第29話「繋げ。心の鎖。/ Chain Reaction」
『──それでは。大変ながらくお待たせしました! ただいまより、ライブイベントのO.A.をかけたライブバトル、【LIVE TO THE HELL】を開催したいと思いま〜す! お前ら〜盛り上がってるか〜!!』
「「「いええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええい!!!!」」」
用意した衣装に着替え終えた私たちは、再びステージの裏側に向かった。
ズドォォォォンと、離れた場所で爆発でも起きたのかと勘違いしそうになる程の爆音。いや、爆声が轟いた。
マイクを通して歌ったときに体育館が揺れた感覚がしたけど、これは文字通り体育館が揺れている。
というより今回のライブ、イベント名みたいなのあったの!? 初めて知ったんですけど!?
「なんか、めちゃくちゃメタルコアやハードコアバンドのイベント名っぽいよね……」
春野さんがボソリと呟いた。私もまったく同じこと思ってました。
それはマリナ達も同じようで、少し離れた場所で「何そのダサい名前……」と呟いていた。ネーミングしたのマリナじゃないんだ。なら一体誰が……。
『あっ、ちなみにこのイベント名は私がつけました〜。カッコいいでしょ?』
そう思ってると、PAを務めていた女子軽音部員が、マイクを片手に、メガネを縁をくいっと上げながら答え合わせをしてくれた。いやアンタだったんかい。
真先輩いわく彼女は先輩と同じ三年生で、10月に開催されるハロウィンのライブイベントを境に部活を引退するらしい。
やけにテンションが高いというか、本来なら軽音部員でも何でもない私たちに対してフレンドリーに接してくれた人だ。
ハロウィンイベントまであと数ヶ月。その間に行われるライブイベントはセイコーサマーフェスくらいしかないので、こういうイベントごとには極力参加したいと直接マリナに伝えたみたいだ。
マリナみたいに性格悪い人じゃなくて良かったと心から思う。
『さて、今回のライブバトルについて説明しようと思います。今から二つのバンドが二曲ずつ演奏するので、入場の際に配った『一番』『二番』と書かれた用紙を、両者演奏終了後に投票箱に投票してくださ〜い! 因みにですが、今日ライブを見にきてくれた人たちの数はなんとぴったり200人! ワンチャン引き分けもあり得るけど、さてさて一体どうなるのでしょう!?』
「……引き分け? ハッ。そんなの、あり得る訳ないでしょ」
舞台裏から覗いていると、ギターを肩にかけたマリナが乱暴に言い捨てた。
一々ムカつく人だな。なんか言い返してやろう──そう思って振り向いた瞬間、背筋が凍る。
あまりにも殺伐とした怒気を孕ませた鋭い視線と、全身から迸る熱気。
目の錯覚かと思ったけど、たぶん違う。
マリナの本気。音楽に、ロックに向き合う彼女の熱が、そのままオーラとして放出されている。
見間違いなんかじゃない……!
『……え? 200人もいるのに集計間に合うのかって? 大丈夫大丈夫! 軽音楽部の部員10人以上揃えるからね、何とかなるなる〜!』
「なる訳ねーだろ!!」
「適当こいてんじゃねーぞ!!」
「俺らその後片付けもあるんですけど!?」
「職権濫用だ!!」
「ふざけんなー!!」
「でもそういう所も好きー!!」
「くだばれー……って、え?」
『は〜い、外野の一,二年どもが騒いでますが、三年には敵わないんで放っておきましょう〜!
という訳で早速登場してもらいましょう! トップバッターは我ら軽音楽部が誇る最終兵器! 超絶技巧派、圧倒的な実力で我々三年生すら凌ぎライブイベントでトリを務めたあのバンド!
【slipback】だ〜!!』
メガネPAさんが、部員の声をガン無視して進行を続ける。
slipback。マリナ達が率いるバンド。
その名を呼ばれた彼女たちは、ドラムの男子生徒、そしてリードギター、ベースの女子二人が先にステージへと向かって行く。
それぞれが、それなりに実力を持っている証拠だろう。
彼らがステージに立った瞬間、軽音楽部の部員のみならずフロアにいる観客たちが一斉に声を挙げた。中には名前を呼んでいる人もいる。
そうだ。私はずっとマリナにばかり気を取られていたけど、普通に考えればマリナだけでここまで人気になる訳じゃないし、実力派バンドになれる訳じゃない。
バンドは組織。
華蓮先生に言われたセリフを今になって思い出す。
マリナはあくまでバンドの顔。
でもその実、彼女はバンドをひとつに纏め上げるリーダーであり、核の存在なんだ。
「精々、腰を抜かさないようにしておきなさい」
マリナはそう言い残してステージへと向かっていく。
するとその瞬間、先ほどの比じゃないくらいの爆音がフロアから昇ってくる。
『── slipback、始めます』
ギターにシールドを繋ぎ、中心に立っているマイクスタンドに向かい宣言。
ピックで一気に解放弦を鳴らし、それを合図としてドラムがスティックを両手にフォーカウント。
マリナたちslipbackの演奏が始まった。
一曲目は、今じゃ知らない人たちはいない青リンゴ系バンドのカバーソング。
それもアニメ主題歌になった大人気楽曲で、多分このバンドの中で最も激しいロックソングだ。
耳に残るイントロから、囁くようにして紡がれるボーカル。
ウィスパーボイスに近い、語りかけるような優しい歌声。
そのひとつひとつにエッジボイスやアクセントが含まれていて、歌うのがかなり難しい印象を与える。
だけどマリナは、その曲をいとも容易く歌いこなしている。
それにギターを弾きながらコレだ。
もちろんリードギターは他のメンバーが弾いているけど、それでもリズムギターとして的確にリフを抑え、音のズレは一切感じられない。
それどころか、歌いながらギターでバンド全体の音を支えている印象すらある。
「……マリナ先輩、すご」
緊張を抑えるために両手を握り込んでいた春野さんは、ただ呆然とマリナの姿を見つめていた。
最初こそマリナを恐れていたけど、いつの間にかマリナに向ける視線には、恐怖心じゃなく「羨望」に変わっていた。
それに少しだけ嫉妬してしまいそうになるけど、私自身、アレだけ嫌っていたマリナに、そして彼女の演奏に、脳を焼かれてしまっている。
……いや、その表現は少し違う。
私は既に、彼女の圧倒的なカリスマ性に魅せられている。
さっきまであった筈の敵対心を、じわじわと侵食して飲み込んでいく──。
サビに到達してからのフロアの熱量はすごかった。
この曲のサビは、幾度となく使われる「裏声」と「ビブラート」で構成されていて、そして一句ごとに音を区切らなくてはいけないパートがある。
マリナ達のバンドは、その音の区切りも完璧で、全ての音にメリハリがある。
その上マリナは、この高難度の歌を歌いこなしているんだ。
すごい。
悔しいけど。本当に本当に、心の底から悔しくて仕方がないけど。
コレを認められないほど子供になりきれない私は、マリナ達のバンドを、演奏を、否定できなかった。
『──ありがとうございました。え〜、色々と言いたいこととかあったんだけど、なんかもう歌ってたらどうでもよくなりました。とにかく今はみんなとこの時間を共有したいから、最後の一曲までついてきてください』
一曲目を演奏し終えたマリナが観客に向かって言うと、客側も嬉しそうに声を挙げ、手を伸ばしていた。
続けて演奏された曲は、マリナ達のオリジナル曲【Fadeaway】。
先ほどのカバー曲でも使われていたオクターブ奏法や単音弾き、そしてパワーコードを全面に押し出したメロディックなロックサウンドが掻き鳴らされ、観客の熱量はさらに上昇する。
「えッ!? マリナ先輩たちって、もしかしてメロコアバンド……!?」
「そうだよ。元々あの子たちは『Hi-STANDARD』や『10-FEET』、『ELLEGARDEN』のようなロックジャンルをメインにやっていたバンドなんだ」
青リンゴ系ロックバンドのカバーソングを演奏していたから、やっているジャンルとしてポップロック系なのかと勝手に思っていた。
それは春野さんも同じみたいで、合間に挟まるギターのブリッジミュート、ドラムの高速2ビート、歪みを絡ませたベースなど、これまでの雰囲気とは一転してメロコア──メロディック・ハードコア要素を盛り込んだ楽曲に度肝を抜かれていた。
「……やっていたってことは、今はやってないの?」
「そうですね。メロコアをメインでやっていたのは、彼女が一年生の頃の話でした。中学時代からこのジャンルが好きみたいで。けど今はどちらかと言うと『売れ線』を意識した音楽ジャンルにシフトしています。まぁ、それが悪いこととは言いませんが……」
「……そうだね。バンドマンを……いや、ミュージシャンを目指すなら、売れ線は避けて通れないからね」
華蓮先生は心当たりでもあるのか、マリナ達の演奏を物憂げな表情で眺めていた。
もしかしたら先生も、バンドを組んでいた時代にそうした葛藤があったのかもしれないって、そう思った。
少なくとも今の私には「何が売れるのか」とか考えたことがない。バンド活動がやれること自体、奇跡みたいなものだったから。
マリナ達の演奏に意識を戻す。
BPMが200を超えた高速アップテンポのこの曲に、マリナが書いたであろう歌詞が紡がれていく。
英語と日本語が混じり合った、まさにジャパニーズ・メロディック・ハードコアテイストの曲。
全部の英語を聞き取れる訳じゃないからわからないけれど、日本語パートに入ってからの感情の込め方が重い。
曲名が【Fadeaway】の時点で何となく察していたけど、この曲は好きだった人との別れを書いた曲だ。
切なさを通り越して、相手に対してのあまりにも重すぎる感情をエモーショナルに歌っている。
曲調が明るいから、聴き手によっては応援ソングを思わせるかもしれない。辛いけど前に進んで行こうとか、そんなふうに受け止められるかもしれない。
でも、明らかにそんな綺麗な感情の曲じゃない。
「先輩、泣いてる……?」
春野さんがそう言ったのが聞こえて、思わずマリナを見る。
揺れる髪の毛とか照明の影響で顔がよく見えない。
でも、感情を思いっきり乗せて歌うその後ろ姿は、まるで自分の前からいなくなった人へ、泣きながら想いを告げているようにも見えた。
『……ありがとうございました。slipbackでした』
最後の一節を歌い切り、ジャカジャンっとギターで締め括られる。
たったの二曲。でもその二曲で全ての感情を、想いを吐き出した様子のマリナは、春野さんに負けず劣らずのキラキラとした笑顔で観客に頭を下げた。
観客の声と拍手が鳴り止まない。
マリナたちがステージからいなくなるまで、観客はマリナたち自身の名前を、そしてバンドの名前を叫び続けている。
ドクンっ ドクンっ ドクンっ
嫌になるくらい脳裏に響き渡る自分の心音。
多分、マリナたちが演奏している間もずっと高鳴っていたんだろうけど、私はそれに気付かないまま……いや、気付けないくらい、マリナたちの音に呑まれていた。
「……ま、頑張れば」
メンバー全員は全てを出し切ったのか、私たちには見向きもせずに舞台裏へと姿を消してゆく。
その中でマリナだけは、私の肩に手を乗せ、それだけ言い残して去っていった。
一瞬だけ真先輩にも何か言おうとしていたけど、その言葉が吐き出されることはなく、タオルと水を渡してくる軽音部員たちに囲まれながら裏へはけていった。
「……すごかったね、アレは。17歳でこのレベルとは、プロになった後どうなるのか想像もつかないな」
華蓮先生は感嘆の声をあげる。
余裕そうにも見えるけど、額にはうっすらと汗が流れていて、今私たちが置かれている状況がいかにマズいのか、よくわかっている様子だった。
プロのバンドマンとして活躍していた華蓮先生ですら、マリナの演奏はすごいと認めている。
そしてそれは真先輩も同じようで、いまだに鳴り止まない歓声を前に呆然と立ち尽くしていた。
マズい。マズい。マズい。
どうしよう。どうしよう。どうしよう……!
ドクドクと脈打つ心臓の音が、歓声よりもうるさく聞こえる。
今ここにナイフがあるなら、手にとって心臓を一刺しして音を止めてやりたいと思った。
でもここにナイフはない。
あるのは、今にも砕けて崩れそうになっている不安定な心と、手にしているマイクの冷たい感触だけだった。
マリナたちがどれだけすごいバンドなのか。
想像はしていた。音源だって真先輩から聴かせて貰ったりもしていた。
うまいと思った。それこそプロレベルでうまいと感じた。
でも、それだけだった。
「うまい」っていう印象しか抱けなかった。
それがどれだけすごいことなのか、普段から音楽を普通に聴いている──いや、聴き流していた私は、私が倒そうとしている相手がどれだけ強大なのか考えすらしなかった。
「……めんな、さい……」
渇いた声で絞り出す、ごめんなさいの一言。
真先輩があれだけ「やめておけ」って言っていた意味を、生の音を浴びてからようやく実感した。
考え無しに突っ走ったせいだ。
そのせいで私は、私自身が春野さんの夢を、そして私自身の夢すらも壊そうとして……私はッ……!
「──めっっっっっちゃヤバかったね!! マリナ先輩たちのライブ!!」
「……………………えっ?」
ふと、春野さんの声が脳裏に響く。
隣から視線を感じで目を向けると、春野さんは太陽みたく花開いた向日葵みたいな笑顔を浮かべていた。
──あの時。初めてセッションをしたときと同じ笑顔だ。
「いやマジでヤバくなかった!? 最初『インフェルノ』やったときからめっちゃうま〜! って思ってたけど、オリジナル曲になってから一気に雰囲気が変わってさ!! カッティングはバチバチだしブリッジミュートはズンズンしてるし、途中でテンポが少しスローになったときなんか単音弾きのひとつひとつの音が雨が降ってるようなイメージ湧いちゃってさ〜! ウチ感動して泣いちゃったもん! って、あやちも泣いてない!? すごかったよね、マリナ先輩たちの演奏っ!!」
「えっ、えっ? あのっ……?」
その場でピョンピョンと飛び跳ねながら、slipbackの演奏のスゴさを全身を大きく使ってレビューしていた。
春野さんのテンションの上がりっぷりに気圧される私。それは私だけじゃなくて、真先輩と華蓮先生も同じみたいで、春野さんをポカンと見つめている。
そして暫く経ってから……真先輩が吹き出して笑い始めた。
「フフ……ハハハハ、アハハハハハ!!」
「えっ? ちょっ、何で笑うんですか!? めっちゃイイ演奏でしたよ! ねっ、ハナちゃんセンセー!」
「……うん。そうだね。とてもいい演奏だった」
涙を浮かべて笑う真先輩とは対照的に、華蓮先生はまるで施設の子供に向ける優しい表情で頷く。
さっきまでの陰鬱とした空気感は消散して、春野さんを中心に明るい光が、その場の暖かく包み込んでいった。
「──春野。お前はマリナ達の演奏を見て、少しでも勝てないと感じたか?」
ふと真先輩が春野さんに尋ねる。
私の心の中を支配していたもしもの話。『敗北』という最悪な二文字が再び脳裏を過ぎるけど、春野さんは不思議そうな顔をして、
「ぜんっぜん! むしろ俄然やる気が出てきたっていうか! あんなにぶちかまされて、ウチらがぶちかまさない訳にはいかないっしょ!」
私の中に渦巻いていた黒い感情を打ち消した。
「……本当に、お前達みたいな才能を持つ者には驚かされるな」
薄く笑う真先輩が、私に視線を移す。
お前はどうなんだ? そう聞かれた気がした。
私は今、どうしたい?
逃げたい? それともライブがしたい?
あんな絶対的なパフォーマンスを見て、私はどうしたい?
そっと自分の胸に手を当てる。
ドクドクと脈打つ心臓は、今も変わらず鼓動を続けている。
でも、さっきまでとは違う脈の打ち方。
不安で押しつぶされそうな心音とは違う。
メトロノームのように、一定のリズムでドクドクと脈を打つ、安定して安定して落ち着いた心音だ。
いつの間にか不安は無くなった。
抱え込んでいた孤独感も恐怖心も、陰鬱とした感情とともに姿を消していた。
あんなに怖くて仕方がなかったのに、今、私の中にあったはずの迷いはどこにもない。
私は今、どうしたいか?
そんなの始めから決まっている。
「……私も同じ気持ちです。春野さん」
ギュッと、手のひらで覆う形でマイクを握り締める。
「私も全力でぶちかましたい。下手だとか、真先輩は自分のものだとか、好き勝手言われたまま終わらせたくない……!」
心の底から出た本音。
その言葉を受けて、春野さんは笑顔で頷いた。
「それじゃあ、みんなでぶちかましに行こうよ。ウチらの大好きな、ラウドロックを響かせにさ!」
ギターを掲げながら、堂々と宣言する。
それから流れるように「円陣組もう!」とお互いの肩を組むよう指示を出す春野さんは、円陣が出来上がり次第「やるぞ〜!!」と声を挙げた。
周りには、次に控えている演奏の為に準備をしている軽音部員たちが不思議そうな目でこちらを見つめている。
なんか恥ずかしいけど、どの道200人を相手に歌うことになるんだから今更だ。
それに、この衣装と仮面だ。
何をやっても奇異な目で見られるだろうし、羞恥心を持ったところで何の役にも立たない。
だったら、後はもう全力でぶちかますだけだ。
『──はい! という訳で次のバンドを紹介しようと思いま〜す!』
準備を終えた事を確認したメガネPAさんが進行を再開させる。
私はその場で大きく息を吸い、そして吐く。
そのタイミングで声の調整を行い、シャウトやグロウル等を出して喉をアップさせ──四人全員で能面を装着した。
「………………なに、してんの……?」
背後から動揺する声が聞こえて振り向くと、そこにはタオルで汗を拭っているマリナが呆然と此方を見つめていた。
たぶん真先輩も同じように能面をつけているのが信じられないんだろう。まぁ先輩も言ってたしね、「こういう俗な格好はしたことがない」って。
何せ能面の下──私たちが着ている服は、真っ黒なセーラー服だ。その上能面をつけているなんて、どう考えても演奏しに行く姿じゃない。
その上、歌うはずの私まで能面を付けている。
一応能面の口元にいくつか穴を開けているから声は通るようにしてるんだけど……多分マリナ的に「そういうこと」をツッコミたいんじゃないんだろうなぁ。
「アンタら……っていうか、真先輩まで……!? なんでそんなふざけた格好を……!?」
「ふざけてませんよ。この格好は、私たちが大好きなバンドのMVから着想を得たオマージュです。それ以上の深い意味はありません」
と言っても、無名のバンドを知らしめるための印象効果っていう意味はあるんだけどね。
でも大好きなバンドである事は間違いないし、何より私たちがこの格好をしているのは、そのバンドに対してのリスペクトを示すものであり、一曲目から二曲目に繋ぐための伏線でもある。
まぁ説明したところで理解はされないだろうし、これ以上の言葉は必要ないか。
だって後はもう、ぶちかますだけなんだから。
「マリナ。必ずあなたの心にも轟かせてやります。私たちの大好きな音楽を。ラウドロックを」
能面越しに彼女を見据える。
メガネを外してつけているのと、舞台裏で暗くて見えにくい事もあってマリナの表情はよく見えなかった。
それでもわかったのは、彼女からはライブでは感じられなかった怒りとか、呆れの感情が浮かんでいたことだ。
ライブバトルでふざけやがって……みたいな怒りが此方に向けられている。そんな気がしていた。
だったら、そこで黙って見ておけばいい。
こっちがどれだけ全力なのかを。
『次のバンドは〜……なんと! 清桜で知らない人はいないあの女、有我真が在籍している新規精鋭の覆面? ガールズバンドで〜す!
……ガールズ、能面……なるほど、だからこのバンド名なのか。ってああすみませんこっちの話です。
ではさっそく登場してもらいましょう、【No Mens.《ノーメンズ》】です!!」
バンド名が告げられ、ドラムの華蓮先生、ベースの真先輩、そしてギターの春野さんがステージへと進んでいく。
そして最後に私が、光輝くステージの中心に向かい、観客たちの前に立つ。
そこで初めて聞く、観客の私たちに対する第一印象。
「え? 何あのお面?」
「能面?」
「全員黒いセーラー服ってすごいな」
「興奮してきた」
「キモ」
「いやどれが真先輩だよ」
「お前モグリか? この学校で五弦ベース使ってるのは真先輩しかいねーだろ」
「ってかドラムの子だれ?」
「なんかバチバチタトゥー入れてない?」
「ギターとボーカルの子も知らんわ」
「ボーカルでかくね?」
「上手いのか?」
「slipbackの後じゃなぁ……」
「てか能面つけたままで歌えるのかよw」
……困惑が7割、疑心が3割ってとこかな。
要するに全然期待されてない。
真先輩はいるけど、その他三人は清桜の人たちはみんな知らない。
もしかしたら華蓮先生のことを知ってる人はいるかもしれないけど、今は能面つけているし、現時点だとこの評価に落ち着くのは仕方がない。
緊張する。
ざわつく観客たちの視線が、真ん中に立っているボーカルの私に注がれている。
メンバーの中で一番に背が高いし、何よりボーカルはバンドの顔。注目されて当然だ。
それでいい。見ろ。私を。
今ここに立っている私に、私達に全員注目しろ。
今からここにいる観客全員の心を鷲掴みにする女の姿を、その小さい鼓膜に焼き付けろ。
そして私の声を、ここにいる私たち全員が掻き鳴らす音を、その鼓膜と脳みそに刻みつけろ。
そっとマイクを──Super55を口元に近づける。
頭の中に浮かんでいる言葉。
胸の奥に閉まっていた言葉。
それを全て音に、声に、叫びに変換して叫ぼうと、お腹の底から思いっきり吐き出そうとした瞬間。
「──ッ!!」
空間が歪む音がした。
ペダルひとつで音程を変化させる【Digitech Whammy5】。
春野さんのギター【EEL-DE-7】の全音下げのダウンチューニングによる重低音から、一気に超高音の弦に指をスライドさせ、ピッキングハーモニクスで更なる空間湾曲音を轟かせる。
「This song is called──」
観客たちの視界が、聴覚が、私たちにジャックされるのをハッキリと認識しながら、
私はそっとその曲の名前を口にした。
※SHADOWS「Chain Reaction」
めちゃくちゃ長くなりました。すみません。
分割しようかとも考えたんですが、切るところがありませんでした。
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何卒よろしくお願いしますm(_ _)m




