びをすると、不思議と力が湧いてきた。



 このままでは、キーランが殺される。


 ご近所さんも。


 この町も。


 わたし一人のせいで。


 そんなことはさせない。


 わたし一人が終わればいい。


 あいつさえ道連れにできれば。


 ネルフのところへ行こう。


 あいつを殺して、わたしも死のう。


 あんなものは、殺す方が世のためになる。


 そう思っていたら、人の声がした。


 キーランが応対している。




 ドア越しに気配をうかがうと、ご近所さんたちだった。


 急いで着替え、部屋に顔を出す。


「おはようございます」


「あぁ、ミーナ。おはよう。熱は下がったみたいだね」


 キーランがほっとしたように言った。


「うん。大丈夫になったみたい。昨日はタオルを?」


「うん。苦しそうだったから。ずっとうなされていたよ。気がついてたの?」


「うん、なんとなく……お礼を言おうとしても、すぐに寝ちゃって」


「ミーナ、回復したならよかった。うちの孫も具合が悪かったし、わしも昨夜はうなされた。ずいぶん嫌な夢を見たよ」


「あら。昨夜は何か怖いことでもあったんでしょうか」


「夜中に急に泣き出してな」


「うちの婆さんも、汗びっしょりで飛び起きたよ」


「俺なんて、夢の中で誰かに追いかけられて……」


「内容は違うんだけど、嫌な夢なんだよ」


「それで、孫に気持ちを落ち着けるポーションをもらえないかと思って来たんだよ。そしたら、みんな孫のためとか、家族のためとか言って買いに来ていてね。キーランが気づいて中に入れてくれたんだ。話を聞いたら、ミーナも具合が悪いって言うじゃないか。いったい何なんだろうね」


「そういうことなら、気分を落ち着けるポーションを作ります。冒険者に人気なんです」


「悪いね。ミーナだってうなされたのに」


「大丈夫。ポーションを作れば元気が出ますから」


 それまで黙って聞いていたキーランが言った。


「皆さんが怖い夢を見たというのは不思議なことが起きたんですね。でも、目が覚めて動けていますね。皆さん、ここまで来られています。そこは良かった」


 それを聞いた人たちは、顔を見合わせた。


「本当だね」


「たしかに、寝込んでいるわけじゃない」


「じゃあ、気味は悪いけど、大丈夫なのかね」


 そうだ。わたしは最後に、たくさんポーションを作ろう。


 この町の人たちに恩返しをして。


 それから、あいつを殺すんだ。


 それからわたしは、気合を入れてポーションを作り始めた。


 ポーションを瓶に詰めていると、近所の人がとんでもない知らせを持ってやって来た。


 エミリーさんと男が、死体で見つかったというのだ。


 男はこの国の宰相らしいと……


 同じ部屋で死んでいたらしい。


 知らせを持ってきた人は、昨晩、なにかから逃げる夢を見たが、女性が助けを求める声を聞いたらしい。


「あれはエミリーさんの声だったかも知れない」と青い顔で頭を抱えた。


 わたしは気分を落ち着けてもらうために、ポーションをコップに入れて飲んでもらった。


「ご自分のベッドでそんな遠くの声は聞こえませんよ」


「そうだよね? ミーナ。そうだよね」


「そうですよ!」



 ネルフとエミリーさんが、どうして?


 昨日まで生きていた人が、一夜で死体になる。


 わたしはネルフを殺そうとしていた。


 なのに、その相手はもうこの世にいない。


 安堵なのか。


 恐怖なのか。


 自分でもわからなかった。


 そうしているうちに、一人でいると不安で仕方ないからと皆さんが集まって来た。


 ポーションを飲んで落ち着くと、元気になって、今度はにぎやかにに喋りだした。


「宰相家が絡んでいるらしいよ」


「いや、娼館で見つかったって話だ」


「エミリー様まで一緒だったんだろう?」


「誰が見つけたんだい」


「二人は知り合いだったのか?」


「宰相さんはお忍びだったみたい、エミリーさんに会いに来たのかな?」


 話が入り乱れて、何が本当なのかわからない。


 キーランは眉をひそめた。


「ギルドへ行って、正確なところを確認してきます」


「気をつけてね」


「大丈夫です。すぐ戻ります」


 皆は家のお惣菜やお菓子を持ち寄り、我が家で食べながらキーランの帰りを待った。


 ずいぶん奇妙な午後だった。


 怖い話をしているはずなのに、テーブルの上には焼き菓子や煮物や果物が並んでいる。


 誰かがため息をつくと、誰かが皿を差し出す。


「食べな。こういう時こそ食べるんだよ」


 そう言われて、わたしも小さな焼き菓子をひとつ口に入れた。


 甘かった。


 ちゃんと、甘かった。


 キーランは、疲れた様子で首をひねりながら帰って来た。


「どうだったの?」


「ネルフとエミリーさんが死んでいるという知らせが、ギルドや領主のところに届いたそうです。それで調べに行ったら、本当に死体があったと」


「二人が一緒に?」


「そこがわからないんです。娼婦も死んでいたそうで、娼館も絡んでいます。ネルフって宰相なんですね。ですから、これから王宮も出てくるでしょう。正直、何が何やらです」


 キーランはそう言って、困ったように息を吐いた。


 エミリーさんは気の毒だと思う。


 けれど、わたしたちは今日、生きている。


 ネルフはもう、ここには来ない。


 町も燃えていない。


 キーランも、隣にいる。


 ふふっふ。問題は解決したじゃないの。


 その日の午後、わたしたちは生きていることに感謝して、皆で美味しいものを食べて過ごしたのだった。



いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。

よろしくおねがいします。


書籍を出すことができました。

挿絵(By みてみん)




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