第27話「罵倒と叫び。 / BATTLE CRY」
六限目を終えてすぐに、私たちは体育館へと向かう。
「よしっ! それじゃあ行ってくるね!」
春野さんが立ち上がりながらそう言うと、クラス中のほぼ全員が「いってらっしゃい!」「頑張れ!」と声を挙げた。春野さんの人気スゴいな……。流石はカースト最上位の超絶美少女ギャル。
……え? 私? 私はクラスで一番身長高いクセして誰からも応援されないどころか気付かれませんでしたけど???
「お〜いよいよだね〜。いってらっしゃ〜い」
「私たちも見に行くからな〜! 期待してるぜ!」
トボトボと春野さんの背中を追いかけていると、春野さんのギャル友である夏帆さんと美羽さんが、手を振りながら送り出してくれた。
私はそれは嬉しくて涙を流しながら手を振り返す。そうだ。私に優しくしてくれるギャルは、春野さんひとりじゃない!
「……アンタ、ボーカルだったよね?」
うへへへと浮かれていたところを、氷よりも冷たい声音が一気に現実に引き戻した。そ、そうだった……! 麗奈さんがまだいるんだった……!
「えっ、あっえっあ、はい、叫びます」
「いや叫びますって……」
「あやち、今日演る曲そんなに叫ばないでしょ」
扉側で立ち止まっている春野さんからツッコミをいただいた。それ、そこそこネタバレが含まれると思うんですけど大丈夫でしょうか……。
ぼんやりとそんな事を考えるけど、口にしたところでさしたる意味は無いので口を閉じる。
でも、その間に私をジッと睨みつけてくる麗奈さんが近づいてくる。
夏帆さんと美羽さんの背後から、二人の間を割るようにして前に飛び出すと、大股で距離を縮めてきた。
凛とした瞳とギャル特有の謎の良い匂いが鼻腔をくすぐってるあいだに、麗奈さんは私をジロリと睨みつけられ、私のプレパラートよりもか弱い心に亀裂が入る。
あれ、また私なにかやっちゃいました?(涙目)
「……頑張れ。おっ、応援してるから……!」
「あっはい」
ビクビクと怯えていたけど、案外ストレートに応援されて少しだけ肩透かしを食らった。麗奈さんは言いたいことを言えて満足したのか「ふん」と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
と、とりあえずそこまで嫌われてる訳じゃないんですよね……? 信じていいんですよね? あと私臭くないですよね!?
「──それと琴音、頑張ってね。アンタがずっとやりたかった音楽、私も期待してるから」
「うん! 麗奈もありがと!」
口に出して聞けない質問を脳内で転がしていると、中学の頃から友達関係である二人が言葉を交わしていた。
麗奈さんからカミングアウトを受けた日、私は春野さんに麗奈さんから聞いた話は伝えなかった。多分これは麗奈さん自身の問題だと思うし、私が告げ口をする訳にはいかないと思ったからだ。
二人の様子を見る限り、麗奈さんは春野さんに対して謝罪はしていない。まぁ中学時代の話を今更蒸し返してもって、思わない訳でもないけれど。
でも、もし麗奈さんがその気なんだったら、私は私で麗奈さんを応援しようと思ってる。麗奈さんも私たちを応援してくれてるし、何より私自身が彼女の想いを応援したいと思ったから。
麗奈さんがチラリと私に視線を移す。私はそれに対して笑顔で返すと、麗奈さんはやっぱりそっぽを向いてしまった。あれ、やっぱり私嫌われてる……?
「みんなから応援してもらっちゃったし、これは絶対に勝たないと! ねっ、あやち!」
「は、はい!」
……まぁいいか。とにかく私たちが出来るのは、全力で演奏して麻里奈たちを倒すこと。
そして必ず、春野さんと真先輩たちと一緒にバンド活動するんだ。
:
ライブが行われる体育館に向かう中、仕事を早々に終わらせた華蓮先生から「今から学校行くね!」と連絡があった。
施設から学校まで、車で大体30分くらい。17時前には着きそうだ。
児童養護施設の施設長としての仕事を考えると、かなり忙しい筈。それでも私たちのライブを手伝ってくれる華蓮先生には、本当に頭が上がらない。
先生にはいつか恩返ししないと──
「久しぶり。無駄な足掻きは終わったのかしら?」
「……」
渡り廊下に響き渡る、この世で最も聞きたくない女の声。
思わず舌打ちをしそうになったけど、隣に春野さんがいるし、変に怖がらせたくなかったから黙った。
でも、どうせこのまま何も言わなかったらベラベラと御託を並べるだけだろう。私は舌打ちの代わりに大きなため息を吐いて後ろを振り向いた。
「……何のようですか? マリナ先輩。私たちこれからリハーサルがあるんですけど」
「知ってる。ってかその後であたし達もリハあるし。それにしても、いくらくじ引きで決まったとは言えアンタらがトリになるなんてね。少し同情しちゃうわ。あたし達の演奏の後で演らなきゃいけないなんて。三年生ですら嫌がるのに」
「ま、真先輩以外の話だけど」なんて付け加えてくる辺りいやらしい。自分の方が真先輩のことを知っている──そう言われてる感じがしてムカムカしてくる。
今回のライブバトルに伴い、どちらが先に演奏するかを決めるくじ引きがあった。
くじを引いたのは春野さんで、私たちのバンドがトリ。マリナ達のバンドが一番手だった。
順番に関してはよく「トリの方が印象に残る」と言われることが多いけど、そんなものは噂でしかない。
むしろ今回の場合、マリナ達がトップバッターにたったのは運が悪いと思った。
なにせ、私と春野さんは今日が初ライブだ。
その上セッションだってこの2週間の内、華蓮先生も含めて一緒に出来たのはたったの4回。
華蓮先生は私が暮らす児童養護施設の施設長で、普通に考えて学生の私たちと時間が合わない。
私たちが勉学に励んでる間、先生は施設長として、身寄りのない子供たちのために仕事をしている。
だから練習する時間が合わないという事は何度もあったし、それ自体は仕方ないと思った。
むしろ私たちのために時間を合わせて練習に付き合ってくれて、その上サポートとしてライブにも出てくれる……。本当に華蓮先生には頭が上がらない。
でも、だからこそトップバッターが良かった。
明らかに実力差がある相手が真っ先にライブをし、その後で演奏するというリスク。
合わせる時間も練習する時間も十二分にあり、インディーズレーベルからデビューすると噂されている、既にファンも獲得している実力者。
そんな実力者がトップで演奏なんてすれば、後にかかるプレッシャーは凄まじいものになる。マリナが言ってるのはそういう事だ。
「お前らみたいな雑魚、あたしの演奏でぶっ壊してやる」、そう言っているんだ。
望むところだよクソ女。
「……別に、どの順番でもどのタイミングでも構いませんけどね。どの道私たちが勝つんで」
「よくもまぁそんな強がりが言えたわね。アンタ、自分の置かれてる状況わかってんの? あたしらが演奏した後で演らなきゃならない。どんだけ客が来るかは蓋を開けてみないとわからないけど、あたし達のファンは絶対に来るし、絶対にあたし達に投票する。アンタらが勝つ事なんて絶対にあり得ない──」
「そうやって脅しに来るくらいには私たちのことを脅威に思ってくれてるんですね。ありがとうございます。だからこっちもハッキリと言わせて貰います。──勝つのは私たちです。真先輩は絶対に渡さない」
真っ直ぐ睨みつけながら、マリナに対して啖呵を切る。
明らかにイラついた表情を見せるマリナは、私たちに聞こえるようわざと大きく舌打ちをしてその場を立ち去った。
「あやち、大丈夫……?」
「私は大丈夫です。春野さんこそ大丈夫ですか? クソ女のクソみたいな言葉聞いて、クソな気分にさせられていませんか?」
「クソクソうっさいわよアンタ!! 全部聞こえてんのよこっちまで!!」
「じゃあ早くどっか行けばいいじゃないですか!! なに人の会話盗み聞きしてるんですか!! 変態ですか!?」
「アンタの声がデカすぎんのよ!! なにそのバカでかい声バカじゃないの!?」
「真先輩にメロついてバンド活動に支障出してるそっちの方がバカじゃないですか! バーカ!! アホ!!」
「このクソデカ女ァッ!!」
「ちょいちょいちょい、ちょい待ち! 二人とも落ち着いて! 今ここでやり合わないでよ、周りからめっちゃ変な目で見られてるから!!」
春野さんが仲裁に入ったことで、ようやくマリナと離れることが出来た。
やっぱめちゃくちゃムカつく〜っ! 何なのあの女! 春野さんをバカにするだけじゃ飽き足らず、どうせ負けるとか好き勝手言いやがってぇ……!
「春野さん。アイツら絶対ぶち●しましょうね!!」
「いや●しちゃダメだよ!?」
※サブタイトル
RAISE A SUILEN「BATTLE CRY」




