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第24話「後悔→→→希望。 / Turning past regret into hope」①


 

 ──早すぎる 私の人生 オワオワリ

   ライブ出来ずに 散るいのちかな

 

           先導綾女。


 

「だ、ダメだ……! クソみたいな辞世の句しか書けない……!」


「なにバカみたいなことやってんの? あやち」


 帰りのホームルームを終えて放課後。

 私は机に向かって辞世の句を書いていた。

 理由? たぶん私は麗奈さんに殺されるからだ。


「いやだって……! なんかかなり物々しい雰囲気してたっていうか、眼圧だけで心臓握りつぶすくらいの迫力ありましたよ!? だ、だから殺される前に辞世の句を書いておこうと……!」


「も〜、大袈裟だって。それに麗奈も言ってたじゃん。すぐに返すからって。そんなに怯えなくて大丈夫だよ」


「し、死体にしてすぐ返すって……!?」


「あやち、ホントに一回落ち着いて?」


 机をタンパ(※地面を固める時に使うアレ)みたいにガタガタと揺らす私を前に、春野さんがどうにかして落ち着かせようとしてくれるけど……ダメだ。心臓のバクバクが止まらない。

 

 春野さんは「大丈夫!」とか「落ち着いて!」って言うけど、あの人(麗奈さん)どう見ても私のこと嫌いだし、それなのに私と一対一で話したいって……!


「殺す算段がついたからとしか思えない……! 春野さん! 申し訳ないのですが、このクソみたいな辞世の句を華蓮先生の元に……!」


「なんかもうラチあかないから呼ぼっか。お〜い麗奈〜! あやちが準備できたって〜!」


「WHaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa

 aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!?」


 席に座ってスマホを眺めていた麗奈さんが振り向き、視線がかち合った。あっダメだ。今少しだけ漏らした。たぶんこのままだと大洪水かましてしまうかもしれない!

 

「すみません、少しトイレに──」


「そう言って逃げるつもりでしょ? 美羽、夏帆!」


「へいっ!」


「まかせて〜」


 春野さんの呼びかけで召喚されし二人のギャルに、私は両腕を拘束される。すごい、めっちゃいいにおい! ……って言ってる場合じゃなかった!


「や、やめてください二人とも!! お"お"ぎ"い"ごえ"出しますよお"お"お"お"お"お"お"お"!!!!」


「いやもう出てる出てる」


「すご〜い、バケモノみたいな声だしてる〜」


「……なにやってんのアンタら」


 と、ギャルと戯れ合ってるうちに別のギャル──麗奈さんが私の前に参上した。


「春野さん、助け──」


「じゃあウチ、センパイがいる部屋に行ってくるから。話終わったら来てね! 麗奈、言っとくけどウチら練習あるから、あんまり長くならないでね!」


「わかった。要が済んだらすぐ返す」


 春野さんはさっさとギターケースをかるって教室から出て行き、残るギャル二人もバイトがあるからと去っていった。


 教室に残されたのは私と麗奈さんの二人。シンと静まり返る教室の重圧に押しつぶされそうになりながら、私は麗奈さんにおそるおそる尋ねた。


「……苦しまない程度に殺してください」


「? なに言ってんの? とりあえず屋上行こ。そこで話すから」


 :


 ガチャリと開かれた屋上には誰もおらず、聞こえてくるのはサッカー部や陸上部など、部活動で汗を流す生徒達の声だけだった。

 屋上自体は静謐に包まれていて、私と麗奈さんのコンクリートを鳴らす足音しか聞こえない──というのは嘘。

 

 自分の心臓の音がめっちゃうるさい。ドクンドクンと脈打つ心臓の音はまるでブレイクダウンを刻んでいるかのよう。いやどちらかと言うとDjent(ジェント)ギターの独特な刻み込み系に近いかも。


 ……どっちでもいいか。


「あ、あのぉ〜。それで、話って……」


「……」


 私の質問に対して、麗奈さんは自分自身を抱きしめるみたいに、左腕を右腕に当てている。

 心臓の音は止まること無く刻まれているけど、時間だけはまるで止まったみたいに静かに流れていた。

 なんだろう? さっきまでは怖さがあったけど、今はどちらかと言うとか弱い雰囲気が……。


「……先導。あのときはごめん。それとありがとう。琴音を助けてくれて」


「えっ?」


 スッと頭を下げて謝罪の言葉と感謝の言葉を投げかけられ、私は思わず気の抜けた声を漏らしてしまう。


「ごめん」と「ありがとう」? ……どのごめんとありがとうだろう。というか、そのどちらの言葉もかけられるような事してない気がするんだけど。


「あの、何に対してのでしょうか?」


「……軽音楽部の2年に絡まれてたとき。あのときアンタが間に入ってくれなかったら、私はま(・)た(・)琴音を助けてやれなかった。……と言っても、琴音を助けたのはアンタなんだけどさ」


 「だからありがとう」。

 そう言って麗奈さんは顔をあげる。

 やっぱりいつもの怖い雰囲気はないけど、麗奈さんの言葉の節々からはトゲついた何かを感じていた。


 また助けられなかった? ……春野さんを?


「どういう意味ですか?」


 つい低い声が漏れてしまう。出すつもりのなかった、デス声とまではいかない程度の粒ついた声。

 僅かに肩を揺らす麗奈さんは、私から目を逸らすと、中学生時代に起きたとある事件について語り始めた。


「……私と琴音、同じ中学に通っててさ。その時から友達だった。でも中学二年に上がったとき別々のクラスになって、部活とかもあって話す機会が減って。それでもたまに話したり、LINEでのやり取りだって普通にしてたの」


「でも、二年生になって半年が過ぎた時、琴音は明らかに元気が無かった。気になってクラスまで行ったらさ、琴音ってば席にポツンと座ってたの。あ(・)の(・)琴(・)音(・)が(・)だよ? 誰にでも優しくて分け隔てなく接する、太陽みたいなあの子が。あり得ないでしょ」


 自虐気味に麗奈さんは笑う。

 けど、無理に取り繕って笑い話にしようとしてるのはわかったので、私は「それで?」と言葉を促した。

 だって多分、この話は最後まで聞いたところで、いい気分にはならないだろうから。


「──周りから話を聞くと、琴音は孤立させられたみたいだった。原因を使ったのはクラスの中心的な女子で、ソイツのただの逆恨みだった」


「逆恨みって……。それってもしかして、恋愛絡みの……?」


「流石のアンタでもわかるか……そうだよ。琴音のことを好きな男子がいて、その男子を好きな女子──琴音をハブった女が、琴音をクラスからいないものとして扱おうとしてた。

 それにクソみたいなウワサ……『誰にでも体を売ってる』みたいな嘘話を広めたりしてね。他所の学校から、そのウワサを聞きつけて、琴音に近づこうとしてきたストーカー男もいるくらいだった」


「………………………………ッ、」


 ──人は心底腹が立つと、「殺意」というものを持つんだなと、他人事のように思った。

 

 ゾワゾワと背筋から首筋を辿り、脳髄まで「怒り」というドス黒い感情が昇ってくる。

 

 これまで自分が抱いたことのある怒りや殺意が、全部ウソだったんじゃないかってくらい──心の底から、そのクソ女とクソ男を殺してやりたかった。


 でも。ふと麗奈さんを見ると、彼女自身が抱いているはずの怒りや殺意が両者には向けられず、自(・)分(・)自(・)身(・)に(・)向(・)け(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)ように見えた。



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